【8月号⑨】 「桃の収穫、最盛期」 りな


  
 なのはなファミリーで育てている樹熟し白桃。七月の中旬から、八月上旬の、夏真っ盛りのシーズンは、桃の収穫の最盛期。一日として桃の熟れは待たれず、毎日、次から次へと桃が収穫できます。

 私は、桃の収穫メンバーに入らせてもらっています。六月二十日頃から一番最初の『はなよめ』という品種から始まり、その後もノンストップで品種が移り変わっていき、中生品種として『清水白桃』などを収穫しています。

 野菜も桃も、まだ気温が高くなっていなくて冷えている早朝に収穫するのがベストで、朝六時から、桃畑に向かいます。
  
  

 朝の桃畑は、地面の草や桃の葉に朝露があり、ひんやりしていて、とても神聖な空気を感じます。収穫期にある樹は、樹の下に入っただけで、ふんわりと桃の甘い香りがします。樹で熟れさせた桃だけを収穫するために、一つひとつ袋の中を覗いて、熟れた桃だけを収穫しています。

■桃の品格

 品種によって、大きさも、色も、形も違い、収穫の判断基準も違います。そのため、品種が移り変わるごとに、あんなちゃんがその品種の判断基準を伝えてくれました。

  
  

 基準は、色や、香りや、手触り、雰囲気などを総合的に見て判断します。青採りにもならず、過熟にもならず、一番ベストな日は、一日、二日しかなく、より良い収穫に繋げるために、一つひとつの桃の実を、慎重に見ていきます。

 この数年は、異常気象の影響で日中の気温がとても高くなることで、桃が変な熟れ方をする傾向があるようで、今年もその傾向が強く出ていました。色が抜けていなくて、外から見るとまだ青く見えるようだけれど、中の果肉が熟れている現象があり、見極めもかなり難しかったです。
  

収穫はじめに、収穫基準を確認しあっています。

   
 迷ったときは、実際に桃を切ってみて、柔らかさを確かめました。どのぐらいの色味で、どのぐらい熟れているのか、切ってみると感覚が掴みやすくなりました。一人では、基準がずれていた時に気づくことができないけれど、収穫ペアの人がいることで、都度、確認することができました。また、あんなちゃんを中心に、収穫メンバー全員で基準の確認を何度も何度も行ない、こまめに共通認識する機会がたくさんあったので、一人で悩む時間が無くなりました。

 これまでは八人体制での収穫だったのが、ピーク時には人数が増えて、十人体制で、収穫をしました。

  
  

 どの品種の桃も大好きなのですが、清水白桃は特に品格があって香り高いなあと感じました。
 袋を開くと、真っ白で、果頂部がぽっと紅を差した清水白桃が顔を出しました。熟れているものはクリーミーな香りがして、手触りが、とてもしっとりとしています。袋の中から覗いた清水白桃が、輝いて見えるぐらいに、奇麗で上品でオーラがありました。良い時期に、“あたり”を出さずに、収穫しなければ、と奇麗なら奇麗であるだけ、気持ちが引き締まりました。

■新しい価値を生み出していく

 摘果や袋掛けの時期に、桃の害虫であるカメムシが大発生して、大部分の桃の実が、被害に遭いました。緊急事態で、みんなで早急に全面ネット掛けをしたり、防除をしたり、袋掛け時は特に虫の被害に気を付けました。

  果たして今年は奇麗な良い桃が収穫できるか……と、気がかりだったけれど、こうして収穫の時期になり、袋を開くと、虫食いもない、奇麗な実がたくさんあって、とても安心した気持ちになりました。摘果、袋掛け、ネット掛け、これまでの手入れが全部、今の収穫に繋がっているのだ、と思うと、嬉しくて、満たされた気持ちになりました。

 樹で熟した状態で収穫する、ということが、今の異常気象の中でとても難しいことをつくづく感じます。今年は、加納岩白桃や浅間白桃、なつおとめなど、数品種が一気熟れをしたり、七月中旬にはしばらく続く雨が降ったりして、その影響で桃が水を吸いすぎて、あざのように一部が黒ずんでしまう桃もいくつかありました。

  

  
  気候や天気、その年によって違い、毎年同じ、ではなく、毎年毎年更新して、新しくしていかなければ、良い桃を収穫できないのだと、心に刻まれました。これでいいや、と妥協する解決策はなくて、いつでももっと、もっと、と高い品質を目指していくことで、本当に新しい価値を生み出していくことが出来るのだと思いました。

 桃を切り口に、きっとまだ見ぬ誰か、求めている人に繋がっているんだと確信が持てるようになりました。枠にとらわれないで、なのはならしいもの、これまでの水準を超えていけるような桃に出来るよう、これからも自分の役割をしっかりと果たしていきたいです。