【新春号⑮】「一枚の札で運命が変わる ―― 散らし取り・青冠・坊主めくりの戦い ――」ななほ

 
「君がため 春の野にいでて 若菜つむ  わが衣手に 雪は降りつつ」

「バシッ!」

 始まりました、なのはな百人一首大会二〇二五。

 年が明け、百人一首を覚えて目を光らせたたくさんの選手が勢ぞろいし、第一競技「散らしどり」が始まります。

 年末から、なのはな百人一首大会企画委員会の皆さんが、参加選手がよりたくさんの札を覚え、散らしどりで札をとれるように考えてくれて、食事の時に一人一枚、「本日の一句」が席に配られ、私たちも配られた句を必死に覚えて参りました。

 百人一首大会当日、上着のポケットにはこれまで配られた和歌の紙が詰まっていて、「散らしどり」が始まる直前まで、その和歌を詠んでは、一生懸命に短期記憶をすることになった私でございます。

 さて、それは効果があったのでしょうか?

「ち」。「ち」ときたら、あの句しかありません。そう、百人一首の中で一番有名かもしれない、在原業平が詠んだ「ちはやふる」。

「ちはやふる 神代も聞かず 竜田川 唐紅に 水くくるとは」。

 この句だけは、私も一度聴いたらもう、忘れません。だがしかし、それは私に限ったことではないようです。

 読み手が「ち」と発音するのも束の間、もう、向かい側に座る相手チームの手には、「ちはやふる」の札が……。

  
 
「悔しい〜〜〜〜!」。

 私でも覚えられる句は、私以外の人もみんな、覚えている。厳しい現実を目の当たりにしました。ですが、そんなこともあろうかと、私は今回、この句と天智天皇、持統天皇の句のほかに、三つの句を確実に覚えていたのです。

 それは、「忍ぶれど 色に出でにけり わが恋は ものや思ふと 人の問ふまで 」「花の色は うつりにけりな いたづらに わが身世にふる ながめせしまに」「ふくからに 秋の草木の しをるれば むべ山風を 嵐とい言ふらむ」。

 この三句だけは、百句あるうちのこの三句だけは取りたい。何としても、取って見せる。そう決心して、臨んだ百人一首は。

 「バシュ」。

 上には上がいるようです。ですが、気が付いたら私も十二枚の札をとることができました。試合人数八人いる中、百枚中十二枚。私にしては、よい優秀な方だったのではないかと思います。

  
 
 それは、さておき、「散らしどり」の結果はいかに……。私たち水色チームは、二試合とも相手チームより枚数多く取ることができました。これは、私の場合、百人一首を覚えていたかどうかというより、下の句が呼ばれた後にどれだけ早く、場の中からその句を探すことができるかという、動体視力のお陰のようです。

■青冠

 続く試合は、「青冠」。これは、いかに配られた手札がよいか、そして相手の札を読み取り、仲間の札を考え、作戦を立てて札を減らすかに限ります。実は私は、この「青冠」が得意なのです。そのため、「青冠」が始まった瞬間から目の色を変えて、同じチームの人と作戦を立てました。

 私たちが立てた作戦は以下の通りです。一、もしも配られた札に天智天皇と持統天皇の札があった場合、笑顔で頷くこと。二、もしも自分たちのペアが上がれそうになったら満面の笑みで手を振ること。三、もしも自分たちのペアが上がれそうになかったら、率先して向かい側の仲間チームを勝たせるように作戦を立てること。四、もしも明らかに勝てないと思ったら、素直に諦めること。その場合、なるべく手札を減らすように工夫すること。

 さあ、作戦を立てた結果は。

  
 
 一試合目、惨敗。言い訳をしますと、相手チームの一ペアが天智天皇と持統天皇の二枚の札を持っていたのです。これは、ものすごく悔しい試合でした。試合が始まって、自分の場に配られた札を見たとき、天皇の札がなく、期待して向かい側に座っている仲間のゆずちゃんペアをみると、目を細めて肩をすぼめて、首を横に振っている。

 その姿をみたら、もう勝てない悔しさよりも、そんな表情をして札を表現しているゆずちゃんに笑いが込み上げてきてしまいました。ですが、簡単に諦めるわけにはいきません。

 私たちのペアはレアな矢五郎の札が多くあったため、矢五郎作戦で確実に札を減らしていくことができました。最後は、向かい側に座る仲間のゆずちゃんペアが残り二枚というところで、相手チームに上がられてしまったのですが、札の運は悪い中でも、私たちは精いっぱいの結果を残せたことと思います。

  
 
 そして、期待の二試合目。今度は嬉しいことに、私たちのペアに天智天皇の札が来ました!(これは、何としても勝ちたい)、その意気込みが最後まで続き、相手の札を十二枚残して上がることができました。

「やった〜〜〜〜!」

 ペアのまことちゃんとハイタッチをし、向かい側のゆずちゃんとハグを交わし、喜びを分かち合いました。そして、悔しがる相手チームのなおちゃんとみつきちゃん。今回に限っては、そんな相手チームの悔しがる姿が気持ちよく感じます。

■坊主めくり

 そして、第三試合は「坊主めくり」。このゲームの最大の作戦は、「運」。そう、これは運でしかありません。

  
 
 このゲームは、百人一首の百枚の札を場の中心に出し、それぞれのチームで一枚ずつ、札をめくっていきます。札は、「殿」を引いたらその札を一枚もらえる、「姫」を引いたらもう一枚引くか、場に出ているすべての札をもらえる、「坊主」を引いたら自分の手持ちの札をすべて、場に捨てるというルールになっています。

 それだけではありません。そう、「蝉丸」の存在です。この「蝉丸」の札を引いてしまった場合、なんと、自分以外のすべての人が手持ちの札をすべて、場に捨てなければいけないのです。つまり、これまでのゲームをなかったことにするということ。こんなにもハラハラして、買ったら喜び、負けたら悔しい遊びは中々ありません。

 最初の一試合はそれぞれのチームで一ペアずつ行いました。札は全部で百枚です。

「お願い、姫が出ますように」。そう願いながら、札を引いていく時間。坊主の札を引いたら、すぐにどこからか坊主の被り物が飛んできて、私の頭にすっぽり。その代わり、誰かが今度、坊主の札を引いたら、私の頭の坊主が一瞬にして、誰かの坊主になります。

  
 
 そして、場にたくさんの札が出ていた時に「姫」の札を引いて私たちの手持ちがたくさんになると、今度回ってきたときには「坊主コール」がかかります。この「坊主コール」とは、相手チームが私たちのチームが「坊主を引くように」と願って行われるものであり、「坊主、坊主」という掛け声というのやら、プレッシャーと緊張の声の中、私たちは次の札を引きます。そして、「坊主」。

 大量に札を引いても、「坊主」を引いたら元通り。これは、最後の最後まで結果のわからない戦いの続く、ゲームなのです。

 一試合目では順調に負けて、その代わりに、相手チームのひろこちゃん・ゆいちゃんペアが七〇枚の札を手持ちに上がりました。私たちの手持ちは、たったの四枚。ですが、四枚も捨てたもんではありません。

 そして続く、二試合目は全員での坊主めくり。場に出る札も、百枚ではなく、二百枚となり、勝てば億万長者です。

 さあ、そんな運試しの坊主めくり。今年、強運だったのはりなちゃん・あやちゃんペアでした。

  
 
 実をいうと、りなちゃんは年越しに行ったセブンブリッジ大会で、一試合でマイナス一万二千五百点を失点するという大変な事態を引き起こしていたのですが、その分、年を越えたら最強の運の持ち主のようです。

 また、私とりなちゃんは昨年、十九歳で本厄だったため、りなちゃんは一年の厄を大晦日の夜にすべて、消化したようです。なんて、素敵な厄払いの仕方でしょうか。その分、年が明けたら絶好調。

 りなちゃん・あやちゃんペアは最終的に、一ペアで百七十一枚の札を獲得して上がりました。これは、億万長者といってよいでしょう。この二人は、一回目の「蝉丸」でみんなの札が場に集まった後に、「姫」の札を引き、一度、大量の札を手に入れました。ですが、忘れてはいけません。そう、全員での坊主めくりは百人一首を二百枚使っているため、もちろん「蝉丸」の札も二枚あります。

 その後、もう一度「蝉丸」の札が出て、りなちゃんとあやちゃんが手にした幸せは一度、場に戻されたのですが、そんな中、もう一度、二人が姫の札を引き、億万長者になったというわけです。

 そんな強運の持ち主の二人。こんなにも白熱し、「坊主コール」が響き渡った坊主めくりも初めてなのではないでしょうか?

 新年早々、運試し。結果的に私が最後に持っていたのは、たったの三枚でしたが、この三枚のように小さな幸せを確実に感じながら、今年も、謙虚に誠実に、一年を過ごしていきたいと思います。