【7月号⑤】「桃の実を見て、袋をかけて 桃畑をめぐる日々」ななほ

  
 桃の樹の下へ入ると、葉と葉の隙間から光が差し込み、辺りがキラキラと輝きます。

 桃の樹が硬核期に入ってからは、桃の摘果はお休みして、袋掛けを進めました。

 桃にとって硬核期は、人間でいう妊婦さんのようなもの。桃の種が固くなり完成するこの時期は、とても繊細なので、桃の摘果や極度な水分変動などは樹に大きなダメージとなってしまいます。

 その為、集中して桃の袋掛けをしました。

 桃にかける袋にはいくつかの種類があり、品種ごとの特性に合わせて、ニューオレンジ袋やオレンジ袋、二重袋、大玉用の黄色袋などをかけていきました。あんなちゃんが一本ごとに、「この樹には七百枚、袋をかけます」と言うように、樹の大きさや年数を見て、その樹にかける袋の枚数をあらかじめ、伝えてくれました。

 腰袋を装着して、脚立に登り、袋掛け開始。
  
  
 あんなちゃんが、どのくらいの密度で袋をかけるのかを伝えてくれて、糖度が乗りやすく日当たりの良い高い位置は多めに、その反対に内側で日陰の場所は少なめにと意識しながら、袋をかけていきました。

「桃農家さんは平均として、一日で二千枚の袋をかけていると言われていて、みんなも慣れてきたらその位のスピード感でできたら嬉しいです」

 あんなちゃんが作業の初めに話してくれたことを頭に入れて、スピード感も意識しながら良い実に袋をかけていくのはとても楽しかったです。

 品種によって、『白鳳』や『白皇』などで双胚果が多い樹もあり、その見極めが難しいこともありました。というのも、双胚果は普通の実に比べると、ひと回りほど大きいため、大玉の実なのか、種が二つ入った双胚果なのか、判断が難しい場合があります。

 そういう時は、縫合線の割合を見て、通常の六:四という桃の実に比べて、五:五の真ん丸と張った実が双胚果だということを基準に、良い実だけを選んで袋をかけていきます。
  

硬核期が終盤に入ったころ、実を半分に割ってみると、種が固くなっている様子が見えました

 

■おとぎ話の舞台のようで

 袋掛けが始まってからは、品種が変わるごとに、(う〜ん。これは際どいな)と思う実もあったのですが、今まで摘果の一巡目からずっと桃の実を見て、良い桃の実を残してきたため、いつの間にか、パッと見ただけで、「これは双胚果だ」「これはとっても綺麗で形もいい大玉の桃だ」と判断ができるようになりました。

 開墾二十六アールの『白皇』の袋掛けをしている日には、時々、山の中からお友達が遊びに来てくれることもありました。

「あ、野うさぎだ!」

 るりこちゃんが指を差した方向に、茶色のフサフサとした毛をした可愛らしい野うさぎがキョトンとこちらを見ては、どこかへ走り、また直ぐ戻って来てを繰り返していました。

 また別の日には、「あ、シカ!」という声も聞こえ、山のほうへシカが走っていくこともありました。桃の畑にいると、そこだけ時が止まっているかのような気持ちになることも多いのですが、そこに野生動物が現れると、今度はおとぎ話の舞台のようで、緑の葉っぱを茂らせて、太陽の光をいっぱい浴びている桃の樹の下で作業をするのは、とても気持ちが良いです。 
  
  
 今、なのはなファミリーでは百八本の桃を育てていて、まだ収穫の始まっていない幼木もあるのですが、年々、樹のスケールが大きくなっているため、今年は約四万枚の袋をかけました。

 四万という数字。これだけの量を一人でやろうと思うと先が遠くなるような気もするのですが、あんなちゃん率いるなのはなの桃メンバーは毎日、六人体制で袋掛けやそのほかの手入れなどを回っています。そして、いざという時には六十人の仲間がいます。

 摘果や袋掛けを大人数で行う時もあり、桃畑にピンク色のポロシャツを着たみんなが脚立に乗っている光景はとても華やかです。オレンジや黄色の袋がかかった桃の樹は、それまた賑やかで、季節外れのクリスマスツリーのような、一つひとつの袋に命が宿っているような、温かい気持ちになります。

■収穫シーズン到来

 石生の桃畑、奥桃畑、開墾十七アール、古畑、開墾二十六アール、新桃畑、池上桃畑、夕の子畑と、生理落果のない品種の袋掛けも終わったら、すぐに桃の収穫シーズン到来です。私も、なのはな桃部会として、毎日、桃畑を周っているのですが、早生品種『はなよめ』の収穫も始まり、あんなちゃんたちと喜びを胸いっぱいに感じながら、今日も収穫をしています。

 桃の収穫基準は、見極めるのがとても難しいのですが、あんなちゃんに教えてもらいながら、桃の色や雰囲気、香りを感じ取って、基準も自分の中にしっかりと入れていくことができるのは、とてもありがたく、楽しいです。

 あんなちゃんたちと桃畑をめぐる日々。これから三か月間は、私も桃一本で生きていきます。

 あんなちゃんの姿や、あんなちゃんの桃に対する気持ちの使い方、考え方を側で見て、感じさせてもらえることが嬉しいし、私も少しでも、あんなちゃんに近づけるように力を尽くしていきます。