なのはなファミリーの衣装部として、気持ちを表現する、伝える術の一つとしてふさわしい衣装にしたい、という思いがいつもあります。その中で、衣装の組み合わせや配色を考えて、一番良い形を目指します。
二〇二二年のスプリングコンサートを経て、ウィンターコンサートの衣装部の目標は、主体性を持って、自分たちはこれがいいと思う! という意志を持つこと、でした。ウィンターコンサートは、私以外は新しい衣装部メンバーでの活動だったこともあり、緊張や不安もありましたが、みんなでこの目標を持って始めました。
今年のお父さんのお誕生日会では、ウィンターコンサートの中の曲目で、衣装やダンスを各チームで考えて、お父さんにプレゼントをしました。そこで誕生した衣装が、『ビリーバー』と『ザ・シード』です。
『ビリーバー』は、まえちゃんチームが考案をしてくれました。劇中では、悪役ギブソンの登場シーンの後に入る曲。黒と銀の二色で、強さやシリアス感のあるこの曲にぴったりな衣装でした。
なのはなファミリーでは定番の、銀スカートという、スパンコールの付いたミニスカートを裏返しにして、少しだけ表のスパンコールを見せるように形を整えて頭にかぶったり、布のレース仮面を、上下逆にしておでこに付ける、という斬新で新しい使い方が詰まっています。どこか奇抜で近づきにくさを感じる、まえちゃんチームだからこそできた衣装でした。
『ザ・シード』は、ゆりかちゃんチームで考えた衣装で、私も一緒に考案をしました。植物が、どんなに過酷な状況でも、卑屈にならずに生き抜く強さ、生命力。
また、人間は一本の管のような生き物から出発した、とお父さんが話してくださったことが印象に残っていて、シンプルで精錬されている、絶対にブレない強さを感じさせるような衣装にしたいという思いがありました。

土台は、“管”というテーマで、スパンチューブとスパッツに、腰にベールを巻く、という一番シンプルな形にしました。そこからどう発展させていくか、自分たちの理想を突き詰めていきました。思い通りにならない壁もあり、チームのみんなで苦戦しながらも考えていく過程がすごく楽しかったです。
ゆりかちゃんが、前からやってみたかったというフラダンスのイメージ画像を参考に、手首と頭の飾りを作ってみました。針金に緑や金のテープをつけて、手首と頭に螺旋状に巻きつけると、植物のつるが腕に撒き付いているイメージを再現でき、チームメンバー全員のお気に入りのアイテムになりました。
頭の中のぼんやりとしたイメージを具体的な形にするのには時間がかかりましたが、最後は自分たちも納得のいく衣装ができ、コンサートでもそのまま採用してもらえたことが嬉しかったです。
■光が差したよう
全員で踊るフラダンス曲でした。このダンスができたとき、お母さんが、「全員黄色のフラスカートでいきたいんだ」と言ってくださいました。黄色のフラスカートと、その上からオレンジのミニスカートを履く組み合わせは、お母さんが一番好きな衣装です。とても発色がよくて、全員が揃って着ていると、光が差したようにその空間がパッと明るくなります。

しかし、オレンジスカートは全員分はなかったので、今回初めてオレンジのベールを作って、代用してみました。届いたオレンジ色のシフォン生地は、オレンジスカートと同じくらい発色がよくて、違和感なく馴染みました。今後の衣装の幅も広がりそうで嬉しかったです。
さらに、オレンジスカートの腰部分についている竹の飾りも、全員揃えられるように、取り付け式の竹のベルトを作りました。須原さんにも協力していただいて、細目の竹を一センチほどの厚さに輪切りにしたものを六個並べ、太めの柔らかい針金に通す、というシンプルな作りです。
針金にしたことで着脱が簡単にでき、オレンジベールに付けたら、元々あるスカートとほぼ同じに見えました。全員が同じ衣装を揃って着られたことで、今回一番と言ってもいいくらい、華やかになりました。

全体演奏の『ドラムライン』でも、この衣装で揃えてマーチングができたことも嬉しかったです。管楽器の金色とあいまって、より華やかでした。
中心でペアダンスを踊る、とうこさん役のやよいちゃんと、たかおさん役ののんちゃんの衣装はずっと役者衣装でしたが、通し後の集合の際に、ふとお母さんが、「今度お遊びでアフロのかつらを被ってみて」と言ってくださいました。次の五臓六腑のシーンに繋がるようにと、お母さんの提案でした。
最初は驚いたけれど、明るい色の衣装に囲まれると沈みがちだった二人が、負けないくらいに引き立って良かったです。このようなお母さんのアイデアで、いろいろなところで衣装がブラッシュアップしていきます。
全体として、見ているだけで幸せになるような、そんなダンスとみんなの表情にピッタリな衣装でした。
オープニングの曲、『スカイフォール』。この曲のポイントとなる衣装のアイテムが、“スカイチュール”です。お父さんのお誕生日会で、あゆちゃんチームが『スカイフォール』の衣装考案をしてくれて、その中で使われていたのが、チュール生地を使って作った飾りでした。
『スカイフォール』から連想する色、青と紫のグラデーションの生地はすごく綺麗で、透明感があります。幅二十センチくらいのチュール生地の真ん中を並縫いして、くしゅくしゅと寄せて作られています。すごく簡単なのに、かわいくて綺麗な飾りになっていました。
最初は、白マントを使った衣装にしようと考案を進めていましたが、なかなか良い形にならなくて苦戦した衣装でした。お母さんも一緒にパソコン室で考案をしていたとき、「このスカート履いてみて」とお母さんが言ってくれたのが、白のシフォンスカートでした。
私は、『スカイフォール』のシックな印象が、ふんわりとしたシフォンスカートのイメージとはつながらなかったのですが、着てみると、スカイチュールとマッチして、収まりがすごくよかったです。自分の気づかないところで、勝手な固定概念に囚われていたところがあったな、と心を柔軟にして衣装考案をする大切さを感じました。
■海馬をイメージ
『リカバリー』は、今回のウィンターコンサートのラストの曲でした。毎回のことですが、ラストの曲は絶対に妥協をしたくなかったです。
考案をする前に、応接室でお母さんと話しました。その時点では、具体的には決まっていなかったのですが、イメージは、“海馬”でした。脚本書きの資料の中に海馬の写真があって、それを見せてくれました。青と緑と少し紫の、円状のオーロラのような帯から、細い糸のような、触手のようなものが生えている写真でした。

それは、宇宙を撮った写真なのではないか、と思うくらい美しくて幻想的なもので、これが自分の頭の中にもあるのかと思うと、脚本にあるように、宇宙と人体は一体なのだと、実感しました。
その美しさ、イメージを衣装でも表現したい気持ちがどんどんと膨らみました。私が絶対に使いたいと思ったのは、ソーメンと呼ばれている衣装です。腰部分がスパンコールで、そこからスカートのように、糸が垂れているアイテムで、海馬の写真を見た瞬間、ぱっと頭に思い浮かびました。特に今回、新しくソーメンを購入して、新色もすごく綺麗な色があったので、それをうまく使いたいと思いました。
考案では、あゆちゃんやさとみちゃんにも助けてもらいました。何種類かソーメンの付け方や使い方を考えましたが、結果的には一番オーソドックスな、腰につけるスタイルが一番キレイに落ち着きました。
形が決まったら、スパンチューブとスパッツとソーメンのきれいな色の組み合わせを試着しながら考えて、最終的には、銀と白のソーメン、ピンクソーメン、水色ソーメン、の三パターンの組み合わせができました。
それを配色して、通し練習でみんなに着てもらいましたが、なかなかはまる配色にたどり着けず、夜にお母さんやあゆちゃんが見てくれる中で衣装合わせをしました。
『リカバリー』の見せ場の一つは、三つのチームが入れ替わりで次々に踊るところです。そこで、チームごとに色を統一して、一つひとつの塊が流れ星のようにステージを舞っていくようにしたらどうかというあゆちゃんの一言で、良い方向に動き始めました。
試しに、一チームごとに色を変えて、三色の構成にしてみると、一つずつは綺麗でも、全員が出ているフォーメーションでのバランスが悪く、その場ではしっくりとくる配色はできませんでした。
でも、それをもとに、一番キレイで映える、白と銀のソーメン衣装を一チーム目と三チーム目にして、二チーム目がピンクソーメン衣装、その他のところで水色とピンクソーメン衣装の人をバランスよく配置してみたらうまくいくのではないか……と思い、次の日の通し練習でみんなに着てもらいました。
通し後、「いいね」というお父さん、「すっごくきれい」というお母さんとあゆちゃんの言葉、みんなの拍手と笑顔がありました。その言葉に、安心感と嬉しさでいっぱいでした。本当は泣けてしまうくらい嬉しかったけれど、気持ちはすごく落ち着いていて、不思議な感覚でした。
今回の衣装の中で一番思い入れのある、一番大好きな衣装です。
『スカイフォール』のあゆちゃん、『エンジェルズ』のまなかちゃん、『ムーンライト・ソナタ』のさやねちゃん。その三人は、“小林〇〇幸子”にするべく、とにかく派手な衣装になりました。
あゆちゃんが『スカイフォール』で乗っていた大きなスカートの台は、さくらちゃんや須原さんが土台を作ってくださって、それにビニールを張って形作り、青のサテン布を巻いて作りました。
夜に、体育館であゆちゃんとさくらちゃんと一緒に作った時間が、すごく楽しかったです。その場であゆちゃんが、ビニール袋を膨らませて立体的に貼り付け、サテン布を綺麗に巻いていってくれました。
試行錯誤しながらもできた形は、思っていたよりも可愛く、メルヘンチックになりましたが、お父さんの反応は上々でした。そこに、かにちゃんが持ってきてくれた電飾を付けるとすごく綺麗で、体育館にいたみんなが集まってみんなで見た時間が幸せでした。
まなかちゃんとさやねちゃんは、以前に写真館から頂いたドレスを着てもらいました。まなかちゃんは、エンジェルズらしい薄ピンクのドレスでした。ふんわりとした色とシルエットが、優しくて幸せな曲の世界観とぴったりで、見ているだけで幸せに満たされました。
『ムーンライト。ソナタ』は、さやねちゃん、まえちゃん、さとみちゃんが並んで演奏するアンサンブルで、さやねちゃんがずっと以前から練習を積み重ねてくれていた曲です。
さとみちゃんはピンク衣装、まえちゃんは『ビリーバー』の黒が基調の衣装だったので、それにぴったりなピンクと黒のドレスにしました。濃いピンクの色もさとみちゃんとマッチしていて、最初はバラバラになりそうだった三人の衣装が、さやねちゃんのドレスで一気に統一感が出ました。さやねちゃんのドレス姿も、すごく美しかったです。
まなかちゃん、さやねちゃんの衣装は、ともに、なかなか着る機会のないドレスでしたが、うまくいくように祈るような気持ちでお母さんとドレスを選びました。ウィンターコンサートでステージで活用することができて、二人が本当に綺麗にステージに立っている姿がすごく嬉しかったです。
役者の中で特に力を入れたのは、初めて誕生した単細胞生物、LUCA(ルカ)の衣装です。脚本ができる前の段階から、「ルカ役のももかちゃんにはこれを着せるつもりなんだ」とお母さんが見せてくれたのが全身タイツで、黄色とメタリックのピンクをももかちゃんのサイズに合わせて購入しました。
色はピンクに決まり、最初はその一枚だけだったところから、脚本ができてももかちゃんの役が固まっていくのと同時に、衣装もどんどんブラッシュアップされていきました。
まず、劇中で「これあげる」とエクソソームを渡すシーンで桃スポンジを渡すので、桃スポンジを特徴的な装飾として、襟元にネックレスのように縫い付け、足首にもぐるりと取り付けました。

さらに、ウレタンのパイプを円状にして腰に入れると、宇宙人のようなシルエットになって、人間らしさがなくなりました。そして、両足首と両手首にも同様に細目のパイプを入れてみると、さらに異世界、異次元な感じが増しました。
最後には、雪の結晶の形をしたブロックを、首元の桃スポンジと、額のところに付けて、ルカの衣装が完成です。
通しをする度にバージョンアップしていくルカの衣装を、お母さんと、ももかちゃんと一緒に作らせてもらえたことがすごく嬉しかったです。ももかちゃんも毎回喜んで試着してくれて、「ありがとう!」と元気な笑顔で返してくれたことでたくさん気持ちを救ってもらいました。
お母さんの、最後までもっと良く、もっと良くしていこう、という気持ちがルカの衣装でも強く感じられて、私もそういう心持ちをもっと持ちたいと思いました。
今回のウィンターコンサートの衣装は、大人数ダンス曲が多く、新たに制作するものや、修繕する衣装がたくさんありました。
大人数ダンス曲の衣装を衣装部で作るとなると、どうしても時間と労力がかかってしまいますが、今回は朝食前の時間にみんなが手伝ってくれて、毎日少しずつ制作や修繕を進めることができ、本当にありがたかったです。みんなの力をたくさん感じることができました。
また、新作の衣装も大活躍でした。今までなかったオレンジや緑のシフォン布で作ったオレンジベールや緑ベール。『リカバリー』では銀白のソーメン。また『オーバーパス・グラフィティ』という曲でも、緑と黄色の新色のソーメンを使うことができました。
視床下部役のかにちゃんの衣装にも黄色のソーメンが使われていたりと、今回、新作ソーメンが大活躍で、衣装の幅が広がったことが嬉しかったです。
スパンチューブも、今回のテーマカラーである青と紫を全員分賄えるくらい揃えることができ、全体としてすごく統一感のある、綺麗な色に仕上がりました。
衣装部としてウィンターコンサートの準備をしていく中で、自分の不出来なところや至らないところがたくさん見えました。お父さん、お母さん、スタッフさん、衣装部、なのはなファミリーのみんなに助けてもらって、支えてもらったことに、本当に感謝しています。
みんなが作ったなのはなファミリーの衣装でした。悔しい気持ちも、迷惑をかけてしまって申し訳ない気持ちもあるけれど、コンサートは大成功で、結果的に衣装も良かったと思います。
いくら不出来でも、最後まで諦めない気持ちだけは持ち続けました。だから、前を向いて、これを成長の糧として、自分の回復のサクセスストーリーとしていきたいです。