【9月号⑤】「お化け屋敷研究会の一員となって」 ほのか

お化けになりきって本番に臨みました

 

「一度でいいから、お化けになってみたい」
 そんな願いが、まさか大人になってから叶うことになるとは思っていませんでした。

 お化け屋敷チームに入らせてもらうことになって、顔合わせしたときから、「これは良いお化け屋敷になるぞ」という予感がしていました。

 監督は、なのはなで建築を教えてくださっている須原さん。初日の集まりから、会場となる森盛庵の設計図を描いて持ってきてくださっていました。部屋の長辺が七二〇〇ミリ、短辺が五四〇〇ミリ。それを仕掛けの数で割って、道の幅を決めました。

「こういう仕掛けをして怖がらせたい!」
 という要素はたくさん思いついて話題が尽きませんでしたが、具体的にどんなミッションにするのか。どんなストーリーにするのかは全く思いつきませんでした。

「アトリエのように物が多い場所は和風のお化け屋敷に向いている。物が少ない場所は洋風のお化け屋敷に向いている」
 ということを須原さんから教えていただいて、今回のコンセプトは洋館にすることに。その名も、「ハッピーハウス」。

   
  
 そこに登場するお化けはメイド、執事、人形、ギロチンに掛けられた女性、チャッキー、そしてハチ公という名の軟体動物です。今回は仕掛けを先に考えて、ストーリーやミッションは後付けだったのでストーリー考案に特に苦戦しました。

 同時並行でみんなが仮面やフェイクの手、須原さんがギロチン台や大きな仕掛けを作ってくださっていました。音楽室には「お化け屋敷研究会 立ち入り禁止」の札を貼り、秘密の場所としてみんなで制作を進めた時間が、すごく楽しかったです。

■みんなをご招待

 うまくいかなくて躓くときは、たいてい不必要な要素を加えてしまっているときで、よく須原さんに「イージーにせえ」と言われました。そのたびに、はっとして、「そうか、もっとイージーにしよう」と思うと、作業が捗りました。
  

  
 私はメイドのエプロンを白い布きれから作るところからはじめたのですが、布が足りないところは省略したり、厚みがあってミシンで縫いにくいところは安全ピンで刺す等の工夫をしました。完成したエプロンはクオリティが高く、これからコンサートでも使えそうなかわいらしいものに仕上がりました。

 ストーリーは粗方自分で考案したものを、あゆちゃんに添削していただきました。もっとシンプルにわかりやすく、かつ目的が明確になるようにとアドバイスしていただいて、すごく良いものにまとまったことがすごく嬉しかったです。

 その具体的なストーリーの主な概要は、フランスのある屋敷の男主人ダニエルが、娘の誕生日に事故で娘を亡くしてしまい、悲しみゆえに人格が豹変してしまうというものです。誕生日に渡すはずだった五つのコインのペンダントを集めてきて、出口の村の少年少女に渡すというところが最終的なゴールです。

   
  
 コインのある場所を怪しげに指し示すシートもデザインさせてもらって、縁日前日の夕食の席で配る「ご招待券」も、かにちゃんと一緒に制作させていただきました。

 縁日前日の夕食の席では、お化け屋敷へ入るペア、トリオの代表者の座席に、ご招待券を貼り付けておきました。受け取ったみんなの顔が笑顔のような、怖がっているような複雑な顔で、ハッピーハウスの案内人マリアの手紙もお父さんが読んでくださったあとは食堂がざわつきました。つかみはバッチリ! 心の中で須原さんとハイタッチしていました。

■試行錯誤
  

   
 縁日の二週間前、みんなより一足早く、山小屋へ現地入りをしました。

 最初に脚を踏み入れた森盛庵はソファやベッドなどの家具で埋まっていて、予想以上に狭く感じました。本当にここでお化け屋敷をできるのか心配にすらなったのですが、須原さんの指示のもと、家具を動かしている内に、あら不思議。隣の芳子庵に家具がすっぽり収まり、森盛庵が広々と感じたのです。

 その後からはいよいよ暗幕と道作り。私は、すにたちゃんと一緒に部屋を遮光する作業をしました。窓という窓に黒マルチを張り、部屋がどんどん暗くなっていきました。
  

照明の色や暗さにも気を配ります

   
 その後からは、さくらちゃんたちがエクセル線を張ってくれて、暗幕をつるし上げているうちに一気にお化け屋敷の会場ができあがっていきました。

 準備は順調に進んでいったのですが、一つ、未解決の課題がありました。
 それは、メイクをどう施すかです。

 ネットで購入していただいたカラフルなパレットのメイク道具は、色が鮮やかすぎ、顔が白塗りにできないため、おばけになるには向いていませんでした。

  
  

 そこで、いろいろ試してみました。ボンドを顔に塗りたくってみたり、半紙を貼り付けてみたり。半紙は顔が白くなるのに効果的だったのですが、取り外すときがものすごく激痛で、それを須原さんに相談させていただいたら、即却下になりました。そのためメイクはやめて、パソコンで印刷した怖い顔を顔に貼り付けることになりました。

■本番のエピソード

 私は箱の前に立つ人形マーガレットの役でした。箱の中には須原さんが購入してきてくださった糸こんにゃく、はさみで歪な形に切った角こんにゃく、目玉のような玉こんにゃくと、ダミーの石、そこにカブトムシとクワガタの模型を絡ませて、そして金貨を入れています。

 私はみんなが箱の中の金貨を取り出した後に、口にくわえていたかわいらしいお面を取り、怖い顔を見せるという仕掛けで怖がらせることになっていたのですが、当日、ハプニングが二つ起きてしまったのです……。
  

   
 一つ、お面が紙で作られた即席の簡易的な物だったため、汗で染みて破れてしまったことです。
 紙が顔の上半分だけになると、下半分が人間の顔なのでそこまで驚かれなくなってしまいました。そこで驚かせ方を変えてみました。顔の下半分は仮面で隠しながら怖い上半分だけを見せたり、変な声を出してみたり、追いかけてみたり、倒れ込んでみたり。

 回数を重ねるごとに、「次はこうしてみよう」というアイデアがどんどん出てきて、驚かせることに飽きませんでした。

 みんながいろんな反応を示してくれて、見たことのないその人の意外な一面を垣間見たりできたことも、すごくおもしろくて、声で誰かを予想した時間も楽しかったです。

 二つ、箱が破壊されたことです。
 箱は下の台にガムテープで固定してあって、その台も下をガムテープで固定していたのですが、お客さんが箱から手を引き抜く力が強すぎて破壊されてしまったのです。

 それから箱を上から押さえつけないとすっぽり抜けてしまうので、箱に寄りかかる姿勢になりました。それもものすごく体重をかけて押さえつけないと取れてしまうくらいみんなの威力が凄まじかったです。

■山小屋へ

  

   
 水を飲むことも忘れるくらい集中して、あっという間に二時間四十分が経ち、最後のなっちゃん、あゆみちゃんペアが出口まで行くと、「終了でーす!」の声が掛かりました。

 その瞬間、空腹と疲れで倒れ込むようにしてしゃがみ込みました。片付けは後日ということで森盛庵を後にすると明るかったはずの外が真っ暗になっていました。時計は二十時を回っていて、遠くの方から香るやきそばやからあげの香ばしい香りが空腹感を加速させました。

 みんなで山小屋まであがると、みんなから「お化けチーム帰ってきたよ! お疲れ様!」との声が聞こえて、屋台の明るい蛍光灯や、ほんのり灯る桃ライトの明かりも相まってすごくほっとしました。

 夕食に正治さんが焼いてくださったやきそばや、お父さんのからあげ、りゅうさんのカボチャ天ぷらを受け取り、お化けチームのみんなと輪になっていただきました。ものすごくお腹がすいていて、おいしかったのと、時間がないのとで急いで夢中で食べていました。

 どれもおいしくてすっごく幸せでした。その後になっちゃんのクレープやしそジュースもいただいて、クレープの中の桃のコンポートやホイップクリームが甘くて疲れが取れるようでした。

  
  

 お父さんお母さんが、遊んできたらいいよと言ってくださり、少し遊び屋台を回ることができました。どの屋台も賑やかな装飾が施されており、暗い森の中だと忘れてしまうほど明るく輝いていました。遅い時間だったけれどその賑わいがまだ残っていて、金魚掬いやヨーヨーつり、わなげをさせていただきました。ちゃんと金魚掬いしたのはおそらく十五年ぶりくらいのような気がして、すごく楽しみにしていたので、遊ばせてもらえて嬉しかったです。

 下のほうからは祭り囃子が聞こえてきて、浴衣姿のみんなが櫓を囲んで盆踊りを踊っていました。「ここは、理想郷か?」という夢のような、きれいなみんなの姿が現実を忘れさせました。数日経った今でも、あの夜は幻の一夜だったのではないかと思うほどです。

■楽しませることの喜び

 今回はお化け屋敷のお化けとしてみんなを楽しませるエンターテイナーとしての役割でした。自分が楽しむよりも、誰かを楽しませるほうがずっと楽しいと、改めて実感しました。けれど来年は自分も浴衣を着てノーマルな縁日を楽しむのもいいな、とも思います。

  
  

 童心に返って全力で楽しんで、全力で準備して、全力で驚かせた素敵な一夜を、私はこれからもずっと忘れません。