【5月号⑦】「春の桃畑」 あんな

 

 なのはなファミリーの桃の花が咲き始めたのは、3月31日でした。開墾26アールの白皇や、はなよめの樹に、数輪、咲いているのを見つけました。そこから日増しに増えていき、4月6日頃には、辺り1帯の桃畑が満開近くなり、優しいピンク色に包まれました。もったいないほど綺麗でした。

 前年は、4月2日頃にはほとんどの桃が満開でした。近年は開花が早まることが多かったのですが、今年は3月に雨の日が多かったせいか、そこまで開花が早いという感じはしませんでした。
 私は桃が咲き始めるのを、緊張とともに待ち構えていました。花が開いたら、人工授粉や霜対策が始まるからです。

 

 

■花粉の採取

 人工授粉のために、摘蕾のときから準備をしていました。
 人工授粉が必要な、おかやま夢白桃は、桃の品種の中でも開花が早いほうなので、同じように開花が早めのはなよめという品種から花粉を集めることにして、はなよめは摘蕾をしないで残しておきました。

 人工授粉が必要な樹は、なのはなファミリーに全部で15本あり、できる最大限で集めなければ足りないと思いました。これはタイミングを逃すことのできない大事な作業のため気合を入れて臨みました。4月1日~8日まで、雨のとき以外、毎日、何人かで蕾を摘んでは、花粉を集めました。

 蕾が開花寸前まで膨らんだ頃が、花粉の採り頃です。蕾が小さいとまだ花粉が未熟のため、開花寸前になったものだけ採っていきます。摘蕾をしなかった枝にはみっしり蕾がついていますが、大きな蕾が徐々に摘蕾されていくのが、何とも言えず、心地よい感覚です。

 採った蕾は、採葯機という、葯とそれ以外の部分とに分離する機械にかけて、葯を紙の上に広げて開葯させて、缶に保管しておきます。この工程を毎日繰り返しました。この工程の副産物として、採葯機にかけたあとの花屑が出るのですが、この香りが極楽を感じるような香りなので、ぜひ多くの人と共有できたらと思いました。広げた紙の上で葯が赤から黄色に色が変化していく様子や、極楽の香りを、みんなに見たり感じてもらえるように、一緒に作業した人と、貼り紙をして、みんなにも集合のときに伝えて、何人かとでも共有できたことが嬉しかったです。

 

採取した花を、採葯機にかける様子

 

■きちんと受粉しますよう

 さて人工授粉ですが、そのように集めた花粉を、花粉を持っていない品種のめしべにつけていく作業です。花粉に、ピンク色の石松子という増量剤を混ぜ、梵天というふわふわしたものにつけて、ちょん、ちょん、と付けていく作業です。

 花粉を持っていない品種の葯は、白っぽくて、中身に花粉が入っていないのが判ります。

 開花している期間は、ミツバチが蜜を集めながら、花から花へ花粉を運んでくれたり、風が運んでくれたりもするのですが、人の手で授粉するのが一番確実です。

 特に、開花期間に、天気が崩れがちになると、授粉がうまくいかなくて結実率が落ちることがあるので、普段以上に、天気や気温に気を配りました。予想通り、おかやま夢白桃から開花してきましたが、同じおかやま夢白桃でも、特に日当たりが良い山桃畑が最も開花が早く、危うくタイミングを逃すところでした。

 

 

 毎日、各畑、各品種の開花状況をチェックして、タイミングを逃さず効果的に受粉できるように心がけました。
 品種はおかやま夢白桃、浅間白桃、川中島白桃の3品種、畑が5か所に分かれていて、それぞれの品種ごとに、また同じ品種でも畑ごとに、開花のタイミングが違います。また、その日に授粉できる作業時間も限られているため、すべての畑を回ることができないので、いつ、どの畑の、どの品種の何回目の授粉をするか、開花のタイミングと天気の様子も組み合わせて考える必要があり、そのことで頭がいっぱいになりすぎたので、紙に書いて整理しました。

 4月5日~4月10日で、それぞれの樹に2回ないし3回、行いました。
 実際の授粉作業は6人ほどのメンバーで、枝ごとに分担して進めていきました。
初めて行うメンバーも、興味深く聞いてくれて、一緒に共有できて嬉しかったし、それぞれがきちんと受粉しますように、という祈るような気持ちで真剣に誠実に作業している空気があり、良い作業ができたと思います。

 

 

 3月に続き、4月も雨が多い予想が出ていましたが、この期間は天気にも恵まれて、ありがたかったです。
 連日、緊張度が高かったですが、全体的に、良いタイミングできっちり授粉できたと思います。
 霜対策をすることになるんじゃないかと予想していたのですが、開花してから、花や幼果にダメージがあるほどの低温になることがなく、一度もせずに済みました。このような年は珍しいです。

 霜対策が必要なさそうだったので、今年は摘果を早めにスタートすることができました。
 前年は、摘果が遅れたことで生育に影響が出てしまった品種が幾つかあり、その反省を踏まえて、4月15日から、加納岩白桃や、白鳳の1回目の摘果を進めました。
 そのときの実の大きさは5~7ミリで、これほど早い時期から始めたことはなく、とても良い滑り出しだと思います。

 しかし気温が高いせいか、満開後の日数のわりに、実の生育が早まっているのを感じていて、あっという間に実の大きさは1センチを超えました。遅れないように作業を進めていきたいです。

 また、気温が高くなると、病害虫との戦いも本格的になるので、桃の実を守れるように気にかけて対策していきたいです。
 健やかに、健気にすくすく育っていく実に、心が静かに癒されるような感覚になります。