9月17日(日)「田に稲に利他心は育まれて ―― 光田んぼの手刈り」

9月17日のなのはな

 

 そよ風と共にお米の香ばしい香りが田んぼ全体に広がり、空は秋晴れの稲刈り日和。
 2023年なのはな稲刈りシーズン最終日は、光田んぼ上で紫黒米の手刈りです。

 長袖長ズボンに帽子と長靴。両手には作業用手袋、気持ちも準備万端。さあ、手刈りへ!

 スキップをするように小走りで光田んぼへ向かうと、そこにはあゆちゃんの姿があり、あゆちゃんが、
「稲刈りで結びを慣れている人、結びを私に任せて! という人はこちらへ、稲刈りが初めての人や結びはちょっと自信がないなという人はこちらへ」
 と誘導してくれていました。

(う~ん。結びがしっかりできるかな?)
 と迷いながらも、以前、お母さんやあゆちゃんに稲の束を結ぶやり方を教えてもらったことを思い出し、結び部隊の列へ並びました。

 家族みんなで秋の一大イベント、手刈り。手刈りは刈り部隊、結び部隊、はぜ立て部隊の3チームに分かれて始まりました。

 

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 私は結び部隊として、刈り部隊の子たちが右手に鎌を持ち、稲株を左手で握って、5~6株で1束にしてくれるのを追いかけるように、一把ずつ稲の束を結んでいきました。

 ザッザッザッ……。
 目の前にいる子たちがテンポよく稲を刈ってくれていて、その音を稲刈りテーマソングとして心の中で音楽をかけながら、結びもテンポよく進めていきます。

 

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 大体3,4本程度の藁をとって稲の束に一周し、ギュッとねじったらそのまま何度かひねり、よりきつく藁の束を締めていきます。
 そして、ねじった藁を稲の穂先の方から根元の方へと輪に通したら、簡単だけれど絶対にほどけない藁結びの完成です。

 以前、お母さんやあゆちゃんに教えてもらったこの結び方。お母さんが、
「はぜ干しした時にほどけないように、頑張ってきつく結んで、輪の中に通してね」
 と言いながら、お手本を見せてくれた姿を思い出しながら、きつく、丈夫に縛っていきました。

 

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 藁結びの一番面白いところでもあり、一番難しいところでもあるのがこの、ねじった藁を輪に通す工程。
 とった藁が3本より少ないと紐として丈夫にならないし、かといって5本ほどになれば藁が太くて、最後に輪の中に通すのが難しくなってしまいます。

 そして、きつく縛るため、輪の中に通すときは親指に力が入り、何度も何度も稲の束を縛っていくうちに親指の先端が痛くなってくるのですが、その痛みも味わいながら結んでいきました。

 

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「昔の人は、田んぼ1枚だけじゃなくて何枚も手で刈っていたんだよね。それを思うと、藁を結ぶのも頑張らなくちゃ!」
 と側で一緒に結んでいたまなかちゃんと声を掛け合いながら、黙々と稲の束を縛っていきました。

 お父さんが、
「刈っている人は、結ぶ人が作業しやすいように稲の穂先を外側へ向けて置いていき、通り道を作るようにしてね」
 と声をかけてくれて、刈り部隊の子たちが綺麗に稲の束を並べていってくれると、私たち結び部隊も、ただ前に進んでいくだけで、稲の束が結びやすいように配置されてあり、作業効率が上がりました。

 

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 そして、私たち結び部隊も、今度は運ぶときにみんなが通りやすいようにと考えて、結び終わった稲を置いていき、こんな風に常に次の人のことを思いながら、視野を広く持って稲刈りを進めていく時間が楽しかったです。

「うん、みんなものすごい速さで進んでいるよ。もう、半分くらいまで来ているよ。あ、半分は少し言い過ぎたかな」
 とお父さんがタイムコールをしてくれたと思えば、少ししたらあゆちゃんも、
「うん、みんなものすごい速さで進んでいるよ。もう半分なんじゃない? あ、半分は言い過ぎたか」
 と言っていて、思わず笑ってしまいました。

 おとうさんとあゆちゃんが、
「何か、みんなが速いから半分って言いたくなっちゃうんだよね……」
 と言っているのを聞いても、温かい気持ちをもらったし、より気合いが入りました。

 

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 また、手刈りはゆりちゃん、おとちゃんも一緒でした。

 ゆりちゃんが、
「お姉ちゃん、わらいりますか? わらどうぞ~」
 と言いながら、結ぶ用の藁を配ってくれていたり、あゆちゃんと一緒に落穂拾いをしてくれていたり、歳は小さくても自分のできる精いっぱいで動いている姿がとても可愛く、ただいてくれるだけで嬉しかったです。

 まだ0歳のおとちゃんもベビーカーの上で、田んぼに囲まれた中、すやすやと眠っていて、こんな風に小さな頃からなのはなで育ち、自然の中で育ち、みんなの中で助け合いだとか、思いやりだとか、利他心を学んで身に付けていく子どもたちがいるのは幸せなことだなと思いました。

 

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 そして、
「ただ今、開始から45分が経過しました。あと10分で半分のところまで刈ったら休憩にします」
 とあゆちゃんが声をかけてくれて、(え、もう45分もたったの?)と驚いたのですが、それと同時に(え、もう半分終わるのか!)とそれ以上に驚きました。

 でも、休憩の時に飲んだお茶はものすごく冷たくて、この世界中で一番おいしい飲み物だと思いました。
 そして、来た時には何もなかった下の田んぼに4列の立派なはぜが立っていて、その光景がとても綺麗でした。

 

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 上の田んぼで私たちが手刈りをするのと同時進行で、まえちゃんを中心とした8人くらいのみんながなる足を立てて、はぜを作ってくれていて、なる足が3本でしっかり立っているのを見ると、(ああ、日本だな)としみじみ思いました。

 私は以前、盛男おじいちゃんたちと何度かはぜ立てをさせてもらったことがあるのですが、今、盛男おじいちゃんが蝶々となって監督をしてくださる中で、まえちゃんたちがおじいちゃんが教えてくださったとおりにはぜを立てていく姿が綺麗だなと思ったし、はぜを見るとおじいちゃんの大きな笑顔が浮かびました。

 はぜがしっかり立っているのを見ると、おじいちゃんとはぜ立てをした時のおじいちゃんの力強さや、大きくてしっかりとした手を思い出します。

 

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 そして、後半戦。田んぼの半分くらいまで来たら、ちょうど雑草がちょこちょこと生えているゾーンがあり、最初は難しそうだなと感じました。でも、私の前で刈っていた子がものすごい速さで刈っていくにもかかわらず、雑草と稲とを綺麗に分別して置いてくれていたため、何の問題もなく稲刈りが進んでいきました。

 こんな風に自分がやりやすいようにとか、自分のことでいっぱいいっぱいにならず、みんながお互いに全体のことを考えて、全体がよく回るように、全体として早く稲刈りが進むようにと考えて動いている中で稲刈りが進んでいき、みんなのさりげない優しさを感じるたびに、私ももっと優しくなりたい、もっと強くなりたいと思いました。

 

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 以前、お父さんが田植え機もコンバインも籾摺り機も何もなかった時代、人々は協力して水田を作り、水を分け合い、田植えをして、稲刈りをして、主食となるお米を育ててきて、その時代に利他心の文化が育ったと話してくれたことがありました。

 お米作りはただ、種をまいたら芽が出て育つわけではなく、田んぼの管理や水の管理、種もみの塩水選に播種、苗作り、田植え、草刈りと色々な工程を経て収穫まで結びつくのですが、それは昔の時代も今の時代も同じで、お米を育てる中で、利他の心を教えてもらいます。

 今年の夏も畑やイベントなどと同時並行でお米を育ててきたのですが、スタッフさんやお仕事組さんたちが毎日のように田んぼへ行っては水の入水排水を気にかけてくれていたり、地域の方々と水も分け合い、清掃活動などを通して田んぼの管理やその地域全体を通して、田畑を守っていて、その過程を思うと、より、稲刈りを迎えられたことが嬉しくなりました。

 

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 利他心。自分の利益はさておき、相手の利益を優先すること。
 自分さえよければ、自分だけが得すればいいという考えでいたら昔はお米作りが成立しなかったように、こうして、自分たちでお米を育て、自分たちの手でお米を刈り取っていると、今の時代も、利他心がないと結果として、私たちは自給自足ができなくなって、輸入品ばかりに頼る生活や文化の失われた日本になってしまうんだなと感じました。

 そして、みんなと協力してお米を育て、こうして大豊作に喜びや充実感を感じて、みんなと収穫するという達成感を感じながら稲刈りをしていると、私たち自身も豊かな気持ちを感じて、心の底から生きる喜びを感じます。

 

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 太陽も私たちの頭の上まで来た頃、お父さんが「あと1割刈ったら終わるよ」と教えてくれました。
 最初は1割という言葉を認識できないくらい1というのが信じられなかったのですが、もう9割も終わって残りが1割なのかと思うとものすごく早いなと感じました。

 光田んぼ上はちょうど、田んぼの真ん中がくぼんでいるような形なので、前半はやる気と体力満々で行き、少し疲れてきたころに田んぼの刈る面積もほんの少し狭くなり、そして、ラストスパートでもう一度気合いが入った時にまた面積が広くなりと、私たちの気持ちにあった田んぼだなと思いました。

 「あと4条だよ!」とあゆちゃんが言ったと思えば、次の瞬間にはもう、あゆちゃんが「ゴール!」といって畦に座って満面の笑みで汗を拭いていて、その光景が嬉しかったです。

 

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 また、手刈りでは刈りのスピードが速く、結びが溜まってしまいがちなのですが、今年は最初にあゆちゃんが割り振ってくれて刈り1人に対して、結びが2~3人ついて進んでいったので、刈りが終わったのとほぼ同時に、結びも終わるという形でした。

 その気持ちの良い終わり方により達成感が増したし、畑1枚刈り終えたとき、「よし、お弁当にしようか!」とお父さんが言ってくれて、お腹のペコペコ具合も増しました。

 台所さんがこの日のためにスペシャルなお弁当を用意してくれて、みんなと田んぼの畔に横一列に座ってお弁当を食べました。
 蓋を開ければ、お父さんレシピのとっておきの唐揚げにハート型の卵焼きや、今が旬のなのはな産のシャインマスカットとオーロラブラックなども入り、どこか遠足に来たようでした。

 

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 下を見れば、つい今朝まで一面に光り輝いていた稲の穂の海が、綺麗さっぱりと刈り取られ、整然と稲の束が並べられています。
 これを全部、自分たちの手でやったのかと思うと、改めて大人数の力を感じたし、どんな作業も、どんな遊びも1人でやると寂しいけれど、みんなでやれば何倍も楽しさや充実感が増すなと感じました。

 そして、お昼を食べた後ははぜ干しです。
 お父さんが、
「今回は、あえて役割やポジションを決めるのではなく、みんながそれぞれ全体を見て必要なところに入り、自分の頭を使って動いてください」
 と声をかけてくれて、作業が始まりました。

 自分がどこのポジションに着いたらいいのか、どんな風にしたら効率が良くなるのか、リーダーさんやお父さんの指示を待つのではなく、自分たち主体で一人ひとりが頭を使って動きます。

 

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 私は主に斜面の方のバケツリレーに入ったのですが、最初は人と人との距離が遠くて動く範囲が多かったり、誰に渡すのかで混乱が起きるところもあったのですが、みんなが自動運転で必要な場所へ入り、必要がないところは抜けて別の場所のフォローへ回り、お互いに視野を広く持って、自分の役割や立ち位置を考えながら作業が進んでいきました。

 段々と流れができてくると、稲のバケツリレーもテンポよく進み、「はい」「はい」という掛け声が止まることなく響きました。また、軌道に乗ってくると「はい」という掛け声が音楽のように聞こえてきて、みんながチャーリーとチョコレート工場に出てくるウンパルンパのように、同じような声で、同じようなフォームで、同じ動きで稲の束をバケツリレーをしているのが楽しかったです。

 

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 また、はぜ干しが田んぼ側に近づけば近づくほどに、誰が何と言わなくても列が、先頭の人からはぜを干すまで一番最短距離の直線を描くようにそれぞれが動き、特に誰かに指示を受けたり、声を掛け合ったりしなくても、自然とあるべき形は一つになっていくのを感じました。

 私はなのはなでやる作業の中でバケツリレーが大好きなのですが、テンポがよければいいほどに気持ちも上がり、時に反復横跳びをして移動したり、時に一回転して右から左へと稲を渡したり、バケツリレーがみんなで作るアトラクションのようでした。

 そうこうしている間に、4列のはぜいっぱいにお米が干され、小さな小人のおうちができました。

 

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 お父さんが、
「はぜ干しをして雨が降ったらお米が乾燥しないんじゃないかと思うかもしれないけれど、藁やお米のもみには小さな産毛のようなものが生えていて、それが水をはじくんだよ」
 と教えてくれました。
 昔の人は藁ぶき屋根のおうちとか、藁で履物を作ったりとかしていたことを思うと、昔の人にとっての藁はとても大切で貴重なものだったんだなと思うし、私も今度雨が降ったら、このはぜの下へ雨宿りをしに行こうかなと思いました。

 

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 そして、無事に手刈りが完了です。
 バケツリレーをしている間は、永遠にこの時間が続いてもいいのにというくらい楽しくて、自分たちが同じものを生産する機械の一部になったように動いていたので、どこまでも作業が続くような気がしていたのですが、ちゃんと終わりはありました。

 最後の1束をバケツリレーで回していったとき、改めてお米の重み、お米の香り、この感触やバサッという音が豊かだなと思いました。

 

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 日本の稲作文化が利他心の文化をつくり出してきたように、今、なのはなファミリーでも稲作文化と利他心の文化が生き続けています。
 今の時代では、どこの農家もコンバインや乾燥機など機械でお米を作れば、防除は小型のヘリコプターで行ったり、草刈りは草刈り機と稲作も機械化し、少人数でもできるようになっているけれど、やっぱり、誰かと協力して稲作をすることで、人と人とのつながりが生まれ、その中に利他心が生まれていくのを感じます。

 お米作りを通して利他心の気持ちを教えてもらい、こんな風に汗をたくさんかきながら力いっぱい動いた末に味わえる、達成感や仲間と協力して作業をするやりがいを感じられることが嬉しいです。

 最後、家族みんなで畔に寝転んで空を見上げました。そこには、雲の隙間から太陽の光が一筋、真っすぐに伸びていて、私たちの歩む利他心の1本道を照らしてくれていました。

(ななほ)

 

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