「まゆみちゃん、お帰りなさい!」 久しぶりの再会に、笑顔とともに思わず歓声を上げてしまいました。
今回の、まゆみちゃんご家族のなのはなへの帰省は、特別なものでした。これまで、ご主人のよしあきさんと二人で、折に触れて帰ってきてくれていた、卒業生のまゆみちゃんですが、今年二月に待望の第一子「りょうたくん」が生まれ、今回は初めて、りょうたくんを連れての三人家族での帰省でした。
お父さん・お母さんから、まゆみちゃんが赤ちゃんを授かった(妊娠した)という話を聞いたのは、昨年夏ごろ。その時の感情を、私はハッキリ覚えています。とにかく嬉しい。本当に嬉しい。嬉しいなんて言葉で収まらず、興奮してドキドキしました。
遠く離れた北海道の地で、まゆみちゃんご夫婦のもとへ新しい命がやってきてくれた。それが、私たちなのはなファミリーにとってどれほどの希望であり、どれほどの喜びであるか。私は、まゆみちゃんとのなのはなでの生活を思い出しながら喜びに浸り、そして、「どうか、来春の出産まで赤ちゃんが健やかに育ってくれますように」と願いました。
まゆみちゃんと私は、私がなのはなファミリーに来た頃、山小屋の同じ部屋の同じ二段ベッドで過ごしたルームメイトです。
二段ベッドの上が私、下がまゆみちゃん。私より先になのはなで生活をしていたまゆみちゃんは、来たばかりの私に、なのはなでの基本的な生活を一から教えてくれました。
その頃のまゆみちゃんはというと、静かで、優しくて、みんなのお姉さんという感じでした。私のほうが歳は少し上だったのですが、いつもみんなを静かに見守ってくれているという安心感と、時には、「いけないことはいけない」と厳しく注意してくれたりする強さを持っていて、憧れや尊敬、希望の存在でした。
摂食障害という病気を抱えてなのはなに来たというのはお互い同じなので、もちろんまゆみちゃんも私たちの先を行っていたとはいえ、苦しいときもあったと思います。
それでも、まゆみちゃんは自分自身に甘えず、驕らず、日々丁寧に真摯に向き合って生活していました。そんなまゆみちゃんの姿を眩しく追いながら、私たち後輩はなのはなでの一日一日を過ごしました。
まゆみちゃんと言えば、マラソン。まゆみちゃんはよしあきさんと共にアスリートとして、なのななに来る前から走ることを得意としていました。
なのはなでは、山越えコースというアップダウンの激しい十キロ近いコースを、まゆみちゃんはいつも気持ちよさそうに走っていました。春の加茂郷フルマラソンでは、高順位・高成績を収めていました。
そしてもう一つ、まゆみちゃんと言えば演劇。 当時、まゆみちゃんは、なのはなの大人気劇団「うり太郎劇団」のメンバーでした。
なのななの中で行われる誕生日会などのイベントや、コンサートなどの舞台で、楽しい劇を見せてくれていました。
日頃は物静かで落ち着いているまゆみちゃんですが、劇になると役に成り切って、いや振り切っているとも言えるような堂々としたパフォーマンスでみんなを惹き込んでいました。
(まゆみちゃんって、こんな人だったんだ) と、初めて見る子はみんな驚いていたと思います。
そんな演劇を、はるばる北海道からよしあきさんも見に来てくださっていました。
まゆみちゃんがなのはなに行くことを、よしあきさんが全面的に応援し背中を押してくださったと聞いていました。結婚を約束した二人が、離れ離れであっても互いに強く信じ、支え合っていたことを、私たちもよく知っていました。
よしあきさんがコンサートの度に岡山まで足を運んでくださり、まゆみちゃんの劇を嬉しそうに観てくださっていた姿を思い出すと、今でも温かい気持ちになります。まゆみちゃんもまた、よしあきさんに見守られながら、さらにパワーアップして役を演じていました。
当時から、二人の仲の良さと絆の強さを、私たちは「希望」として成長の糧にさせてもらっていたのです。
まゆみちゃんとよしあきさんは、まゆみちゃんの卒業を機に、当時の活動の場所であった山小屋なのはなで結婚式を挙げました。
結婚式は、なのはなファミリー全員で作りました。よしあきさんとまゆみちゃんの門出をみんなで祝福し、よしあきさんとまゆみちゃんにとっても、私たちにとっても、一生の思い出になるよう、なのはならしい温かい結婚式にしようと、みんなで作りました。
よしあきさんが山小屋にまゆみちゃんを迎えに来てくださったとき、まゆみちゃんはとても綺麗で、とても幸せそうでした。
よしあきさんがまゆみちゃんと、なのはなファミリーを信じてずっと待ってくださっていて、そしてまゆみちゃん自身も自分を信じて、「なのはなで絶対に回復して幸せになるんだ」との強い意志で走り切った瞬間だったのではないかと思います。
卒業後も、まゆみちゃんはメールで幸せな生活を報告してくれており、私たちにいつも明るい光を届けてくれていました。
まゆみちゃんご夫婦に、元気な男の子が誕生した。
その嬉しい報告は、今年二月に飛び込んで来ました。お父さんとお母さんは、本当に嬉しそうでした。
私もドキドキしながら待っていたので、ホッとしたあとにじわじわと喜びがやってきました。……早く赤ちゃんに会いたい。よしあきさんとまゆみちゃんの喜びに溢れる顔が見たい。名前はなんていうのかな。どっちに似ているのかな。抱っこさせてもらいたいな。
その願いが、この度ようやく叶いました。
お父さん・お母さんとまゆみちゃんご家族が談笑している部屋をノックすると、まずはじめにまゆみちゃんの明るい笑顔が飛び込んできました。
「お帰りなさい! 会いたかったよ〜。嬉しい!」
そして、まゆみちゃんの腕に抱かれている「りょうたくん」と初対面・初抱っこ。久しぶりに赤ちゃんを抱っこすると、甘い赤ちゃんの匂いやずっしりとした重み、興味津々のくりくりした目、生えたばかりの小さな二つの歯、すべてが愛くるしくて、やっぱり赤ちゃんっていいなあとしみじみ思いました。
よしあきさんとまゆみちゃんの溢れんばかりの愛情が注がれ、伸び伸びと育っているりょうたくん。そんなりょうたくんを優しく見つめるまゆみちゃん。
「いつもお父さん(よしあきさん)がお風呂に入れてくれるんだ」 「りょうたが可愛すぎて、私が離れたくないの」 と、まゆみちゃんの幸せそうな言葉を聞いて、お父さんもお母さんも私もみんなが笑顔になっていました。
一緒にいたスタッフのあゆみちゃんのお子さんのたけちゃんも、お友達が来てくれたことが嬉しくて、おもちゃの車を持ってきてくれたり、一緒に写真に写ったりして、温かい家族の輪がまた一回り大きくなりました。

まゆみちゃんも私も、まさか自分が結婚して出産し母親になるとは、なのはなに来る前は全く考えられませんでした。心身ともにボロボロのどん底で、日々の生活も成立しない。ギリギリの綱渡り状態で命を繋いでいた日々の中、そんな希望は消えていました。
希望を持つことすら自分に許されるわけがない、と自分を責め罰する日々でした。
まゆみちゃんが言いました。
「お父さんとお母さんのお陰だね」
本当に、なのはなファミリーに出会わなければ、今の幸せはありません。大切なパートナーも子供も。日々の生活の中で感じる「嬉しい」「楽しい」も。成長も。未来への希望も。葛藤や苦悩さえもかけがえのないものに感じます。
今こうやって家庭を持ち子供を育てている自分を、真っ暗なトンネルの中にいた過去の自分が見たらどう思うだろう。
なのはなファミリーで一緒に過ごした日々のことを懐かしくまゆみちゃんと話しながら、 (ああ、やっぱりなのはなファミリーに出会ってよかった。なのはなに行く決断をした自分は間違っていなかった) と、自分自身に強く刻む大切な時間になりました。
日本各地で、そして海外でも、なのはなを卒業した仲間が頑張っていることや幸せな生活を送っていることが、私たち卒業生同士にとっても、今なのはなファミリーで生活しているみんなにとっても希望になります。
よしあきさん、まゆみちゃん、りょうたくん、ありがとう。また帰ってきてね!