ある日のお昼の集合の時。
あゆちゃんが、笑顔で、発泡スチロール箱を持ってリビングに入ってきてくれました。
「お父さんのいとこさんから、平家蟹が届きました!」
お父さんの出身、大洗の海からやってきた蟹たちでした。
「え! なになに」という気持ちで、その箱を覗くと、「わ!」と思いました。
手のひらサイズの小さいたくさんの蟹たちが、こっちを向いていました。
あゆちゃんが、手に持ってかがげて見せてくれて、「まだ動いてるよ」と、足や鋏がぴくぴくと、動いていて、可愛いな、と思たのと、大洗の海から直で来たんだな、と新鮮味を感じました。
■香りと芳醇さ
平家蟹は、名前を聞くのも、間近で見るのも、初めてした。
その日の午後には台所作業に入らせてもらっていて、夕方に、台所にある大鍋で湯がく、ということを聞いて、その瞬間が楽しみだな、と思いながら、作業していました。
そして、夕方に、あゆちゃんとお父さんが台所に来てくださいました。
あゆちゃんが、「この蟹、目を押すと奇麗に収納されるよ」と見せてくれて、指で、飛びだしている目を押すと、平らに、ひゅっと収納されていきました。
その光景が、生物の観察をしているみたいで、面白かったです。
一緒に作業していたしなこちゃんが、その平家蟹を洗いながら、六十杯を超える数があったと教えてくれて、お父さんのいとこさんが、なのはなのみんなで食べられるように、と送ってくださったことが、ありがたいな、と思いました。
大きな鍋に水をいっぱいに溜めて、火をつけて沸かしました。
お父さんが、平家蟹を、その鍋で茹でてくださいました。
茹でる前は、黒っぽかった蟹の額も、湯に通すと赤く甲殻類らしい色になっていって、まるで、漁師町の料亭に来たかのような気分になりました。大きな鍋にいっぱいに入った蟹を見ると、贅沢な気分になりました。
茹で終わった後、お父さんが、「この茹でた湯は、灰汁を取ったら、味噌汁の出汁に使える」
ということを話して下さって、早速、あゆちゃんが、その出汁で今夜の味噌汁を作ってくれました。
夕食の席についた時、お皿にのった蟹に一番に目が奪われました。
お父さんが、「大洗で獲れる平家蟹で、こどものころから馴染みがある」と、平家蟹の食べ方講座をしてくださいました。
まずは、蟹の腹の下のほうについている尻尾のような部分を取り、蟹の大きな甲羅を手でぱかっと開き外し、バカと呼ばれている一見食べられそうなエラを外し、そのバカが外れた状態のものを二分割にして、その中の身をしゃぶるか、箸でほじって食べる、と教えてくださいました。
私も、お父さんの講座を真似て、食べられるところまで行きつき、蟹を口につけたとき、磯の香りと蟹の芳醇さが口いっぱいに広がって、幸せな気持ちになりました。
(大洗からの幸だ)と思いました。
蟹の煮汁の味噌汁も、魚介の旨味のある豊かな香りをしていて、それもまた気持ちが満たされました。
大洗で獲れる平家蟹を、こうしていただけたことが、すごく貴重でありがたかったです。
魚介の磯の香りにしばらく包まれていて、包まれていると、ずっと前からずっと海に住んでいたかのような気分になりました。
みんなで平家蟹をいただけたことが嬉しかったです。