「てつおとなって、気持ちを伝える」 さき

 

 

◆旅をしていくうちに

 スプリングコンサートから8か月……。「宇宙と人体」をテーマに、市ヶ谷博士とおさらば三人組、異次元からやってきたナナポンと一緒に旅をしてきました。
 今回はその続編で、「人体」の中へ入って旅をします。
 宇宙はなぜできたのか、人類はなぜ生まれたのか、その答えは、アインシュタインがリーゼルに向けた手紙にありました。宇宙は大きな愛で満ちていて、人類はダークマターの愛の力によってつくられた、と。
 しかし、豊かな現代でなぜ生きにくさを抱えているのか。なぜ依存症を発症してしまうのか。
 その答えを見つけに、ウィンターコンサートでは、身体の中へ入り、細胞や臓器たちに出会いながら冒険をしました。
 旅をしていくうちに、「こころ」がどこにあるのか、答えに近づくほど心が解放され、自由になっていく気がしました。

 ウインターコンサートでの私の使命は、「てつお」としてこの脚本を伝えるという使命です。自分のセリフ、一言一言は、自分の言葉でもあり、みんなの言葉で、それを代表としてホールに来たお客さんに伝える大事な役割があります。
 その使命を感じながら、私はステージに立とうと思いました。
 ウインターコンサートに向けて、ダンス練習が始まり、十一月からは演劇練習が始まりました。演劇では、本当にたくさんの失敗はあったけれど、みんなと演劇練習する時間が何よりも楽しくて濃い時間だったと思います。

◆「演じる」のではなく、なりきる

 ホール入りして二日目に、お父さんから、「キャラになりきれてない。それじゃあ見ていてもつまらないよ」と言われた時は正直ショックでした。
 セリフも覚えて、動きもできて、自分はなりきれていると思っていたからです。
 けれど、それは間違っていました。確かに、劇は成立しているけど、そこには一番大事な「気持ち」が欠けていました。
 お父さんが私たちに言ってくれた言葉で、私は今まで、「怒られないように、セリフや立ち位置を間違えないように」とばかり考えてしまっていた、と気づくことができて本当によかったと思います。
「はたから見ると、気持ちがあるのとないのとで、そんなに演技に変わりはないかもしれないけれど、見ている側にはそれが伝わるんだ」
 というのが今ならよくわかります。あのとき、私には、伝えるという「気持ち」が足りなかったんだと思いました。

 その日、帰ってからなおちゃん、のんちゃん、ななほちゃんとずっとお互いのキャラについて考え、練習しました。「演じる」のではなく、「なりきる」。そのことに尽きるのだと、身をもって感じます。
 そして次の日の通しでは、絶対に伝えてやるぞという強い気持ちで向かいました。
 そうすると、動きも意識しなくてもできるようになり、セリフも言いやすかったです。
 ホール入り期間中も、お父さんが演劇を見てくださって、最後の最後まで細かいディティールを大切に、よりよくしようと練習を重ねてきました。

 ゲネプロでは、初めてフルメンバーがそろい、卒業生ののんちゃん、しほちゃん、かりんちゃんが来てくれての通しができました。いつもなのはなの気持ちで、こうして帰ってきてくれる仲間がいることが幸せです。ホール入りして人数が増えるたびに、なのはなの輪がどんどん広くなっていく感じがしてとてもうれしかったです。ゲネプロも本番と同じ衣装とメイクでするので、本番以上に緊張したんじゃないかというくらい心臓がバクバクでした。その経験が、本番ではいかされて、ほどよい緊張感で臨むことができたと今では思います。

◆てつおは私で私はてつお

 いよいよ、本番。当日は、お父さんパワーのおかげか天気が良く、当日の朝をすがすがしく迎えられました。
 本番前、幕が上がる直前に私は自分に誓いました。
「絶対に伝えるぞ、私はできる」と信じ、幕が上がるのを待ちました。
 舞台袖から感じるみんなの空気はすでにスターで、私もスターです。
 そして十三時、本ベルが鳴り幕が上がった瞬間、思わず目から涙のようなものが出てきました。
「まだ泣くには早い、私はスターなんだ」
 と思って涙を引っ込め、『スカイフォール』を渾身の魅せる気持ちで踊りました。

 踊り終えて、今度は「てつお」になります。黄緑のニットとレザーのズボン、仕上げに博士が被せてくれた帽子をかぶり、まぶしい照明と大衆の目が見守るステージに立ちました。
 そのとき、私は今まで感じたことのない感覚を身体に覚えました。
 今まで覚えたセリフも、動きも、すべてが実体験として、まるで今初めてリアクションをして、本当に自分のこととして言っているように思えたのです。
 「てつおは私で、私はてつお」でした。「気持ち」があれば、セリフだって動きだって、なんでもいいんです。なりきってしまえば、それがお客さんには伝わるんだと思いました。

 そこから、一気に楽しさがこみ上げてきて、みんなと旅をするのが楽しくてしょうがなかったです。ずっと自分の中にあった、間違えたらどうしようという不安はいつの間にか消えていました。ただ感じるのは、演じる楽しさと、伝えたいという気持ちだけです。

◆人生を変える脚本

 自分の体験が、この脚本と結びついて、答えが見つかっていく。この脚本は私たちにとって、人生を変えていくきっかけとなる脚本だと思いました。
 いろんな臓器にワープして最後に小腸に出会ったとき、「こころ」は小腸にあり、大切な人とおいしいものを食べて小腸を喜ばせることで、視床下部の愛情の中枢に幸福の信号を伝えてくれる。幸せの先送りをせず、今、幸せであること。それが本能の暴走を防ぎ、そうすれば依存症になることもない。
 ということが、すべての答えでした。損得勘定に支配され、ひきこもりになり、摂食障害になったけれど、そのことでやっと生きる道が見えました。
 それを、ステージで伝えられること。それがどれだけ幸せなことで、どれだけ自分の人生にとって大切かを実感しました。

 スプリングコンサートから続いた長い旅も終わり、とうとうラストシーンを迎えました。とうこさんがかざした剣の先に、星空のような海馬が広がり、その光景が今でも目にやきついて離れないくらい美しかったです。

 私の横には、博士がいてとうこさんがいて、たかおくんがいて、ナナポンがいる。
 それが当たり前だと思っていたけれど、もう終わりなんだとわかって、ずっと旅をしていたい気持ちになりました。
 最後のセリフで、「いよいよ、私たち、力を合わせて、愛の世界を作っていく」という言葉があります。その言葉を、思い切り言えたとき、もう心残りはないと思いました。

◆てつおと共に成長して

 この旅は、この日で終わりだったけど、人生の旅は続きます。
 私の使命は、損得勘定の世の中で生きにくさを抱え、苦しむ人たちのために、自分の体験を通して、その日を幸せとし、利他心を持って生きることの尊さを身をもって伝えるという使命です。そこに生きる意味があると思います。なのはなの子として、この使命を全うしたいです。

 最後に、今回のウインターコンサートで得たものは、私の人生にとって、とても大きいです。
 私は、「てつお」という役をさせてもらって変わったと思います。苦しかったとき、誰かと話すこと、外に出ることさえもできなかった私が、ホールのステージで、歌って踊って演技をするなんて信じられませんでした。そんなこと、奇跡が起きたとしてもありえないだろうと。
 けど、それが現実になったんです。本当は、小さい頃から、人前で歌って演じることは自分の中の小さな夢でもありました。

 初めて脚本をもらったときのことは今でも覚えていますが、心底うれしかったです。今までひきこもっていた自分の殻を破り、何もかもさらけ出してしまうと、なんだかすっきりしました。
 「てつお」も、旅をする中で成長するように、自分も一緒に成長した気がします。
 気は小さくて、泣き虫で、負けず気嫌い。喧嘩をすると、泣きじゃくってやけくそで無鉄砲に戦う。不器用だけど、心があって、強くて、人一倍こころが熱い、てつおが大好きです。
 私は「てつお」になれたことを誇りに思います。そのおかげで、私は今まで恐れていたものを投げ出して、心を開放することができました。

 お父さん、お母さん、私はなのはなの子になれて幸せです。ウインターコンサートでもらった、たくさんの幸せを次はまだ見ぬ誰かにかえせるように、これからもいつも、前のめりになって、利他心の心持ちをしっかりと持って、生きていきます。
 支えてくださった、ホールの竹内さんをはじめ、音響、照明、カメラ、台所のスタッフさん、このコンサートに関わったすべての方に、ありがとうございました。