田植え前の田んぼに行くと、水面に空や木がさかさまに映って、その時期しか見られない、まるで絵画のような光景が見られます。そこにお父さんと永禮さんの田植え機が、ノートの線のようにまっすぐな稲の列を描きます。田植機が大活躍の中、私たち人間田植え機の出番がやってきました。
六月八日。新しくお借りした田んぼで、手植えを行いました。みんなで等間隔に並び、裸足になって田んぼに入ります。田んぼに入ると、素足を田んぼの土が包み込む優しい感触に、心が癒やされます。いよいよはじまるぞと、気持ちが引き締まりました。
育苗トレイから稲をはがして、ひとかたまりずつ手に持ちます。永禮さんとあゆちゃんが水糸をひいてくれて、その真下に、苗を植え付けます。
一列十五秒で、植え付けます。お母さんがタイムコールをしてくれました。「五、四、三、二、一!」と、お母さんの凛とした声が響きます。大急ぎで、でも苗に優しく、根を切らないように、しっかりと植え付けます。十五秒以内に自分の範囲を植え付けなくてはいけないので、大急ぎで、稲の苗の塊から、三本ずつ、苗を取ります。ぎっしりと根がつまっていて、親指が少し痛くなってきます。でも、稲の苗の強さを感じて、嬉しい痛さでした。
■愛おしい光景
慣れてくると、十五秒を少し早めて十三秒になり、最終的には十一秒になりました。人間田植え機になったつもりで、猛スピードで手を動かします。間に合わなかったところは、隣の人とお互いに助けあいます。苗が足りない人がいたら、手元に苗の塊を持っている人が、その人にわたします。苗が足りない人がいないか、お互いに気にかけ合います。みんなで同じスピードで進むように、お互いにフォローしあう空気が、心地よかったです。
だんだん、私たちと、お父さんお母さんとの距離が縮まってきます。時間があっという間に感じて、手植えが終わってしまうのが寂しい気持ちもあって、ひとつひとつを大切に植えました。
「三、二、一、ピピー!」お母さんの明るい声が響き、手植えが終わりました。後ろを振り返れば、苗トレイから田んぼへとお引っ越しをした稲の苗たちが並んでいて、住処が広くなって、気持ち良さそうでした。ずっと眺めていたいくらいにこの光景を愛おしく感じました。
豊作になりますように。