11月2日
マービーふれあいセンターで開催された、岡山県和太鼓連盟30周年を記念した、「晴れの国 和太鼓まつり」に出演させていただきました。
春頃から、11月に連盟のコンサートがあること、出演させていただけることを、竹内さんからお聞きしていました。今日のコンサートを一つの目標に、金時太鼓のメンバーのみんなと練習をしてきました。まだまだ先だと思っていたけれど、あっという間に本番がきました。倉敷市まで遠いホールに行って演奏するということ、たくさんの和太鼓連盟のチームや、プロの鼓童と一緒のステージに立てること、にドキドキしていました。
朝起きて、勝央町公民館で集合し、バスに乗り込んで、実感がじわじわ湧いてきました。会場は、どんなホールなのだろうか、どのぐらいのお客さんが見に来るのだろう……これから行く先に、未知なことがたくさんあって、少しの不安がありました。演奏は練習通りにすればきっと大丈夫だと確信はありました。でも、その他の、出はけや、ディティールの部分で、浮かれた気持ちになって失敗をしてしまわないかや、ちゃんと出来るだろうか、という心配がありました。どうか最後まで良い演奏に出来ますように、と祈るような気持でした。
ホールに着いて、小学生や、いくつかの午前中の出演団体の方と一緒に、控室で出番を待ちました。控室で、はっぴに着替え、最終の気持ちづくりをしました。
かにちゃんが、最後の太鼓練習の日の帰り道で話してくれたことで、
「(今回のホールの客席の最後列である)23列目に、理想のお客さんがいることをイメージして、その人に届ける気持ちで、太鼓を叩こう」
という言葉が、ずっと印象に残っていて、そのことを思い出しました。お客さんは、ほとんどなのはなファミリーの存在を知らないだろうなと思います。求めてきているわけではないと思います。でも、1000人のうちの、たった1人でも、自分たちの演奏を聞いて、希望を持ってもらえたり、求めている景色を見せることが出来たらいいなと思いました。見えないけれど、求めている人をイメージするだけで、力が湧いてきて、表情も付けやすい気がしました。
バチが飛んでも、何があったとしても、攻めの気持ちで叩こう、と思いました。心配や不安に目を向けると、どうしても緊張から自分を守りたいような、保守的な気持ちになりました。でも、お客さんには演奏者のコンディションなんてどうでもよいことなんだよなあと思いました。それならば、会場を全部、私達の空気で染めてしまうぐらいの気迫で、破れかぶれの気持ちで、叩ききりたいと思いました。
舞台袖で待機しているときは、心臓の鼓動が聞こえそうなぐらい緊張しました。ブルー暗転の光の中でステージに上がり、太鼓を前にして座るとき、目の前の客席には、ほとんど満員のお客さんの気配がありました。最後列がずっと奥で、高くなっていて、ステージを見下ろす形になっていました。目線よりも上にもたくさんのお客さんの姿があって、全方位囲まれているような感覚でした。一人ひとりの所作も、くまなく隅々まで見られていて、一瞬の隙も作れない緊張感がありました。
『那岐おろし』が始まって、照明でピカッと照らし出されて、眩しく、客席は暗く見えました。でも、明らかに大多数の方が私達の演奏に張りつめた空気で、集中して聞いて下さっていることを感じました。
待機している時は緊張していたけれど、ステージに立って、太鼓を叩き始めると、緊張が取れて、本当に太鼓を叩くことが楽しく感じました。全身の力を振り絞って出した音を、全部会場のたくさんの方が真正面から受け取ってくれているような気がしました。
今日の『那岐おろし』が一番、力を入れることが出来て、笑顔で叩くことができました。
曲が終わると、「ヒュー!」と、お母さんの声が聞こえてきて、そのすぐ後に、とても大きな拍手が聞こえました。本当に嬉しくて、満たされた気持ちでいっぱいになりました。
休憩が終わり、二部の開演を待っているときに、勝央金時太鼓保存会のまいさんから、「なのはなファミリーのファンの方で、鹿庭さんにインタビューをしたいとおっしゃっている方がいます」と声をかけてもらいました。急いでかにちゃんを呼びに行きました。
かにちゃんが戻ってきたときに、かにちゃんの表情が輝いていて、話したこと、どんな方だったかということを詳しく、生き生きと話してくれました。
なのはなの太鼓の演奏を聞いて、こんな人達がいたのか、と思ったこと、演奏を聞いて涙が出てきたこと、なのはなの活動に興味を持った、ということを話してくださったと、かにちゃんが伝えてくれました。そのことが、本当に嬉しかったです。気持ちの届いたお客さんがいたのだと知って、本当に良かったと思いました。
午後の部は、客席で前から見させてもらいました。念願の『鼓童』の演奏も見させてもらえたことがとても嬉しかったです。
他の和太鼓チームの演奏もすごかったけれど、『鼓童』の演奏は、ものすごく揃っていて、驚きました。
ここまで揃えることが出来るのか、と太鼓の概念が変わりました。身長が違っても、手の上げる高さ、角度、スピード、全てが揃っていて、まるで一人の人の分身のようでした。また、構えの姿勢がものすごく綺麗だと思いました。普段太鼓の練習をしていて、よく竹内さんから、叩いた後はすぐに構えの姿勢に戻すこと、構えの時は、バチ先を必ず下に向けることを話してくださります。叩いている最中は、手を高く上げること、音量を出すことで精いっぱいになって、叩いた後の形がなおざりになったり、フルスピードの中で、いつでもニュートラルの形を意識することが、難しいと感じます。
でも、鼓童の方は、誰一人バチ先が上に向いたまま打ち終わることがなくて、それはどんなに速いテンポの時も同じで、バチを上げる軌道、手首、腕の使い方も、とても綺麗だなあと思いました。
また、びっくりするのは、どれだけ大きな音、速いテンポで叩いていて、盛り上がっていても、必ず静があること、静を感じさせることが、本当に凄いと思いました。息一つ上がっていないように見えたり、一瞬のシーンとした、まるで時間が止まったような隙間が、誰一人ずれることなく揃っていること、ぴくりともしないことが、凄いと思いました。
2曲目で大太鼓を叩いていた女性の方は、叩きながらバチを空中でクルクル回転させていて、自由自在にバチと太鼓をコントロールしているかのように見えて、まるでサーカスのようだったし、7曲目の、4人の方が一列に並んで、隣同士の締太鼓と桶胴太鼓をドラムのように叩き合っている曲は、コンマ1秒でもずれたら衝突して台無しになってしまいそうな綱渡りの演目を、難なくやってのけてしまうのが、本当にかっこよかったです。見ている方まで息が止まりそうなぐらい緊張して緊迫感のある空気がありました。そのぐらい、ストライクゾーンがものすごく狭くて、尖っていて、緊張感のある演奏を、最後まで貫く鼓童の方が、すごくかっこよくて、刺激を受けました。私も、そのぐらい、緻密で、繊細で、大胆な、演奏が少しでも出来るようになりたいし、それを理想にして、求めていきたいと思いました。理想のイメージを吸収させてもらえて、とても良い機会だったし、次につなげたいと思いました。
1日が1日だと感じられないぐらい、とても濃い時間でした。どれだけディティールが大切かを身に染みて感じて、ウィンターコンサートに向かう中でも、生かしていきたいです。