「ハウス修繕完了記念日と、2か月間を振り返って」 るりこ

4月5日

○ハウス修繕完了記念日と、2か月間を振り返って

 2023年4月5日。なのはなのビニールハウス5棟の修繕完了記念日になりました。
 今日でユーノスハウスの修繕が終わり、これで大雪で倒れた5棟のビニールハウスの修繕がすべて完了しました。
 ちょうど2月1日から解体が始まって、今日まで約2か月の月日が経っていました。
 今日わたしは別作業だったため、ユーノスハウスの完成を見届ける場にはいられなかったのですが、さくらちゃん、さやちゃんから、「ハウスできたよ」と教えてくれて、その瞬間、思わずさくらちゃんと握手をしてしまいました。その手がぎゅっと強くて、本当に本当に嬉しかったです。

 夕方、さくらちゃんの放送がかかり、ハウスメンバーは籾摺り機倉庫に集まるようにとの連絡がありました。雨のなかをあけみちゃんとグラウンドを走って、倉庫の扉まで行くと、ドアに貼り紙がされてあり、そこにはさくらちゃんの文字で『ハウス完成祝賀会』と書いてありました。
 中へ入ると、須原さんとさくらちゃんが待っていて、道板とコンテナで作ってくれた長イスがコの字に設置されていました。さらにその上に、お母さん、河上さん、まちこちゃんからの差し入れのお菓子と紅茶が用意されてありました。ストーブまで焚いてくれてあって、暖められた倉庫がみんなの嬉しさと喜びの温もりで満ちているようでした。

 須原さんの挨拶から始まって、まずはみんなで紅茶で乾杯をしました。
「かんぱーい!」と叫びながら、お互いの紙コップをぶつけあって、気分は上々です。
 その後、司会はさくらちゃんに引き継がれ、さくらちゃんが、「みんなに聞きたいことがある」と言い、2つの質問をしてくれました。
 1つが、「ハウス修繕のなかで、みんなが1番好きな工程」という質問でした。
 みんながしばらくう~ん、と悩んでいて、それから順に一人ずつ回していきました。

 さやちゃんはアーチパイプと母屋パイプ付け、りんねちゃんはアーチパイプ立て、そして1番多かったのが、あけみちゃんとよしみちゃんとなつみちゃんとわたしの妻面のビニール張りでした。わたしは即決で、1棟目から5棟目まで変わらずにこの工程が1番好きで、ずっと入らせてもらっていました。
 妻のビニールは過去のものを使い回しており、ハウスによって、ビニールが1枚のものもあれば、3枚くらいに分かれているものもあり、分かれているものは難易度が高かったです。

 5棟のなかで1番きれいに張れたと思っているのは古畑ハウスで、古畑ハウスは過去のビニールが古くなっていたため、新しいビニールをカットするところからでした。
 ビニペット間の幅を出して、重なり部分の余分も加えて出したはずの長さが、実際に張り合わせてみると、ビニペットにギリギリかかる短さでスプリングで止めるのに苦戦してしまいました。わずか5~7センチ足らず、という感じで、採寸のミスだったと思います。
 ですがそれが功を為したと言ってよいのか、ピンピンの状態でもすべて張り終えてみると、3枚に分かれているはずのビニールの繋ぎ目がビニペットに隠れて見えなくなり、まるで一枚のビニールだけで張ったかのような美しさに仕上がっていました。
 さくらちゃんも、「すごくきれい」と絶賛してくれました。
 今でも古畑ハウスを見ると、真っ先に妻面のビニールに目が行きますが、自分で見ても、あれは1枚のビニールでできているように思えてしまいます。それが失敗なのか成功なのかは別として、そういう思い出があるからか、5棟の中でも古畑ハウスの修繕の記憶が1番強くて、個人的には1番気に入ったハウスになりました。

 あけみちゃんもよしみちゃんもなつみちゃんも、妻面のビニール張りが好きだったと聞いて、同じだなと思いました。ビニールをパズルのように組み合わせたり、ピンピンに張っていくのが面白くて、きれいに張れたときの満足感もひときわ大きいからかなと思いました。

 でも1番好きだったのは妻面のビニール張りだけど、他のどの工程も捨てがたいくらいに楽しいものばかりです。アーチパイプの修繕は本数が多かったけれど、1本1本を見本の形に修復していきました。当て木の位置や押す力加減など、「ちょっと」がすごく絶妙な仕事でしたが、その分、上手くいったときが最高に嬉しくて、これは自己肯定感が高まる作業だったと感じます。
 現場入りしてからは棟パイプと母屋パイプ付けがあり、これはクロスワンというアーチパイプと母屋パイプを繋げる部品を使って留めていくのですが、最も力が必要な工程でした。2人がかりでもいかないときがあり、そういうときは全員総出で力を出し尽くしました。クロスワンにピンが入ったときは、「入ったーーー!!!」という歓声が上がって、その喜びをみんなで共感しあいました。1番にみんなの力を感じる工程です。

 最後の工程の大屋根のビニール張りの内、抑えとなるマイカ線張りは、元二重ハウスの修繕のときに取り入れた方法として、ロープを使ったやり方に変えました。マイカ線の片側が結びつけられたロープを「せーの」で反対側に渡したら、一度で何十本ものマイカ線を渡すことができるようになりました。それまではマイカ線一本一本を投げていたので、ロープで一度の方法は何倍も時間短縮になり、これは画期的なアイディアでした。

 1つひとつの工程にそれぞれの面白みや難しさがあって、合計で5回経験したことになりますが、飽きることがありませんでした。ハウスによって形状や、前に立てた人のやり方が様々なので、ハウスごとの特徴を知れたことも飽きさせないポイントでした。

 2つ目の質問が、「ハウス修繕のなかで、みんなが嬉しかったこと」というものでした。1人ずつ回していきましたが、どの子にも共通していたことが、「ハウスメンバーの仲間の存在に助けられた」ということでした。
 そしてわたしも、ハウスメンバーの存在が何よりも嬉しかったことを話させてもらいました。
 2棟目からメンバーが固定になり、さくらちゃん、あけみちゃん、よしみちゃん、なつみちゃん、りんねちゃん、さやちゃんとわたしの7人で主に動いていきました。日によってはメンバーが5人だったり、6人だったりすることもあったけれど、例えその日の作業にいなくても、廊下やお風呂などで、ハウスメンバーに会うと、「今日はどこどこまで進んだよ」という報告をし合うのが日常になっていました。
 さくらちゃんがメンバー1人ひとりの名前を書いた腰袋を用意してくれて、いつも作業始まりに籾摺り機倉庫に集まると、みんなが真っ先に自分の腰袋を身につけて、揃ってハウスに向かうのが、チームを超えてハウスを守る戦隊になったようで、毎回その瞬間が嬉しかったです。

 さくらちゃんがリーダーとして、ずっと引っ張ってくれました。
 さくらちゃんの緻密で美意識の高い仕事や、どこまでも誠実な姿勢にいつも気持ちを正され、自分も少しでもさくらちゃんの求めるレベルまで近づけるようにという思いで、美しいハウスを目指しました。
 さくらちゃんが、「みんなに主体性があって、誰がリーダーになってもハウスを作れるくらい、みんなで工程を覚えられたことが嬉しかった」と話してくれました。そういってくれたことも嬉しかったけれど、さくらちゃんがどのハウスでも、1つひとつの工程をみんなでやり、みんなで出来上がりを喜べる作業や空気づくりをしてくれたからだと感じ、そんなさくらちゃんが優しいなと思いました。

 こうして5棟のハウスを完成させられたことも、約2か月、気持ちを向け続けられたことも、ぜんぶ、須原さんを初めとする、ハウスメンバーみんなのおかげだと感じます。コンディションが良いときも悪いときも、作業が上手くいったときもいかなかったときも、どういう状況であったとしても、みんながお互いをカバーし合って、みんなで良くしようと動いてきました。そこには美しいハウスを完成させたい、という気持ちだけがあって、みんながハウス修繕を楽しんで、できあがっていく喜びや達成感に溢れている空気がありました。

 祝賀会の最後の締めに、須原さんがお話をしてくださいました。
 『一人親方』のお話をしてくださり、例えば1つの家を建てるときでも、大工さんがいたらいいだけじゃなく、水道屋さんや壁屋さん、電気屋さんなど、他の職業の人とも連携を取らなければなりません。そのときにたくさんの人と顔見知りだったら、「今日壁を取り付けるけれど、水道の方は大丈夫?」などというふうに連携を取ることができて、水道設備が整う前に壁を張っちゃった、というようなことが防げるのだと話してくださいました。
 つまり一人では仕事ができないということ、周りの人と連携をとって、みんなでやるのが良い仕事だと教えてくださいました。
 ハウス修繕も到底一人ではできなかったです。物理的に人の手がいるところもあれば、一人ひとりが持っている能力が必要で、自分にはできないことでも仲間の力があってできたことが、いくつもいくつもありました。そのたびに、メンバー一人ひとりの存在の大きさを感じて、みんながいてくれたから自分がいて、そしてみんなとだからハウスを立て直すことができたのだと、改めて感じました。

 2か月前を思い出すと、大雪が降り積もった翌日、お父さんから校長室に呼び出されて、ハウスが大変なことになっていると、さくらちゃんと共に聞きました。
 ちょうどその数週間前に元二重ハウスを修復したばかりで、これで全ハウスの修繕が完了した、と一息をついていたところにこの事態だったのでショックも大きく、お父さんの話を聞くことも、ハウスを見に行くことも怖かったです。
 お父さんとさくらちゃんと、解体にどのくらい時間がかかるか、修繕はどのくらいかかるか、人手は何人いりそうか、ということを話し合いました。
 そのときは頭を巡らせて、このくらいかなと答えていたけれど、心は放心状態というか、ものすごく果てしない気持ちで心ここにあらずという気持ちでした。
 そして、大雪が降る予報を知っていながら、ハウス対策をするという考えに及ばなかった自分を責める気持ちから、自分のせいでハウスが壊れてしまったように感じて、気持ちがずどーんと落ちました。
 外に出られるようになり、ハウスを見に行くと、9棟全部倒れたと思っていたものが、5棟だけだったとわかりました。それでも恐竜が首を折って眠ってふせているように、アーチパイプの真ん中からべこっと真っ二つに折れ曲がったハウスが見るからに痛々しくて、これが本当に修復できるのだろうかというのが正直の印象でした。
 そしてこれ以上、被害が広がらないように、生き残った4棟のハウスに支えとなる竹を立てて補強にしました。

 雪がある程度、溶けるまで待ち、足下がとれるようになった2月から解体が始まりました。1棟目は須原さんの指導のもとで動き、2棟目からは解体メンバーとして、なつみちゃんとりんねちゃんとさやちゃんの4人で5棟のハウスの解体を回りました。
 これまで一部の組み立てに携わったことはあったけれど、解体するのは初めての経験でしたが、解体も解体で面白く、今まで知らなかった部品を知ったり、ハウスはこうやって補強されていたんだと学ぶことも多かったです。
 また、大屋根のビニールを取り外すときにはその上にまだ雪が積もっていて、まず雪下ろしからしないといけませんでした。それが1番くらいにハード作業でしたが、須原さんのアイディアで波板でシュートを作って、雪をどんどん外に出していったのが大変だったけど面白い作業でした。

 2月10日から1棟目の吉畑手前ハウスの修繕が始まりました。1棟目は須原さんが付いてくださり、全体を見て指導してくださいました。
 修繕が始まった1日目、作業始まりに須原さんがある言葉を教えてくださいました。
「為せば成る 為さねば成らぬ何事も 成らぬは人の為さぬなりけり」
「やればできる。何事もならなければできない。できないのはやろうとしないからだ」
 大雪で潰れたハウスでも修繕できると思ったら、修繕できる。できると思わなかったら修繕できないだろう。
 そういう意味でした。

 それから2か月間、ずっと、須原さんが話してくださったこの言葉が胸の中にありました。1棟目が完成したときは1番にこのことを思いました。
 本当に修繕できた。見たときはもう元に戻らないのではないかと絶望してたけれど、修繕するんだと思ってやったら、本当に修繕できたと思いました。
 2棟目、3棟目……と完成していくごとに、この言葉の真実味を強く感じました。どんなことでもできないことは本当は何もなくて、できないのは自分がやろうとしないからで、やろうと思ったら、いくらでも不可能を可能に変えられるのだと信じられた経験でした。
 きっと摂食障害からの回復も同じで、回復しないと思っていたら回復しないだろうけど、絶対に回復すると思ったら、こんな自分でも回復することができるのだと、今は思うことができます。

 大雪でハウスは修繕し直すことになったけれど、お父さんも、「それがかえって良いことにも繋がったね」と言ってくださったように、古畑ハウスやユーノスハウス、藁ハウスは以前よりも面積の広いハウスにすることができました。
 古畑ハウスな長い間、修繕してこなかったけれど、今回を機になのはなの玄関前にふさわしいハウスになったし、藁ハウスは菊以外にも使用できそうです。

 人生すべて起こったことは全部良いことだと、お父さんが教えてくださいます。きっとこの出来事にも言えて、大雪でハウス5棟が潰れたのも決して悪いことだけだったわけではなくて、ハウスを美しくリフォームすることができたし、結果として自分たちもハウスの仕組みや知識を知ったり、建築の技術を高めたり、何でもやろうと思ったらできるということを体感したり、そして仲間の存在のありがたみをたくさん感じられた、良い体験になりました。
 そのことが今はとても嬉しいことだと思っていて、もうこれからはこういうことは起きないで欲しいけれど、今となっては起こって良かったと思えます。そう言える結果に終わったことが、言葉にならないくらい嬉しいです。

 今日でこのメンバーとも解散だと思うと、ハウス5棟完成が嬉しい気持ちよりも寂しい気持ちの方が強かったけれど、お母さんが、「まだ解散と言わないで、今度は中庭にガラスハウスを建ててよ」とおっしゃってくださったことがとても嬉しかったです。
 またこのメンバーで作業できると思うだけで嬉しいし、建築道具を使って、スケールの大きなものを一から作ることがとても楽しいなと思います。

 この2か月間で覚えた、ハウスの解体の仕方から組み立てまでの1つひとつの工程をしっかり記録に残して、もしまたハウスを修繕するようなことがあれば、いつでもすぐにできるように、自分のものにしたいです。
 そして今回覚えたことをなのはなの建築に活かして、もっとなのはなの役に立てていけたらいいなと思います。
 改めて、ハウス修繕完了記念日と、この2か月間のことをずっと覚えておきます。
 良い経験をさせてくださって、ありがとうございました。
(来年からは絶対にハウスの雪対策を欠かさないように気をつけます)