池上桃畑にひっそりと植わっているポポーの木。ポポーを増やすべく、これまで収穫した実から種を採り、種まきをし、実生苗を育てていました。けれど、ポポーは、幼木期の生育がかなり遅いようで、実が生る成木に育てるには、途方もないような年月がかかります。
どうしたらいいのか……考えて、行きついた先は、『取り木』という方法でした。接ぎ木、挿し木、などという増やし方は、よく耳にするし、知っている人も多いと思います。けれど、取り木、は私は聞いたことも見たこともなく、幻のような作業だと思いました。けれど、取り木を調べれば調べるほど、なんて夢のようなやり方なんだろう! と思いました。
■根を生やして
取り木は、枝の一部分から根を生やし、発根した枝を木から切り離して苗を作る方法です。取り木にも、高取法、圧条法、盛土法など、たくさんのパターンがあるのですが、どれも、枝を切り取ることなく根を発生させて、増やすことが出来ることで共通しています。そういった点が、本当に凄いと思いました。
ポポーの木は、挿し木で増やすことができません。そのため、切断してから根を生やすのではなく、樹で、栄養分が吸収できる状態で、根を生やして、苗を作る取り木は、ポポーを増やすのに、合っている方法です。
また、もう1つ、取り木の利点があって、それは、種から育てるよりも、木の成長にかかる年月を短縮できるという点です。
種から育てると、幼木期を経て、時間をかけて成木になり、収穫まで5〜6年かかるとされています。しかし、取り木は、成木が十分に伸ばした枝から発根させ、株を増やすことになるので、収穫までの時間短縮を図れるというわけです。成木になるまでに時間がかかってしまう、という実生苗の欠点までカバーされていて、これが成功したら、可能性が無限大に広がるような気がしました。
■生存する為のシステム
たくさんの方法がある中で、高取法を選びました。始めてする方法だったので、少し緊張していたのですが、お父さんが最初に見本を見せて下さりました。
まず最初に、接ぎ木ナイフを使って、発根させたい部分の樹皮を、幅2,3センチにくるっと帯状に剥ぎます。そして、その傷口を覆うように、約1日水に浸して戻したミズゴケを巻きます。最後に、ミズゴケが乾燥しないよう、遮光性のあるビニールで包んで、両端を紐でギュッと縛って完了です。
工程は少なく、とてもシンプルでした。これで本当に根が出るのかな、と不安になるぐらい簡単な作業でした。根が出る仕組みを調べたところ、くるっと剥いだところは、形成層、という部分のようです。
形成層は、樹が栄養分を送る大切な役割をしている、導管や篩管を区切っている大切な役割をしていて、その形成層が傷つけられることで、根の元になる組織が作られるようです。
樹は誰に教えてもらわなくても、生存するのに必要なシステムを備えているのだなあと思って、その一部分を垣間見たような気持ちになりました。ナイフで樹皮を剥いでいると、確かに黄緑色の繊維質の層がありました。
細かな繊維が縦横無尽に張り巡らされていて、この管が、こんなに大きな樹を生存させるための水や養分を送っているのだと思うと、信じられないぐらい神秘的に感じました。
一緒に作業していた、りんねちゃんと、つばめちゃんと一緒に、黙々と取り木を仕掛けていくのが、とても楽しかったです。最初は、接ぎ木ナイフを使って皮を剥ぐことがとても難しかったけれど、最終的にはスムーズに出来るようになりました。枝にナイフの刃をぐっと入れて、くるっと1周させます。
幅をとってもう1周切れ込みを入れ、切れ込みと切れ込みの間に刃を入れると、気持ちよくぺりっと剥けました。彫刻をしているようで、楽しかったです。ビニールでくるんで両端を縛ると、形がキャンディーのようになりました。木の至る所に、キャンディーが付いているような見た目になって、とても可愛くなりました。
全部で23か所、仕掛けることが出来ました。1、2か月後ぐらいに根が出る予定です。成功する、という保証も、前例もないけれど、上手くいってくれたらいいなあと思うし、根がちゃんと出てくれるように願っていたいなと思いました。
*ブドウ棚をリニューアルしました!*