ホール入り前 最後の作文
◯これまでの古吉野での練習期間で感じた事
コンサートを初めて意識したのは、担当楽器が決まった頃だと思います。
最初はサックスやクラリネットやトランペットなどの楽器が格好良く思えて、担当が大正琴に決まった時は少し残念でした。でも、お父さんやスタッフさんが私の体力的なことを考え、達成感を感じられるようにと思って決めてくれたことを知って、その気持ちが凄く有難かったです。
楽器との巡りあわせも運命だと思うと、この運命を大切にしたいと思い、練習も楽しくなりました。
曲が『スムース・クリミナル』に決まった時は、とても興奮してこんな凄い曲を演奏できるのかと思ったら、より熱が入りました。
でも、それからしばらくは、気持ちがふさいでしまったり、頑張らなければいけないと前向きになったり、気持ちが行ったり来たりを繰り返していました。どうしてみんなみたいに真っすぐコンサートに気持ちを向けられないのか、自分一人異質な人間に思えて、場違いな所にいるような気がしてとても苦しかったです。
体力的な面でも、私はすごく遅れていることを毎日感じてしまい、基礎錬ではラジオ体操すらできないことに落ち込むばかりでした。コーラスの練習でも音程がとれなかったり、高音が出ないなど、何もかも人並みにできないということに苦しんでいました。
コンサートに出たい気持ちと、諦めの気持ちが半々だったと思います。お父さんの脚本も、初めて読み合わせをした時は、正直あまり理解できていなくて、まだぼんやりしていたと思います。
でも、お父さんが少しずつ書き直してくれたり何度も読むうちに、すごいことが書かれていることに気づきました。お父さんが、「大発見をした」と興奮して話していた理由が分かり、私まで興奮して嬉しくなりました。それからは何もかもがいい方向に変わり、本当に解放された気持ちになりました。
理由の分からない苦しさが消え、夜は眠れるようになり、食べる苦しさもなくなり、みんなと同じものを同じスピードで食べれるようになり、長年の便秘も治り、毎日が楽しくて、ああ自分は今ちゃんと生きてるなぁと感じました。
人と比べて劣等感を感じることも段々なくなってきたように思います。初めはダンスの上手い人、歌の上手い人、演技の上手い人、できる人を羨むばかりで、いじけていたと思います。「何もできなくて辛い」と、まなかちゃんに相談した時に、
「大事なのは気持ちであって、うまく踊ったり歌ったりすることじゃないよ」
と言われました。最初はそれが素直に受け入れられず、できる人にはできない人の気持ちなんて分かるものか、と反発を感じていました。
でも今は本当にその通りだと思います。自分が上手く踊ったり上手く歌ったりできることが目的ではなくて、全体としてどうか、という視点が全く足りていませんでした。
ダンスにしても、演劇にしても、誰がやるかは重要ではなくて、誰がその役をやってもよくて、一番効果的に伝わるなら、その人がやるのが一番いいんだと分かりました。私には私に与えられた役割を精一杯やればそれでいいんだなぁと心から思えました。
お父さんの脚本ができてから、みんなの本気さが一気に上がったのを感じました。みんなの真剣な気持ちを感じ取って、自分もその熱に押されるようにここまで来られたと思います。この脚本で皆が感じたことと自分が感じたことは同じなのだと分かり、それまでは少し疎外感を感じていた気持ちが晴れていくように感じました。「仲間」を強く意識できるようになったと思います。
それとあゆちゃんの指導が本当に凄いなぁと思いました。初めてあゆちゃんが全体練習を見てくれたのが何だったのか、忘れてしまいましたが、あゆちゃんの話す一つひとつが本当に熱くて、心に届いて、そうだったのか! そうなんだ! と一つひとつ、とても興奮していました。
毎回のあゆちゃんの話してくれることが本当に私の気持ちを作ってくれて、少しずつ強固なものにしてくれたと思います。こんなに真剣に生きている人がいるんだなぁと思うと、自分の怠慢な生き方が凄く恥ずかしくなり真っ当に生きたいという気持ちを生き返らせることができたと思います。
みんな、正しく生きたい、より良く生きたい、人のためになりたい、という気持ちを強く持っているんだと思います。でもそれがいつの間にか奥深くに埋もれてしまっているのかもしれません。
あゆちゃんの言葉は自分でも忘れてしまっているその気持ちを、甦らせてくれます。だからあゆちゃんの指導を受けると、自分が生き生きしてくるし、胸が熱くなるし、とても嬉しい気持ちになります。練習を通して感じたことは、仲間を強く感じたことと、正しく強く生きていきたいと感じたことです。
◯今回のコンサートの脚本に込められた、生き方、回復への答えとは
自分が芋虫人間で、芋虫から蝶になる勇気がなくて、苦しんでいることが分かりました。今まで30年近くも何に苦しんでいるのかも分からず、どうしたら回復できるのかも分からず、半ば諦めかけていた答えがはっきりと示されて本当に嬉しかったです。
摂食障害になってから今までの年月を思い返してみると、お父さんの答えがピッタリと私の求めていた答えに当てはまるのを感じました。そうだったんだ! と大声で叫びたいほどの気持ちでした。自分がいかに狭い世界で生きてきたのか、狭い尺度で考え、狭い尺度で苦しみ、自分は今まで何をしていたんだ、という気持ちになりました。これからは、2000キロの範囲で生きる蝶のように、考え方を変えなければならないと思いました。芋虫から蝶になるという例えが本当に分かりやすいです。これからは、まだ見ぬ誰かのために自分の使命をきちんと果たしたいと思います。
◯明日からのホールに入り、どんな空気を作る人でありたいか。具体的にいくつか、自分が心掛けることを書いてください。
理想を追い求める人間でありたいと思います。見に来てくれる人に、感動を与えられるよう、脚本で訴えたいことが真っすぐ強く届くように、そういう気持ちを持って過ごしたいと思います。みんなの真剣で本気な気持ちを落とさないよう、自分もみんなの気持ちを強めることができるように真剣に向かいたいと思います。後ろ向きなことは言わない、不安になっても前だけを見る、前向きな言葉だけを言うようにしたいです。ホールの設備、備品などは綺麗に、大切に使いたいです。
◯今回のコンサート、そして、コンサートの脚本をどう自分の回復の手段にするか
コンサートの練習を通して、自分が独りではないと感じられました。そのおかげで蝶になる怖さがなくなったと思います。蝶にならなければ人生は始まらないということが、今はっきりと分かりました。勇気と希望を持って蝶になりたいと思います。