【2月号⑫】「桃の冬剪定 ―― 心地よい切れ味と共に ――」あんな

  
 冬の間、桃の樹は休眠期に入っています。冬季剪定は、この時期に行う、甘い桃作りに欠かせない大切な作業です。樹形を整えること、日当たりと作業性をよくすること、樹勢のコントロールなどが、剪定の目的です。

 桃が健やかに生育していくこと、また、作業をする自分たちがやりやすいように、ということをイメージしながら枝を落としていきます。

 今シーズンは、お正月の三が日が過ぎた一月六日から、開始しました。二月中には終えたい目標です。

 剪定は、ななほちゃん、りなちゃん、つきちゃんと、答え合わせ方式で進めています。

 答え合わせ方式というのは、それぞれが剪定鋏と鋸を持って、主枝の一つを担当して見ていくのですが、切る枝を考えてから実際に切る前に、私に声をかけてもらい、私が実際に切る枝を示して、その枝を落としていくという方法です。

 これだと、剪定を完全に習得できてなくても、それぞれの人がやりながら覚えていくことができて、剪定も切り手が多いため作業の進みが早いです。

 剪定は桃の作業の中でも難しい作業ですが、それだけ面白い作業だと感じます。
  
  
 桃の枝を今後どのように伸ばしていきたいか、また桃としてはどのように伸びていきたがっているかということを感じて答えを出したり、枝が伸びる予測と葉がついたときをイメージして日当たりを良くするように考えたり、前回の夏剪定やこの先の夏剪定や来年以降の冬剪定と繋げて、次はここまで切るとか、半年後一年後、二年後に繋がったプランを立てたり、桃の一本一本の樹勢や品種の違いを考慮したりなど、いろいろな角度から桃の様子を見たり感じたりしながら、理に適ったベストな答えを探していきます。

 枝が混雑していた樹が、剪定によって、枝の重なりがなく、形も綺麗に整えられると、爽やかな、達成感があります。

 今後、もっとメンバーのみんなが剪定を深めることができたり、楽しく進められるように、今のやり方に留まらず、試行錯誤をしながら、作業をしていきたいです。

■切れ味の復活 

 桃用の剪定ばさみは、持つ部分がオレンジ色の、直径一センチメートルほどの太めの枝も楽に切ることができる大きめの剪定ばさみを使っています。しかし、切れ味がかなり落ちてしまっていました。

 よく見ると、刃がでこぼこして傷んでいたり、刃が減って、刃の部分と受ける部分が噛み合わなくなっていたりしました。そのため、剪定ばさみを分解して刃の部分だけにして研ぐことにしました。

 以前も剪定ばさみを研いだことがありました。ただ、そのときは本格的に分解して研いだのではなかったのですが、今回は、本格的にネジを外して分解して、刃の部分だけにして研がなければ復活しないだろうと思いました。 

 そう思ったときから、剪定ばさみを分解して研ぐことに、とてもわくわくして楽しみでたまらなくなりました。

 早速、普段から包丁研ぎをしてくれているさくらちゃんに、

「桃で使っている剪定ばさみを研ぎたいのだけど、ちょうどいいような砥石はあるかな?」

 と訊いてみたところ、何番くらいの砥石がいいかと訊いてくれました。正直、何番くらいがいいのかわからなかったので、「刃がこぼれていて結構しっかり研げるのがいい」と伝えたところ、さくらちゃんが選んでくれたのは一〇〇〇番の砥石でした。

「これだと、砥石を持って研げるかなと思って」

 と渡してくれたのは、割れた部分のある砥石で、さくらちゃんの心遣いに暖かい気持ちになりました。

 剪定ばさみのネジを外して分解するのは初めてで、少しスリリングだったのですが、工具を使ってネジを一つずつ外していくと、予想通りに外れて、刃の部分を外すことができました。
  
  
 桃用のオレンジ色の剪定ばさみにも二種類あって、一つは刃の部分だけの部品になり、もう一つのタイプは、柄の部分と刃の部分は外せないのですが、受ける部分の柄と刃のほうの柄は分解できたので、研ぐ分には問題ない状態にできました。

  普段、当たり前のように使っている剪定ばさみですが、詳しく知ることができて、親しくなれた気がしました。使われているバネや仕組みなど、剪定ばさみのタイプによっても違っていたりと、興味深く思いました。

 刃物を研ぐのはとても久しぶりだったのですが、以前、お父さんが教えてくださったことを思い出しながら、包丁研ぎと同じ要領で、刃を砥石に当てていきました。

 どれくらいの角度をつけたらいいのかというのが、研ぎながら自然に解っていって、でこぼこしていた刃が綺麗に直線になり光っていくのを感じて気持ちが高揚しました。時々、爪に刃を当てながら、ちゃんと研げているかを確認して、仕上げていきました。                     

 すべての刃を研いで、ネジをはめていき、はさみを元通りに組み立てました。そのまま古畑に行って桃の枝を切ってみると、サクッと心地よい切れ味に復活したのを感じ、小さなことだけど、とても嬉しい気持ちになりました。

 三つ研いだうち、一つの剪定ばさみは、かみ合わせが悪く、刃は鋭利だけど切り切れないという状態だったため、よく見ると、刃と受けるほうの間に細い隙間ができていました。

 それは刃の減りと受けるほうの減りの微妙な差があるためだと思い、他に研いだ同じタイプの鋏と、刃と受けるほうを入れ替えて組み立て直したら、両方の鋏ともスパッと最後まで綺麗に切れるようになり、それまた嬉しかったです。

 実際に、その切れ味のよくなった剪定ばさみをみんなに使ってもらえることが嬉しくて、より剪定の時間を楽しく感じました。