【4月号⑱】「蘭の花に無心に向かうとき ―― 展覧会へ向けて、作品作り ――」 りんね

 木版画教室では、藤井先生はじめ4人の作家さんが5月24日から開かれる展覧会へ、私たちも作品を出展させていただくという目標で、作品作りを進めています。

 

 

■作品作り

 題材を見つけて、写真を撮るところから、彫った板を刷るところまで。下絵を作り、板へ絵を写して、彫って……と木版画の作品作りは、工程が多いです。
 木曜日の夜、週に1回の版画教室の時間に進めていて、1か月ごとに下絵完成、彫り完成、という目標があります。

 私は下絵までは、ギリギリ目標に間に合ったものの、そこからの道のりが、予想以上に長かったです。
 今回の作品は、藤井先生と相談させていただき、基本は白黒ですが、中間の薄墨色を配して濃淡の変化をつけることになり、墨版、薄墨、さらに薄い墨、の3枚の板を彫ることになりました。
 蘭の花を題材にしていて、輪郭、そして背景を黒でくっきりとさせ、葉は薄墨で色を付けて、花の影になるところは、さらに薄い墨を入れます。

 下絵を描いたときには、味わいがある絵になったことを感じましたが、これが版画になると、どうなっていくか。少し緊張もするけれど、ワクワクします。
 下絵を3枚に分けて、慎重にトレーシングペーパーに写していき、それをさらにカーボン紙で板に写しました。
 刷るときに板ごとの色を重ねていくため、3枚が狂いなく重ならなければなりません。特に、紙をコツンと当ててずれないようにする『見当』や、枠の線を書くときは、息を潜めて、集中して書きました。

 やっと3枚を写し終わると、メインになる墨版は鉛筆の細い線の上から、筆で描いていきました。筆で描くと、下絵と全く同じようには描けないのですが、その一筆ならではの味わいが出ることを感じました。
 後は、背景を黒に塗って、板に絵をしっかりつけてから、彫りに入る予定です。
 まだ彫り前の段階ですが、板に絵を描いていると、時間を忘れるほど、無心になりました。

 お客様玄関に活けられた蘭の花に一目ぼれをしてから、今に至ります。
 そんなこともあって、作品には愛着を感じるし、作品に向かっている時間が本当に楽しいです。
 さて、今月の残りはあと1週。彫り終えることはできないだろうけれど、少しでも彫りを進められるように、頑張りたいです。

 

 

■ハンドクリーム

 版画教室では、藤井先生がいろいろなお話をしてくださいます。藤井先生は、お家でブドウやイチジク、ブルーべリー、柿などの果樹や、フキやウドなどの山菜、野菜など、たくさんの作物を栽培されています。そして、とりわけ嬉しそうにお話してくださるのが、日本ミツバチを育てていること。

 山の中に巣箱をいくつか設置して、日本ミツバチも育てているそう。デリケートな時期でなければ、近づいてもまず刺されないというくらい、穏やかで、いつまで見ていても飽きないのだと、教えてくださいました。

 その、ミツバチの蜜から採った『蜜蝋』、そしてオリーブオイルと香料で、藤井先生が手作りをされたというハンドクリームを、なのはなのみんなへ持ってきてくださいました。なんて貴重なハンドクリームなのだろう、と思います。

 

 

 香りも、『スイートオレンジ』『グレープフルーツ』『ベルガモット』の3種類ありました。少量手に取るだけでも、掌全体にすっと馴染んでしっとりとして、藤井先生の温かな心遣いを感じて、本当にありがたいなと思いました。

 みんなが作品作りをしている隣で、藤井先生が、新しく版画教室に入ったメンバーのはんこを彫ってくださっています。

 名前のはじめの漢字を、篆書体で石に彫ってくださり、味わい深いはんこを、一人ひとりに作ってくださっていて、本当に嬉しいなと思いました。篆書体は、日常では目にする機会があまりなくて、完成したはんこを見させていただくと、「この字がこんな書体になるんだ」、と新たな驚きがありました。初めて見る字に、新しい名前を貰ったような嬉しさがあることを、感じました。

 

 

■展覧会へ向けて

 版画教室のメンバーは、板に絵をつける工程や、彫りの工程に入っています。それぞれが版画でどう表現をしていくか、悩みながら、藤井先生にアドバイスをいただきながら、着実に進められています。5月中旬までには作品を完成させたいところ。
 きっとあっという間に展覧会の日がやってくるだろうと感じます。焦るわけではないけれど、ちゃんと作品を仕上げられるように、1回1回の教室を、集中して向かって行きたいと思いました。