ウインターコンサートに向けて、脚本書きをするお父さん。お父さんがビビッと来るような、インスピレーションのプレゼントをしよう!
十月十四日は、なのはなのお父さんのお誕生日。そのお祝いをする会を十月九日に開くことが決まりました。
しかし、今回のチーム分けは、ひと味違いました。
『機関車・牙・天使』『金貨・傘・吊りバンド』『悪魔・猫・長靴』……。
コンサートでテーマとして使えそうなキーワードが、三つでひとかたまりになって、羅列されています。これは、お父さんが考えてくれたそうなのですが……。
■選んだキーワードは
同じキーワードを選んだみんなが集まって、チームが結成されました。このキーワードをどこかに混ぜ込みながら、ショーを作っていきます。さあ、どんな世界が待っているのでしょうか?
わたしは、直感で決めました。選んだキーワードは『マント・ボール・豚』!
てんでばらばら? なぜそこに豚!? と言いたくなるようだけれど、
「この『豚』をキャラクターとして登場させたい!」
と、チーム結成後すぐに、みんなと意見が一致しました。
どのキーワードも漏れがないように使いたい。残るは、マントとボールです。衣装部さんから虹マントを借りて、スーパーマンの豚にしようか。主人公はサッカーを習っている中学一年生の少年にしようか。何度も話し合って、少しずつ、物語に繋がるパーツが浮かび上がってきました。
また、チームの選択曲『バッド・ハビッツ』を使ったダンスの振り付けは、ある動画を見たことがきっかけで、即決しました。
■ブタの国
それは、大きなバランスボールを使って、曲に合わせて弾んだり、転がったりしているものでした。ぽよんぽよんと跳ねる姿はかわいらしくて、なんだか豚のイメージにも合っている。そして今まで、ボールを使ったダンスなんて、見たことがなかった!
「これはきっと新しくて、みんなも驚くんじゃないかな!?」
と、チームのみんなで大興奮。
こうして、ついに『マント・ボール・豚』、三つのキーワードを盛り込んだ物語が、始まりました。
準備時間は短く、限られていました。チームの中で役割分担をして進めていくことに決まり、わたしは、ちさとちゃんと一緒に脚本係になりました。
生きにくさを感じ、家を飛び出したサッカー少年。転がったボールを追いかけた先で辿り着いたのは、なんと、ブタの国。ありのままで一生懸命、当たり前に優しく生きる、そんなブタたちが住む国でした。
ストーリーは決まっていたけれど、それをどうやって言葉にして、表現していくか、苦戦しました。キャラクターの台詞、行動、仕草……。自分の中の伝えたい気持ちと、ぴたりと一致させるために言葉を選ぶというのは、難しいことでした。
あらためて、お父さんが毎年、超大作の脚本を書き上げてくださるのが、本当にすごいことだと感じました。
■みんなに癒されて
ちさとちゃんと脚本の修正をしているとき、ちさとちゃんが、
「わたしたちが抱えていた気持ち、そのままでいいんじゃないかな」
と話してくれました。
自分が、少年と同じくらいの歳に感じてきた違和感や迷い、うまく言葉にできないけれど、苦しいんだ……。
そんな気持ちを書き出していくと、ちさとちゃんも、「うん、この台詞、すごく良いと思う!」と賛成してくれて、そのとき、自分自身が理解され、解放されていくようでした。少年は、わたしたちそのものでした。
ブタの国に住むブタたちも、わたしたちであり、わたしたちの求め続ける姿でした。
少年がブタに出会って心が癒されていったように、この物語を作っているなかで、わたしも、チームのみんなに癒されていました。
わたしが脚本に集中しているあいだ、他のやるべきことを進めてくれているみんながいました。
さやねちゃんとえみちゃんが、バランスボールを古吉野なのはなのあちこちから探し出してくれて、一緒にダンスの考案と練習をしてくれました。
いよちゃんが、脚本を読み込んで、すべての場面で、誰がどう動いていて、どういう立ち位置なのか、細かく図にしてまとめてくれていました。
忘れてはいけない、一番重要な小道具、ブタの鼻。さくらちゃんが、風船とスポンジを使って、ぷっくり、つるんとしたキュートな鼻を作ってくれました。
そして、急遽作ることになった、ダンスシーンでブタが掲げる『アセスメントン』の看板。あやかちゃんが、快く引き受けてくれて、サッと完成させてくれました。ピンク色のお花紙で縁取られていて、ブタちゃんらしい『アセスメント』ならぬ『アセスメントン』。このフレーズも看板も、チームのみんなのお気に入りです。
自分だけでは考えつかないこと、できないことも、全部、みんながカバーしてくれていて、わたしのことを、あたたかく受け入れてくれていました。
お父さんのお誕生日会、当日。劇とダンス、全て通せるようになった、というところで、本番の時間が来てしまいました。
■思わぬハプニング
演じているとき、会場のみんながじっと見守ってくれていて、自分が吸収されていくような空気を感じました。ピンク色の鼻と耳、タイツ、虹色のマントを身につけたブタたちが登場すると、みんなから明るい歓声が湧いていました。
緊張なのか、興奮なのか。二つのドキドキを味わっていて、その感覚は、こういう場でしか味わえないなあと思いました。
劇の半ばに差しかかったとき、思いがけないハプニングが起こりました。と言っても、これはわたしのミスで、首にかけていたメダルを、途中で舞台袖で外さなくてはいけなかったのに、外すのを忘れてしまったのです。「メダルを失くした」という台詞を言うときになってから、初めて、そのことに気がつきました。
■笑って、泣いて
自分の首から下がっているメダルを見て、全身が凍り付きました。「メダルがない……って、あるじゃないか!!」
思わず、自分にツッコミを入れることになる事態。舞台からはけていくことはできない、どうにかしてこの場で物語を繋げなくては……。
そこで、
「メダルがない!」「このメダルじゃない! 県大会のメダルが、もうひとつあったんだ!」
と叫びました。
今となっては、これも笑い話になっていて、会場のみんなが、「気がつかなかったよ」と言ってくれたのも、良かったです。
ブタのみんなは、「ブー」とだけ話します。失敗しても、うまくいっても、お互い様。いつでもおおらかで、時には遊びや自由を持っている。表情、動き、限られた表現のなかでも、ブタたちの魅力が伝わってきて、やっぱり好きだなあと感じました。
劇の最後に、たった一言、ブタたちが言葉を話します。元の世界に戻って来た少年に対して、
「もう、あなたは大丈夫。やっていけるよ」
と、エールを送ります。
その台詞を聞いたとき、ああ、しまった、と感じました。少年であらなくちゃいけないのに、わたしが涙ぐんでしまっているのでした。
けれど、そのときの少年にとっても、涙が出そうなくらいにうれしいことだったのではないか。やっぱり、わたしたち一人ひとりが少年だったのだと、今となっては思います。
■驚きがいっぱい
キーワードに出会って、少年に出会って、ブタたちに出会った。この物語が作り上げられたことが、奇跡のような、運命のような感覚があります。チームのみんなとステージに立つことができて、本当に幸せでした。
「あーっ! もう少し時間が欲しいね!」
なんて、食事のコメントやお風呂場でのおしゃべりなど、度々、色んな子と口を揃えて言っていたはずなのに。いつの間にこんなものを用意していたのか、どのチームも驚きがいっぱいの、とっても楽しいパフォーマンスでした。
ダンスでは、『ナチュラル』のチームが印象的でした。
あれはピエロ三人組? 紐で縛られてしまっているのは、人を笑わせることが出来ないという罪を犯してしまったから!
そこに、魔女が、賭けをしないかと提案を持ち出します。笑いを必要とせず、冷徹になった、石頭人間。彼らが踊るダンスの中に混じって、最後まで踊りきることができたら、処刑台から解放する、と……。
石頭人間の踊り。この冷徹な世の中で生き延びる、という決意のダンスです。そのダンスの迫力に、思わず息をするのも忘れてしまいそうなくらい、見入ってしまいました。
膝をついたり、こちらに飛びかかってきそうな力強い振り付けは、今までになくて、コンサートの舞台でも踊っている姿が、簡単に想像できました。
■コンサートに繋がる
衣装では、お父さんお母さんも、「このままコンサートで使いたい」と仰っていて、どのチームも、「どうやって作っているの!?」というものばかりでした。
『クリーピン』のチームでは、それぞれのキャラクターの衣装が、非日常の世界を思わせます。
せいこちゃんとあけみちゃんが身につけていた、ダイナソーコスチューム。図工室に眠っていた、男性用の大きめのチェックシャツを何枚か組み合わせて作ったそうなのですが、恐竜のしっぽや角を再現したシルエットが、すごくリアルだけれどオシャレでした。
『ダンス・モンキー』のチームでは、お手製のかぶり物がとってもポップでユニークでした。ひときわ目につくのが、ひろこちゃん演じる豪雨さんの雲のかぶり物です。ネットを使っているのか、大きくふんわりとした雲。雲から流れ出るオーロラカラーのしずくが揺れるのも、これまた綺麗でした。ななほちゃん演じる虹さんは、細長い風船を何色も並べて作った、虹のカチューシャのかぶり物を着けていました。鮮やかな七色は、きっとコンサートの舞台でも、映えるだろうなあと感じました。
最後は『カーム・ダウン』のチームの演劇で、お誕生日会がお開きになりました。
なおちゃん演じる探偵さん、るりこちゃん演じる助手の小熊くん。長い台詞も、よどみなく話すなおちゃん。なおちゃんがずっと探偵さんとして生きてきたかのように、役に入り込んでいる姿が、本当に魅力的でした。このふたりの周りで起きる不思議な事件を、一緒に解決する……。わたしも、スッと物語の世界に引き込まれていきました。
どのチームを見ていても、クオリティが高くて、これからのコンサートを何度もイメージすることができました。自分もやってみたい! 仲間に入りたい! と、心も身体もうずうずしてくるような感覚。お客さん、まだ見ぬ誰かに、こんな気持ちになってもらえることが、わたしたちの目指す道だと感じました。
「コンサートが楽しみになったね」「みんな、すごく演技が上手になったと思う。みんなが役をできるね」
と、お父さんお母さんが、笑顔で話してくださいました。
そして、心をオープンにすることで、演じることができる。演じることで、オープンでいられる、正しい心を作ることもできる。回復の道にも繋がっているのだと、教えてくださいきました。
今までの自分、今の自分がどうであれ、なのはなのみんなと一緒に過ごして、こうして表現する機会を頂けることが、本当にうれしいことです。
お父さんへのプレゼントのはずが、自分たちにとってもプレゼントになっていた一日でした。
お父さん、ビビッと感じられたでしょうか? わたしたちは、ウインターコンサートに向けて、気合十分、勇気満タンです! お誕生日おめでとうございます!