桃シーズンは後半へ!
収穫はもちろん、怒涛の勢いでネット掛けや水やりも行いました。
八月の収穫では「清水白桃」がピークを迎えました。「清水白桃」は、桃の女王と呼ばれていて、本当に香りが高く、他の品種に増して品の高さを感じられる桃。なのはなファミリーでは一番多い品種です。収穫が追い付くかどうか、未知な部分はありましたが、桃メンバーみんなが収穫に慣れてきて、見極めも大分早くできるようになってきたころ。そしてチームワークも一段と良くなってきた状態での清水白桃の収穫スタートで、自分たちのやる気と自信は十分でした。
清水白桃は、池上桃畑と開墾二十六アールと山の桃畑の三つの畑にありますが、最初に熟れ始めたのは池上桃畑と開墾二十六アール。少し遅れて山の桃畑の清水白桃も熟れ始めてきました。時期が少しずれてくれたので、私たちにとっても良い助走になりました。
■ベストな採り頃で
今年も暑さが厳しいため、桃も通常に熟れることが難しいようです。見た目ではまだ青味が残っていて、熟れていないように見えても、実際、果肉は熟れている“果肉先熟”という症状が清水白桃にも表れています。メンバー全員で採った実を実際に味見してみて、ベストな採り頃はどのくらいなのかを確かめながら、収穫基準を定めていきました。
とはいっても桃の実一つひとつ同じというわけにはいかず、応用問題もたくさんあります。半分熟れていて半分まだ青い状態のものや、陽に焼けたように熟れていて残っている青味が見えにくいものなど。
迷ったらすぐに声を掛け合って小会議を行い、そこでも迷ったら包丁で切って果肉の熟れ具合を確かめて結論を出していきました。そうしてメンバー一人ひとりの中で見極めていく力が育って、たくさんある清水白桃の収穫もスピードアップしていきました。最初はどうなることかと思っていた収穫も、みんなの力でなんとかこなしていくことができて、自分たちの自信になっていきました
ピーク時は朝から初めて、お昼まで収穫をしました。本数が多いだけにスピード感も求められます。収獲する人は、迷う時間を極力なくせるように、「採る!」「待つ!」と宣言しながら収穫をすると、決断力もどんどん養われていって、チームでも活気のある空気感になっていきました。
また、一本の樹を始める前に、残りの実の数や樹の大きさを見て、「○○分で終わらせます!」と目標タイムを宣言してから収穫をスタートするようにしました。短期的な目標があると、時間にも意識が向いて、一本一本リセットした気持ちで向かうことができました。
目標時間を達成できると、その度に小さな達成感があって、気持ち的にもメリハリが付けられる収穫がすごく楽しかったです。
■桃の海
陽が照ってくると、光の反射で見極めが難しくなり、集中力を保つのが大変な面もありましたが、ピーク時は選果ハウスにあるコンテナが足りなくなるいくらいにたくさんの桃が採れることがすごく嬉しかったです。
桃を見る目も確実に養われていくことを感じられて、遣り甲斐がましていきました。選果ハウスが桃の海になっている光景を毎日見る度に満たされた気持ちになりました。
今年は梅雨が長く続き、日照不足によって桃の甘さがなかなかのってこないことが心配でしたが、七月下旬から一気に晴れが続いたことで甘さもグンと上がりました。糖度十三度以上、十五度以上の桃が多く、糖度測定をしてくれているメンバーから聞こえてくる高い糖度の数字がすごく嬉しかったです。
清水白桃の収穫が終盤に差し掛かってきたころ、次の品種、「おかやま夢白桃」の収穫が始まりました。ついに晩生品種に突入です。「はなよめ」の収穫から始まって、夢中で突っ走ってきた毎日を過ごしているうちにあっという間にシーズンの後半になってしまったことに驚きました。
■好きな桃
桃は晩生になるほど熟れていくスピードもゆっくりなので、おかやま夢白桃からは特にじわじわと熟れていきました。「おかやま夢白桃」は果肉先熟の傾向はあまりなくて、青味が抜けてから収穫するのが適時なので、清水白桃の基準とは見極めをする目も気持ちも頭も切り替える必要がありました。最初の方は、早採りをしないように注意しながら、見るとどうしても採りたくなってしまう気持ちを抑えて収穫をしていきました。
クリーム色に少しピンクがかった色が特徴の「おかやま夢白桃」は、ツルンとした質感にパールのような輝きが本当にきれいで、その美しさにうっとりしてしまいました。そして、特大級の大きさも夢白ならでは。二十一個の穴が開いている桃コンテナに、半分の十個ほどしか入らない大きさで、ソフトボールよりも大きい実が平均的です。貫禄たっぷりの大きさと重さも夢白ならでは。両手でずっしりとした重さを感じられると嬉しかったです。

晩生になってくると桃の甘さもかなり乗ってきて、「おかやま夢白桃」は糖度十五度以上のものがほとんどです。安定した甘さや大玉の桃が、さすが晩生品種だなと思いました。
「おかやま夢白桃」と同時並行で「白麗」と「川中島白桃」という品種も収穫し、特に「川中島白桃」は、例年小玉傾向だったのが今年は大玉になっていて、糖度も高く、これまでで一番良い出来だったとあんなちゃんが話してくれました。
あんなちゃんが収穫してくれた桃を見ても、形も色もとてもきれいで、川中島白桃の印象が変わりました。他の品種にはないオレンジがかった色が独特で、太陽を連想させるパワフルさのある「川中島白桃」が、好きな桃の一つになりました。
■夏を締めくくる桃たち
今は、最後の品種、「白皇」「さくらピーチ」「白露」の収穫の最中です。「さくらピーチ」は一本、「白露」は二本と、本数が少ないので、主に「白皇」の収穫がメインです。
「白皇」は赤茶色の二重袋をかけていて、その袋は実の色が黄色く見えやすい袋だと、あんなちゃんが教えてくれました。確かに収穫をしていると、いいクリーム色だと思って採った実が、まだ少し青味が残っていたり、白過ぎたりして、あともう一歩だったということがあって、初めのうちはかなり慎重に見極めをしました。
ですが、みんなで確認タイムの時に、「これはまだ青味が残っているから待とう」とか、「このクリーム色の感じだったら採っていいよね」と収穫基準を共通認識して、収穫の度に積み重ねていくうちに、自分たちの中に「白皇」の収穫基準が入ってきて、微妙な色の違いも判断できるようになっていることを実感できたことが嬉しかったです。
「白皇」は、樹勢が強くて入り組んでいるところが多いので、脚立を立てる場所や角度も難しくて、自分の身体も捻じ曲げながら脚立を登っていく、ということが多々あります。高い位置や、枝の背中側は、特に難しくて大変ですが、なんだか木登りをしている気分でもあり、それも楽しい要素の一つです。
私は「白皇」のクリーム色と薄く透明がかったまだら模様の見た目がすごく好きです。なんだか神々しい感じがして、名前の通りだな、と思います。一玉一玉きれいな実が収穫できる度に嬉しい気持ちが満ちていきます。そんな桃を収穫できることがすごく嬉しいです。
■ネット掛け 対 台風
収穫と同時並行で水やりやネット掛けも行いました。八月上旬は晴れが続いて、水が足りないために、桃のみが少ししわしわした感じになってきて、桃も水分を欲しているようでした。
収穫も忙しい中でも、桃メンバー以外のみんなも助けてくれて、なんとか水やりも行うことができて、きれいな桃を保つことができたことにすごく安心しました。
そして、今年桃チーム内で一番上達できたのではないかと自負しているのが……ネット掛け!!
例年になく大変になってしまったネット掛けでしたが、結果としてはものすごく楽しい作業になりました。
予定通り、順調に進んでいたネット掛け。最後のネット掛けも終わったー!
と思った矢先の出来事でした。
なんと、台風六号の強風で「おかやま夢白桃」と「白皇」のネットがはぐれてしまいました。周囲にぐるりと置いていた重しや、打ち付けていた杭も、台風の強風には耐えられず、だらんとはぐれてしまった光景は、すごくショックで、メンバー全員呆気にとられてしまいました。
それでもそんなことには負けない桃メンバー。すぐに気を取り直して、風がおさまってから即座にネットを掛けなおしました。
次は台風七号がきているという予報もあったので、周囲には、鉄パイプとブロックで隙間なく厳重に、これでもか!
というくらいに重石を置いて、尚且つネットを裾を括りつける杭も二〜三メートル間隔に打ち付けて、渾身の力でネットを括りつけました。
さらに、暴風対策としてネットを二枚掛けにして、できる対策は全て行いました。これで今度こそ最後のネット掛け終了〜!
とみんなで大きな達成感に浸って記念撮影もOK!
■ネット掛けスペシャリスト
そして迎えた台風七号。祈る気持ちでどっしりと構えて迎えました。風と雨がどんどんと強くなっていく度にひやひやして、もう祈るのみ……という感じでした。
ですが、その祈りも自然の力を前にはかなわず、結果として今掛けられているネット全てがはぐれてしまいました。今回ばかりは桃メンバーももう笑うしかない……というくらいショックでしたが、もうここまできたら怖いものなしです。
苦笑いを満面の笑みに変えて、「ネット掛け、行きまーす!」とリーダのあけみちゃんの明るい声掛けにみんなが「はい!」とやる気に満ちた返事で返します。
ネット掛けスペシャリストになりつつある桃チーム。「ネット掛けチャンピオンになれるね」とか「ネット掛けのギネスブックにのれるよ!」と、冗談を交わしていましたが、半分本心、というくらいにみんな自信があります。
夕方から勇敢にネット掛けに向かいました。一本掛け、二本掛けのネットはお手のもの。ほんの数分でサクサクとかけていきます。山場は「白皇」です。なにより樹勢が強く、背高くて枝葉が茂っているので、ネットが引っかかったり、高くて越えられないポイントがたくさん現れます。そういうところは魔法の棒を使って、軽々ひょいと超えていきました。もうどんな樹でも、今年の桃メンバーなら、持ち前のチームワークとやる気で誰よりも速くネットを掛けていきました。
ネットを掛けないと、どうしても夜蛾に桃の実を刺されてしまうので、本命の樹はその日の内にネットを掛けたい目標でした。陽も暮れ始めて、メンバー内にも焦りの色が見え始めましたが、その頃には最後の二本に取り掛かっていました。丁度山の桃畑には防蛾灯が設置されていて、そのライトがいい具合に照らしてくれていました。
陽が落ちて暗くなってきたので、声掛けをしっかりと行って、一人ひとりがなにをしているのか、どこにいるのかをしっかりと全員が分かるように、安全第一で進めました。そうしながら超特急で最後のネットを掛けて、重石を置くところまで終えることができました。夜の八時ごろまでかかりましたが、目標のところまでネット掛けをすることができて、本当に嬉しかったです。なによりも、夜蛾から桃を守れたことに安心しました。
■桃チームだからこそ
これほどの大きな達成感を味わえたことは、今まで生きてきた中で初めてでした。夕方から初めて、一日分働いたのではないかというくらい、濃い時間でした。
帰ってきて、桃チームみんなで食べた夕食は、こんなにおいしく感じたことはない、というくらい美味しくて、その時間も本当に幸せでした。
今年、毎日一日中一緒に過ごして、苦楽を共にしてきた桃チームだからこそできたことでした。そして、桃チームだからこそ味わえた達成感と最後の幸せなひと時。その時間が、私の中の宝物になりました。
まだ「白皇」の収穫中ですが、桃シーズンの終わりに差し掛かってきて、なんだか少し寂しい気持ちもします。ですが、引き続き最強桃チームみんなで力を合わせて、最後までよい収穫ができるように頑張りたいと思います。