【4月号④】「チームを大切に思い、ハウスを大切に思い」 るりこ

 

『WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)で日本が優勝した。「全員野球」と謳われる、チームワークの良いメンバーだった』と聞いた。

 ハウス修繕が始まってから、約一か月。
 一月下旬に津山、勝央、奈義地域を襲った大雪の影響で、恐竜が首を折ってふせているように、中心に向かって真っ二つにパイプが折れ曲がってしまったビニールハウスがありました。なのはなファミリーに今ある全九棟のうち、五棟がそのような状態でした。
 一棟ずつ根気強く修繕を進めてきて、現在は折り返しを過ぎて、四棟目に入りました。
 倒れてしまったハウスを見たときのショックは大きかったです。本当に修復可能か絶望的な気持ちだったけれど、ここまできてみると、修繕もあっという間だと感じます。

 この一か月、わたしの修繕の日々です。
 一棟目の吉畑手前ハウスの修繕は、建築を教えてくださる須原さんの指導のもと、一から工程を追って教えていただき、四日半をかけて完成まで持っていきました。

 二棟目の古畑からは、さくらちゃん筆頭に七人のハウスメンバーで動くようになり、一棟目で教えていただいて学んだことを活かして、ビニールが美しく張られた、なのはなファミリーの玄関前にふさわしい古畑ハウスができました。

 

■ハウスメンバー

 

 それまで入れ替わり立ち替わりだったメンバーも、二棟目からは『ハウスメンバー』として七人に固定され、さくらちゃん、あけみちゃん、よしみちゃん、なつみちゃん、りんねちゃん、さやちゃん、わたしの七人で修繕をしていくことになりました。
 毎日、同じメンバーが集い、一緒に修繕作業をしているうちに、ハウスメンバーのチームワークは日に日に高まり、今では誰一人欠かせない、大切な存在になっています。

 リーダーのさくらちゃんはいつも優しい気配りで仲間一人ひとりのことを大切に思ってくれていて、作業中には真剣な空気を、始まりや終わりにはみんなで達成感を共有できる温かい言葉かけをしてくれます。
 そして誰よりもハウスのことを考えて、どうしたら効率よく手早い作業ができるか、美しいハウスにできるかを密に練って、細かな計画を立てて、記録してくれています。

 さくらちゃんのどこまでも上を求める美意識がとてもきれいです。実直でひたむきなさくらちゃんの姿を感じて、わたしも同じ気持ちで美しいハウスを建てたいと思わせてもらえるし、ここまでハウスメンバーのみんなとも、「きれいだね」とたくさんの喜びを味わってくることができました。それはさくらちゃんが、いつもハウスと仲間のことを思って、良い作業をしようとみんなを巻き込んでくれたからで、さくらちゃんがリーダーでいてくれたからこそ、ここまでやってくることができたと感じます。
 さくらちゃんがリーダーでいてくれると、大きな安心感があります。

 

 

 あけみちゃんは広い視野で、必要な場所を瞬間的に察知して入り、求められる動きを判断して、的確に動いています。困ったときには一緒になって考えてくれたり、ヘルプが必要となれば、惜しみなく力を発揮してカバーしてくれます。
 そしてあけみちゃんは、何か一つの工程が完成したり、誰かのちょっとした喜びに、必ず、「いいね」「きれいだね」「やったね」と一緒になって喜びを分かち合って、肯定してくれます。
 作業風景の楽しい写真をいっぱい撮ってくれたり、誰のことも一人にしないで、みんなで楽しもうと願う、あけみちゃんのさりげない心遣いをたくさん感じてきて、あけみちゃんの存在に助けてもらったと感じることが何度もあります。

 

 

 よしみちゃんは抜けのない作業で助けてくれます。ハウスの修繕は数字がいっぱい出てくるけれど、そういった細かな数値でもしっかりと把握してくれていて、何か大きな失敗やミスに繋がる前に気がついて、フォローをしてくれます。よしみちゃんはいろいろなことをよく見ているから、どこか不具合があるとすぐに気がつくし、それをすぐに教えてくれて、記憶力もいいです。
 そして、いつも爽やかな笑顔と明るい返事で、作業の空気も明るくしてくれます。よしみちゃんの、「はいっ」という大きな返事が聞こえると、わたしも頑張ろうという気持ちになります。

 

■欠かせない存在

 なつみちゃんはチーム一のパワーを出し惜しみなく、いつでも全開に発揮してくれます。わたしはなつみちゃんとペアになって動くことが多いですが、アーチパイプの修繕やパイプ付けなど、力が必要という場面ではなつみちゃんが積極的に力を貸してくれます。絶対に自分一人ではできないと感じることも、なつみちゃんがいてくれるからできたということもたくさんあって、でも当の本人は全然大変そうに見せなくて、笑顔で力を出し尽くす姿が格好いいなと思います。
 また、ペアになって動く分、一緒に考えたり、ときには失敗してしまうこともあるけれど、そういうことも前向きに乗り越えて、次はもっとよくしようと言い合える仲間でいられることが嬉しいです。

 

 

 りんねちゃんはいつも静かに淡々と向かっています。一度教えてもらったことは確実に覚えて、二回目以降からは細かいところまで正確に再現していて、さらに先を読んで動きで、指示を受ける前に自動運転で取り組んでいます。
 りんねちゃんの冷静沈着に物事を突き進めていく姿は、他のことでもそうですが、一途で、真剣な眼差しで極めていけることがすごいなと感じます。わたしもしっかり覚えておかないといけないけれど、りんねちゃんが一緒に覚えていてくれるから大丈夫と思うと、一緒に作業をしていて安心します。

 さやちゃんはオールラウンドに動いて、みんなの小さなスーパーマンです。一人ではできないときに、「さやちゃん、手を借りてもいい?」と聞くと、嫌な顔せず、自分の手を止めて、すぐに駆けつけにきてくれるし、秘めたパワーもすごいです。

 ここまでも、ハウスの骨格の基礎になるアーチパイプ立てはさやちゃんとりんねちゃんがベテランになってくれて進めてくれました。一番本数の多かった崖崩れ北棟ハウスでも難なくこなしてしまい、アーチパイプ立ては二人にお任せという感じです。

 作業後の片付けも最後まで気にかけて、決して手を抜いたり音を上げずに、いつも真面目で一生懸命さを失わないさやちゃんがいてくれると心強くて、とても頼もしい存在です。
 一人ひとりが欠かせない存在として、受け止め合って助け合おうとするハウスメンバーの中にいると安心して、このメンバーでいられてよかったなと思いました。

 みんながみんなを大切に思い、ハウスのことも大切に思い、良いものにしようという団結力と思いやりの積み重ねで、ここまで大きなトラブルなく、順調に進めてくることができました。

 作業始まりには籾摺り機倉庫に集まって、今日の目標を統一して、一人ひとりの名前が書かれた腰袋を下げて、各ハウスに向かって出発するとき、自分たちがハウスを守る戦士になったような気分になるときが一番嬉しいです。

 

 

■チームワーク

 ちょうどその頃、お父さんお母さんから、WBCで優勝した日本チームは、誰か一人がとび抜けたヒーローだったのではなくて、メンバー一人ひとりの良さが輝く、みんながヒーローのチームだったと聞きました。
「チームワークが良かった」と聞いて、ふと、ハウスメンバーの顔が思い浮かびました。

 日本の選手たちが世界に誇れる利他の姿で希望を与えてくれたように、わたしたちも美しいハウスを作るため、負けないくらい、もっともっとチームワークの良いメンバーになっていきたい。そして一人ひとりの力や存在を総動員して、この勢いを崩さないままに最後まで全員が同じ志で向かっていきたい。
 チームワークの日本が世界で優勝したという嬉しい結果に、わたしも刺激をもらいました。

 三棟目の崖崩れ北棟ハウスは、五棟の中では最も面積が広く約十六メートルあり、アーチパイプも三十三本ありました。その分だけ時間もかかると見込んでいましたが、五日間で大屋根のビニールがけまでできて、完成させることができました。この結果には、自分たちでも驚きでした。

 

 

■成功体験

 ですが成功体験にすることができた理由はもちろんあり、三棟目にもなれば、メンバー一人ひとりに慣れが出てきたことが大きかったです。
 特に速かったのは棟パイプと母屋パイプを取り付けたときで、足場の設置から金具の用意、印つけ、取り付けまでが流れるように進みました。
 アーチパイプと母屋パイプをクロスワンという金具でとめるときには力が必要なのですが、そこでは全員総出で取りかかって、みんなで達成感を感じられました。
 妻面の柱を立てるときは、二棟目の古畑ハウスでの反省を活かして、事前に水平機を使って、水平を定めておいたことで、やり直しなく、一発で立てることができました。
 そうやって、失敗も次回の成功に変えて、少しずつ進化させながら、一工程にかける手間や時間を省いていけたことで、五日間完成という満足のいく結果に辿り着くことができました。

 完成したハウスを見たとき、一か月前の痛々しい姿から息を吹き返したハウスが、「ありがとう」と、笑って喜んでいるように見えました。

 現在は四棟目の藁ハウスに入っています。藁ハウスは長い間、修繕してこなかったので、パイプも錆び付いていましたが、錆止めのペンキ塗りもして、以前よりもきれいなハウスにしたいと思っています。

 ハウスによっては、形状や過去の使い方によって思いがけないハプニングもあったりするけれど、それもハウスの特徴として楽しみながら、自分たちのプラスの経験にも繋がると思って修繕していると、一棟一棟により愛着が湧いてきます。

 藁ハウスが他のハウスと特に違うポイントは、後ろのドアが両開き式のレールドアではなく、片側開きの引き戸になっていることです。約七メートルのコンパクトな藁ハウスに引き戸が付いていると、小さなお家みたいで可愛いらしくて、ハウスメンバーもお気に入りのドアです。

 

 

■美しいハウスを

 完成目標は三月末で、藁ハウスが完成したら、残すは五棟目のユーノスハウス一棟になります。
 ここまでやってこられたことを思うと、自分の気持ちや力では絶対にないと思います。一番は須原さんやハウスメンバーのみんながいてくれたからだと感じます。「為せば成る、為さねば成らぬ、何事も」
 ハウス修繕が始まった初日に、須原さんがみんなに唱えるように話してくださり、それ以降も事あるごとに繰り返していた言葉です。

「どんなこともやったらできる。やろうとしなければ、できない」
 簡単に訳すと当然のことのように聞こえるかもしれないけれど、今ではこの言葉が本当にその通りだと思うし、ここまでの自分の心の支えになってきました。どんな困難であろうと、みんなとだったら実現不可能なことはないと、今回の大雪からハウス修繕の経験を得て、そう信じられるようになりました。

 あと一棟で完成だと思うと、五棟を蘇らせた感動もあるけれど、それ以上にこの日々が終わってしまうのが惜しいなと、すでに感じてしまうほど、毎日のハウス修繕の日々が自分にとってかけがえのないものになっていると感じます。
 この勢いのまま、ハウスメンバーのチームワークを活かして、美しいハウスを建築していきたいです。