なのはなで一番はじめに採れる早生の桃、はなよめの収穫がはじまりました。
はなよめは、桃の中でも、特に可愛らしい外観の桃です。六月半ばの時点で、桃にかけている袋を少し開いてみると、まだ青みは抜けていないながらも、果頂部に、はなよめの特徴である赤い色が、口紅をさしたように見えてきていました。
六月二十日過ぎから熟れはじめるという予測をしていたのですが、六月に入ってから気温二十五度以上の日が多くなって、特に奥桃畑の熟れが思ったよりも早く進んだように感じます。
桃の収穫に向けて、前年の九月の秋剪定や基肥入れにはじまり、冬剪定、摘蕾、霜対策、摘果、袋かけ、枝吊りの修正、防除、水やり、草刈りと、これまで手入れをしてきたわけですが、いよいよ桃の季節の幕開けという感じがして、とても緊張する気持ちと、やってやるぞ!
という意気込みがあります。これから九月上旬までノンストップです。
収穫に向けて、桃のメンバーのみんなと、選果ハウスの掃除や片付けをして、桃仕様にセッティングも済ませて、初収穫の日を迎えました。
■今年はじめの桃
六月十九日、朝六時。
奥桃畑で、私は気合と緊張で興奮ぎみだったのですが、収穫メンバーのみんなも顔がキリリとしていて、緊張しているのが伝わってきました。
桃の重みで枝がしなった先の、熟れていそうな一つの実の袋を開いてみると、青みが抜けて、うっすら産毛が立って、採り頃という感じがします。
まず、収穫基準の確認をみんなでしました。
幾つかの実を採って、その場で、包丁で切ってみました。そして、一切れずつ食べてみて、実際の柔らかさや、どれくらいの色の加減や見た目の桃を採るべきなのかを、確かめました。
「美味しい」「甘い」「桃の味だね」
今年はじめの一口に、みんなの顔がほころびました。
(そうそう、この味。でも、もっと甘くあってほしい。採り始めだから、これから、もっと味が乗っていくだろう)
一般的に市場で流通している桃は、流通期間を見越して、完熟より数日早く採りますが、なのはなファミリーでは、甘さや桃本来の味わいを追求するため、樹で完熟させてから収穫しています。
■樹熟し白桃
樹熟しで採ることに関して、二つの難しさがあります。
一つめは、収穫基準の見極めです。袋を少し破いて、緑色の抜け具合や、色み、香り、全体的な雰囲気で総合的に判断するのですが、光の強さや当たり加減でも、見え方が違うため、とても難しいです。また、その年の天候や気象条件によって、果肉先熟といって、果皮の色が抜ける前に熟れてしまうということがあったり、品種によっても色みや熟れ方が違うので、尚更です。感覚を研ぎ澄ませ、心を遣って判断する必要があります。
もう一つの難しさは、「当たり」を出さずに採ることです。樹で完熟させているため、少しの力で指跡がついてしまったり、採るときに余計な力や角度がついてしまうと、ヘタの周辺の果肉が枝に食い込んで、果肉が簡単に傷ついてしまいます。
当たりが出ないように採るコツというのがあるのですが、実の着き方が一つひとつの実で違うので、どういうふうに採ったら一番、桃に優しく採れるかと、頭と心を使うことが最大のポイントです。
この日までに、前年のシーズン終わりに作成した、収穫や選別などについてまとめた資料を、桃メンバーのみんなに目を通しておいてもらっていたことと、前年に収穫を一緒にしていたメンバーも多く、作業に入りやすかったです。
初日は、前年の感覚を取り戻すこと、少し時間をかけてもいいので感覚を掴むことをテーマにしたいと、メンバーのみんなに話し、一玉一玉、慎重に採っていきました。
■チームプレイの収穫
収穫は八人ほどで行っています。二人ずつペアになってもらって、一人が採るときにはもう一人が受け取って袋を外して、穴あきウレタンを敷いた桃用コンテナにそっと置いていきます。そのとき、受け取る人は、早採りになっていないか見て、基準がずれていたら採る人に伝えます。判断に迷う場合は、ペアの人や、私が一緒に見て判断します。
採るときには「採ります」、採らないときには「一日置きます」「二日待ちます」などの声掛けをしています。声を出すことで、曖昧さがなくなるし、雰囲気がよくなります。
また、一コンテナ埋まるごとに、私まで声をかけてもらい、そのペアが早採りや、取り残しを出していないか、チェックしながら進めています。
このように、複数の目で見ながら採っていくことで、確実に、適期収穫できるのです。
これらは前年に作ったシステムに少し改良を加えたもので、やりながら、もっとよくできるところはしていきたいです。
日を追うごとに収量が増えていき、ピークを迎え、六月二十六日には、残り一〜二割くらいまで採りました。初収穫から十日間ほどではなよめのシーズンは終わります。そして、それと重なるように、次の品種である日川白鳳が採れ始めます。
種割れ果や変形果など、異常があるものから熟れていくので、初日から数日は種割れ率が高かったのですが、日を追うごとに、綺麗な桃率が高くなっていきました。
今年は畑によっても違いが出ました。なのはなファミリーには、はなよめの樹が、奥桃畑に一本、開墾十七アールに三本あります。奥桃畑は大玉気味ですが、種割れが多く、十七アールは小玉気味ですが綺麗な桃が多かったため、摘果のタイミングなど影響したのかと思い、来年の栽培管理に反映させたいです。
糖度測定をしてみると、十二度以上の桃も多くあり、中には十四度、十五度と、早生にしては高糖度の桃もあって、まずまずのスタートです。
白くて初々しいはなよめを、夕食のときに、みんなでいただきました。甘く、爽やかな風味に、励まされると同時に、桃への探求心も刺激されました。
桃作業の主なメンバーとは、これまで、様々な桃作業を一緒にしてきて、大変なことも達成感も、一緒に体験してきたことで、お互いの気心も知れて、気持ちが揃っていると感じているし、心強く思っています。
■彩鮮やかで、色濃い夏に
最近のことでいうと、雨の中、合羽を着て朝から夕方まで摘果をしたり、自走式草刈り機に感動したり、雨前を目標に袋をかけたり……。
私はメンバーへの思いやりとか、気遣いとか、本当にできていないのですが、できるだけ心がけて、一人ひとりの気持ちを大切にして、気持ちを一つにして、桃に向かいたいです。高いレベルで互いに気遣いあって、質の高い作業、良い仕事をして、一緒に達成感を感じて、それぞれにとって、彩鮮やかで、色濃い、桃の季節にしたいです。
お母さんが、ある日の集合の時間に、話してくれました。
これから桃シーズンがいよいよ始まること、桃はなのはなファミリーにとって大切な作物であること、桃メンバーのみんなが高いレベルのことをしていること。桃のメンバーじゃない人も、桃に直接携わらなくても、日常の生活の中でも、みんなで気持ちを揃えて助けあって桃シーズンに向かってほしい。
その日、私は一日を通して桃の防除をしていて、疲れてしまっていたのですが、元気が出て、気が引き締まりました。いつも一緒に作業している身近な人に対して、良い自分でありたいし、良い仕事をしたいと、心から思いました。
普段、一緒に作業をしている桃のメンバーだけでなく、硬核期には全員で三チームに分かれてブルーシートを敷いたり、霜対策を募集したらいつも何人も集まってくれて一緒に徹夜したり、害虫対策のためのネットを縫うチームがいたり、その時々で、その都度、みんなの手や気持ちを経て、なのはなの桃は育っています。これから先、収穫前の水管理が大事になるので、またみんなでシートを敷いたりすることもあると思います。
みんなの気持ちが詰まった桃を、愛おしく、大切に、採っていきたいです。
■これからの季節へ向けて
今期、すべての桃の樹にかけた袋の数は、幼木が年々、大きく生育していっていることと、この春、地域のお世話になっている方から桃畑をお預かりして、栽培本数が増えたこともあり、これまでよりも大幅に増えました。特に中生品種の収穫最盛期には、これまでの経験を大きく越える状況になるはずなので、心して挑みたいです。
六月下旬の現在、中生品種以降の硬核期が明けつつあり、収穫と同時進行で、修正摘果や、新梢管理をしたり、収穫に向けてはネットかけや、ネット用支柱にマイカ線を張る作業などをしています。
桃は天候に左右されやすい作物ですが、近年、高温になる年が多く、今年も、成熟期間が短く、前倒しで熟れていくようです。熟れ方も、高温が影響して、これまでにないような変わった熟れ方をする場合もあるので、タイミングを逃さずに適切な手入れや収穫ができるように、桃をよく見て、桃の訴えをよく感じたいです。