桃が熟れはじめました。
私たちが育てている桃の中で一番早い時期に熟れだす桃は、はなよめという品種です。この桃は、小ぶりで、白い肌に赤い紅が差して、可愛らしいです。開花からの日数や天候を目安に、6月20日頃には採れるのではないかと予測していたのですが、予想通りの熟れの進み具合でした。
桃にかけている袋をそっと開いたとき、華やかな香りがして、いよいよこの季節がやってきたと感じました。
■今年ならではの戦い
近年は、5月から気温が30度以上になったり、6月半ばで35度以上の真夏日になったりと、日差しの強さや温度の上昇のしかたが顕かに違うと感じていて、作業をしていると肌が痛く感じるほどです。桃の育ち方や熟れ方も、それ相応に変わっているはずで、前年と同じとか、前はこうだったから、という考えが当てにならないと思っています。今の桃にとって一番ベストな手入れの仕方やタイミングはどんなだろう、と常に考えては、実践しています。
例えば、今年は幾つかの条件が重なって、カメムシが大量発生してしまいました。平年の80倍とかいうことも聞きました。実際に4月の終わり頃から、はっと気づいたら、幾つもの実が食害されてしまっていました。食害されたところは、シミになったり、凹んだりして、綺麗な桃としては育ちません。急激に焦りました。
これまでになくケムシも大量発生していました。
まさに異常事態というより、これは緊急事態だと感じました。
このような事態は初めてで、びっくりすると同時に、青ざめる思いでした。しかし、その状況にどう手を打っていくかということに対して、これまでにない、スリリングな、わくわくした感情もありました。寝ても覚めても桃のことを考え続けました。一時は、危機感と心配が続いていましたが、幾つかの対策を講じることで、虫との戦いは一旦、小康状態となりました。
1つは、早々にネットをかけてしまうということです。ネットをかけてしまうと、かけた樹は守られるので、少し心が落ち着きました。
2つめは袋かけの時期を、前倒しにして行いました。袋をかけてしまえば、実が大きくなって袋が張ってくるまでは、虫が袋の上から加害することができないので、しばらくは安全なはずです。
3つめは、摘果のタイミングと程度を、これまでのやり方と変えました。虫のリスクを考えて硬核期前の本摘果のときに余分めに実を残しておき、袋かけをしてしまってからの修正摘果の比重を多くすることにしました。
ネットかけや、袋かけを、必死の思いで、みんなとやりました。
■ネットかけ
これまでは、ヤガという収穫期に入った桃の汁を吸いにくる蛾の対策として、収穫の少し前にネットをかけていました。しかし、カメムシはまだ小さくて青い実も刺して食害するため、あるかぎりのネットを、優先順位をつけてかけました。
早生、中生、晩生の主要品種を、まんべんなく守れるように、ネットの割り振りを考えました。しかし、ありったけのネットを収穫時期に関係なくかけてしまうと、中生品種のヤガ対策で必要なネットが足りなくなるため、ネットを作り足すことにしました。
20メートル×30メートルというような、桃にかけるサイズの巨大ネットなのですが、2メートル幅の防虫ネットをミシンで縫い合わせて作っています。さくらちゃんたちを中心に、ネット作りも日々進化していることを感じています。
■はなよめの収穫
今年は晩霜対策をしなくとも済みました。カメムシの異常発生と同様、桃の栽培をしてくる中で、こんなことは初めてでした。四月にあまり低温にならなかったため、結実は良好で、変形果が出やすい品種も、変形果が少なくて、生育的には良好でした。ところが、虫害により、良い実を残すことが難しく、今年はこれまでとは違った難しさを感じています。
また、近年の天候では、尋常でない暑さが続くと、激しいドカ雨が降るというような場合が多くて、今年も既にそのようになっていると感じています。そのため、水分管理にも気を配っていて、晴れが1週間ほど続いたら水やりをしたり、桃が一番敏感である硬核期からは、まとまった雨が降る予報のときにはすべての樹にブルーシートを敷いて、急激な水分変動が起きないように図らっています。
桃はとても繊細で、乾燥しすぎたり、そのあとに水が多すぎたりすると、種に亀裂が入ったり割れたりしてしまって、味が良い桃にならないのです。
シートを敷くときには、多人数で桃畑に出ることもあって、多くの人が桃畑にいると、嬉しい気持ちになりました。
はなよめは、これまでにない出来栄えでした。糖度12度以上の桃が多く、糖度15度を超える桃も幾つもあって、はじめは糖度計で測るときに正確に測れていないのではないかと思ってしまったほどでした。食べたら、とても瑞々しくて、香りがよくて、はなよめってこんなに美味しい桃だったのかと思いました。とてもよいスタートだと思いました。
はなよめの収穫は、始まったと思ったらあっという間で、6月27日からは日川白鳳を採り始めました。予想よりも熟れるのが前倒しになっているのを感じました。今後の品種の熟れ時期や出来も、おそらく天候の影響を大きく受けていくだろうと思います。
収穫や、追加のネットかけなど、手入れが重なっていて、忙しくなってきたのですが、みんなと協力して、良い収穫期にしていけたらいいなと思います。