12月18日(日)「使命を胸に、仲間と表現する ――2022年ウィンターコンサート(前半)」

12月18日のなのはな【前半】

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 宇宙と人体が一体となった、美しい光景が目の前に広がります。
 どこまでも無限に広がり続ける広い宇宙空間と、自分の内側の細胞というミクロの世界が、『幸せの信号』という光で、一つの答えでつながっていきます。

 幸せは、何年・何十年先の遠い未来ではなく、すぐそばに、自分の手の中にあったのだ。
 依存症になることのない世界、生きることに苦しむ人が出ない世の中は、作っていける。
 愛の世界は、実現できる。実現していくことが、私の使命。

 私は、瞳の中にたくさんの光を集めて、その強い気持ちを伝えました。

 

 これは、私たちの回復(リカバリー)の物語です。
 摂食障害という依存症になった私たち1人ひとりが、自分の人生をかけて回復し、希望をもって生きていく、その生き方そのものが、愛の世界を作るたったひとつの方法です。
 依存症のメカニズム、親離れ子離れ、利他心。
 なのはなファミリーの原点でもあり、普遍的なメッセージです。
 ダンス、演奏、演技、照明、舞台背景――
 ウィンターコンサートを構成するすべてが、そのメッセージの象徴となり、私の身体も言葉もひとつの記号となり、みんなで思いを、伝えました。

 

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〈ウィンターコンサートを上演した、勝央文化ホール〉

 

 2022年のウィンターコンサートは、大成功となりました。
 私たちの思いを、見に来てくださった方に伝えることができました。
 コンサート当日まで仲間と積み重ねてきた、「今」という時間。
 それぞれが、自分の役割の中で乗り越えてきたハードルがあり、みんなと力を合わせて作り上げたものがいくつもあります。

 完成させられるかどうかなんて、わからない。
 そこになんの保証もないけれど、あるべき表現ができることを信じて、この日まで来ました。
 完成というゴールではなく、目標に向かって確かに積み重ねてきた過程こそが、ある意味、私たちの完成形です。
 だから、すべてをさらけ出しても怖くない、という気持ちでステージに立つことができました。

 

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「幸せを先送りにしないこと。いつも、幸せであること」
 私は、表現しながら、自分の中に何度もこの物語の答えを刻むことができました。
 私にとって、「愛を作る人間らしい心」「幸せを感じる心」の答えは、切実なまでに今、自分が求めているものでした。

「人生というのは、薄氷の上を歩いているようなものだ」とお父さんが話してくれました。
 そうなのです。依存症の症状のさなかにいるときはもちろん、当たり前に寝て起きて食べて、仕事をして暮らせている今現在だって、踏み外して生きにくさの底へ落ちてしまう怖さは、同じなのです。

 いま、目の前の大切な人と過ごす「今」をないがしろにして、ありもしない「未来の幸せ、未来への保証」のために幸せを先送りして苦しい生き方をしてしまう。
 それが私の足元に、薄い氷の下にあります。
 そんな自分だからこそ、この物語は伝えられるのだ。
 私が伝えないで誰が伝えるのだ、そういう覚悟がありました。
 そして、私は、この物語を生きて、生きて、生き続けていく、その気持ちを確かにできたコンサートでした。

 本番のこの日、午前9時にホールへ入ります。
 最後の確認の時間、私たち役者チームは、ラストシーンの確認をします。
 クライマックスとなる、緊迫したシーンです。
 ゲネプロで少し立ち位置の調整が必要だと感じたため、みんなで修正をしました。
 一番いい形で見えるように、役者みんなが「ここだ!」と納得のいく立ち位置、動きにすることができました。
 確信をもって演じたい、その気持ちの熱量が同じであることを感じました。

 

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 ステージの上では、個人個人が立ち位置や振り付けなどの最後の確認をしていました。
 フォーメーションの1センチのずれが、出はけの1秒の間が、ステージの質を決めることを、ここまでの練習で私たちは実感しています。
 その思いが、静かな中にも満ちていました。
 1人ひとりが、ステージを作る責任ある1人という誇りが、この緊張感を作っているのだと感じました。その空気が心地よかったです。

 開演2時間前。控室で、お昼御飯です。
 カメラマンやビデオ撮影などのボランティアで来てくださった方が、次々と集まってきます。

「あ、あれは……!?」
 モノクロの腹筋絵柄のTシャツが目に入ります。コンサートオリジナルグッズの、Tシャツです。
 卒業生のさきちゃんの職場の方が、さっそくグッズTシャツを着てくださっていました。

 照明と大道具・小道具制作に携わってくださった、大竹さんも同じく腹筋Tシャツでした。
 コンサートスタッフ(仲間)の印のように、腹筋Tシャツを着てくださる姿を見て、「胸がいっぱいになる」という言葉はこういう気持ちを言うんだ、と思いました。

 そして、毎年写真を撮ってくださる中嶌さんと岡さんがいらっしゃいます。
 ホールの竹内さん。ホールの音響スタッフである高木さん。
 卒業生も、職場の方やご家族と一緒に、遠方からもたくさん帰ってきてくれました。

 

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 みんなが、これから始まるステージを作るのだという緊張感と、ふつふつと湧いてくる高揚感を共有しているように思いました。たくさんの人の中にいて、私は思いました。

 仲間が増えていく、というのは、本当にお互いさまの気持ちでつながっていくことなんだ。
“いま、あなたとこの時間を過ごせて嬉しい”
“誰かの力になることができることが嬉しい”
 そう誰もが思っている場所は、なんて得難いものなのだろう。

 目に見えない、大きな大きなおみこし(ウィンターコンサートのステージ)を、みんなでわっしょい! と持ち上げて、前に推し進めて、成功させたい、という思いでいる。
 全員が、その大きなおみこしのどこかの持ち場を担っていて、大きいも小さいもない。
 上も下もない、ましてや競争なんてない。
 子供の時から、ずっと私が欲しかった気持ちや、空間というのはこういう場所だったのではないか。そんな風に思いました。

 まだ幕が開いてもいないのに、しみじみと、幸せな気持ちに浸ってしまいました。

 

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〈ウィンターコンサートへようこそ!〉
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〈たくさんのお客様がコンサートへ来てくださいました〉

 

 さあ、その幸せな気持ちをエネルギーにして、いよいよ、ステージに立ちます。
 緞帳の向こうに、ざわめきが聞こえます。
 伝える人がいる、そのことが嬉しいです。
 午後1時。ウィンターコンサート、3時間を超える私たちの回復の旅へ、出発です。

 

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 幕開けの曲は、『スカイフォール』。
 緞帳が上がると、ステージの真ん中には、ボーカルのあゆちゃんが立っています。
 青いドレスがイルミネーションで彩られ、高いボーカル台で歌うあゆちゃんの姿は、管楽器も加わった壮大なこの曲を象徴するようです。
 重厚で、スケールの大きなダンス。これから始まる宇宙と人体の世界へお客様を引き込みます。

 

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「The world with love!! Oh, come on!」
 ホール全体を揺るがす地響きのような声。
 何かを企むような表情と声の音圧で、会場の空気を圧します。

「愛の世界へ」だと、笑わせるな! う~ひっひっひっひ!!

 

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 彼の名は、ギブソン大王。子分2人を従えて、この世界に踏み込んできました。
 客席の子供たちから「怖いよ~」という声も上がったほどの、迫力。
 ギブソンに扮するのは、ウィンターコンサートが役者デビューの、りゅうさんです。
 ピンマイクが要らないくらいの声量で、一気に会場の雰囲気を黒い「悪」の世界に変えます。
 なのはなの台所で、みんなのために美味しい料理をふるまう優しいりゅうさん、はそこにはいません。

 

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 ギブソン一味は言います。
「宇宙は愛のエネルギーで満ちていて、愛を形にするために人間を作った、と言われているが、実際にはどうだ? ――愛は、この地球にはない。
 愛情が生まれたとき、同時に反愛情が生まれ、損得勘定が生まれ、やがてもうすぐ、反愛情の方が上回るのだ!
 愛が壊れるように、わしらが人間全部に仕込んでやったのだ!」

 なんてことだ。スプリングコンサートで、アインシュタインの手紙から私たちが得た答えが、彼らの仕組んだ何かによって、覆されてしまうのか?!

 

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 2曲目は『ビリーバー』。
 ギブソンが従える子分たちが、愛情が破綻した世界を表現します。
 愛の世界を阻止する悪の子分たちの表情が、憎らしいほどに魅力的です。

 

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 ギブソンたちの話を聞いてしまった、ナナポン。
 愛の世界を作らせない、ですって? 一体、彼らはなにを仕組んだの?!
 ナナポンは、市ヶ谷博士のもとに走ります。

 パワースポットでの出会いから、8か月。
 時空を超えて旅をした、おさらば3人組のとうこ、てつお、たか、そしてナナポンと博士たちが、再び集結します。

 

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「愛の世界ってなんだろう――?
 結婚や子育てが愛情というなら、愛情ってお金がかかるわよね。
 自分らしく生きたい、一流の研究者になりたい、と思ったら……
 愛は、研究の邪魔になる!!」
 とうこさんは、まるで人が変わったように、こんな疑問を口にします。

 いや、とうこさんだけではなく、いまの競争社会の中で生きていると、そんな疑問は多くの人がふと持つのではないでしょうか。
 かくいう私、市ヶ谷も、研究に没頭して、『愛』を見過ごし、同じような思いを抱えたことがあるのです。

 

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 スプリングコンサートでたどり着いた答えから、さらに一歩踏み込み、問いを投げかけます。
「愛の世界って、何だろう?」
「愛する心って、当たり前に持てるものなのだろうか?」
「では、今、私(たち)は愛を形にする存在として生きているのだろうか?」
 私は、この脚本を手にした時、私も愛について自分としっかり向き合うことが必要だと、思いました。この、とうこさんの口にした問いは、私自身の問いともなって、物語は進みます。

 

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 ギブソンの言う話が本当だとするなら、愛情がどんなふうに減っているのだろうか?
 よし、調べてみよう!

 おさらば3人組たちの声に、仲間が集まります。役者たちが、ステージに勢ぞろいです。

 

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“ZUMBA”の振り付けで踊る、『シヴァーズ』。
 ようこそ! 音楽劇の世界へ。あなたも、一緒に旅に出ませんか? 踊りませんか?
 ミュージカルのような、にぎやかで、楽しくて、心躍る1曲です。
 りゅうさんと同じく、初ステージとなるひでゆきさん、そしてかりんちゃんも登場します。
 ギブソンだって、踊ってしまいます!
 そしてコーラス隊も、フラッシュモブのように役者のバックをにぎやかに演出します。

 テーマはシリアスでありながら、謎解きの旅は新しい出会いや発見への期待感を持たずにはいられません!

 結婚する年齢、初産の年齢が遅くなり、結婚する人の数そのものが少なくなっている。
 おさらば3人組は、愛情について調べます。
 このシーンでは、たかおのボケと、ナナポンの突っ込みに、会場から、笑いが起きています。
 市ヶ谷博士も、ちゃっかり、たかおのボケに乗ってみたり、と、役者メンバーでも、お客さんがくすりと笑える場面にできたらいいなと思って作ったシーンです。

 

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 続いては、イギリスのロックバンド、クイーンの曲『ザ・インビジブルマン』。
 アップテンポな曲にのせて、モダンダンスの振り付けで踊ります。
 エネルギッシュで、自信に満ちた表情で、決めポーズを決めます。

 

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 1曲1曲に起きる、大きな拍手。
 ダンス、バンドメンバーの強い気持ちが伝わっているのを感じます。
 私は、その拍手に背中を押されるように、強い気持ちで次のシーンに入ります。

 

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 先進国の未婚、少子化も問題だが、世界的に起きている気がかりな現象がある。
 それは一体何か? 聞こえてくるのは、群衆の足音。

 世界的に起きている、気がかりな現象。
 それは、国境を超えて不法入国をする移民の数の増加です。
 南米からアメリカを目指し、アフリカ大陸からはEU、ヨーロッパを目指し、民族の大移動が起きています。
 生まれた国によって、貧富の差が決まってしまう。そんなの、不公平だと思わないか?
 私は、損を取り戻すために、アメリカへ行くんだ!

 

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 もっと豊かになりたい、損得勘定に支配されて世界的に起きる、民族の大移動。
 それによって、多くの国でそれぞれの文化が失われて行っている事実。

 それもギブソンが仕組んだことなのだろうか?
 もうすぐ、愛情よりも反愛情の方が上回る、と言ったギブソン大王は、どこに、なにを仕組んだのか?
 博士の頭に、ひとつの仮説が浮かびます。

「たぶん……身体の中に、何かを仕組んているはずだ」

 愛情を生み出すのは、人間の心。
 もしも、愛情が減っている、というのならば、
 それは愛情を生み出す人間の身体の“どこか”に“何か”が起きているはずだ!
 人間ができるときを調べれは、なにかわかるかもしれない。

 

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「博士! この剣があれば、身体の中を調べに行くことができます」
 時空を超えられるリーゼルの剣を掲げた、ナナポンの強い意志がみなぎる、きらきらとした瞳。
 異世界からこの地球へやってきたナナポンの潔い姿は、いつでも博士たちを勇気づけます。
 私は、ななほちゃん演じるナナポンの、天真爛漫で、迷いがなく、どこまでも前向きな姿に、いつも希望を感じていました。ナナポンは、ななほちゃんそのものです。
 ナナポンだって涙がこぼれることもある、でも決して下を向くことはない。明るく、勇敢に一行を引っ張ってくれます。

「永遠は一瞬、一瞬は永遠。妊娠したばかりの赤ちゃんを、見に行く!」

 

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 人間ができるとき、赤ん坊の命が宿る場所へいざなう曲、『エンジェルス』。
 新しい命を宿し、家族として迎えるときを待つ、母親と、父親。
 ダークマターがまたひとつ、愛を形にする人間をこの世に作り出す、そんな瞬間。
 ピンクのドレスのまなかちゃんの歌声と、タキシード姿の卒業生ののんちゃんの踊りが、そんな世界をステージいっぱいに広げます。

 てつお、たかお、ナナポン、博士は、細菌の大きさになって、無事、体内に到着。
 しかし、そこには強力な免疫機能が待っていた。そう、一行は、異物、よそ者であったのだ。

 

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 新種の細菌、雑菌、ばい菌! お土産(遺伝子情報)もなし!
 体内に入った早々、大ピンチです。
 愛情を生み出す、心のありかを突き止める前に、異物として“処分”されてしまうのか?

 

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〈管楽器・打楽器によるアンサンブル演奏『サンバテンペラード』〉

 

 マクロファージに、ヘルパーT細胞、樹状細胞。
 次々に博士たちをやっつけるべく、免疫細胞たちが登場します。
『オーバーパス・グラフィティ』の曲にのせて、細胞たちがカラフルに、にぎやかに踊ります。
 細胞たちが生き生きと、体中を駆け巡って働いているような1曲です。

 

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 私にとっても、もちろん人生初の、人体の旅。
 脚本を作る過程で臓器や細胞のことを調べていて、自分の身体は、自分のものであって自分のものではないような不思議な気持ちになりました。
 自分の意思でコントロールしている部分というのは、実はほんのわずかで、細胞たちは、それぞれが生きていくために役割を果たし、細胞同士、あるいは臓器同士、脳と臓器が連携を取り、働いている。
 てつおのセリフにあるように、独立していて、社会性がある、本当にそんな風に思いました。

 

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 お父さんも『合議制』という言葉を使って説明してくれることがあります。
 私の意識が思うよりも、私(の身体)は、ちゃんと優しく愛をもって生きようとしているのではないか、ときには私の行動や意識が間違った方向にいかないように、教えてくれているのが身体なのではないか。
 後に出てくる、内臓たちも含めて、私はその声に耳を傾けたい、と思いました。

 さあ、てつお、たかお、ナナポン、博士たちはピンチを脱することができたのか?

 彼らを救ったのは、体内で初めて出会う、謎の細胞……
「コレ、アゲル!」
 彼女からもらった、丸い物質。
 そこには、『攻撃しないで』のメッセージが書かれています。
 免疫システムに攻撃をやめさせたこの物質は、がん細胞も持っている、というエクソソームです。

 

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 あなたは、誰?

「わたしは、LUCA」

 物語のカギを握る存在、LUCAが博士たちを救います。
 彼女は、40憶年以上前から、地球上の生命を見守っているという言葉を残して、去っていきます。
 ももかちゃんの、人間ならざるもの、不思議な宇宙的なセリフ回しが、いっそう謎を深めます。
 とても難しい役どころですが、ももかちゃんがお父さんお母さん、役者メンバーと一緒に練習を重ねて、このかわいらしく、不思議なLUCAを演じ切りました。

 

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 私も、練習のたびに、ももかちゃんのLUCAがLUCAらしく進化していくのを感じて、生き生きとそのキャラクターが立っていくのがうれしかったです。
 資料を集めていたとき、『LUCA』という存在を見つけ、私はそれが女の子の名前のようで、魅力的に感じ、ぜひLUCAというキャラクターを登場させたい、と思いました。
 それが、ももかちゃんのLUCAとして、魅力的なキャラクターとして実現しました。
 このLUCAが、宇宙と人体をつなげてくれたように私は思います。

 いよいよ、博士たち一行は、目指していた人間ができるとき、
 つまり胎児がいる場所へとたどり着きます。

 

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『ザ・シード』。
 シード、種。そこは、命を芽吹く場所。
 真っ赤な衣装をまとったかりんちゃんがセンターで踊ります。
 かりんちゃんは、ハートピーのセラピストである亜希子さんの娘さんで、小さいころからずっとなのはなファミリーとつながってきました。
 なのはなの卒業生で、今回もたくさんの振り付けを指導してくれたのんちゃんにあこがれてダンスを始めた、とかりんちゃんは話してくれました。
 今はコンテンポラリーダンスを習っていて、今年の夏休みには、なのはなでダンスを披露してくれました。そのかりんちゃんと、初めてコンサートのステージに立てることを、本当にうれしく思いました。

 

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 かりんちゃんの踊りは、胎児が宿る瞬間の生命力そのものでした。
 のびやかで、スケールが大きく、しなやかな動きは、胎動のようです。
 母親の胎内でいままさに、生命が宿ろうとしている。
 純粋で無垢で、力強い姿。そんなかりんちゃんを囲んで、みんなが種から命が芽吹くさまを表現します。

 私はこのシードのダンスを見つめて、命が宿る神秘的な光景を目に焼き付けて、次のシーンへと入ります。

 

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 命が宿ったばかりの胎児。それは頭としっぽしかないメダカの赤ちゃんのようです。
 てつお、たかお、博士の3人は、そこから哺乳類へと進化していく様を見つめます。
 舞台の中央に映し出される、影絵で胎児の進化を見せます。

 45億年前に、別の天体を衝突させて、月を分離させた。
 地球の周りを回り始めた月は今よりもずっと地球に近く、地球には月の引力で大きな潮の満ち引きがあったんだ。
 地表に残されたいくつもの水たまりには、地球全体が大きなゆりかごのようになり、生命が宿り始めた。

 あらゆる生命の先祖は、こうして水の中から生まれた。
 魚類から上陸し、爬虫類へ、そして哺乳類へ。
 胎児は、生き物の長い進化の歴史を母親の胎内で再現し、人間へと進化します。

 

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 アコースティックギターの曲『ハート・ストリングス』をBGMに、私は何億年の歴史を再現するその光景に思いを馳せます。
 なぜ、この長い歴史を再現して人は生まれて来るのだろう?
 私もまた、こうして生まれてきたのだ。
 お客さんとともに、一度きりしか見ることができないこの神秘的な光景を見つめて、セリフを伝えます。

 たかお、てつお、博士。3人でバトンを受け渡すように、セリフをつなぎます。
 ギターの演奏と、セリフと、影絵。その3つの要素で、この胎児の進化の世界を作ります。
 どうか、ぴたりと揃ってほしい、そう願っていました。

 

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 身体は、こうして進化をしていく。
 それでは、心は? 愛を作る人間の心は、同じように段階的に準備されていくのだろうか。
 そうだとしたら、いつ、どうやって心は準備されていくのだろうか。

 愛を生み出す心ができるのは、いつ、どうやって?
 そこに何かが仕組まれているのだろうか?
 私たちは、少しずつ、核心へと近づいていきます。

 

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 勝央金時太鼓の演奏『若葉』。
 締太鼓、宮太鼓、大太鼓、総勢11人での演奏です。
 金時太鼓は文化ホールの竹内さんにご指導いただいています。
 竹内さんに教えていただき、金時太鼓の魅力を知り、太鼓メンバーも増えていきました。
 太鼓の演奏が、今では、なのはなのコンサートに欠かせないものとなっています。

 

 前半のクライマックス。
 胎児を見に行った4人の前に、あのギブソン大王と、とうこちゃんが現れます。
「あれは……とうこちゃん?! ギブソン大王にとらわれてしまったの?いま、助けに行くよ!」
 4人の思いに反して、とうこちゃんは言います。

「助けなんか、要らないわ! 私はね、もう偽善者のふりをするのに、飽き飽きしたのよ。
 今の社会では、利他心なんでいらないのよ。
 自分に正直になって考えたら、私もギブソン大王とまったく同じ考えだったのよ」

 

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 あれは、とうこちゃんなのか? 幻じゃないのか。
 とうこちゃんの言葉に、4人は信じられない気持ちになります。

 成績がいいか悪いか、稼げるか稼げないか。
 そんなことで人としての価値は決まってしまう。
 それが現実じゃないの?
 とうこさんの突きつける『現実』。
 それは、私たちが感じてきた生きにくさそのものでした。
 あたたかな愛情や、優しさ、協力、利他心。
 そんなものを持とうとしたとき、それは価値のないもの、綺麗ごと、とばっさりと切り捨てられてしまいます。

 とうこさんの言葉は、決して他人事ではなく、苦しくなってしまった私が陥り、自暴自棄になってしまう心そのものです。
『あっち側』にいってしまい、ギブソンに染まってしまえば楽なのだろうか?
 いや、そうではない、ということを私たちは知っています。
 ギブソンの精神で苦しまずに生きられるのなら、摂食障害にはなっていません。
 ギブソンにもなれず、利他心で生きようとすると、それは容赦なく踏みにじられた。
 そのはざまで、私たちは摂食障害になったのです。

 

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「就職が決まって、髪を切ってきたとき」
「もう、若くないさと、君に言い訳したね」

 たかおと、てつおが歌う、『いちご白書をもう一度』。
 音程が一発でとれるか、一世一代の、アカペラ歌唱です。
 私も、祈るような思いでアコースティックギター(エア)を演奏しました。

 人は、理想を追う思春期から、現実を生きる社会人になるとき、利他心に妥協して、ギブソン的にならなくては生きていけないのだろうか?

 しかし、てつおは、はっきりと言います。
「僕は妥協するつもりはないよ。僕は聖人君子ではないが、絶対に損得勘定で生きるギブソンの仲間にはなりたくない。いつも良くありたい、利他心を持ち続けたいと願うことはできる。僕が希望を持って、生きて行くとしたら、そこにしか生きる道はない」

 

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 てつおのセリフは、私たちが持つべき希望です。
 一点の曇りもない理想的な人間になることや、絶対に間違わない完璧な人間になることが、良く生きるということではありません。
 よこしまな気持ちがふと生まれても、自分はどうせギブソンなんですと開き直ったりせず、良く生きることをあきらめず、利他心を持ち続けたいと強く願って生きること。
 それが自分にとっての希望ある生き方です。

 てつおくんを演じるさきちゃんがこのセリフを言うとき、斜め後ろに立つ私からは、さきちゃんの強い瞳が見えます。その瞳に、いつも心をつかまれます。
 さきちゃんが、さきちゃん自身の思いとして、そこしか生きる道はない、と伝える姿が、私の気持ちも奮い立たせてくれます。
 私も、さきちゃんの言葉に合わせて、この言葉を心で何度も言いました。

 てつおの言葉に、私たちは決意を新たにします。
 ギブソン大王の思う通りにはさせない。
 仕組まれたものを見つけ出し、とうこちゃんを取り戻す!

 

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 前半のラストは、『プロフェッツソング』です。
 モラル高く、崇高な秩序を表現するこの曲で、後半の展開を予期させます。
 人間、生物の進化を辿った時に気づく、生命としての本質。
 私たちの先祖は、どんな風に生きてきたのか。
 そこには、損得勘定が入り込む隙間もなかった。
 モラルと、秩序。利他的という言葉がいらないくらいの、利他的な世界。
 人知を超えた、生き物の本質がそこにはあります。

 

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 ギブソン大王が仕組んだものの正体はなにか。
 とうこさんは、どうなってしまうのか。
 そして、愛の世界は作れるのか。

 人体と宇宙を巡る旅は、2部へと続きます。

(市ヶ谷博士/なお)