【12月号③】「よく生きたい気持ちを表現する ―― 金時祭『那岐おろし』を演奏して ――」ゆきな

  
 赤いはっぴを着て、帯をぎゅっときつく結んで。落ち着いて、誠実に向かっていこう。

 勝央町金時祭、なのはなファミリーのステージの次は、勝央金時太鼓のステージ。私も、毎週水曜日に、勝央金時太鼓保存会会長の竹内さんから、金時太鼓を教えていただいています。

■赤いはっぴ

 今回のステージは、私にとってお客さんの前で太鼓を演奏する初めてのステージでもあり、十一月にある『晴れの国 和太鼓まつり』 の演奏に繋がる大切な演奏でした。

 そう思うと、当日だけではなくて、その前から緊張が続いて、(大丈夫だろうか……)と弱気になるときもあるのですが、誠実に向かって行こう、と気持ちを前に向けながら、その日に向かっていました。
  

  

 なのはなファミリーの演奏が終わったら、ダンサーではなく、太鼓打ちになります。キリッと気持ちを切り替えて、はっぴ姿に着替えます。

 この衣裳は去年のウィンターコンサートでも太鼓メンバーが着ていて、赤いはっぴに金と黒の帯、と、格好良く太鼓を打つ気持ちを高めてくれる衣裳です。今回この衣裳を着ることができて嬉しかったし、心を真っ直ぐにしてくれるようなこの赤いはっぴが好きだなと思います。

 みんなが着替え終わって、ステージの裏に並びます。みんなも緊張していることを感じました。言葉を交わすことはほとんど無かったけれども、向かう方向はみんな同じに感じました。

 私も緊張はしていたけれども、会場の空気にのまれることなく、自分たちの演奏を届けようと思いました。
 恥ずかしさや不安で、自分になってしまったら、気持ちも演奏も途切れてしまう、お客さんへ向ける気持ちが切れてしまう。
  
  

 なのはなの太鼓打ちとして、気持ちをぶらさず強く持とうと思いました。
 中学生の演奏する『わかば』が終わったら、すぐに、なのはなチームの演奏です。みんなを感じること、テンポキープをすること、強い気持ちでいること、そのことを心で唱えてから、ステージに向かいました。

 演奏するのは『那岐おろし』。これは、日本の三大局地風の一つに数えられているほどの強い局地風。

■一発目の音

 初めは、ふみちゃんが叩く大太鼓から演奏が始まります。

 後ろにいる大太鼓の、力強く打つふみちゃんにも気持ちを向けながら、一発目の音からくっきりとした那岐山の姿を思い浮かべます。

 私は宮太鼓を演奏するのですが、初めに座った姿勢から立って正面を向いたときに、客席にいらっしゃる男性の方と目が合いました。その方がジッと私たちのほうを見ていることを感じて、気持ちを前にちゃんと出そう、と思いました。

 前半部分には、八拍の間を置いて宮太鼓が一斉に枠打ちを始める場面があります。練習のときから、みんなで絶対に合わせよう、と話していたところです。

 八拍は心で数えるけど、(みんな、ここで打つよね)そう思いながら、みんなで横で繋がりながら打ちたいと思いました。
  

金時太鼓保存会の方々による『金太郎囃子』

   
 『那岐おろし』を演奏しながら、自分たちで風を起こします。
 その風は、自分さえ良ければいいという気持ちや不真面目な気持ちを吹き飛ばす風にも思え、私たちが、人間が本来持つべき優しさや正義をもってちゃんと生きる、という覚悟を込める気持ちもあります。

 太鼓を叩くとき、気持ちが強くなることを感じます。普段出さないような大きな音と、振動が、自分自身を強く奮い立たせてくれるし、真っ直ぐにさせてもらっています。
  
■気持ちを作って

 演奏しているときに、観客席から、「ソイヤッ!」というはっきりとしたかけ声が数回、聞こえてきました。

 誰かは分からなかったのですが、そうやって自分たちの太鼓を応援して下さる方がいることが嬉しかったです。
 最後のお囃子を叩くとき、右手のバチを飛ばしてしまったのですが、自分でも後から驚くぐらい焦ることなく、予備のバチを出して、落ち着いてみんなのお囃子の中に入れたなと思いました。
  
  

 それは、金時祭の前半はふるさと総踊りに出演したり、その後はなのはなファミリーの演奏をしたりと、ずっと気持ちを作って向かっていたからだと思いました。 それが、不思議な感覚で、でも、そうやっていつも、自分がどう思われるかということは関係無しに、自分から離れたところで気持ちを作っていたいと思いました。

■伝わる演奏に

 演奏が終わったとき、お客さんからの拍手も嬉しかったのですが、もうひとつ嬉しかったことがあります。

 それは、太鼓の演奏後に、十一月に出演する『晴れの国 和太鼓まつり』のチラシを配っていたときのことです。

 小学校中学年の女の子が、そのチラシを持ちながら、「格好良かったです」と話してくれたことです。 演奏を聴いてくれた子たちにも、自分たちの演奏が心の中に残るものであること、そのことが本当に嬉しくて、「もっと頑張りたい」、「そうやって何か少しでも人に伝わる演奏にしたい」と思いました。

 次の太鼓の演奏は、十一月二日の『晴れの国 和太鼓まつり』です。
 そこに向かって、技術の面でも気持ちの面でも、一段上に上がっていたいです。
 破れかぶれでもいいから、よく生きたいという気持ちを、この好きな和太鼓で表現したいです。