今年も、なのはなのお米作りが始まりました。自給自足ができるように、なのはなファミリーでは、自分たちが頂くお米も、一から自分たちの手で作ります。
お米作りの最初の行程は「比重選」です。
「比重選」は、良い種籾を選ぶために行う行程です。
発芽から初期生育にかけての必要な栄養素を含んでいる胚乳が多い種籾が良い種籾なのですが、胚乳が多いのか少ないのかを、見た目だけで判断することは難しいため、硫安水に籾を入れ、浮き上がった軽い籾を取り除き、沈んだ重い籾を種籾にする作業です。
塩水を使った「塩水選」が一般的ですが、なのはなでは、盛男おじいちゃんに教えてもらった硫安水を使って行います。
お米は四キロずつ、水につけていきます。
今年は、餅米、ミルキークイーン、コシヒカリ、紫黒米の四種類のお米を作ります。
先ず始めは紫黒米。紫黒米は真水で行います。
種籾を水に入れて、浮いてきたものを取り除きます。
次に餅米。四十リットルの水に、八キロの硫安を溶かして作った硫安水に餅米を入れ、浮いてきた種籾を取り除きます。
その後、荒洗い、本洗いの二段階に分けて、硫安を洗い流します。
硫安がついていたり、籾が少しでも剥がれると発芽できません。種籾は、とても繊細なんだと思い、優しくそっと大切に、でも手早くしっかりと、硫安を洗い流すことを心がけました。
餅米の後は、うるち米。餅米の時よりも、四キロの硫安を足した水に、同じように種籾をつけて選別をしていきました。
今年は、昨年よりも六枚田んぼが増え、種籾の量も例年よりも多くなっているため、作業をする場所が、シャワー室から、なのはなの湯に、そして、干す場所も、図工室から体育館に変更しました。
場所が違って、流れも違う。そして、比重選は一年に一度の作業のため、手順も流れも例年と変わってきます。
でも、どんな時も迷ったりすることなく、その時々に応じて作業を進める、まえちゃんの潔さや、作業の速さを近くで感じて、自分もそうありたいと思ったし、それが良い仕事に繋がるのだと思いました。
脱衣所では、どれみちゃんがお米を量ってくれていて、比重選をしてくれているまえちゃんへの橋渡しを私がし、選別された種籾を、まことちゃんとなつみちゃんが、体育館に運んでくれて、新聞紙の上に干す。という流れでした。
■種籾の生命力
最初は手間取ることもありましたが、流れが出来てくると、お風呂場と体育館の行き来がスムーズになり、十七時までに作業を終わらせることができて、達成感がありました。お風呂場と体育館といった、別々の場所での作業だったのですが、みんながお互いを感じながら繋いだ作業が楽しくて嬉しかったです。
そして、盛男おじいちゃんの笑顔が浮かんできました。
一日、種籾を乾燥させて、翌日には、温湯消毒をします。
温湯消毒とは、種籾を消毒する方法で、農薬を使用せずに、六十度のお湯につけて病原体を殺菌する方法です。
農協の施設をお借りして、まえちゃんとどれみちゃんが温湯消毒してくれたことが、とても心強かったです。
そして、播種に向けての芽出しが始まります。
稲の発芽を揃えたり、出芽率に大きくかかわる重要な行程です。
最初は、種籾が発芽に必要な水分を吸収できるように、水に漬けます(浸種)。
品種ごとに、発芽のタイミングが違うのと、品種を間違わないようにネットに入れて、水を張った湯船に平たく広げ、三段もしくは四段に重ねます。
どのネットも均一な温度が保たれるように、ネットの位置を変えたり、種籾が酸欠にならないように、ネットを水中でゆすったり、水から持ち上げて空気に触れさせます。
約四時間毎に種籾の様子を見に見回りに行きます。
少しずつ、種籾が水を吸って、膨らんできている様子が見られます。
一日半、水に漬けた後は、水をお湯に替え、水温を約三十度に保ちます。
今度は、約三時間毎に見回りに行きます。
日中は、ちさとちゃん、どれみちゃん、ひろこちゃん、かにちゃんが様子を見てくれて、夜は、まえちゃんとまことちゃんで見回りに行きました。
少しずつ、種籾が水を吸って膨らんでくる様子を見られたり、種籾が、静かに湯船で待ってくれていると思うと、まるで自分たちが、籾のお母さんになった気持ちになりました。
そして種籾が、みんなで発芽しようと精一杯の力で静かに頑張っている様に感じて、生命力を感じたし、自分も力が湧いて来るようでした。
■播種当日へ
見回りの後半は、種籾のネットの入れ替えだけではなく、発芽の様子も見ながらの見回りです。
わずかに芽と根が出た「はと胸状態」になるのがベストの状態と言われています。
芽が出すぎると、種まきの時に芽が折れてしまうので、出すぎないように、種籾をお湯から上げるタイミングが重要です。
主にまえちゃんが、お湯から上げるタイミングを見てくれていたのですが、全体の八割が、はと胸状態になったところでお湯から上げます。お湯から上げた後も、予熱で芽が出るので、それを見越して、最後のほうは、三十分~四十五分の間隔で状態を見て、見極めなければいけません。
まえちゃんが終始、種籾の状態を気にかけて、緊張しているのを側で感じて、まえちゃんと同じ緊張感で作業を進めたいと思ったし、まえちゃんのように先を見越して、心で感じて、種籾の状態を見極められるようになりたいと思いました。
播種の前日、夕方十六時に、紫黒米の種籾を上げ、今年の芽出しが終わりました。
「どうか上手に発芽して、芽が揃いますように……」そして、「きっと上手くいくはず」祈るような想いで、播種に向かいました。
そして、芽出しをしている間も、みんながグラウンドの整地や、焼土詰めをしたトレーを約九百六十枚、用意してくれていて、翌日の播種に向けての準備が着々と進んでいきました。
今年から、私たちが作る田んぼが六枚増えて、稲作の面積がおよそ四町六反になります。忙しくなりそうな予感がするけれど、家族みんなで準備をして、家族みんなでお米を作る。そのことがとても嬉しいし、みんなの笑顔が溢れるお米作りがしたい。そんな気持ちになりました。
なのはなの大イベントの一つである「播種」。
「エイエイオー」のかけ声と共に、今年の播種が始まりました。
私は、播種機についてくれる、あゆちゃんにトレーを渡したり、種籾を運んで準備をする役割を、なるちゃんと一緒に担当しました。
事前に、あゆちゃんと、なるちゃんと段取りをして、品種毎に、必要なトレーの枚数と種籾の総量が一致するよう進めるため、大体の見当をつけておきました。
例えばミルキークイーンだと、全体を九分割した種籾の量を、七十五~八十枚のトレーに撒く。といった割合です。
トレーの数が足りないということが起こらないように、数の把握や、播種機についているあゆちゃんに、進捗を伝えることも、私たちの大切な役割だと思って、前日から、とても緊張していました。
「どうか、播種がスムーズにいきますように……」そして、「あゆちゃんとなるちゃん、みんながいるから大丈夫」再び祈るような想いで播種に向かいました。
播種が始まると、ノンストップです。
なるちゃんと一緒に、焼土が入ったトレーをあゆちゃんに渡していきます。
■良い苗のために
均等に詰めた焼土が揺れてずれたりすると、上手く種籾が育たないので、慎重に、丁寧に運ぶことを意識しました。
以前お母さんが、赤ちゃんを抱っこするように、トレーを運んだら良いよ。と教えてくれたことを思い出し、優しく、そーっとトレーを運びました。
播種機の周りでは、あゆちゃんが、播種機の水の量、種籾の量、覆土の量を調整してくれていて、さやねちゃんが、覆土である焼土の補充をしてくれていました。
一枚一枚、慎重に、丁寧に、集中して作業をしている、あゆちゃんのそばにいさせてもらって、自分もその真剣な空気でずっといられたし、さやねちゃんが、静かに周りを見て動いてくれる優しさに、安心して進めることが出来ました。
作業を進めている最中も、あゆちゃんの頭の中はずっと、トレーの数と種籾の量の計算がされていたのではないかと思いました。
ずっと同じ姿勢で播種機についているあゆちゃんの集中力が凄いと思いました。
ほんの少しだけ芽を出した種籾が、焼土のベットに撒かれていきます。
播種機から出てきたそのトレーを、みんながグラウンドに、慎重に運んでくれています。
みんなが種籾を大切に運んでいる姿や笑顔に、嬉しい気持ちを沢山もらいました。
この日のために、まえちゃんたちと一緒に、比重選をし、芽出しをした種籾が、みんなが焼土を入れて、準備してくれたトレーに撒かれて、一人ひとりの手によって、グラウンドに運ばれていく。
役割分担があっても、その全てが繋がって初めて播種が成立するということを改めて感じたし、みんながいるから、この大きなスケールの播種も出来るんだな、ということを感じました。
今年はトレーの量が多いので、あゆちゃんが播種機のギアを上げてくれて、例年の一・六倍のスピードで播種機が動いていました。
そのお陰で、予定よりもおよそ二時間早く終えることが出来ました。
最初は、上手くいくかという緊張感で一杯でしたが、播種が終わった後は、達成感と嬉しい気持ちで一杯になりました。
播種機の仕事が一段落したとき、私は、播種作業が始まって初めて、グラウンドへ行きました。
播種機の動きが終わったと同時くらいに、消毒もミラシートかけも終わっていました。
みんなの、奇麗で速い仕事が凄いと思ったし、ピンと貼られたミラシートのトンネルが一面に並んだ美しい光景に、心が満たされました。
それぞれの場所で、それぞれの役割を、精一杯に果たしたという気持ちがしたし、そんな仲間と播種を出来たことが、誇らしかったです。
播種の三日後から、まえちゃんたちと一緒に苗の見回りをはじめました。
はと胸状態だった種籾が、一センチ、一センチと全力で生長していく姿がとても力強かったし、稲の苗の生長を見ることが出来て、とても嬉しかったです。
播種から二週間。
稲の苗が、四センチ程に伸びたところで、ミラシートを外し、水やりをしました。
苗も揃っていて、今までの行程での緊張感や不安が、全て、安心感と嬉しさに変わっていました。
これから田植えまで、みんなで水やりをして、みんなで稲の苗の生長を見ることが出来ると思うと、とても嬉しかったです。
苗の生長を見守る一方で、代掻きと田植えまでの期間に、田んぼの草刈り、草燃やし、溝切りを進めなければいけません。
私は、諏訪田んぼ方面の担当を、なるちゃん、かにちゃんとしているのですが、三人で相談して、計画を立てて、できる限りのことを進めようと思いました。
日中に、かにちゃんが草刈り、草もやしをしてくれて、夕方に、なるちゃんと私で、溝切りを進めました。
今までやりたかった所の溝切りを、最低限ですがやることができて、今年の田んぼの状態が良くなったらいいなと思います。
■田んぼに映る夕焼け
目指すは、「水持ちが良くて、水はけの良い田んぼ」。
これからのなのはなの田んぼ、次に続く人たちのためにも、時間を掛けて、良い田んぼにしていきたいです。
夕方の溝切りの後の私の楽しみは、なるちゃんと一緒に夕焼けを見ることでした。
ピンク色に染まった空が、水の入った田んぼに映る景色。その景色が本当に綺麗で、心が洗われる想いでした。
私は、静かな諏訪の田んぼがとても好きです。そこにいるだけで、心穏やかに静かな気持ちになれるのです。
諏訪方面の代掻きや田植えは、永禮さんが来てくれて進めて下さいます。
代掻きのための水入れが上手くいくか、水漏れはしていないかなど、気になること、心配なことはあるけれど、それ以上に、みんなでやるお米作りには、嬉しいこと、楽しいこと、得られることが沢山あると思います。
きっと自分自身の成長にも繋がっていくと思います。
なのはなで、盛男おじいちゃんが教えてくれたお米作りを、一からみんなで出来ること。
そのことが本当に有り難いことだし、財産だと思い、大切にしたいです。
代掻きが終わると、いよいよ田植えです。
みんなの笑顔が溢れるお米作りをしたいです。