なのはなの子にとって、大切な日。なのはなのお父さんの、誕生日です。
お父さんは、現在、ウィンターコンサートの脚本の執筆をするために、奮闘しています。
お父さんをお祝いしたい! 少しでもお父さんの力になりたい! みんなで「人体」をテーマに、お父さんのお誕生日会を、開催しました。
体育館に向かうと、何の役なんだろう、何をしてくれるんだろう、とワクワクするような、独特で色とりどりの衣装のみんなが集まっています。
みんなで手をあげて連なって、お父さんを歓迎するアーチを作りました。しかし、なんだかグネグネと曲がっている? そう、これは「体内の腸」をイメージしたアーチなのです!
それを形作るわたしたちは、細胞です。「お父さん、だいすき」「お誕生日おめでとう」と、手をふわふわ動かします。
お父さん、体内に、ようこそ! いってらっしゃい! 今回は、七組のチームにわかれました。ウィンターコンサートを意識しての構成になっていて、それぞれのチームが、ダンスを重視して披露するチーム、衣装を重視して披露するチームに分けられています。また、演劇では役者オーディションも兼ねて、みんなが役者として、ステージに立ちました。
ではさっそく、お誕生日会、前半の始まりです。一番目は、かにちゃんチームで『エンジェルズ』の曲にのせたパフォーマンスです。
生きにくさに悩む少女のもとに現れた、幸せホルモンといわれる、オキシトシンの天使たち。白色がメインのふんわりとした衣装に身を包み、「トシン、トシン!」と言いながら、くるくる動き回る姿が、とってもキュートです。
利他心を持つことによって、この天使たちを増やすことができるのだと知り、少女は生まれ変わります。天使の姿は見えないとしても、幸せがやってくることは確かで、わたしも、いつも利他心を持っていたい、と感じました。
天使のみんなが笑顔でのびやかに踊っている姿、天使たちに囲まれてしあわせいっぱいに歌うまなかちゃんの姿に、お誕生日会が始まって早々、涙が出てくるくらいに感動しました。
二番目は、のんちゃんチームで『オーバーパス・グラフィティ』です。
■ローラースケート
わたしはこのチームのメンバーとして、出演させていただきました。
みんなのアイデアがいくつも集まって、新たな試みをいくつも取り入れて、みんなで挑んだ『オーバーパス・グラフィティ』。
のんちゃんとゆずちゃんが考えてくれた、ブレイクダンスや布を持って踊るダンス、そして、曲の最後のサビには……。
「ローラースケートを取り入れてみたいんだ!」と、やよいちゃんが提案してくれました。その場がわっと盛り上がって、「大賛成! わたしもやりたーい!」と、胸が高鳴りました。
続いて、脚本作りに取りかかりました。この曲を聴いたときに感じる、懐かしいような、ちょっぴり切ないような……。その感覚にはまるような細胞が、きっとわたしたちの身体の中にあるはず。 色んな資料を読んでいると、「マスト細胞」という細胞を見つけました。
身体に侵入したアレルギー物質などに対して、抗体を出して反応をしてくれるのですが、その際に、わたしたちを苦しませる原因となる化学物質も放出してしまう、ちょっぴり残念な細胞なのです。
マニュアル通りに働いてるのに、なんだかうまくいかない……。けれど許せてしまうような、共感出来てしまうような、かわいらしさもあるマスト細胞。「これだ!」と思い、わたしたちはマスト細胞になって、舞台に立ちました。
本番ギリギリまで演出を書き換えたり、ダンスやスケートの練習をし続けました。最高なものを、本番に見せたい。どこまでも諦めないチームのみんなの姿や空気に、引っ張ってもらいました。出来ても出来なくても、絶対あきらめないでいようと思うことができました。
それは、自分の役割を全うし続ける、マスト細胞と同じになれた気分でした。
ついに、わたしたちの出番が来ました。客席からは、笑い声や手拍子も聞こえてきて、それが、ものすごく気持ちが良かったです。
わたしの心も身体も、全身が、ありとあらゆる細胞が、喜んでいるようでした。チームのみんなとやり切った気持ちでいっぱいで、抱き合うことができて、本当にうれしかったです。
三番目は、ゆりかちゃんチームで『ザ・シード』です。
このチームは、真ん中で踊ってくれるかりんちゃん(かりんちゃんは、ハートピーのセラピストである、あきこさんの娘です)の衣装と、全員が揃って着る衣装を考えてくれました。
この曲で、何度も訴えられているのは、「お金を食べて生きることはできない」という言葉です。
木が切り倒され、川の水が汚れ、自然破壊が進んでいく。そんな危機感を伝えるような、燃えるような赤色のドレスが、とてお綺麗でした。
また、全員が着る衣装は、首や腕に着けられた緑色や金色の飾りで、植物らしさが出ていました。
わたしも植物に成り変わって、ゆりかちゃんチームのみんなのように強くメッセージを伝えたい、と決意させてもらえる演奏でした。
ここで前半が終了し、少し休憩をはさみます。なんと、わたしたちにも、うれしい、おいしいサプライズプレゼントが!
台所さんが用意してくださって、栗どら焼きと、栗の渋皮煮のおやつの登場です。みんなで採った栗がこのように大変身して、とびきりの甘さが全身に広がりました。
これは今、わたしの身体の中の全ての細胞が喜んでいるなあ……と思えるくらい、心も身体も満たされるおやつでした。
さて、後半の始まりです。四番目は、あゆちゃんチームで『スカイフォール』です。
衣装考案をしてくれたチームで、「サムバディスカート」を使って、様々なパターンの衣装を考えてくれていました。後ろで彫像のように美しく立つ、あゆちゃんとあんなちゃん。ふたりが被っていた帽子も、そのスカートで作られているそうです。

青、白、銀色を使った衣装は、宇宙を感じさせる、神聖さも感じさせる、見とれてしまうものでした。また、サビで何度も出てくる、風を切るような振付けでは、ななほちゃんとりなちゃんの身に着けた白いベールが、軽やかに揺れていました。
ダンスと衣装が本当にマッチしていて、わたしもこの衣装を着て踊りたい! と感じました。
五番目は、まえちゃんチームで『ビリーバー』です。
「俺たち、このまま黙って働いているのはいやだ!」
と、なんだか納得がいかない様子の、体内の悪玉菌たち。
指揮を執る、とびきり貫禄のある悪玉菌は、悪玉菌の親分である、りゅうさん。ちょっぴり毒づく悪玉菌たちのコミカルな劇に笑ってしまいますが、曲が流れると、体育館の空気が一変しました。

真ん中で踊るみんなの動きは、とても激しくて速く、見ているほうも、息をするのも忘れてしまいそうでした。
腕を振りかざしたり、滑らかに突き出したり、まるでひとつの細胞が変化していくようです。後ろでは、両手に持った旗をキレ良くひるがえすみんなも居て、どこを見ても圧巻のパフォーマンスでした。
「こんなかっこいい悪役になら、喜んでなりたい!」
そんな風に思える信念や強さがあって、まえちゃんチームのみんなが、本当に恰好良かったです。
六番目は、ゆいちゃんチームで『シヴァーズ』です。
「身体を活性化させる!」べく、ランウェイを歩いて登場してくるキャラクターたち。これが、なんともユニークなのです。
目に飛び込んでくるのは、真っ赤なジャージや目玉のカチューシャ、骨格標本!? えつこちゃん演じる、笑った白い歯が素敵な、ナチュラルキラー細胞や、ひろちゃん演じる、骨格標本が相棒の、オステオ・ボーン……。
一体どこから生み出されたんだ! と驚いてしまうくらいに、次々と笑いの波が襲ってきました。
自分の身体にこんな細胞や組織が居てくれていると考えたら、すごくワクワクする気持ちになりました。そして、劇の中に何度も出てくる、「ん〜、シヴァーズ!」の掛け声も、みんなで言いたくなるくらい楽しくて、わたしも、笑って笑って、シヴァーズ! させてもらえました。
七番目は、ちさとちゃんチームで『ビューティフル・ピープル』です。 誰ひとり同じではない、ガラッと違う一点物の衣装を身に着けているのが、カラフルでポップな「臓器ファミリー」。
それぞれの臓器の特徴をイメージして作られていて、中でも、脳を演じているさきちゃんの衣装が、印象的でした。いくつものお面を取り付けてあったり、黒や銀でまとめられていて、脳の支配力や強さを、しっかりと表していました。
そんな脳ですが、あらゆる攻撃にひとり立ち向かい続けた結果、仲間が見えなくなり、心を失ってしまいます。
そのことを知ったほかの臓器たちは、お互いにメッセージを伝えあい、幸せホルモン「セロトニン」を分泌します。愛のメッセージを受けて、脳は本当の幸せ、本当に求めていたものに気が付くことができ、希望を取り戻します。
最後は臓器ファミリーのみんなが手を繋いで、一列になって踊ります。
■誰かのための役割
なのはなに来ることができたわたしたちには、この物語はまさに自分たちそのものに思えました。臓器も心を持って、手を取り合って働き続けていると知って、いま、この身体で生きていられることに、心の底からしあわせだと感じたし、あたたかい気持ちになりました。
わたしは、全部のチームの、一人ひとりのファンになってしまいました。みんなが表現する姿が、本当にきらきらして、まぶしかったです。
「何のためにこの身体があるのか、なんのために生きているのか」
今まで、何度も考えて、苦しくなって、見つからない答えを求め続けてきたけれど、なのはなに出会って、お父さんお母さんやみんなの中で、本当に自分が担っている役割を、教えてもらうことができました。
わたしたちは、誰かの幸せのため、みんなが生きやすい優しい世界を広げていく役割があって、そのために身体を使って生きていくのです。それがわたしたちの幸せで、誇りなのだと、会が終わったとき、改めて感じました。
お父さんの誕生日をお祝いするまでの日々や、コンサートに向かって練習する毎日、いま、この幸せに包まれて過ごすことができるのが、本当に得難いことだと感じます。
なのはなのお父さんお母さん、みんなが救ってくれた、わたしの身体を使って、またここから、次の誰かのために、精一杯役割を果たしていきます。
お父さん、わたしたちのアイデアが詰まった、体内はいかがでしたか? お誕生日おめでとうございます! お父さんがだいすきです!