12月24日のなのはな
2023年ウィンターコンサート【後半】
自らの命を守るため、生き延びるために、やむを得ず悪魔と契約し、ついに魔女になってしまった洋子たち。
彼女たちが進んでいく運命はこれからどうなってしまうのか。
第2部の幕が上がる。
(後半は、洋子役 やよいが記事を担当します)
〇オーガスタス・グループ
後半はじめの一曲は、非日常たっぷりの世界観、『オーガスタス・グループ』でお客さんを再び物語の世界へと誘います。
わたしたちにとって、ほとんど全員で参加したこのビッグバンド演奏の一曲は本当に思い出深い一曲です。
あゆちゃんとみんなと音楽室や体育館で何度も練習してきて、あゆちゃんがいつも教えてくれる言葉から、たくさんの楽器で演奏し、みんなと音楽を作ることの楽しさを、今まで以上に深く感じました。
あゆちゃんが教えてくれたことから強く感じたことは、技術よりもなによりも、大切なのはイメージ、理想。
それをいかに膨らまして、彩り豊かに持つかということ。目には見えないのだけれど、音という手段で、その理想をみんなとお客さんとの間で現実のものにすること。
出だしからみんなとイケイケのおじさんになって、自分たちで分担する音に、こうしたい! 私が吹く音はこうでなくっちゃ! という強いこだわりを持って、吹きました。
私が担当させてもらったトロンボーンパートでは、一つの曲の中でも、劇が場面転換していくように、様々な人格へと変わります。
はじめはイケイケのおじさんになって強いこだわりを持った人で登場して、次はまるでセリフの話すかのように音に意味を持たせて、主人公をもてあそぶように怪しい人に、かと思ったらそのあとはどっしりでっぷりとした音を存在感強く出して吹いて、次の章では遊び心を持って高い音を軽快に丸く弾むような楽しげに吹く。
一つの曲のなかでも様々な人格が登場します。
それにあわせてパートのみんなと演じ分けるように吹きかえていくのがとても楽しかったし、いつもみんなの前で指揮をとってくれるあゆちゃんが、ここのパートはこの人たちが主人公だ、引き立たすパートだ、というところでそこに指揮棒と目線を向けてくれて、いつも、眩しいくらいキラキラとした表情を向けてくれました。あゆちゃんの指揮の動きには、あゆちゃんがみんなに伝えてくれたイメージや理想が表されていて、その動きとか表情に胸がいっぱいになりました。一緒に奏でている、一体となっていると感じました。
本番は気づいたら、自然と隣で並んでいたトロンボーンパートのみんなが同じパートで同じように楽器を揺らしたり、身体でリズムをとっていて、そのことも一体感があって嬉しかったなと思います。
自分から離れて『オーガスタス・グループ』の、非日常なごちゃごちゃとした世界観をみんなと面白おかしく表現する、それは楽器を演奏するというよりは、なにかを演じているようで、ああ楽しかった、と感じた瞬間でした。
〇魔女会議/ピエロ強盗
魔女になってからはじめて参加する魔女会議。
もらった絵はがきサイズの案内状には、
「魔女の集まりがあります。場所は宝石・高級喫茶と高級腕時計の店」
と書かれているのだけれど、現実の町で本当にそんな魔女の集会のようなものが行われているのだろうか。
ハリーポッターがはじめて入学するホグワーツに行くときの実感のなさや緊張のような気持ちを抱きながら、なれない魔女の箒にまたがって、案内状に書かれていた喫茶店に到着。
お出迎えをしてくれたネコについていくと、そこには本当に魔女たちの姿があってびっくり。
そして、一番奥の真ん中に立っている、とても綺麗で魅惑的な、まさにお姉様と言ってしまいそうな風貌の魔女に、洋子は少し目を奪われます。
その魔女を中心に、魔女の先輩方に取り囲まれながら、
「1つ、魔女は世間の人に魔女と知られてはならない」
と魔女のしきたりを教えてもらい、全員で反復するのでした。
と、そんなとき、ガラスを割る音が店内に響きました。
おまえたち静かにしろ!
俺たちは、あーの有名なピエロ強盗だ!!
そう言って、バールを持った3人のピエロ姿の強盗が店内に勢いよく入ってきました。
はじめの魔女会議に、偶然にも襲って来た強盗たちに、洋子は頭がパニック状態。
一体どうなってしまうの?! と身体が動かない状態に。
「バールのようなもの」が目に入らないか! という問いに対して、中心になっていた魔女の一人は、それはバールに見える、と、それまでと変わらず平然と答えるのでした。
洋子たちとは対象的に、まったく動じない魔女の姿……。
そんな動じない魔女の姿に、若干たじろいだピエロたちは、そのあともショーケースを勢いよく割ったり、ローレックスの腕時計を出すんだ、と脅しを続けます。
次の瞬間、しびれをきらしたように、魔女が声を上げます。
お前たちうるさいぞ。私たちを誰だと思ってるんだ!!
天下の命知らず、私こそ、あの魔女様だああああ!!!
さっき反復した魔女のしきたりの一つめを、思いっきり破る魔女の姿に、心のなかで強いツッコミを入れながらも、頭がますます混乱する洋子。
しかし、混乱はそれだけでは終わらない。
私の機関銃を受けてみろ。
そういうと、魔女を箒を両手で抱え、上から胸元へとおろし、
次の瞬間。
ダダダダダダダダッ。
機関銃の大きな音が鳴り響きます。
その音の大きさに思わず耳を手でふさがずにはいられない洋子、カオル、ライス。
いったい何が起きたの?! 機関銃!? 持ってたっけ? ……ダダダダッて。驚愕する新人3人。
ほうきにしか見えなかったものから、確かに弾は飛んでいた。
ピエロたちも踊るように飛び上がり、うつぶせになります。
「お前たち、明日の朝、目が覚めたら驚くがいい。
私の邪魔をした罰として、600年前の時代までお前たちを飛ばしてやるよ」
決め台詞を残して、魔女たちはほうきにまたがり去っていくのでした。
混乱に混乱を極めた洋子たちも、魔女たちについていき、先輩魔女たちの真似をして、踵を返して去ります。
機関銃を撃ったゆきちゃん魔女も、野蛮なピエロ強盗を演じたりゅうさん、えつこちゃん、ちかちゃんも、お父さんのお誕生日会のチームで考え、登場したキャラクターでした。
そのはまりっぷりに、そのままコンサートの劇に採用されました。
〇ナチュラル
派手な事件が起きたあとに演奏する曲は『ナチュラル』。
魔女のリーダーゆきちゃんをイメージしながら、そして洋子たちが魔女として染まっていくダークで怪しい気持ちを、ヤマトをセンターに、どこまでも厳しく限界まで身体を使ったカッコいいダンスと、曲全体の雰囲気を増長させるコーラスとバンド演奏で表現します。
〇資産家
はじめての魔女会議にも参加して魔女としてデビューした洋子たちは、一体どんな魔法を使って、気持ちを逃がしているのだろうか。
洋子、カオル、ライスがたくらんだ魔法(遊び)とは……。
とある会場に、『みなさんの資産を100倍にする講演会』と書かれた、見るからに怪しい看板が。
会場に訪れた4人の資産家は、それぞれのスーツケースに現金1億円、ダイヤの宝石類や現金2億円と金のインゴットを入れて、スーツケースをさすりながら、100倍になったら1000億円ってことかしら?! と口々に自慢しあいます。
「本日は、資産100倍講演会にようこそ」と言った洋子は、講演会をはじめるまえにと、ジャケットから折りたたんだ封筒を取り出し、封筒からシャンパンのボトルを出す魔法を披露して見せて、そのシャンパンを資産家のグラスに注ぎ、資産家がごくごくと飲んでいるそのすきに、魔法をかけます。
放心状態となる資産家たち。
「みなさんが、お召しのコート、せっかくですから、最高級のミンクのコートに取り替えて差し上げます!!!」
そう言って、カオルとライスが資産家たちに着せにいったコートは、まぎれもなく新聞紙。
なんの疑いもなく喜んで新聞紙コートを着る資産家たちは、魔法にかかっているので、まったくそのおかしさに気付かないのでした。
ざわざわと、お客さんの笑い声が会場に響きます。
洋子たちのいたずら魔法は、まだまだ続きます。
ご来場記念に、みなさんのお好きなものなんでも差し上げましょう。
遠慮なく仰ってください。な・ん・で・も!
すると、資産家たちの限りのない欲にますます拍車がかかっていきます。
たまらず口を開いた資産家は、「わたし、ハワイに別荘が欲しい。でも、それはいただけないですよね……?」
と言ったその瞬間、パンパカパーンと効果音が会場に鳴り響きます。
「ちょうどハワイに超豪華別荘をご用意しておりました!」と洋子は、見た目がまさに超豪華別荘らしい鍵を資産家たちに見せて渡します。
鍵を開けてみると、目の前に超豪華別荘が本当に現れます。
様子を見ていた資産家たちも驚愕の表情。信じられないとばかりに集まってきます。
高級賃貸マンション一棟! 超高級車! と口々に叫びます。
パンパカパーン!!
超高級車の鍵でございます。
そういって洋子が超高級車の鍵を渡して鍵を開けてみると……
目の前には欲しかったロールスロイスが。
4人の資産家たちは、欲しい物を手に入れようとお互いを突き飛ばしあいます。
そんな欲のぶつけあいを派手にしている資産家たちを見て、洋子は言います。
「大丈夫です。心配いりませんよ。今から、空からお札が降ってきます。それは集めた分だけ、あ・な・た・の……ものです!! どうぞ好きなだけ集めてください」
表情と目の色が変わり、わなわなと震える資産家たち。
それでは、空から、お金……スタート!!!!
軽快なBGMとともに、カオルとライスが上からお金をばらまきます。
お札一枚一枚のものもあれば、札束になっているものも。
それが新聞紙とは気付かずに空から舞うお札(新聞紙)を狂ったように、資産家たちは拾い回ります。
その姿たるや…なんと滑稽なのでしょう。
BGMが止まると、ようやく仕掛けに気付きます。
「あれ、あたしのバッグがない!」
ひとりの資産家が気付きます。
あ、札束が!!! ただの新聞紙!!
え! え! え! え?!
ひとりずつ順番に気付いていきます。
あなた新聞紙を着ているわ。
そう、気付いたときにはもう洋子、カオル、ライスの姿はありません。
最高級のミンクのコートは新聞紙、札束もすべて新聞紙。
これは……魔女の仕業?!
そう資産家たちは叫びを上げるのでした。
このシーンが終わったあとに、会場から拍手が起こりました。
本当に劇を超えた一つのパフォーマンスのようなシーンだと感じました。
このシーンは実は、一番最後に増えたシーンだったのですが、お父さんの指導の元、資産家を演じたえつこちゃん、ふみちゃん、なるちゃん、ゆずちゃんの全力の演技は一緒にやっていて本当に面白かったです。
〇『カーム・ダウン』
可愛らしい曲調ではじまる『カーム・ダウン』のテーマは、「金貨」!
資産家のシーンのあとにぴったりな、ゴージャスでキラキラとした見た目のダンサーが舞うで、軽快で楽しい曲です。
曲のはじまりには、ステージにばらまかれたお札をお掃除するモップガールも登場。
フラダンスを踊る女の子役と、フラフープを持って踊る男の子役の2グループでダンスが構成されています。
テーマがコインというだけあって、男の子が持つフラフープも、キラキラとした金色の飾りがついていて、女の子の衣装もゴージャスな見た目です。
アップテンポで、いままでにないような手の動きがとても可愛らしいです。
〇ジャンヌ・ダルクに会いに行く
資産が100倍になる講演会を大成功させた洋子は、ブリンゲン島に行くと、ヤマトと遭遇します。
「ふーん。そんなふうに魔法を使っているんだ。どう、魔女になった感想は」
ヤマトはそう洋子に聞きます。
「お陰で、ほとんど生きる辛さが、なくなった。
でも、生きる希望っていうのか、夢も何も持てない感じ。
辛さがなくなれば、幸せを感じられると思ったけど、無理だった」
そう、洋子は行き止まりに来ていると気付いていました。
生きるために悪魔と契約し、魔女になったけれど、夢も希望も持てない、幸せを感じることもできない、結局、死なないだけ、生きているだけの状態になってしまった。
それはまさに、なのはなに来る前の私たちの姿そのものでした。
魔女になった私たちは、ここからどうやって生きていけばいいのか。
少なくとも、今のような苦しいままでいられるはずがない。
そんな葛藤を抱える洋子に対して、冷たい態度と言葉を向けるヤマト。
そんなとき、また地震が鳴り響きます。
この島に、何度も何度も、地震があって、気になるんだけど、どうしてこんなに地震が多いの?
今まで疑問に思っていながらも言葉にできていなかったことを、洋子はふと口にします。
「この島はもうすぐ、沈む、と思う。
この島は、世の中に助けが必要になると海の中から出てくる。
そして、魔女をたくさん作って、死にそうな子を依存に逃がして助けていく」
そう教えてくれたヤマトの言葉に洋子は今まで気付かなった重要なことに気付きました。
そうか、私たちは、この島のお陰で助かっていたんだ……。
そして、洋子はさらに疑問に思います。
「ヤマトは、魔女になっちゃダメだと、私に言った。
でも、私には選択肢はなかった。
私は死んだほうがよかったのか、魔女になってよかったのか、教えて」
「君が死んでいいとは思わない。
だけど、魔女になっていいとも思わない。
辛く生きてきた人は、ただ辛さから逃げたい一心で、
後先を考えずに魔女を志願してしまうんだ。
魔女になれば、生きられるかもしれないけど、
それはごまかしの生き方でしかない。本当の人生にはならないよ」
ヤマトのストレートな言葉は、まさに洋子のことそのものでした。
でも、洋子にはここからどうやって抜けだせばいいのか、答えが分からないのです。
じゃあ、どうすればいいの……。
ヤマトはその後も強い口調で続けます。
「悪魔に魂を売って魔女になってしまったら、利己的な生き方しかできなくなる」
洋子はその言葉にまたもやはっとさせられます。私は今まさに利己的な生き方をしてしまっているんだ。それは洋子の意思に反することでした。
――そんな人ばかりになったら、いつか世界は終わる。
世界が終わる?
衝撃的なヤマトの言葉に、洋子は驚きを隠すことができません。
魔女となってしまった私は、いつのまにか利己的な生き方しかできない、天使とは正反対の存在となってしまっていた。
「それなら、私、生きることよりも、死を選ぶわ」
洋子は思わずそう口にしてしまいました。
そんな洋子を、「君は魔女になってよかったんだよ」と諫める魔術師。
洋子はますます混乱します。
魔術師は言います。
魔術師の妹は、魔女になることを潔しとせず、人としてよりよく生きたいという葛藤の中で、亡くなってしまったのだと。
生き苦しさを抱えた人が魔女にならなければ、本当に死んでしまうというのは、まぎれもない事実なのだということを突きつけられます。
「まずは、生きる。それが大事だ。
悪魔の手下になってしまってもいいから生き延びるんだ。
この100年というもの、人間らしいゆとりや、思いやり、優しい関係をもつことから、大きく逸れてしまって、誰もが苦しく生きる時代になりつつある。
……むしろ、今となっては、世の中を救う存在が、魔女なのかもしれない」
魔女が、世の中を救う?!
洋子は思います。魔女となった自分が世の中を救うことができるのであれば、どんなことでもしたい。
自分は、自分の命なんて、ちっとも惜しいと思っていない、と。
そんな洋子の姿に、ヤマトと魔術師は、あることを思い出します。
そうだ、そうだよ……!
魔女が世の中を救ったことがあった、あった。
魔術師は、洋子をまじまじと見つめたかと思うと、
「君はどこかで会ったかと思っていたんだが……君はジャンヌ・ダルクの生まれ変わりかもしれない」
そう魔術師は洋子に言い放つと、ジャンヌ・ダルクは魔女となって、消滅しかけていたフランスを救ったのだと教えてくれます。
今から600年前、フランスはイングランド軍に攻め込まれ、フランスは連戦連敗、全土を失ってしまうと見られていた。
そんなとき、農家の生まれだった19歳のジャンヌ・ダルクは、なんとか国を救えないか、と悩んでいた。
自分の命など、顧みない勇気があった。
女性でありながら軍隊の先頭で指揮をとり、ついひフランスを守り切ったんだ。
はじめは曖昧なイメージで話を聞いていた洋子も、魔術師の話が進むに連れて、その情景と景色がどんどん明確に見えていきます。
自分と同じように魔女だったジャンヌ・ダルクは、そんなにすごい人だったんだ……!
見に行かないか? ジャンヌ・ダルクを!
洋子は希望をもった目で強く首を縦に降りました。
ジャンヌ・ダルクの生き様から、私が生きていく道を開く答えを見つけたい。
魔術師とヤマトと洋子らは、ジャンヌ・ダルクに会いに行くのでした。
◯天国への階段
アコースティックギターの音から悲しげにはじまり、ドラマチックに展開していき、壮大な世界観で、ジャンヌ・ダルクが生きた時代へといざないます。
なのはなのお父さんも学生時代に聞いていた大好きな曲で、きっと同じ世代の人で知らない人はいないのではないでしょうか。
この曲が大好きなお父さんは、曲の終わりの歌い方や、ギターの弾き方にも原曲通りにとこだわりを持って、指導してくださいました。
ジャンヌ・ダルク役のあけみちゃんをセンターに、天使の衣装を着てリボンをひらひらと舞わせて踊るダンサー、そしてその後ろにはフランスの村人の4人がクワやミツグワを降り下ろし、土地を耕しています。
壮大な1曲のなかで、ジャンヌ・ダルク、リボンを持った天使、そして村人と一つの物語が表現されています。
あけみちゃんが衣装として着ていた、ジャンヌ・ダルクの甲冑がステージの照明に照らされて輝きます。本格的に緻密に作られたこの甲冑は大竹さんが、あけみちゃんのサイズにあわせてオーダーメイドで作ってくださった甲冑です。
わたしは、体育館で通しをしているときから、ジャンヌ・ダルクとなって踊るあけみちゃんの表情にいつも心を突き動かされる思いでした。
穏やかにはじまりつつも、ラストでは命を燃やすような勇ましさで踊る姿、そしてその表情にいつも勇気をもらいました。あけみちゃんの踊る姿はジャンヌ・ダルクそのものでした。
そして、もう一つの注目すべき山場は、ヤマト役を演じたまえちゃんのギターソロ。難解なギターソロを滑らかに弾きこなし、魂に響くような、渋くカッコいいギターのメロディーが会場に鳴り響きます。
〇ジャンヌ・ダルク①
ここは、フランスのドンレミ村。
集会を開く村人たち。
いよいよ、フランスもおしまいだ。
もう戦争が始まって100年近くもたつが、このところフランス軍は、ずっとイングランド軍に負け続けている。
間もなくイングランド軍に滅ぼされてしまう。そろそろ、逃げ出す準備を始めたほうがいいかもしれない、と、戦争に負けて国を追われても仕方ないと諦めてしまっていた村人の4人。
その後ろで話を聞いていた一人の少女が声を上げます。
どうして、戦わないんですか?!
土地や国を奪われるままにしておかないで、どうして戦わないんですか?!
それなら、私が戦います。
私が戦場に行って、イングランド軍を追い出してみせる。
そう声をあげた彼女こそジャンヌ・ダルクでした。
女が軍隊で戦うなんて、聞いたことがない。
女が行っても、何の力にもなるもんか、と、農家の生まれの平凡な少女の言葉を村人たちは一言も相手にしません。
しかし、ジャンヌに村人たちの言葉はまったく関係ありませんでした。
ジャンヌの心は、何にも揺るがされないくらいに固く決まっていたのです。
ジャンヌは視線を定めてこう言います。
私、夢を見たの。
枕元に3人の聖人が立ったのよ。
聖マルグリット、聖カトリーヌ、大天使ミッシェルが現れて、フランスを救うのはあなただと、私に言った。
そして1人の青年が現れて、力を授ける、と言ったのよ。
私は、フランスを救ってみせる!
そう、ジャンヌには誰にも止めることのできない、明確なイメージがありありとありました。ジャンヌからしたら、そのイメージを見て、ただ話しているだけなのです。
フランスを、みんなを救うためなら、命なんて惜しくない。
びっくりして驚く村人たちに気付くこともなく、ジャンヌはこう宣言します。
私が、フランスを救います。
◯ザ・グレイテスト
私が、フランスを救います。と宣言したジャンヌ・ダルクに、ダンサーもコーラスも全員がなって、表現します。
『グレイテスト』は、今までのコンサートでも何回か演奏したことのある、みんなも大好きな曲です。
私は、コーラスメンバーとしてステージに立たせてもらったのですが、特にステージに出ていくときの出の練習を、あゆちゃんに見てもらいながら何度もみんなと練習したことが印象に残っています。
私が、フランスを救います、と言ったジャンヌ・ダルクに一人ひとりがなり、ちゃんとした大人の雰囲気でステージに出てくる、そうやってコーラスメンバーがステージの空気を固めるんだよ、と教えてもらって、みんなと練習したことで自分の気持ちも作られていきました。
〇ジャンヌ・ダルク②
シーンは、再び村人の集会へと戻ります。
ジャンヌ・ダルクが軍隊に加わってから、フランス軍は急に強くなり、負け知らずになったと語る村人たち。
いや、ジャンヌ・ダルクは軍隊に加わったんじゃない、
フランス軍を先頭で指揮しているんだ。指揮官になったんだ。
敵の手に落ちる寸前だったオルレアンを救ったと思ったら、ジャルジョーの闘いで勝ち、ロワールの闘いで勝ち、ボージャンシーでも。バテーでも、オセールでも――。
ジャンヌ・ダルクが行く所、敵なしだ。
そう興奮気味に語る村人の一人。
私は、ひろこちゃん、るりこちゃん、みつきちゃん、さくらちゃんたち演じる村人たちのシーンが大好きでした。
他のシーンでもそうですが、このシーンではとくに、台詞一つひとつに併せてジェスチャー的な動きがたくさん盛り込まれています。
そして、お父さんの指導の元、その動きにはどこまでもリアティーが追及されたものでした。
ジャルジョーやロワール、ボージャンシーといった地名にあわせて、みつきちゃんが手をつけて勢いにのって歩きながら台詞をいうのですが、手の高さや方向は、実際の地図に基づくように動いています。
通し練習をするたびに、気付くと台詞に合わせたリアクションや動きが新しく増えたりしているのです。4人のメンバーが毎晩のように集まり、練習していて、4人のメンバーがシーンの精度を上げていくとともに、お互いを励まし合い絆を深めている姿が印象的でした。私も、とっても暖かい気持ちになる、打たれ強く、絆の深い村人メンバーたちなのです。
私が、フランスを救います――
そうジャンヌ・ダルクが言った通りだ。
あの子は、フランスを本当に救ってくれるんだ。
なぜ、そんなにもジャンヌ・ダルクは強いのか。
村人の一人は言います。
勇気だよ。
首に矢を受けたり、投石機が当たって怪我をしても、第一線を離れなかった。
ジャンヌ・ダルクは先頭で指揮をとり、軍隊を励まし、軍隊の全員が彼女から勇気をもらっている。
いまじゃ、イングランド軍は、ジャンヌ・ダルクの軍隊が近づくと、戦わずに降参している。
強さの秘訣はそれだけはありませんでした。
村人は続けて言います。
ジャンヌ・ダルクの作戦もすごいらしい。
ジャンヌ・ダルクは頭がキレる。いつも勝ち筋を見つけるんだ。
将棋で言えば藤井聡太のように。
知恵と勇気は人を救う、というのを私はこの場面から感じました。
人のための勇気、人のための知恵というのは自分自身を強くさせ、周りの人を救うのだと思いました。
人は本来、そんな風に自分を使って生きていくべきなのだと思いました。そして、私もそういう生き方を日々実践していけるようにしていかなくてはいけないと感じました。
これで我々、農民の生活も、もう不安はない。
そう村人が言った喜びもつかの間。ジャンヌ・ダルクが敵の手におちた、という報せが村に届きます。
ジャンヌ・ダルクの活躍のお陰で、フランス王になったばかりのシャルル7世は、彼女を裏切り身代金を払わないと言っているらしい……。
彼女の評判があまりにも高すぎるから、自分の地位が脅かされると怖がっているんだ。
それだけじゃない。
ジャンヌ・ダルクは敵の手にありながら、魔女裁判にかけられることになった。
あまりにも強すぎる。魔女に違いないというんだ。
その言葉に村人の一人は驚きとショックを隠すことができません。
魔女裁判というのは、始まったときに判決が決まっているのです。
死刑の判決しか、出たことがない。
彼女は、死刑になってしまうんだ……。
その言葉に村人全員が凍りつきます。
◯ア・レヴァ
命を顧みることなく、勇気を持って戦ったジャンヌが死刑になってしまうという場面転換を、たったひとりのダンサーとバンド演奏とで緊張感を持って表現します。
フラダンスのリーダーであるゆりかちゃんが踊るステージは、一人であるにも関わらず、そのステージの世界観が色濃く作られ、緊張感を漂わせます。
〇ジャンヌと洋子の対話
おや、まあ。ジャンヌ・ダルクじゃないか。
火あぶりの刑だよ。これは死刑のなかでも、一番、つらい。
ジャンヌが処刑される様子を見に来たパラソル魔女と、あらまあ魔女。
世の中を変えようとか、新しい価値観を生み出そうという人は、いつもそういう運命になる。
古い価値観を持つ人たちから、消されてしまうんだよ。
私はパラソル魔女が言うこの台詞を聞くたびに、悲しくやるせない気持ちになりました。でも、だからこそ、私も周りを恐れず、新しい価値観を生み出していく側として生きていかなくてはいけないのだ、と強く思いました。
ジャンヌ・ダルクが十字架にはりつけになった姿を見守る魔術師、ヤマト、洋子、カオル、ライスたち。
死刑執行人は言います。
薪は少なめにしてある。
煙が少ないほうが、確実に死ぬところを見届けられるからだ。
ジャンヌ・ダルクが苦しむ姿を見せつけるのだ!
ジャンヌ・ダルク、何か最後にいうことはないか。
ジャンヌは残りわずかな命で小さくこう答えます。
「私の前に、十字架を立ててください」
ジャンヌは最後まで、神様への信仰心を強く持っていました。
十字架がジャンヌの前に立てられたあと、
洋子はジャンヌの前へと歩き出します。
スポットライトがジャンヌ・ダルクと洋子にあたり、ステージ上は2人のみの空間へとかわります。
もうジャンヌ・ダルクの魂は天国に昇りつつある状態で、限りある命の状態で、答えが返ってくるとは限らない。
そんな、死の間際に、自分の個人的なことを聞いていいのだろうか……
でも、それでも、許されるならば答えが欲しい。
洋子はおずおずと口を開きます。
「ジャンヌ・ダルクさん……。
私は生きるつらさに負けて、魔女になりました。
あなたは、辛さに負けず、戦う道を選びました。
そして勇敢に戦いました。そんな生き方を尊敬しています」
力を込めて言葉を繋ぎます。
「どうか、教えてください。
私も、魔女を捨てて戦おうと思います。
どうしたら、あなたのような勇気を持つことができますか?」
驚くことに、目の前に十字架にはりつけになっているジャンヌから答えが返ってきます。
「勇気を持つためには、……自分を捨てることです。
あなたと同じ苦しみを、同じように苦しんでいる人がたくさんいるのです。
その人たちが生きられる道を、
自分の手で伐り拓いていこうと、そう思うことなのです。
そのためには自分の身を投げ出しても構わない、
そんな志を立てたなら、
そのときから、あなた自信が救われることになるのです。
勇気をもって、自分を捨てて、時代を伐り拓いていく1人になってください」
死ぬ間際、最後の力をふり絞って、発せられた言葉に、洋子の目の前に一筋の強い光が差し込みます。自分が生きていく道を見つけることができたのです。
これは、なのはなファミリーで伝え続けている摂食障害のわたしたちが回復していくときの普遍的な答えでした。
魔女になったあとも、生き方に苦しんだ洋子は、ようやくこの出口のない迷路から抜け出す答えを、ジャンヌ・ダルクから教えてもらうことができました。
私は、いつも目線の先に、本当は見えねども、力をふり絞って伝えてくれる、あけみちゃん演じるジャンヌ・ダルクの姿を見ていました。
私は、その姿、いつだって一生懸命で一途なその言葉に涙が出そうになりました。
「よく分かりました」
そう力強くジャンヌに答えた洋子は、魔女をやめる決心をしました。
自分を捨てて、まだ見ぬ誰かが生きられる道を伐り拓くために生きていこうと強く思います。
必ずやってみせます。
どうか、見守っていてください。
そういうと、止まっていたかのような時間が動き出し、十字架に炎がともされるのでした。
もう世の中からいなくなってしまったジャンヌ・ダルクの魂を引き継いで、わたしたちがこれからはまだ見ぬ誰かを守っていきます。
どうか、そのために世の中にとって正しく尽くせますように。
みんなと一体となり、そんな気持ちで表現した曲、『エラスティック・ハート』。
卒業生ののんちゃんと、ジャンヌ・ダルク役のあけみちゃんを、みんなで取り囲むように並び、そして角の頂点には青い箱をかぶった2匹の猫が、曲に合わせて箱のなかでくるくると回ります。
卒業生ののんちゃんが帰ってきてくれたのはゲネプロの日で、本番直前にはじめてメンバー全員がそろった状態で合わせることができました。
この曲はどんどん、天国に昇っていくような気持ちで表現したいとあゆちゃんが教えてくれて、目線も他のダンス、コーラスよりも高くし、曲に込める気持ちをみんなと表現しました。
最後のラストのサビに入るまえから最後のサビまでは、どんどん会場の空間が広がっていくように……あゆちゃんに教えてもらった具体的できれいなイメージを本当にみんなと表現できたように感じました。
〇魔女の独白
ジャンヌからもらった言葉を胸に、魔女をやめて戦う決心をした洋子は、まっしぐらに魔女会議へと向かいます。
「今日は、魔女の皆さんに、相談があって集まってもらいました。
私たち、……もう魔女はやめませんか?」
予想だにしなかったその洋子の提案に、案の定、魔女たちは驚きを口々にします。
しかし、天国へと昇っていったジャンヌから教えてもらった生きていく答えを、必ずやり遂げなくてはいけない。洋子はもう、魔女たちの姿は目に入っていません。
私たちは魂を悪魔に売り渡して魔女になってしまったけれど、それはつらさから目をそむけて逃げたということ。
私たちも、ジャンヌ・ダルクのように、戦うべきだと思うんです!!!
わき目もふらず、こう言い放った洋子の言葉に、続けざまに反対意見が上がり、そうしているうちに魔法を使った乱闘騒ぎに……。
そんな様子を見かねた魔女のリーダーは、「静かにしなさい! ババババババッ」と機関銃を撃ち、全員が吹っ飛びます。
そして、一人の魔女が、なぜ、自分は魔女をやめたくないのか、やめられないのか、その理由を、自分の過去の経験を、独白しはじめるのでした。
「私はね、子供の頃から、なぜか母親に可愛がられることがなかった。
最初のうち、そうねえ、4歳になるかならないかのころは、自分が悪いから、妹ばかり母親に可愛がられても仕方がないと思ったよ。
私だけ、納戸に閉じ込められたり、口を利いてもらえなくなったり、こっぴどく叱られてしまうのさ。
私は壊れそうな母親を気遣っていた。
それに、自分が長女だから、妹たちを優先してやったり、面倒をみるのは当然だとも思っていた。
だけど、そうやって何年も、何年も、ずーっっと、ないがしろにされたままだと、自尊心ていうのか、自分のプライドが、よわーくなってきて、本当に自分は情けないダメ人間なんじゃないかと思えてくるわけさ。
やがて中学生くらいになると、母親からの風当たりは尋常じゃなかった。
母親は本気で私を憎んでいたと思うさ。
母親はことあるごとに、私を、普通じゃない、変てこりん、変てこりんと罵った。
お前は人間の出来損ないだ、恥を知れ、そう言われている気分だった。
そんなふうに私は言葉でも、肉体的にも、母親から虐められ、誰に助けを求めることもできず、日々、屈辱をなめさせられた。
それで、どうなったと思う?」
そう言って、魔女は洋子をじっと見ます。
「魔女になるしか生きる道はなかったってこと。
私は……許せないんだよ。
のほほんと生きてるすべての人間が許せない。
みんな私と同じ屈辱と恥ずかしめを受けろ、
自尊心の上に土足で踏み込まれ、泥まみれにされた上に、全身に恥ずかしめをうけるがいい。
許せない、許せない、許せない、許せない、許せない……。
どうあっても許すことができないんだよ。
しまいに私は、自分自身さえ、許すことができなくなってしまったんだ。
私はね、魔女になって、すべての人を巻き込みながら、地獄まで落ちてやると決めたんだ」
涙ながらに語る魔女。
それに2人目の魔女も続きます。
「私も魔女はやめたくはないね。
私は、母親から可愛がられていた。
とてもよく勉強ができたから、母親の自慢の種だった。
私は母親が大好きだったし、家族が大好きだった。
ところがある時、成績が落ちてしまった。
すると、母親の目の色が変わった。私は焦った。
もっといい成績をとらなくちゃ。しかし、険しい目で私を観察する母が怖くなった。
次第に勉強に身が入らなくなり、成績は急降下した。
母親は手のひらを返したように、私を嫌った。
私はなんの価値もない人間だと、私は思った。
それなら、価値がないように生きてやる。私は人間をやめた。魔女になった。
そして、すべての人間の価値という価値を、手当たり次第、叩き毀してやることにした」
2人の目の魔女と入れ替わりに、3人の目の魔女の独白がはじまります。
「そうだよ。そうだよ。魔女をやめるわけにはいかないよ。
私は自慢の娘だった。
品行方正、成績優秀、パーフェクトないい子で、教育者一家の自慢の子だった。
ただし、それは表向きのこと。
確かに私はよくできた子だった。
ところが、家の中は、私にとってただの空き箱でしかなかった。
私に話しかける家族は誰もいない。
私に用事のある家族はいないし、私を構う家族もいない
私は空き箱の中にぽつんと置かれた一体のひな人形のようだった。
いや、ひな人形のほうがよっぽど私より可愛がられていたよ。
私はといえば、素通しのガラスで、誰の目にも止まらない。
家族のすべてが、私抜きで、スムーズに運んでいて、私が何を考えようが、私が何を悩もうが、楽しもうが、それは私だけのことで、家族とのかかわりはひとつもなかった。
幼い頃から思春期に至るまで、私の心を育てようという家族は1人もいなかった。
それで私はどうなったか。
私は人間になりそこねてしまったんだよ。
心を持たない、何も感じない、ただ生きていることが苦しいだけの、空っぽな人間になるしかなかったんだ。
それはもはや人間ではない。
それで、私は魔女になるしかなかった。
もう私に、人の心は、1ミリも入ってこない」
気付いたら、私(洋子)の頬を、涙が止めどなく伝っていました。
環境や体験は違えど、摂食障害になった私たちは、同じような体験をしてきました。
3人の体験は私たちの体験そのものでした。
本番を迎えるまで、通し練習の度に、みんなが涙を流しながら、真剣にこのセリフを受け止めるように聞いていました。
私たちは、自分の辛かった経験を自分自身を守るために、いつのまにか後生大事なものとして、何重にも包み隠し、誰にも触れられないようにしてしまいます。
ジャンヌ・ダルクは自分を捨てることを教えてくれました。
私たちは「自分」を大事に守り続けているから、自分を捨てるということができないのです。
そのままだといつまで立っても、傷は癒えず、回復の道を歩んで行くことはできません。
では、どうすればいいのか。
それが、まさに『忘却』の力なのだ、と思いました。
1曲目に演奏したオブリビオンは訳すと「忘却」
今回のコンサートの大切なキーワードの一つです。
私は本番で、あんなちゃん、なつみちゃん、さやねちゃんの独白の台詞が客席に吸い込まれるように、お客さんが聞いてくれている、受け止めてくれているということを、強く感じました。
3人の姿が、今までで一番輝き、辛かった心が昇華されているような現象をステージ上で見たように感じました。
それは、3人だけではない、なのはなファミリーみんなの辛さを受け止めてもらえたということ。
聞いてくれる人がいる、受け止めてくれる人がいて、はじめて私たちは、回復の道を進んでいくことができます。
みなさんが真剣に聞いてくださったことが本当に嬉しかったです。
「これが、神様が作った世界の、現実なのよ……。
こんな私たちが、魔女をやめたとしたら
その瞬間から、空っぽの自分であることが苦しすぎて、すぐにも死ぬことになるんだわ」
たたみかけるようにそう言った魔女3人。
魔女3人の姿は、洋子の姿そのものでもありました。
洋子は自分に言い聞かせるように、3人に伝えなくてはいけないと思います。
死ぬ間際にジャンヌ・ダルクから教えてもらったこと、道を示してもらえたことを伝えなくてはいけない。
自分を捨てたら、その苦しみから抜けだすことができる、と――。
「私たちが苦しんでいるように、多くの女性が同じように苦しんでいるはず。
その女性たちが生きられる道を、私たちの手で伐り拓いていけばいい。
その志を立てたときから、私たち自身が救われる。
わたしたちが生きる道を探すことは、
きっとみんなが生きやすい世界を作ることになる」
洋子は死に物狂いでこの言葉を3人に伝えました。
この台詞は魔女たちに対する、そして自分に対しても、「治っていこうよ」という説得の言葉でした。
台詞をいう中で、何度も魔女のみんなと目を合わせる場面があります。
台詞をうまく言えなかった、と練習のときに思うことがあって、それは魔女たちに、そして何よりも自分に負けてしまっていたからでした。
いつも、自分を奮い立たせて、自分自身にも言い聞かせるように、何度も言ううちに、私は自分が自分でなくなっていく感覚を感じました。
◯オールウェイズ・リメンバー・アス・ディス・ウェイ
ボーカルのあゆちゃんがステージ上で歌う、『オールウェイズ・リメンバー・アス・ディス・ウェイ』。
魔女たちの辛かった独白、洋子の説得の言葉、気持ちをすべて包み込んでくれるようなあゆちゃんの歌声が会場に響きます。
◯ヤマトと洋子
――ヤマト! ヤマト! いる?
洋子はヤマトを探しに島を訪れます。
魔女たちの独白を聞いて、どうすれば彼女たちを、そして、この先この島に来る人たちを死なないように助けることができるのか……。
その答えをなんとしてでも見つけなくてはいけない。
一心不乱な洋子に対して、ヤマトは、
「この島は、もうすぐ、沈む。君はもう来ないほうがいい」
と言います。
「私たちのような子は、この先、生きるつらさに耐えられないまま、死んでいくしかないの?」
洋子は分かっていました。
ヤマトはきっと助かる答えを知っているはずだ。
ヤマトはその方法を知っているんでしょ?
洋子の言葉で、ヤマトは心の中に持っていた答えを思い出します。
「1つは、自尊心を守るんだ。
自尊心はデリケートで、あまりに痛めつけられすぎると、自分で壊してしまうこともある。
その壊れそうな自尊心を守ることを教えるんだ。
もう1つは、必ず心開いて打ち解け合える仲間を作ること。
この2つが実行できたら、命は救える」
「自尊心」と「仲間」、ヤマトが教えてくれたこの2つは、摂食障害から回復していくこときの最終回答なんだ、と感じました。
私は、私たちは、ずっとずっとこの答えを求めていた。
今となっては自尊心を落としているのは自分自身であり、心に壁を作って自分を守るために仲間が作れない状態になってしまっていた。
ヤマトが教えてくれたようにこの2つが実行できたら、きっと私たちは安心して仲間の存在を感じ、自尊心を守られながら生きていくことができる。
「これから、私がいま教えてもらったことを、必ず伝えていくわ。
私が、ジャンヌ・ダルクになっていく」
私は約束するように、ヤマトにそう言いました。
でも、この島が沈んだらヤマトはどこへ行くのだろうか?
ふと、急に疑問が浮かびました。
ヤマトは、この島と一緒に沈んでしまうのです。
限界を超えてしまった島が沈む運命を変えることはできないから、自分が生きている間、ヤマトと会うことはできない。
洋子はそういうことなのだ、と悟ります。
ヤマトと洋子のシーンを作っていく過程で、お母さんが話してくれたこと。
あのとき、あの人がいたから、しんどいとき苦しいときでも頑張れる。
志をともにする仲間。その人を思ったとき、心の支えになる存在。
決して、恋人のような関係ではなく、ヤマトと洋子は人種を超えた存在。
洋子にとってヤマトは、はじめてできた、心開いて打ち解け合える仲間でした。
ヤマトも洋子と出会えたから、この答えを思い出すことができた。
洋子もこの大事な答えを知ることができて、たくさんの人にこの答えを伝えながら生きていくことができる。
ヤマトと会えて本当に嬉しかった。
私が生きている間、もう会うことはできない。
でも、ヤマトと過ごした時間は心のなかで永遠となって、これからずっと残り続けるんだ。ヤマトと過ごした時間が心の支えとなって、これからも希望を持って生きていくことができる。
最後にこの言葉を笑顔で伝えたい。
ありがとう。
◯イエローストーン
『イエローストーン』は、2つのドラムセットと、マーチングスネア、ティンバレス、シンバルで構成されるドラムアンサンブル。
ドラムのリズミカルで激しいテンポに合わせて、2人のダンサーが躍動感を持って、踊ります。
ヤマトと分かれた洋子は、魔女をやめて生きてい決心をより固くし、魔女たちと悪魔の元へと向かっているように、溌溂とした音楽は、物語が次の展開へ移っていく様を思わせます。
◯悪魔との闘い
「私たち、魔女を返上します」
魔女たちと洋子らは、悪魔にそう宣言します。
悪魔は私たち人間にとって、とてつもなく大きな存在であり、立ち向かえる存在ではないと分かっていました。
――もしかしたら、死んでしまうかもしれない。
でも、それでもいい。
死んでしまってもいいから、私たちは魔女を捨てるんだ。
私たちの覚悟には、死をも恐れぬものがありました。
私たちは、生き延びるために、悪魔と契約し、依存術を自らの命のために習得しました。
しかし、一度身に着けてしまった依存を、摂食障害という病気を手放すことは本当に難しいことなのです。
これはただの物語の話なのではない、
一度悪魔と契約してしまった自分自身を本当に命がけでよりよく生きていきたいと、まだ見ぬ誰かの道を伐り拓いていくために回復に向かっていく。
それが私たちの生き方です。
悪魔と契約してからというもの、私たちは気付いたら、自分さえよければ、自分さえ助かれば他の人に迷惑をかけるようなことも平気でやってきた。
悪魔の論理で、社会に復讐をするように、この世の中に生まれてきたことに復讐をするように、神様に対する気持ちを失い、気付いたら利己的な生き方に染まってしまっていた。なんでもやってやるような気持ちで生きていた。
でも、このまま人生が過ぎていくことに、耐えられません。
ヤマトがあの島で、メリケンキアシシギのことを教えてくれたときのことを忘れることができない。
あんな小さな鳥たちが一万キロも旅をしながら生きていること聞いたときのことを、忘れることができない。
私たちは、被害感情や自己否定に支配され、いつのまにか狭い狭い枠や人によって作られた社会の枠組みのなかで、もしくはその枠組みからはずれた人になって、制限されながら生きているのに対して、鳥たちは危険を顧みず、生きるために1万キロも様々な世界を移動し続けながら生きている。
その自由さ、生命力の強さ、厳しさ。
そんなメリケンキアシシギに対して私は尊敬の気持ち、そして強い憧れを感じたのです。
同じ生き物である私たちも、本来はきっと、もっともっと人間らしく生きられるはず。
私たちはどんな闘いをしてでも、この契約を打ち切ります。
私たちの敵は、悪魔、あなたです――。
そう言い渡した洋子を、悪魔は魔法で吹っ飛ばします。
それを皮切りに、悪魔と魔女たちの戦闘がはじまりました。
魔女たちは命がけで闘います。
これは演技であって演技ではありませんでした。
体育館の通し練習のときから、魔女メンバーの戦闘シーンは何度見ても涙が出るものでした。
悪魔が時間を止めて、魔女たち全員の命が奪われてしまう……
「ちょっと待った!」
そんなとき、ヤマトと魔術師が現れます。
「お父さん、あなたは今はただの恐竜。
ティラノサウルスが強いと言われ、自分の欲で、恐竜の中に自ら入った。
もう二度と、あんな悲しいことが怒らないように、僕たちが閉じ込めたんだ」
「もうそこから出しはしない。
1億年前の恐竜が生きた時代に戻って、絶滅するまで生きるがいい」
ヤマトと魔術師の魔法によって一億年前にとばされた悪魔。
ひゅう、うーう、うーぅ、うーぅ、ポン! と悪魔はあっけなく消えてしまいます。
時間よ、動け。という言葉とともに、悪魔の魔法から解放された魔女たち。
一体、何が起きたというのか。
ヤマトは、自分たち人間が太刀打ちできないくらいの強大な力を持つ悪魔に対峙する力を持っていた存在ということ。
ヤマトは、魔術師を心配して探しに来た妹と、悪魔との間にできた、悪魔と人間のハーフだったのです。
そして、自分たちはヤマトと魔術師によって救われたということ。
死ぬ覚悟で魔女の返上を言い渡したが、今生きているという現実。
◯ビューティフル・ピープル
大人数でフラダンスを踊る『ビューティフル・ピープル』は、「私は自分を捨てて本当に魔女をやめて生きていきます」というけじめの曲。
新しい人生を歩く出すはじめの1曲目となり、新しい自分になって人生をスタートするというけじめの気持ちを表現します。
魔女たちは本当に魔力がなくなってしまいました。
魔女たちの耳に、天の声が聞こえます。
「あなた方は、魔女は卒業です。
あなたたちは、生きにくさを抱えて苦しんだことも事実ですが、これからの道を拓く役割を与えられたのです。
現代のジャンヌ・ダルクとして、これから多くの人たちを助けていってください。
ここで種明かしをしておかなければなりません。
人に悪さをして不幸に陥れるのが、黒魔術で、
人を助けたり、癒す力を持つ魔法が、白魔術です。
どちらも自分だけの力で行うことは出来ず、ある力を借りなければ実行することは出来ません」
では、白魔術の力を与えているのは誰なのか。
白魔術の力を与えているのはヤマトだったのです。
白魔術は、決して達成するまでは、明かしてはならないという決まりがあります。
それは、利他心で生きている人は、自分が人のためにしたことを決して自慢したり、評価を求めるということはない、ということに通じています。
常に仲間を守ること。相手の利益のために行動をすること、そこで、生まれる力が白魔術。
誰かの喜びや幸せのために力を尽くしたとき、自分自身が誰よりも喜びや幸せを感じていると気付くことができる。
摂食障害になった私たちは、白魔術にあるように、いつも誰かのために生きることでしか幸せを感じることができません。
そして、それは人間のあるべき生き方だと感じます。
白魔術の生き方を自分自身で実践し、伝えて、広めていく生き方をしたいと思いました。
「最後に、君たちに聞いておきたいことがある。
今でも、世界中の人に同じ苦しみを味わってほしいと……」
魔術師が、魔女のひとりにそう問います。
問われた魔女は、言いました。
「今は、思っていません。
でも、本当に魔女をやめても……」
魔術師は答えます。
「あなたたちが抱えてきた辛さは、
この会場の皆さんに聞いてもらい、充分に伝わりました。
そうですよね」
という言葉に対して、会場から強く暖かい拍手が湧きあがりました。
はじめから、最後まで一つの串刺しとなっていた大切なキーワード『忘却』
コンサートへ来てくださったみなさんが、私たちの苦しみ、痛みを受け止めてくださいました。
だから、私たちはこれ以上辛さを抱え込まずに、会場の皆さんが聞いてくださったことで辛さを手放して生きていくことができます。
私たちの代わりに、会場の皆さんが覚えていてくれて、忘却の力となって、私たちを応援してくれます。
だから、私たちは今まで大切に守ってきた辛さを手放して、ここからは、神様が見据えている理想の世界を作るために前向きに生きていきます。
会場のみなさんがいてくださるからこそ、そう思うことができました。
お母さんが本番前にホールに全員で集まったとき、教えてくれました。
今日がはじまりの日なんだよ。
そう、私たちにとって今日がはじまりの日なのです。
魔術師、ヤマト、パラソル魔女、あらまあ魔女たちは島へと帰っていきます。
ありがとう。さようなら。
本当に……ありがとう。
洋子たちは、手を降りながら、島の住人のみんなを見送ります。
目の前に見える島は、どんどん水平線の向こうへ沈んでいきます。
ああ、本当にあの島が沈んでいく――。
いよいよ、私たちは魔女を捨てて、新しい道を伐り拓いていくために生きていくのです。
でも、その道は決して1人で歩むものではありません。
洋子の周りには、同じ辛さを経験した魔女だったみんながいます。
「私には、こんなにもたくさんの仲間がいる」
その言葉とともに、舞台袖に待機していたメンバー全員もステージ上へと勢いよく出ます。
「そして、私たちの気持ちをわかってくれて、応援してくれる会場のみなさんがいます」
私が次の台詞を言えなくなるくらい、会場から暖かい拍手が湧きあがりました。
「私たちは、きっと、新しい世界を伐り拓いていける。
そう信じて、力を尽くし続けます」
私たちは、目の前にいるお客さんと約束をするように、自分自身に誓うように、全員でこの台詞を言いました。
「皆さんも、ぜひ応援してください」
頑張れよ! ひとりの男性の方の声が客席から聞こえました。
そのことが本当に嬉しかったです。
◯ホワイト・フラッグ
ラストの曲『ホワイト・フラッグ』
棒の角度、隊列の美しさ、どこまでも「全体」でみせるということを意識した曲でした。
私たちは、自分をなくして、どこまでも全員でみせるために、棒の角度や隊列移動の練習を何度も重ねました。
隊列の先頭の人は、後ろの人を捕まえて離さないように、そして後ろに並ぶメンバーは、前の人から一ミリも見えないように、シンクロしながらついていく。
そうやって練習していくと、みんなに埋もれていく心地よさというものを感じました。
私たちがみなさんの仲間になります、という気持ちで、戦うように勇ましく、全身全霊でみんなと踊りました。
お客さんからの拍手が止めどなく起こりました。
私たちが今日に向けて練習してきたたくさんのプロセス、そして今日のステージをお客さんが確かに受け取ってくれたことを感じました。
お客さんとの私たちとの間で、脚本の物語を自分たちにとって、本当に本物にすることができたのではないか、と感じました。
お父さんが書いてくださったこの脚本は、私たちが生きていく道しるべです。
なのはなファミリーのみんなは全員がこの脚本の洋子そのものなのです。
この脚本の道しるべに沿って、私たちは生きる指針を持って、コンサートが終わった明日から生きていきたいと思いました。
今回の脚本に出てきた「仲間」というキーワードがあるように、この壮大なステージを作るために、全国からたくさんの人の力が終結しました。
大人数ダンス曲や、その他のダンスでも振り付けを考案してくれた卒業生ののんちゃん。
照明は大竹さん、河上りかちゃん、なのはなのスタッフである白井さんが担当してくださいました。
大竹さんは照明だけでなく、魔術師の杖や資産家のシーンで出てきた超豪華別荘の鍵、ロールスロイスの鍵などを作ってださり、なのはなのコンサートでは初となる『クリーピン』でのラップ部分の振り付けを考えてくださいました。
ビデオ撮影チームには、東京から相川さん、卒業生のさきちゃんとまゆみちゃんが担当してくれて、なっちゃんが通し練習のビデオを事前に撮って、お互いに見れるように送ってくれていて、事前の準備から本番までいい形でビデオをとって残せるように、力を尽くしてくださいました。
ボランティアで駆けつけてくださった、岡本さん、忠政さんが、コンサートを写真に残してくださいました。
毎週水曜日、なのはなのみんなに金時太鼓の指導をしてくださる、勝央文化ホールの竹内さん。
そして、今年も東京からかけつけてくださったステージカメラマンの中嶌さんと岡さん。
なのはなで簿記部を作り、簿記を教えてくださる村田先生も帰ってきてくださいました。
ハートピーのあきこさんと、その子供のかりんちゃんとりひとくんも家族で帰ってきてくれました。そして、新しく、りひとくんの友達のあきとくんも、はじめてなのはなに来てくれて、ゲネプロと本番にステージ袖や客席から写真をとってくれました。
ロビーや受け付け、駐車場係では卒業生の人やボランティアの人が協力してくださいました。
ゲネプロからコンサート当日にかけて、たくさんの卒業生が帰ってきてくれたことも嬉しかったです。
たくさんの人の力があって、この3時間以上の壮大なステージを作り上げることができました。
私たちは、血はつながっていませんが、人としてあるべき生き方をしていきたいという気持ちに賛同し、同じ志のようなものを持っていて、家族以上の絆で結ばれている、そんな気がしてなりません。
ウィンターコンサートの、この日を迎えられたことが本当に嬉しかったです。
ありがとうございました。