【8月号⑤】「甘い香りに包まれて ―― 8人体制で、樹熟し白桃の収穫 ――」りな

  
 真夏のように暑い日が増え、サマータイムモードが始まったころ、桃の収穫が始まりました。

 あんなちゃん中心に、なのはなのみんなで協力して、桃の手入れをしてきました。吹雪の日に、かじかんだ手を温めながら大人数のみんなと、桃の摘蕾をした日は、遠い昔のようです。

 摘蕾や、何巡もかけて行う摘果でほんの少数に厳選された桃の実が、いよいよ熟れてきている。そう思うだけで、とても心が満たされた気持ちになりました。

 最初に収穫した品種は「はなよめ」でした。奥桃畑、開墾二十六アールに計四本植わっています。

 四ペアの、八人体制で収穫を行いました。去年までは、ペアの中で、桃を収穫する人、手元をする人で役割分担をしていたけれど、今年からは、ペアの両方ともが、収穫もできるし、手元もできる、誰もが適切な収穫基準を分かるように、あんなちゃんが仕組みを考えてくれました。

 あんなちゃんから、収穫基準を教えてもらいました。袋の底を少し破いて、中の実の色を見ます。全体的に青みが抜けて、少しクリーム色がかってきた時が、収穫するベストなタイミングだと知りました。
  
  
 袋掛けをしたときは、まだテニスボールよりも小さいぐらいのサイズだったのに、私達が見ていないうちに、日に日に大きくなって、もう袋がはち切れんばかりに膨らんでいました。一つ袋を破くことでも、とてもドキドキした気持ちになりました。

 収穫基準を見分けることはとても難しくて、何度も悩む場面がありました。早朝の収穫と言えど、朝日が当たるとそれだけで、桃の実が黄色く見えました。また、葉の緑色が反射して、青く見えることもありました。

■優しく、慎重に

 光の当たり加減で左右されずに、いつも適切な基準を持つことは、こんなにも難しくて集中力の要ることなのかと、驚く気持ちもありました。

 とても熟れている桃の実は、袋を少し破いただけでも、とても甘い香りがしました。触らなくても、目で見て、とても柔らかいことが分かりました。袋ごと両手で包み込むように持ち、優しく、慎重に桃を採ります。木で熟させた桃なので、果肉は柔らかく、ほんの少し力を入れただけで、みるみるうちに、あざのような手跡が付いてしまいます。また、枝から実を採るときに、枝に実が食い込んだ状態で採ると、枝当たりを出してしまいます。当たりを出さないで、綺麗な状態で収穫するテクニックも、とても重要でした。

 「はなよめ」は、名前の通り花嫁さんのように、とても若々しくて上品だなあと思いました。色白で、真ん中はポッと紅を差したように、ピンク色になっていて、とても別嬪さんでした。袋の中で、こんなに綺麗な花嫁さんになっていたんだなあと思って、収穫する一つひとつの実が、愛おしく感じました。

■品種によって

 「はなよめ」の収穫とバトンタッチをして、次は「日川白鳳」という品種に移り変わりました。日川白鳳を一目見た時に、はなよめと見た目が全然違っていて、とても驚きました。こんなにも、品種によって、色味や香り、収穫基準も変わるのだなあと思いました。

 「日川白鳳」は、全体的に赤みがかった品種で、はなよめよりも少し大玉でした。収穫してきた桃を糖度測定すると、日川白鳳から、糖度十三度や、十四度、十五度の高い糖度の桃が増えてきました。
  

クリーム色に熟れた『加納岩白桃』

 

 七月の上旬、「加納岩白桃」の収穫が始まりました。なのはなの桃畑では、加納岩白桃の木が、全部で十二本あり、収穫量の多い品種の一つです。品種名は聞きなれていて、なぜだか収穫をする前から、親しみがありました。

 加納岩白桃は、全体的にクリーム色になったころが収穫基準です。ウレタンスポンジの敷かれた桃コンテナに、規則正しく並べられている加納岩白桃が、本当に綺麗で可愛かったです。熟れている桃は、ずっと香っていたいと思うほど、芳しい香りがしました。

 少しずつ収穫にも慣れてきて、枝当たりや手跡を出さずに収穫できるようにもなってきていることが、嬉しかったです。指だけに力を入れるのではなくて、手の平も使って均等に力を分散させること、枝の先端を少し親指で上げながら、実を枝に対して垂直に引くことなどが、感覚で掴めてくるような気がしました。

■桃ファミリー

 毎日毎日、熟れている実はないかと収穫に周ります。雨の日はカッパを着て、みんなで収穫に向かいます。桃の収穫メンバーは、まるで桃ファミリーです。収穫や、ネット掛け、ブルーシート敷き……様々な作業を団結して行う、心強い仲間です。
  
  
 ある日には、一日で加納岩白桃が、大量に収穫できたときがありました。二本の木を見ただけで、軽トラに乗せてきたコンテナがいっぱいになりました。何度も何度もコンテナを入れ替えて、ついにはコンテナが足りなくなるというハプニングもありました。

 たくさんの困難がやってきても、一人ひとりが知恵を出し合って、乗り越えられた時、とても達成感を感じました。選果ハウスに桃がずらっと並んでいる光景を見ると、なんて豊かなんだろうと思いました。あんなちゃんや、なのはなのみんなで育てた愛情いっぱいの桃です。

 七月下旬からは、ちょうど加納岩白桃の全収穫と同時期に、白鳳、紅清水の収穫が始まりました。早生品種から、中生品種への移り変わりです。

 これからはノンストップでたくさんの品種が重なって収穫できるピークが訪れます。その分、気持ちも引き締めて向かいたいし、一品種ごとの収穫基準をしっかりと目に焼き付けて、メリハリを持って収穫がしたいです。
  
  
 収穫だけではなく、収穫前の桃の木にネット掛けをしたり、収穫直前の品種には、水分を切るために、木の根元へのブルーシート敷きもしています。虫の被害の無い、綺麗で甘い桃が収穫できるように、収穫直前になっても気持ちを切らさずに、手入れをしたいです。

 気持ちを込めて、これからも桃の収穫や手入れをしていきたいです。