【4月号⑮】「我ら、ホッコリーズ作 真っ白い恋人、手作り塩糀」 ゆきな

 

 なのはなの子に、「『モッチー』って知ってる?」と聞いたら「塩糀だよね!」と返ってくるかもしれません。味噌作り第4弾の『ホッコリーズ』チームは、お味噌と塩糀用の糀を作りました(このチームはほっこりしているメンバーが多いからと、ほのかちゃんが名付けてくれました)。

 そのモッチーというのは、塩糀になった糀の名前。糀作りから塩糀完成までの約3週間、チームのみんなで見守ってきた時間は、ほっこり温かくて、みんなで集まればどんなときも優しい穏やかな気持ちになれました。

 糀の名前はモッチーとパラ夫。なんでこの名前にしたかというと、理由があります。糀菌を繁殖させるお米を蒸す、蒸米の作業をしたときのこと。

 蒸籠のセットの仕方に不都合があったために、水分を多めに含んだもちもちしたお米と、芯は残っていないけど外が固めのパラッとしたお米になってしまったからです。そこで、もちっとしたお米を『モッチー』、パラッとしたお米を『パラ夫』と名付けました。

 

 

■糀のお母さん

 お米は柔らかくしすぎないほうが糀菌が繁殖しやすい、といわれているので、メンバーのみんなで、元気な糀になっておくれ! と願いながらのスタートでした。

 糀を見回りに行った3日間は、時間が経つごとに糀への愛着が強くなりました。
 糀の家である(糀を育てている)育苗機の外側には毛布がかけてあるのですが、毛布越しにも、糀菌が繁殖するために出している熱が温かく伝わります。そのことを感じるだけで、気持ちが穏やかに優しくなりました。
 今、ここで糀たちが頑張っているのだな、と思いながら見回りをするのは、糀のお母さんになった気持ちでした。

 立派な糀になるためには、いくつかの工程があります。お米を研いで、蒸米、種付け。それから、引き込み、切り返し、盛り込み、一番手入れ、2番手入れ、最後の仕舞仕事があります。

 

■真っ白い

 種付けから1日経つと、糀に大きく変化があります。糀菌の粉末は抹茶色で、その色が初めの手入れである引き込みのときはまだ残っているのですが、切り返しや盛り込みになるとその色はなくなって、その代わりに、真っ白としたふわふわの菌糸が伸び始めています。糀箱の中は雪景色と言いたくなるぐらいです。

 切り返しや、盛り込みのときは、お米の蒸し加減が繁殖にどう違いが出るのか緊張しました。パラ夫はしっかり繁殖している。モッチーは大丈夫だろうか……。そう心配しながら、糀にかかっている布巾をゆっくりはぐってみます。「あ〜! 真っ白い! 良かったぁ」どちらも白い菌糸が伸びていて、糀の様子に安心しました。

 触った感じはやっぱり、モッチーのほうがモチモチしているのですが、見た目は同じくらい菌糸が繁殖していて、真っ白でフワフワでした。
 1粒を取り出してよく見ると、やはりパラ夫のほうが米の中まで菌糸が食い込んでいる範囲が広いのですが、モッチーは少し少なめです。どちらも問題なくしっかりと一人前の糀になったのですが、こういう違いも見ることができて嬉しかったです。

 糀が完成したときは、1粒ずついただきました。糀ってどんな味だろうか……あっ甘い! お米とは違う、栗に近いやさしい甘さです。糀だけを食べたことがなかったので、その上品な甘さに驚きでした。

 

 

■糀と塩と水

 さて、無事に糀となったパラ夫はお味噌に使われ、モッチーは塩糀へと、それぞれの道に分かれます。なのはなでは塩糀もみんなで作っているのです。塩糀は、何から作られているか? 
 材料はとてもシンプルで、糀と塩と水。たったそれだけで、幅広く使える調味料になるとは驚きです。

 糀と塩をしっかり混ぜ合わせて、タッパーに入れたら、水をひたひたになるくらい入れます。そしてそのあとは、2週間、1日1回混ぜたら完成です。完成したときは、バナナの香りがするそうです。糀から、バナナの香りというのが意外でした。 

 私は水曜日と土曜日に、しなこちゃんとペアで塩糀の見回りに行きました。
 6年生教室の扉を開ければ、塩糀になろうとしているモッチーが待っています。ひろこちゃんが貼ってくれたのか、タッパーには『真っ白い恋人 塩糀のモッチー』と書いたラベルが貼られていました。
 ラベルを見る度に嬉しくなって、このモッチーは幸せな糀だなと思います。

 

 

 初めの週はまだ、栗に似た糀の甘い香りがしました。混ぜていても、糀と水という感じでした。この週は、しなこちゃんと、「香りはあまり変化がないね」と話していました。

 2週目になってから、香りに変化がありました。
 ちょっとチーズに似たような、香ばしい香りです。香りだけでご飯が食べられそうだね、としなこちゃんと笑い合いました。

 状態にも変化がありました。初めはお米の粒はしっかり残っていて、水の色が白っぽくなっていたのですが、最後のほうはお米の形も初めよりは小さくなって、全体的にトロッとしてきました。糀はまだまだ発酵が進んでいて、本当にエネルギーが凄いと感じました。

 日曜日は特別で、メンバーみんなでの見回りの日でした。タッパーは2つあるのですが、2人が代表して同時に蓋を開けて、様子や香りを見回り表に書いていきました。
 いつもそこには笑顔や、塩糀作りを楽しんで好きでいる気持ちがあって、この時間は1週間のなかで好きな時間の1つでした。

 以前、ゆりかちゃんが、「糀には耳があるんだよ。みんなの話す声を聞いているんだ」と話してくれました。
 きっと、この糀のモッチーは、なのはなみんなの嬉しさも、あたたかさも、たくさん吸収しているのだろうなと思いました。

 そして2週間後に、モッチーは立派な塩糀になりました。それは、台所で使えるように、煮沸消毒した瓶に入れていきました。タッパーの蓋を開けてみると、フワッと甘い香りがします。
 ほのかちゃんが、「バナナの香りがします!」と話してくれて、驚いたのですが、これは、バナナの香り! 意外にもバナナに似た甘い香りがしていて、塩糀の香りの変化が面白かったです。

 


 

 塩糀は少しとろみがあって、ミルクのように白く綺麗でした。ジャムが入るような高さ10センチほどの小さめな瓶にいれると、可愛らしく思いました。それに3週間も糀を見てきたからか、(ああ、やっと糀たちが一人前の塩糀になったんだ)と、ほっと安心しました。

 糀とホッコリーズのメンバーと一緒に過ごせた時間は、嬉しくて幸せでした。塩糀が使われる度に、このことを思い出すのだろうと思うと、なんだか贅沢に感じます。
 この塩糀は早速、キャベツの塩糀漬けや、鶏の照り焼きにも使われて、「モッチーが出ていて嬉しい」と話してくれる子もいて、そのことが嬉しかったです。
 鶏肉の照り焼きに使われたときは、お肉がしっかり柔らかくなっていて、塩糀のパワーが本当に凄いなと感じました。

 糀と過ごした3週間は、ほっこり心温まる時間でした。
 この塩糀がいろんな料理に使われて、きっとみんなを笑顔にしてくれるのだろうな、と思います。