桃の手入れでは、剪定を主に行なった一月でした。整枝、剪定はその年の収量、果実品質に直接的に影響する重要な管理です。
基本的な剪定の仕方を知りながらも、形にこだわりすぎると、かえって樹勢を乱したり、果実生産が不安定となったり、木の寿命を短くしたりするリスクもあり、桃の気持ちに沿わせながら、一番いい形を見つけていくことが大切になっていきます。
コンサートが終わった頃から、剪定のことを考えるとドキドキするぐらい緊張していました。
今回、とても参考になったのが、お父さんが見せてくれた、剪定のことを説明していたいくつかの動画でした。剪定を行なうための基礎知識と一緒に、植物がどのような動きや反応をしているかという根拠を理解しながら、手入れを決めていくことも説明されていて面白かったし、とても剪定の作業もやりやすくなりました。植物ホルモンの話がとても面白く感じました。
■植物ホルモン
植物には、いくつかの植物ホルモンがあります。オーキシン、サイトカイニン、ジベレリンが説明されていました。
オーキシンは、植物の先端で合成される植物ホルモンです。「俺が行く!」というような、指揮官タイプの植物ホルモンで、細胞分裂や伸長、果実の成熟、枝分かれなど生理作業に影響を与えます。サイトカイニンは根で生成され芽を萌芽させる植物ホルモンで、「皆で行こう!」と細胞分裂と細胞増殖を促進、花、実をつけさせる働きがあります。
オーキシンは、一番高いところで生成され地下部に降りていくため、枝が真横になったとき、重力にそって下のほうにオーキシンがたまっていきます。手薄になった上側でサイトカイニンが元気になります。そのため、徒長枝など上面から枝が出やすいということになります。
今まで学んでいた手入れの仕方と合わせて、植物がどのように考え動いているのかを知ると、とても理解しやすく、応用が常に必要な剪定の状況でも判断がしやすくなりました。桃がどう考え、どう動いたのか、これからどう動くのか、のイメージがしやすく、剪定の奥の深さに面白さを感じました。
■たくさんの人に支えられて
今回、剪定の作業では新しく剪定に入ったメンバーもいました。初めての作業でしたが、皆がすぐに吸収して、剪定をしていく姿がとても心強く、嬉しかったです。お父さんお母さんも、古畑の木をそれぞれ担当して剪定してくれたり、お母さんは毎日のように剪定をする畑に来てくれたりし、夕方になり日が落ち暗くなる前まで、ずっと一緒に作業をしてくれることも多かったです。四歳のたけちゃんも、枝回収や皆の応援など、お母さんの手元として立派な桃の剪定メンバーの一人としてたくさん助けてくれました。朝食前から夕食前まで、ABパターンや当番も皆に助けてもらって、一日ずっと剪定を進めさせてもらいました。本当にお父さんお母さん、皆に助けてもらってできました。
一月になり、朝食前だと零度を下回ることもあり、霜が白く地面や木を覆っていることもあります。その中で太陽の光が差すと、キラキラと氷が光り、溶けていく景色がとてもきれいです。夕方になると、太陽が山に隠れ、桃の枝が黒いシルエットとなり薄暗い空に浮かび上がるのもとてもきれいです。
一日中、桃畑で皆と一緒に桃と向き合っている時間は、集中力も気持ちもたくさん使うけれど、とても奥が深く、心地よいなと思います。
私は、去年の冬剪定から初めて剪定をさせてもらっています。まだまだ、未熟なところがたくさんあるけれど、いろいろなことを学び、実際に自分で桃と向き合い、考え、プランを持ち、形にしていく、ということが、少しずつですがこれまでより深く感じられ、自分の世界も広げてもらっているように感じます。
桃は、人間の言葉は話さないけれど、確実に自分のやった手入れの反応が返ってきます。今すぐにはわからないのが、怖いけれど、実際にどんなふうに葉を広げ、枝をのばし、実をつけるのか、見ていけることが嬉しいです。
剪定をしていると、桃の木にも、とても大きく許してもらっているなと思います。桃と一緒に過ごし、学ばせてもらって、私も確実に成長していかなくてはと思います。
百三十本の桃の木。例年よりスタートが遅れ、一月中に終わらせるという期限がとてもハードルが高いように感じていました。新しいメンバーも多く、最初は慣れるまでスピードもそれほど速くなかったです。剪定という難しい作業で、自分自身、不安や緊張もありました。
でも、一月二十八日に最後の畑を終えたとき、(本当に終わったんだね)と皆と言い、静かにじわじわと達成感がありました。約二週間。終わってみたら過去最速での短期間で剪定が終えられていました。お父さんお母さん、皆にただ感謝の気持ちでした。
■摘蕾講習会
剪定が終わったら、摘蕾が待っています。枝の吊り直しもあるし、摘蕾が終わったら摘果、袋がけ、ネットがけなど次々と手入れは続きます。今回の剪定も、どう収穫につながるか、ドキドキです。
今日は、摘蕾に向けて、摘蕾講習会を行ないました。摘蕾には貯蔵養分の有効利用をするための目的があります。新しい葉で養分をつくれるのは満開後三十日以降と言われていて、その間の、葉芽の発芽、新葉の展開、成長、開花、結実に利用される養分は、もっぱら貯蔵養分に依存しています。
桃の木は、一本あたり二万〜一万五千ほどの花が咲き、そのうち最終的に収穫まで至る数は、八百〜一千果であり、最終収穫率は四パーセントと言われる品種もあります。かなりの養分消耗ですが、木の一年間の生育の中で開花は最も大切な発育過程であり、消費される貯蔵養分は非常に大きくなります。そういったことを踏まえ、開花時の養分の消耗を抑制することは、残された果実や新梢の発育に大きな効果があります。
そういう重要な摘蕾の作業を多人数で進めさせてもらえることがありがたいなと思います。
講習会は、古畑の白鳳、紅清水の下で行ないました。最初に桃メンバーの、りなちゃん、やよいちゃんが考えてくれた替え歌でオープニングをしました。その後、摘蕾の目的、効果を話した後に、実際に摘蕾をする様子を皆で確認してもらいました。
「どれが花芽? 葉芽?」 桃の蕾に近づいて、必死に葉芽を探す人や。「摘蕾に入るときは、いい桃に繋がるように責任をもってやりたい」と、講習会の後にコメントしてくれる人も何人もいて、とても心強く嬉しかったです。
収穫が終わるまで緊張は続きます。でも、フルマラソンを走るように、皆と一緒にゴールをイメージしながらも目の前の一つひとつのステップを誠実に、祈る気持ちで向かっていこうと思います。
今年の桃づくりは新しい試みがたくさんあります。自分ひとりでは小さな力です。でも、お父さんお母さん、みんながいるのだと思うと、心強く、力が湧きます。
これからの次世代の人たちが本当に生きられる世界をつくる桃づくり、同じように苦しんでいる人の生きられる居場所となる桃づくり、環境、ミツバチ、桃、人に本当に優しい桃づくり。その開拓する道に仲間と一緒に立てていることが嬉しいです。