「前向きなところにしか答えはない」
桃の生きる姿からも、学びます。
六月下旬、はなよめの収穫から始まり採り続けた甘い桃たち。収穫が終わった桃の木をみると、どこかスッキリとしたすがすがしい感じを受けます。しかし、桃の木はすでに次の桃の実をつけるための準備を始めていました。
収穫が終わり九月ごろになると、新しく伸びた枝のほとんどが伸長を停止します。桃の木はこの時期から、葉が落ちる十月下旬から十一月ごろまでの落葉期まで貯蔵養分蓄積期に入ります。この時期は、桃の木にとって根の発達、枝、花芽などが充実する時期であり、来春の根の発生、発芽、開花、新しい枝と果実の初期生育のための貯蔵養分を蓄積する重要な時期になる。
そうです。貯蔵養分を効率的に貯蓄するためには、光合成を活発にすることが重要になってきます。そのためには、追肥で養分を供給したり、秋季剪定によって光環境の改善を行なうことなどが必要です。貯蔵養分は、根を中心として、幹、枝にも貯蓄します。なので、秋季剪定により木の内部で伸びた徒長枝などをなくすことによって、翌年使用したい枝の光環境を良くすることが大切になるそうです。
■状況で変わる答え
九月に入ってから、収穫が落ち着き、私達も秋季剪定に入りました。秋季剪定をするのは、私は初めてのことでした。秋季剪定は、冬季剪定と違って切りすぎてしまったら木が弱ってしまいます。緊張します。
今まで、あんなちゃんを中心に桃のメンバーの皆がつくってきてくれた剪定の流れがありました。まず、自分がカットしようと思う場所に印をつけていきます。その後、あんなちゃんに確認してもらい、修正してもらってから実際にカットしていく、という流れです。
剪定をするときは、桃の木に小さく、(お願いします)と挨拶をしてから剪定を始めました。剪定する徒長枝の約三分の一を切除するというのが基本ですが、桃の樹勢や状況、日の当たり具合、その枝を今後どうしていきたいのか、といった様々な状況で答えは変わっていきます。
桃の木の今までの伸び方、これからどう伸びたがっているのか。最初は恐る恐るしていました。あんなちゃんが最終的な修正をしてくれるのを見ながら、自分が足りなかった考えに気づかせてもらって、桃の言葉を教えてもらっているような気がしました。あと、まだまだ未熟な私のことを桃たちにも大きく許してもらっているような感じもしました。
■将棋のよう
剪定をしていると、なんだか将棋のようだとも思いました。将棋に詳しいわけではないのですが、相手の手を読みながら、自分の手を考えて打っていく将棋と、桃の木の動きを読んだり、今後どんな風に伸びていきそうなのか予想して先手を打っていくのがまるで、桃との将棋のようだと思いました。
大きな枝を落とすときは、少し縮めておいて冬に大きく剪定します。今の時期に大きく切りすぎると木のダメージが強いし、冬に一気に切っても良くなくて、ダメージになったり反発して逆に木があばれることがあるからです。
その大きな枝の剪定自体も、今後の周りの桃の木の枝が伸びやすいようにということや、作業性も考慮して判断していきます。
枝先が下がってきている場合は、それにバランスを取ろうと徒長枝を強く何本も伸ばしていることもあります。その場合は、下がっている枝は剪定する必要があります。
剪定したい場所にあってもまだ、実がつけられそうな枝はどのように剪定するか迷います。あんなちゃんに教えてもらいながら、来年実をつけて、少しずつ落としていくことにした枝もありました。
今だけではなく、来年、数年後の木のイメージや動き、樹勢、桃の枝どうしの位置、作業性……、様々な方向から考え、気持ちを遣う作業だと強く感じます。とても難しいけれど、面白いと思いました。
集中力と、気持ちを強く使う作業でしたが、いつもあんなちゃんが確認してくれたり、一緒の桃メンバーがずっと桃の木に誠実に向かう姿があったから頑張れました。
■自然の前向きさ
桃の木から、自然の強さを感じます。下がっていた枝があれば、上にバランスを取ろうと徒長枝を力強く伸ばす姿、実をつけながらもすでに静かに来年の準備をして、収穫が終わってからも養分を貯蔵しようと生きている姿……。
「前向きなところにしか答えはない」
お母さんが、よく私達に言ってくれる言葉です。
自然は当たり前のように、どこまでもたくましく前向きだと思いました。
誰に評価されようがされまいが、自分の生命をシンプルにまっすぐに精一杯で生きている、当たり前のように前向きで、たくましくて、強い桃や自然が美しいなと思いました。私もそうありたい、そうあることが自然なのだと感じました。
まだまだ、技術的には修行中という感じですが、今回の秋季剪定が桃に良いようにつながっていますようにと祈る気持ちです。