【10月号⑧】「一打に気持ちと力を込めて ―― 勝央金時太鼓の練習・魅力 ――」るりこ

  
 「タツツタツタタツタタタン……」
  
 気がつけば、頭の中でフレーズが流れ、両手が勝手に動き出してしまう、今日この頃。
 この夏から、勝央金時太鼓に新メンバーとして、のんちゃんと共に仲間入りをさせていただけることになりました。
  
 毎週水曜日の夜七時から九時の二時間、勝央文化ホールのステージで勝央金時太鼓保存会会長の竹内さんが、なのはなの太鼓メンバー全十一人に指導をしてくださいます。
  
 毎週水曜日がくるのが楽しみでもあり、緊張もあります。でも太鼓を初めてから、一週間の時の経過が早いと感じるようになり、やっぱり水曜日の夜が待ち遠しいです。

 金時太鼓の練習に初めて参加させてもらった日、「るりこちゃんに」と、かにちゃんから撥を受け取りました。撥には、バチを握る力強い腕の印が掘られてあり、木のすべすべとした触り心地が心地良く、手になじむ感覚がありました。
  
 掘られたマークを見ていると、こんなふうにわたしも太鼓を通して身体と心を鍛えて、力強く太鼓が叩けるように頑張っていこうと、そのマークが自分の決意に重なりました。今でも撥を持つ度、その刻まれた印をみて、自分の気持ちを奮い立たせます。
  

  
 竹内さんが撥の持ち方から構えの姿勢、そして打ち方を指導してくださいました。
  
「腕と肩の力は抜いて。イメージとしては、腕は鞭で、たまたまその先に撥を持っているような感じ」
  
 そのくらい、腕には力を入れないのだと教えていただきました。
 力強く打とうと思えば思うほど、ついつい力んでしまって、腕も肩もガチガチに緊張してしまいがちですが、リラックスした姿勢が何よりも大切なんだと知りました。
  
■一打を打つだけでも
  
「腕を上げて……。はい、下ろして」
  
 竹内さんの合図と共に、構えの姿勢から初めての一打を振り下ろしました。上げた腕を力を抜くように太鼓に向かって下ろした瞬間、思わず撥が跳ね返ってくるような振動が、撥を握る手を通して、全身へと伝わってきて、自分でもびっくりしました。
  
 これまで何度か太鼓メンバーが演奏している姿を見ていたり、勝央金時太鼓保存会のコンサートに行かせていただいたこともありました。太鼓を叩いているメンバーを見ていると、とても力強い大きな音をキリッとした引き締まった表情で、操るように撥を身軽に叩いている印象がありました。
  

    
 でも初めて自分が太鼓を叩いてみると、なんて難しいのだ!! というのが第一の感想で、初日から心が折れそうになってしまうくらいに、一打を打つだけでもこんなにも難しいのかと知りました。

 もう手慣れたメンバーが一曲をリズムに合わせて、テンポ良く叩いている姿をみて、一打を叩くだけでも技術がいることを知り、初めて太鼓の難しさを知った初日となりました。

 次の週は、現在、太鼓メンバーが演奏している『わかば』と『那岐おろし』の楽譜をかにちゃんからもらい、『わかば』の譜読みを教えてもらいました。
  
 太鼓の楽譜ってどうなっているのだろうというのが大きな疑問でしたが、四分音符、八分音符、十六分音符というように楽器と変わらない音符が並び、そのなかに枠打ちはバツ印だったりと、ちょっとした太鼓ならではの違いはありました。
  
 面白いと感じたのは、アクセントとアクセントじゃない音符の読み方です。アクセントは「タ」、普通の強さは「ツ」と言い換えて覚えます。
  
 例えば、八分音符が四つ並んでいて、その中の一と四がアクセントだとしたら、「タツツタ」というふうに言い換えて読みます。
  
 太鼓メンバーが歌うように、「タ」と「ツ」を使い分けて、楽譜を読んでいました。

 わたしはついつい、(えーっと、一と四がアクセントだから……)と頭で考えようとしてしまったのですが、みんなを真似て、「タ」と「ツ」で歌にして歌ってみたら、まずは先に口が覚えて、メロディが頭に入ってきました。そうすると、それに合わせて、自然と身体もついてくるようになりました。
  
 最近では廊下を歩いているときや布団に入っているときなどに、苦手なフレーズを口ずさんで、まずは歌で覚えて、それから身体に入れるという練習方法を取り入れています。歌う方式にすると、覚えも早くなったような気がします。

 週ごとに、様々な練習を行っています。
 竹内さんがお留守の日には、かにちゃんが中心となって、基礎練習をしてくれました。基礎練習がとれる日はなかなかないので、絶好のチャンスで、アクセントのトレーニングや十六分の練習メニューを、かにちゃんが楽しい空気で引っ張って教えてくれました。
  

  
 九月に入ってからは、『風の舞』と『わかば』の二曲を、わたしとのんちゃんもメンバーに入れてもらい、演奏できるようになるまで集中的に取り組みました。
  
 『風の舞』は三か所、特徴的なリズムがあり、特に宮太鼓ソロのパートを覚えるのに苦戦しました。右手、左手……と考えてしまうと、身体が追いついていかず大混乱してしまったのですが、竹内さんが、「思い切り叩いて、身体に覚え込ませるんだ」と、繰り返し指導してくださいました。
  
 すでに演奏できるメンバーのみんなも付き合ってくれて、一緒に練習してくれたことが嬉しかったです。
  
 その日は一通り、全曲の譜割りをしていただき、あとは個人練習で詰めていきました。
  
 何度も何度も楽譜を読んだり、音楽室で実際に撥を持って叩いて練習をしたり、さらにはのんちゃんが、すでに演奏できるメンバーが叩いている動画を撮影してくれて、それを映像として頭に焼き付けて覚える、という練習を一週間、空き時間を見つけて集中的に行いました。
  

■ほんの一瞬で
  
 そして迎えた翌週。柔軟体操を終えたら、いきなり『風の舞』を演奏することになりました。この一週間に積み上げた成果を試したいと祈る気持ちで挑みました。
  
 隣に立つのんちゃんからも、同じような気持ちを感じました。
  
 頭の中で必死に小節を追いながら、いよいよ宮太鼓のパートが始まりました。しっかりと目線を見据えながらも、斜め前に立つ、さやねちゃんとななほちゃんの音色を感じながら、カウントも頭の中で刻みました。
  
 初めての演奏は、みんなの大きな音の中に自分の音が重なっていく、ちょっぴり不思議な感覚がしました。
  
 宮太鼓のソロのフレーズは特に力を入れて練習をした部分でした。あれだけ練習をしてできるようになったのだから、ここで失敗したら悔しいなと思って緊張しましたが、一打目から上手く入ることができて、あとはそのままの勢いで八小節分を叩き続けることができて、とても嬉しかったです。
  
 演奏も後半に入り、いよいよクライマックスを迎えて、「ダダッ」と締めの二打で終わりました。譜読みをしたときや練習をしているときはもっと長い曲に感じていたのに、みんなと演奏をしていると、ほんの一瞬で終わってしまったような気がしました。

 みんなと初めて合わせる『風の舞』は、個人的には練習の成果を十分発揮することのできた、良いスタートだったと思いました。

 一曲が演奏できるようになると、太鼓に向かう楽しさが変わっていきました。
 初めは苦戦していた打ち方も徐々に身体になじんでいき、大きな音で打てたと感じたときは、とても清々しい気持ちがします。

 現在は二曲目の『わかば』に入りました。『わかば』はリハーサルマークがAからHまであり、楽譜も八枚にも渡ります。こんなに覚えられるだろうかと思ったのですが、同じフレーズを見つけて考えていくと、少しずつ楽譜を離れていけるようになりました。
      
 練習では、同じ宮太鼓パートのりなちゃんとななほちゃんが、わたしとのんちゃんに付きっきりで教えてくれました。
  
 りなちゃんがこれまで教えてきてもらったことを惜しみなく伝えてくれて、できるようになっていくと、りなちゃんとななほちゃんが、「すごい!すごい! できてる」と自分以上に喜んでくれることがとても嬉しいです。
  
 夜にはりなちゃんを中心に集まって、宮太鼓チームで練習も行っていて、りなちゃんが叩く勇ましい姿を見ると、こんなふうにわたしもなっていきたいとやる気が一層高まります。

 太鼓の練習は、まずは準備体操から始まり、ホールのステージを端から端まで、構えの姿勢で二往復半します。それだけでも汗をびっしょりとかくのですが、さらにそのあとの練習でもっと汗をかきます。

 帰る頃には程よい疲れでクタクタですが、夜風に吹かれて、みんなと、「今日も楽しかったね! 夜はぐっすり眠れそうだね」と言い合いながら古吉野に帰る時間もまた嬉しいです。

■表情や動きから

 九月の半ばに、岡山県和太鼓連盟の方々が集って演奏をする、『第二十四回 晴れの国 和太鼓まつり』という演奏会が勝央文化ホールで開催され、なのはなの太鼓メンバーを中心に鑑賞に行かせていただきました。
  
 太鼓に通わせてもらえるようになってから初めて見る太鼓のコンサートだったので、今、自分が課題にしている打ち方、撥の挙げ方などを、他の方が演奏するところからよく見て学び、吸収していける機会にしたいと思いました。
  
 この演奏会では、岡山県の和太鼓チームが九チームと、さらに愛知県からプロチームの「和太鼓 志多ら」というチームがゲストとして出演されていました。
  
  
 一チーム目を飾ったのは、勝央金時太鼓保存会のみなさんで、『乱打』と『金太郎ばやし』で幕が開きました。
  
 勝央金時太鼓保存会のみなさんのよく知る顔ぶれにほっとする気持ちと、保存会のみなさん一人ひとりの明るくて溌剌とした表情を見ているだけで、わたしもつられて笑顔になりました。
  
 保存会のみなさんが太鼓を叩く姿を見ていると、本当に気持ちよさそうで、太鼓を叩くことが楽しくて大好きなんだという気持ちが表情や動きから伝わってきます。
  
 そのなかに真っ直ぐ上がる腕の動きが揃っていたり、細やかな所作が美しかったり、勝央金時太鼓のみなさんの美意識の高さや魅せ方がとても輝いて見え、わたしもいつかこんなふうに人を惹きつけられる太鼓の演奏ができるようになっていきたいと強い意欲をもらえるステージでした。
  
 続いて印象に残ったのが、二番目に演奏をしたチームでした。
 このチームはとにかく音が力強く、そして何と言っても挙げる手の高さや撥の向き、身体の動作すべてを全員、完璧に揃えていて、瞬きをするのを忘れてしまうくらいに圧倒されてしまいました。
  
 たった六名での演奏なのに、全員のきちっと揃った音が何度も心臓まで響き渡りました。一曲がとても長い演奏でしたが、感動でしばらくの間、放心してしまうくらいでした。ここまで高いレベルに持っていくまでに、相当な練習量や努力があったのだろうと感じました。

 コンサートは前半と後半に分かれていて、前半に五チーム、後半に五チームが出演されていました。
  
 岡山県内の各地から集った和太鼓チームは、同じ和太鼓の演奏でもチームごとにカラーがさまざまでした。大きな撥一本を両手で持ち、回しながら大太鼓を打つ演奏もあれば、お囃子のような笛や鐘を使った演奏、法螺貝が出てくるチームもありました。
  
 和太鼓といっても、いろいろな見せ方や演奏の仕方があることを知り、太鼓の世界の広さに初めて深く触れたような気がしました。
  
 何人もの方が出演されていましたが、自然と目が釘づけになるのは、やはり表情が活き活きとしていて、魅せる意識の高い方でした。これからウィンターコンサートに向かっていくなかで、プロの方のステージを見させていただけて、どんな心持ちで表現をしていけばよいのかを学ぶ機会にもなりました。
  
■太鼓の世界と魅力

 約三時間にわたった十組の演奏の締めには、約七十名ほどの総出演者のみなさんが『疾走』という曲を演奏してくださいました。

 ステージの奥には大太鼓が七台並び、その前に数え切れないほどの長胴太鼓、さらにその前に締め太鼓が並び、ステージが太鼓と人で埋め尽くされて、存在感だけでも迫力がありました。

 そんな全員が集まって打つ一打の音は、ホール一体を包み込むような大きな音でした。明るい掛け声を発しながら演奏されるみなさん一人ひとりは本当に楽しそうで、チームは違っていても、同じ太鼓という表現を使って、気持ちが一体となって演奏されている姿にとても心が打たれました。
 
 演奏が終わった後、自然と、(わたしも頑張ろう)とやる気が高まっていました。
 そしてこんなにも多くの方が和太鼓という表現を通して、活き活きと輝いていることを知り、より太鼓の魅力に引き込まれ、太鼓が好きだと思う気持ちも強くなっていました。

 新メンバーで挑む、初舞台は十一月に開催される勝央文化祭のステージになります。『わかば』を演奏させていただくことになり、毎週の練習も文化祭とウィンターコンサートのステージに向かって、さらに全員のやる気が高まってきています。

 わたしもまだまだ課題はたくさんありますが、なのはなの太鼓メンバー十一人と気持ちも音も揃えて、今回のコンサートで受け取ったような感動を、次はわたしが誰かのもとへ届けられるような演奏を目指して上達していきたいです。