誰も知らない完全犯罪がなされている。そのことに誰も気付かない。被害を受けた本人さえ気付かないほどのスムース・クリミナル。
全てのサビで「Are you okay?」と呼びかけ続ける歌。
マイケル・ジャクソンの『スムース・クリミナル』という曲を、ウィンターコンサートで演奏するために練習していくことになりました。
あゆちゃんや、まえちゃんが、
「演奏したい曲がないから、前にバンドで演奏していた『ビート・イット』にしようか?」
と話していたことがきっかけで、せっかくやるなら演奏したことのない新鮮に感じられる曲がいいな、と思い、同じようにマイケル・ジャクソンの歌の中から、この曲を候補に挙げてみました。
緊迫感のある印象的なフレーズを、キラキラした管楽器の華やかな音色で、力強く表現できるような曲です。吹奏楽編成の音源を聴いたときに、本当に格好良くて、この曲を雑味のない気持ちで、みんなと確信を持って演奏できる未来が楽しみになりました。
雨の日や、サマータイムで畑に出ない、日の高い時間に、全員での楽器練習が始まりました。そして今回、各パートに新しく楽器を持つ子が加わりました。ソプラノサックスにはあやちゃんが来てくれたので、まみちゃんと私とで三姉妹になりました。
楽器が決まる前にはパートの見学会があり、まだ楽器の決まっていない子が順番に全てのパートを回り、どんな楽器なのか触れてみる時間がありました。吹奏楽部の仮入部のような、これまで にはなかった雰囲気が新鮮でした。
初めての子がサックスを吹いて音が出ることが嬉しくて、楽しくて、パートのみんなと一緒に歓声を上げて喜び合いました。
■目に見えない感覚
楽器が決まってからのサックスパートの練習では、楽器を演奏する上での微妙な感覚を、みんなと同じような感覚で共有できることが嬉しいな、と思いました。
音程は低い音で合わせて、高い音を口でコントロールするほうがやりやすいことや、低い音はリード全体を振動させるようなイメージで、高い音はリードの先に息を当てるイメージで吹くこと、また、楽器の正しい音程を耳で覚えてその音を再現するように音を出すことなど、目には見えない感覚的なことをわかり合えることが、気が合うということなのかな、と思いました。音楽を通しての人とのつながりがとても嬉しいです。
■基礎合奏
あゆちゃんが指揮をしてくれる全員での基礎合奏がありました。その中の一つに、木管楽器と金管楽器がタンギングとロングトーンを交互に受け渡す練習がありました。
木管楽器はタンギング四拍の後ロングトーン四拍、金管楽器は同時に、ロングトーン四拍から始めてその後タンギング四拍、という練習です。
相手の音を常に感じながら、自分も質の揃った音を出して次の相手のフレーズに繋いでいく、という感覚が、曲を演奏するときの感覚と通じるところがありました。
音の終わりで気を抜かないで、相手に受け渡すことをあゆちゃんに教えてもらい、曲の練習に入る前から、全体の中で音を出す楽しみ方をみんなと一緒に感じられて嬉しかったです。
更に、八分音符のタンギングを四拍する中で、クレッシェンドをかけて音量を上げていく練習を教えてもらいました。私はサックスを何年も吹いているけれど、それでもハイレベルだな、と思うような練習でした。
■基礎練習の成果と楽器庫のリニューアル
音を真っ直ぐ伸ばして、タンギングもして、金管と木管で受け渡しもして、クレッシェンドをかける音量コントロールもして、息を一瞬で吸って……、たくさんの要素が重なって難しいけれど、それをやろうと思って形になっているところが凄いな、と思いました。
やろうと思わなければできるようにならないので、こういうのがいいな、と思ってあゆちゃんが教えてくれる楽器練習がとても嬉しいです。
まだ肺活量がなくて息が続かない、低い音、高い音が出しにくい、タンギングはリードのどこに触れたらいいかわからない、音が裏返ってしまう、など、初めて管楽器を演奏するときの疑問はたくさんあります。
それぞれコツみたいなものは伝えられるけれど、どういう音にしたいと思うか、それが一番大切なことだと思いました。
音の切れ目が殆どないくらい短かったらいいな、音がもっと揺れない真っ直ぐな音だったらいいな、音の立ち上がりがもっとクリアで整っていたらいいな、それが楽器から出てくる音になるのだと思いました。
肺活量がなくても、タンギングのコツがわからなくても、そう思うことは誰にでもできて、そういう気持ちに、技術が後からついてくるのかな、と思いました。
お父さんや、あゆちゃんがいつも教えてくれる、どれだけその楽器の持つ奇麗な音をイメージできるか、とあるべき形を目指すことが本当に大切だと改めて思いました。
こんな風にロングトーンやタンギングをみんなと一緒にしていたら、アセスメント演奏でバンドの『ルナ』のサックスがとても吹きやすくなっていました。均一な息を出し続けられる安定感が自分でも感じられて、基礎練習の積み重ねの大切さを実感しました。
また、楽器練習が始まるのに合わせて、楽器を仕舞っている鉄筋校舎二階、ホワイトルームの棚を須原さんが増設してくださったことも嬉しかったです。
場所が少し足りなくて不便だな、と思っていたので相談させてもらったところ、直ぐに余っていた木材を使って両側を一段ずつ増やしてくださったので、スペースに余裕ができるくらい十分な楽器庫になりました。楽器が奇麗に仕舞えると、楽器を扱う気持ちも整い、練習するときの気持ちも変わるな、と思いました。
基礎練習だけでなく、『スムース・クリミナル』の練習も少しずつ進めています。
みんなが楽器を持つ編成では歌は入らないけれど、脚本の中でこの曲がどんな展開に組み込まれるのか、また、この曲が物語をどんな展開に押し進めていくのか、今からすごく楽しみです。今年のコンサートの色が少しずつ見えてくるように感じました。