この夏、わたしたちにとって忘れられない特別な夜……。盛男おじいちゃんの山の中で、一夜限りの『なのはな縁日』が開催されました。
縁日遊びの翌日、目が覚めたとき、すごくよく眠れたと感じました。長い夢を見ていたようでした。
けれど、ひとつ思い出すと、あれもこれも、と場面がよみがえってきます。
■オープニング漫才
この縁日遊びで、わたしはいくつもの夢が叶いました。
オープニングで漫才をさせてもらえることに決まったとき、とても嬉しかったです。ある山小屋キャンプから始まった、ひろこちゃんとまちちゃんとの漫才トリオ『TATSUMI(たつみ)』ですが、実はここだけの話、「この夏、縁日とか、野外で漫才をやってみたいよね」と、三人でずっと前から話していたのです。まさか本当に、こんな機会が訪れるなんて! と運命のようなものを感じていました。
縁日まで、あとわずか一週間というとき、ひろこちゃんとまちちゃんと、急いで練習に取りかかりました。
夜に集まって、ああでもない、こうでもない、と考えている時間はあっという間だけれど、楽しかったです。笑いについて追い求めることに真剣で、ついつい率直に言いすぎてしまったり、たまに冗談を言ったり、お互いの話にお腹を抱えて笑ったり。「わたしたちは、すごく人を笑わせるのが好きなんだね」そう思って繋がっているのを感じると、やっぱりわたしは、TATSUMIの存在が好きで、とても嬉しかったです。
本番、山小屋前で、みんなが集まってきて、立ち見をしてくれました。
「あ~おもしろかった!」「TATSUMIが本当に好き!」と、みんなが声をかけてくれて、大きな拍手とともに、今年の縁日が始まりました。
自分のことも仲間のことも理解されていて、好きでいてもらって、見守ってもらっている嬉しさをもらいました。ステージ側から見るみんなの笑顔、みんなの笑顔から始まった縁日のオープニングを、ずっと忘れないと思います。
■星と昆虫の吹き矢店
さて、芸人さんのあとは店員さんとして、吹き矢の屋台のお店番が始まりました。
山小屋のオーナーである盛男おじいちゃんの山の道、連なる屋台のいちばん奥に、吹き矢の屋台ブースがあります。それぞれの屋台が鮮やかに光っていて、浴衣姿のみんなが、嬉しそうにこちらへと歩いてくるのがわかります。
お母さんが以前、
「吹き矢が屋台の大トリだと思っている。コンサートのステージのように、スケール大きく、華やかに飾ったらいいよ」
と話してくださいました。
お母さんの言葉を聞いて、吹き矢チームのみんなのアイデアを集めて描いた屋台のレイアウト図。最後の最後まで、このレイアウト図を片手に、「少しでも見栄え良く、綺麗にしたいね」とこだわって、諦めませんでした。
縁日当日、山の奥には、描いていたもの、いや、それ以上のものが出来上がっていました。
『夏の夜、光り輝く昆虫観測』と書かれた大看板に迎えられ、キラキラ光る虹色クワガタやタマムシの的に目が向きます。背景でイルミネーションが流れ、星のガーランドが風に揺れていて、それもまたキラキラと光っています。
お客さんとしてやって来たみんなが、「わあ! 綺麗!」と歓声をあげてくれること、そして本気でプレイして帰って行ってくれることが、とても嬉しかったです。
初めて吹き矢をやる人も何人かいて、ペアの人に教えてもらいながらプレイしてくれていました。吹くまでの緊張感。吹いたあとの、それがほどけた開放感。矢が的に当たったときの爽快感……。その子が今はじめて、吹き矢の楽しさの魅力を味わっているのだろうなと思うと、その場にいられることが嬉しかったです。
お父さん、お母さんも来てくださいました。お父さんは虫をコンプリートして、最高得点を出してくださいました。お父さんが吹かれた矢を回収していて、一番高得点の虹色クワガタの矢を見てみると、まさに、クワガタの真ん中にぶすりと矢が突き刺さっていました。本当にびっくりしたけれど、自分が命中させたかのように嬉しくて、気分が高まりました。
お母さんが来てくださったとき、開口一番、「良いお店ができたねー!」と満面の笑みで言ってくださったのを、今もはっきりと思い出せます。
手が空いているとき、いつも自分たちの後ろに広がっている景色を見て、この空間を感じて、胸がいっぱいになりました。
「本当に、実現できたね」「本当によかったね」
一緒に接客をしていた、やよいちゃんと、何度かそういう会話をしました。ここで、お客さんとしてやって来たみんなが楽しんでくれている。ずっと吹き矢チームのみんなで描いていた夢を、実現させることができました。
■心満たされる、食べ物屋台
時間がやって来て、今度はお客さんとして、屋台を巡ります。
まずは、お腹を満たそうじゃないか! ということで、初めに向かったのは……食べ物屋台の唐揚げ。ずっと楽しみにしていたお父さんの唐揚げは、やっぱり本当に美味しかったです。ジューシーでお肉に味がしみていて、夢中でかじりついてしまう、幸せに包まれる唐揚げでした。
隣では、りゅうさんが別の揚げ物を作っていました。新メニューのカボチャフライです! 衣はサクサク、中のカボチャがとろっと出てきて、「あちちっ」と火傷しそうなくらいの揚げたてです。食感だけでなく、のり塩の塩辛さと、カボチャの甘さも絶妙でした。
正治さんが作ってくださった焼きそばを食べて、やっと「ああ、縁日だ」と実感したし、その後に食べたデザート……スムージーもクレープも、全部が身体に染み入るような美味しさでした。
小さい頃は、こんなに屋台の食べ物を食べられなかったし、お小遣いでは買えなかったし、こんなに美味しいものを食べたことはなかったなあと思い出しました。なのはなで大人になったけれど、大人になったら、いつでもまた子供に戻れることが本当にありがたくて、お腹がいっぱいになると同時に、心もいっぱいになることを感じました。
■過程も本番も堪能した!
「次、どこ行こうか」
みんなでゆっくりと歩いているのが楽しかったです。撃つのが惜しいくらい、まるで美術館のように美しい昆虫が整然と並べられているのは、射的屋さん。
あちこちに飾られたクモのマスコットや風船がとってもポップで、可愛らしいヨーヨーすくい。明かりに照らされた障子に、繊細で綺麗な切り絵がちりばめられているのに見とれてしまう、金魚すくい。頭にポンポンを付けて
「こんばんわ(輪)ぁ~!」と明るく迎えてくれる輪投げ屋さん。
店員さんとして立っているその姿、笑顔を見ていて、どの子も、自分たちの屋台がすごく愛しくて誇らしいのだろうなあと感じました。ひとつひとつの屋台の好きなところが、魅力があふれていて、しっかり受け取ることができました。
ひとつだけ例外で、どうしても、行くことをためらってしまう場所がありました。
それは……お化け屋敷。お化け屋敷研究会のみんなの話は聞いていたけれど、本当にすごいクオリティだったなあと感じました。お化けがそこにいる、きっと何かされるに違いない!
そう分かっているのに近づかなければならない恐怖に襲われて、なのはなのみんながお化け役だということなんて、すっかり飛んでいってしまいました。
誰が誰かなんて全く分からないくらいにみんながお化けになっていて、本当に怖かったです。こんなにパニックになることは滅多にないので、気がついたら「付いてこないでください!」「もう悪いことしません!」などと口走っていることにも驚きました。
一緒に入ったやよいちゃん、まなかちゃんとしっかり身体をくっつけて、思いきり怖がりながらも無事に帰ってこられて、本当に良かったなあと感じました。
山小屋の前に戻って来たとき「ああ、みんなが居る!」と現実の世界に帰ってきたのが分かって、どっと安心しました。今なら笑い話になるなあと思って、お化け屋敷に入ることができて、楽しかったです。
もっと遊びたい、ずっとこうしていたい……。縁日遊びの最後、盆踊りが始まる時間に、いつもそう感じます。提灯も屋台も、翌日が来れば全部なくなってしまうけれど、この一夜に、ありったけの気持ちを込めて作り上げてきました。それまでの道のりも含めて、この一夜を、みんなですみずみまで堪能して、遊び尽くしたような気がします。
遊び疲れて眠ることができるなんて、わたしは幸せです。けれど、寝ても覚めても消えない夢、確かにちゃんとわたしの心にあって、大好きな場所、大好きなみんなと、最高の夏の夜を過ごせたことが、とても嬉しかったです。