【7月号④】「勇気づけられる桃の味 ―― 早生品種 はなよめの初収穫 ――」あんな

桃の収穫がはじまりました。

  
 六月二十一日、奥桃畑のはなよめの初収穫をしました。

 はなよめは、この地域で一番はじめに採れる早生の品種で、六月の花嫁にちなんだ、あっさりしてみずみずしい味わいと、小ぶりで白い肌に赤い紅が差した可愛らしい外観の桃です。

 桃は、五月の終わりから、種が固まる硬核期に入り、六月半ば頃に硬核期が明けたと思われます。桃の実にかけた袋が張ってきて、枝が重みで下がっていき、日々、桃の成熟が進んでいくのを感じていました。収穫の前日、そろそろかな? と思い、袋を少し開いてみると、緑色が抜けて白い肌が見えて、どこからともなく、甘い香りが漂っていて、これはもう採らなければ! と思いました。

■懐かしく優しい、夏の味

 当日、メンバーのみんなと桃畑に行くと、みんなの緊張と弾む気持ちが伝わってきました。まずは数個、試しに採ってみました。

 私たちは、桃を早採りせずに、樹で完熟させてから、桃が一番美味しい時に採ることにしています。熟した桃の肌や果肉はとても柔らかく繊細なため、ちょっと爪が当たったり、指に力が入ると、傷ついてしまいます。色の抜け具合と、香りと、雰囲気で、熟れ具合を判断し、傷つけないように、果梗の付近が枝に当たらないように、慎重に採ります。
  
  
 近年、難しいのが、果肉先熟型とよばれる熟れ方です。気候が変わってきたため、果皮に緑色が少し残っていても、果肉は柔らかく熟れているという熟れ方が多くなりました。試しに採ってみた桃は、薄っすら果梗周りに緑色が残っていましたが、香りは高く、熟れているように感じました。

 試しに包丁を入れてみると、果汁が跳ねて滴り、柔らかい果肉感で、完熟しているのを感じました。一切れずつ、みんなで食べてみました。齧った瞬間、初々しさと、爽やかさが突き抜けていき、懐かしく優しい、夏の味がしました。

 久しぶりの桃の味に、励まされました。
  
  
 早速、メンバーのみんなで収穫の見極めの基準や、採り方を確認して、採っていきました。初めて桃を採る人も何人かいて、枝先のほうから指を入れること、枝の押さえ方など、みんなの採る様子を見ながら、こうするとやりやすいよ、ということを伝えさせてもらいました。はじめはゆっくりペースでしたが、桃の最盛期に向けて、みんなで上達していきたいと思いました。

 この収穫初日は奥桃畑のはなよめから、およそ百五十個の桃を採りました。夕食のときに少しずつなのはなのみんなと、採れたてのはなよめをいただきました。

 早生品種ですがそれなりに甘さが乗っていて味が良く、良い出来のように感じました。この日、選果ハウスの片付けや掃除やセッティングなどの準備をして、収穫の体制を整えました。

 今年の桃づくりは今のところ順調のように思います。
  

  
■メンバーを増やして

 冬から振り返ってみると、幾つか、進化したところもあります。冬にはすべての成木に、エクセル線とワイヤーロープを使って、枝吊りを施しました。そのことで、吊っているロープが切れる心配がなかったし、快適に作業をすることができました。

 冬剪定は、お母さんも入ってくれて、五〜六人で桃畑を回って、剪定ができるメンバーを増やして、全体としては弱めの剪定方針で行いました。ここまで弱剪定にするのは初めてで、木が落ち着いているように見え、特に種割れなどに関して良い風に影響するのではないかと楽しみです。

 摘蕾は甘めにして、晩霜に備えました。ところが、今年は開花後に霜が降りることがほとんどなく、霜対策は五月二日の一回だけ、行いました。その一回の中でも、これまでのようにすべての畑を全員で回るのでなく、途中から二手に分かれて見回るというふうにしたことで、火が消える前にすべての畑を回ることができるようになって、より良くできました。
  
  
 春から初夏にかけては乾燥するので、水管理に気を遣うのですが、雨が時々降っていたため、水やりは数回、行いました。水やりをするときには、畑によって、水中ポンプ、ハイデルスポンプ、農業用水の水道栓からホースを繋いで直接など、手分けしてやっています。また、桃の木の下にナギナタガヤや雑草をわざと少し長めに生やしておくことで、土のコンディションを一定に保つよう心がけ、水分調整をしてきました。 

■達成感を共に

 桃に病害虫の防除は欠かせない手入れですが、各畑の木が大きく成長し、一台の動力噴霧器でするのは一日では終わらないしとても大変なため、動噴二台体制でするようになりました。一チーム二〜三人で、一本交代で噴霧していき、お互いにかけ残しや斑がないか見合いながら噴霧していくと、一人にかかる負担が軽くなり、楽しくやりやすい作業になったし、遣り甲斐や達成感を共に感じられるようになりました。

 今年は病害虫の被害がそれほど気にならず、少し変形や双胚が多い印象はありましたが、数段階の摘果で慎重に数を絞り、良い実を残すことができています。残った実には、品種ごとに相応しい袋をかけました。袋がかかった桃の木はとても華やかで、桃の季節の到来を感じました。袋をかけたことにより、実が守られる安心感があります。
  

  
 開花は四月五日〜十日前後と、ここ数年からすると遅めでしたが、五月六月は気温二十五度以上の夏日が多く、気温が高かったせいか、思ったよりも早く成熟期を迎えている様子です。また、昼夜の寒暖差が大きく、これは桃にとって良い気候ではないかと、日々感じていました。

 桃の木は現在、百三本あります。それぞれの樹が年々大きくなり、桃畑の景色がどんどん変わっていくのを感じます。一本の樹から採れる実の数も、年々上り坂で、収量も、各手入れの規模もこれからますます大きくなっていくので、どういうふうにしたらみんなで良いふうに桃を育てられるか、考えて試しながら進化させていきたいです。

 はなよめの初収穫の翌日、開墾十七アールにある三本のはなよめの樹から、およそ二百三十玉を収穫しました。奥桃畑のはなよめより、さらに玉の形がよく、糖度も高めでした。各樹の熟れ具合がピークになるにつれ、味もさらに乗っていくことが予想されます。
  

シートの境目から雨水が入らないよう鉄パイプを芯にして繋ぎめを巻きます

 

 六月下旬の今、梅雨に入り、不安定な天気が続きます。これから、収穫前の桃の木の下には、それぞれの品種に対し適当なタイミングで雨除けのブルーシートを敷き、水を切って、甘さを乗せます。また、獣や鳥やヤガなどの害虫から桃を守るために、ネットをかけたり、手入れは最終段階に入っていきます。

 また、硬核期が明けるまで待っていた修正摘果や、生理落果後に清水白桃と白麗の袋かけが残っていて、収穫と手入れが重なってきますが、はなよめの出来栄えに勇気づけられましたし、みんなで力を合わせて良い収穫に結びつけたいです。