【10月号⑦】 「トロンボーンに邁進 ―― 美しい音に近づくために ――」 えつこ

  
 遠くからだんだん近づいてくる“ウンパ・ルンパ”の低い歌声。それから、ウンパ・ルンパが華やかに登場したように、弾ける金管のメロディー。煌びやかなサックスやフルートの連符。

 私たちは今、コンサートで演奏するビッグバンド演奏『オーガスタス・グループ』を練習しています。今はまだ、楽器のパートに分かれて練習をしている段階ですが、全員で合わせる日が待ち遠しいです。

■理想を強く持つ

 私が担当しているトロンボーンパートは、この曲の中での役割は重大です。トロンボーンには珍しく、主旋律を吹く部分が多いです。音源を何度も聞いて、金管独特の煌びやかな音を研究しています。煌びやかな音を吹くには、ただ大きく吹けば良いわけじゃなくて、繊細さと心の筋力を必要とします。

 そこで、トロンボーンパートでは、今、基本をとても大事にしています。基礎練習のときに、
「マウスピースだけで音階を吹く練習と、一音一音をきっちりと音程を合わせる練習をしたらいいよ」
 とアドバイスをもらってから、私たちは、曲の練習の前に基礎練習を徹底しています。

 最初、ピアニカで音階を吹いて、それに合わせてマウスピースで音を出す練習をしました。最初は一発で正確な音を出すことが難しかったけれど、今、マウスピースでもはっきりと音が出るようになってきていて、とても嬉しいです。

 それから、時間のあるときは、低いB♭から高いB♭までの音を一音一音、合うようになるまで吹いています。二人一組になって、一人がチューニングで音を合わせ、もう一人がそれに合わせて同じ音を吹いて、音がぴったりと一本になるまで、音を吹き続けます。
  
  
 吹いている以外の人で、音が合っているかどうかを、聞きます。音が合っているときはどんな感覚なのか、どう聞こえるのか、というのを身体に入れるために、この練習をしています。地道ですが、この練習を通して耳が鍛えられているのを感じます。

 そして、ロングトーンです。お父さんも、ハウスミーティングで、ロングトーンの大切さを教えてくれました。ロングトーンだけは、練習時間が短い日でも必ずしっかりとやるようにしています。

 あたりまえのことを出来るようになるということをモットーにして、ロングトーンのときでも、ステージで演奏しているときと同じ気持ちで、足をしっかりと揃えて、スライドの高さも揃えて、目力を強くして、美しく吹くことにこだわっています。姿勢を揃えると、音も揃います。凡事徹底の大切さを感じました。
  
  

 この練習を続けていたら、みんなでゴロンとレベルアップできるのではないかと、希望を感じています。
 曲の練習でも、あたりまえのことを出来るようになること、誰かと比べるのではなく、これくらいのレベルで吹けて当たり前だという理想を強く持つことをモットーにしています。

■みんなで彫り込む彫刻

 この曲の中で、トロンボーンの役割は重要です。曲の冒頭で、遠くから忍び寄ってくるようなメロディーを、トロンボーンが吹きます。私はそのメロディーを、本当のウンパルンパのように、一糸乱れず吹きたいです。一人が吹いているかのように聞こえるけれど、七人分の音圧がちゃんとある、というのが理想です。

 楽譜を細かく区切って、緻密に吹けるように、小さなこともごまかさずに、少しでも良くなるようにと、試行錯誤している部分もありますが、その時間が、細かい彫刻を彫っているみたいで、楽しいです。まずは、音源を聞き込むこと。自分のパートだけじゃなくて、主旋律や他のパートがどのように入っているかも聞いて、その上で自分の音はどんな役割なのかを考えて吹くことを、大切にしています。
  
  

 それから、歌えるようになること。歌うときも、ただ鼻歌のように歌うのではなく、トロンボーンでこんな音を吹きたいという理想に限りなく近づけるように、声で歌います。イメージが音になるので、実際に音を出すのと同じくらいに、このふたつのことが大切だと感じています。
  
  
 そして、実際に吹くときには、まず一音一音をチューナーで正確な音を確認してから、ゆっくりなテンポからはじめて、だんだん速めていきます。揃えるのが難しいときは、人数を半分にわけて聞き合います。難しい箇所があれば、その部分だけ五分間吹き続けます。少しスパルタかもしれませんが、七人の音が揃ったとき、嬉しすぎて思わず飛び跳ねてしまいました。

 このようにして、地道に練習を進めています。全員で合わせる日が待ち遠しいです。

■練習と、心の修行を

 アンサンブルの練習も進めています。アンサンブルでは、『ブエノスアイレスのマリア』という曲を練習しています。トロンボーンとサックスで吹きます。

 この曲をはじめて聴いたとき、心が喜びで震えました。暗闇の厳しさの中に、一筋のあたたかい光が差し込んだような音楽。まるで小説を読んでいるかのようなドラマチックな展開。祈るような切なくも優しい旋律。勇ましく、心が躍る旋律。何度も何度もこの曲を聴いているうちに、私はこの曲に恋をしてしまいました。私たちが演奏するのは、十分くらいあるこの曲の中の前半の一部分ですが、私はこの曲をもっと深く理解したくて、毎日、この曲を最初から最後まで聴いています。

 この曲に歌詞はないけれど、だからこそ、言葉にならない気持ちを、この曲に理解されているような気持ちになります。音楽という言葉で包み込まれているような気持ちになります。この曲を吹くと、困難に立ち向かう勇気が湧いてきます。

 だから、私も、私たちの演奏を聴く人に勇気を与えるような演奏をできるようになりたいです。今はまだ、個人練習をしている段階ですが、私たちだからこそできる表現をしたいです。
  

9月末日には、『オーガスタス・グループ』を全体で合わせました

  
 しかし、今、私は、高いハードルを感じています。私は、この曲で、低音パートを担当しています。複雑な動きがあるわけではないですが、だからこそ、艶っぽく、深い音を究めたいです。この曲を吹けるようになるには、練習はもちろんのこと、心をもっと深くすることも必要です。

 今まで吹いた曲の中で一番に難しいと感じています。でも、この曲を吹けるようになったら、また自分の中で言葉が増えるように感じて、私は今、燃えています。

 同じパートを担当しているほしちゃんと、毎日、一緒に練習しています。楽譜を一小節ずつに分けて、練習しています。ひとつの小節を繰り返し繰り返し歌って、全ての音をチューニングして、それから楽器でゆっくりなテンポで繰り返し吹いて、できるようになったら次の小節に進んで、というように練習しています。地道だけれど、確実に積み上がってきているのを感じます。ほしちゃんは私で、私はほしちゃんです。

 一人が吹いているかのように聞こえるけれど、ちゃんと二人分の音圧があるように、吹きたいです。どちらが欠けてもいけません。ほしちゃんとトロンボーンを吹いていると、言葉で会話をする以上に、トロンボーンの音を通して心が通じ合っている感覚があって、その時間がとても幸せです。

 とても難しく、まだそれぞれで個人練習をしている段階ですが、みんなで合わせてこの曲に命が吹き込まれる日が待ち遠しいです。十月にある、とても大切なイベントで、みんなにこの曲を初披露する予定です。誰かに希望を与えるような表現ができるようになりたいです。謙虚な気持ちで、練習と、心の修行を、頑張ります。