【7月号③】「勝っても負けても泥まみれ なのはな泥んこ物語」るりこ

豊作を願って、なのはな泥んこ運動会! 

 

 今年も田んぼの季節がやって来た!
 田植えが行われる前に、毎年恒例のお楽しみイベント『泥んこ運動会』が開催されました。 

 代掻き後の田んぼの中で、全身泥んこになって遊び駆け回るのは、何度経験しても、初めは少しどきどきします。でもこれをしないと稲作が、いやいや夏が始まらない! というくらい、楽しみな気持ちもあって、数日前から身体はうずうずしていました。チーム対抗で各種目の獲得点数を総合して競う、泥んこ運動会。

 チームは、色別で四つ。チームごとに決められた、お揃いのカラーペーパーを頭につけて、並びながら、会場となる池下田んぼまで歩いて行きました。
    

準備体操は、みんなで自由に飛び跳ねよう!
 

「溝きりで鍛えた、腹筋、背筋を活かし!
 桃の摘果で鍛えた、上腕二頭筋を活かし!
 山小屋キャンプで培ったサービス精神を活かし! 
 最後まで粘り強く、全力で泥まみれになることを誓います!!!」

 さくらちゃん、ななほちゃん、ふみちゃんが代表して、選手宣誓をしてくれました。
   
 さらに、よしみちゃんとまなかちゃんによる、準備体操。基本的な体操の最後には、まなかちゃんの、「みんなも真似して〜」という掛け声で、お父さんやみんなと、子供のようになって手足をバタつかせて、飛び跳ねました。
  
    
 そしていよいよ、お父さんの開会宣言で、二〇二二年泥んこ運動会、第一種目の競技がスタートです!第一種目は、『タオル相撲』で戦いました。こちらは、今年初めての試みの新種目。みんなが初挑戦です。

 タオルの端をお互いに持ち、引っ張ったり、押したりして、先に倒れた方が負けというルールです。また、試合中、もしタオルから手を離してしまったら、例え相手が先に倒れたとしても、ルール違反になってしまいます。

 誰もが初めてで、まったくイメージが浮かばないなか、泥んこ運動会が始まる前の昼食後に、お父さんがデモンストレーションでいくつか技を教えてくれました。
  
 そのなかでも、「力がないと思う人には、これがいいですね」と教えてくださったのが、巻き込み作戦。タオルに自分の身体をぐるぐると巻き付けて、距離が近づいた相手にそのまま体重を預けて身動きができない状態で倒す、浴びせ技です。

 単純に身体をくっつけて押し合う相撲とは違って、タオルを上手く利用することがポイントのようで、お父さんが他にも数種類の技を披露してくれたのですが、それだけでみんな大笑いでした。行司はお父さんがしてくれました。

 チーム対抗で、チームから順番に一人ずつ出場して、一対一の戦いを、田んぼの真ん中で繰り広げます。第一試合目では、黄色チームのななほちゃん対赤チームのりんねちゃんの戦いが印象的でした。

 お父さんの、「はっけよーい、のこった!」の合図と同時に、ななほちゃんが、引っ張り合ってピンと伸びるタオルに向かって、自分の身体をぐるぐると回転させながら、タオルを身体に巻き付けていき、そのままりんねちゃんを田んぼの中へ倒しました。事前にお父さんがデモンストレーションで見せてくれたお手本のように美しく決まった浴びせ倒しに、お父さん、応援しているみんなから歓声が湧き上がりました。

 初めからこの作戦でいくと心に決めていたという、ななほちゃんの見事な勝利姿をみて、わたしも、(よーし、これでいこう!)と巻き込み作戦で攻めることに決めました。
  
  
 そんなわたしが戦う相手は、あやかちゃん。田んぼの中心に向かって歩いて行くと、反対方向から笑みを浮かべるあやかちゃんがやって来ました。
 
 お互いに端と端を持って引っ張り合うタオル。あやかちゃんが両手でギュッと握りしめている強さが、タオルを通してじわじわと伝わってくるようで、この後、数秒先か、十数秒先か、どんな結末になっているのだろうと心拍数が急激に上がっていくのがわかりました。

「はっけよーい、のこった!!!」
 お父さんの掛け声と共に、いざ、ぐるぐる作戦!でもあれれ、身体は巻き付いたけれど、あやかちゃんが倒れない……。
 一度身体を戻して、少し引っ張りあってから、再びぐるぐる作戦!
 ……あれぇ__ 倒れない。

 まったく作戦が効いていないのがわかりました。だんだんと頭はパニックになってきて、もうこうなったら力任せだ! と思って少し取っ組み合いをしていたら、足が泥に取られたと思ったその瞬間、泥の中へお尻からボチャンと落ちてしまいました。
    

るりこちゃん対あやかちゃん

   
 その瞬間、お尻から背中へと、田んぼの水の冷たさと、何とも言えない泥のぬめった感触が全身へと広がっていきました。

 結果は、わたしの負け。ななほちゃんのように巻き付けの技が決まらなかったのを見ていたお父さんが、
「身体にタオルを巻き付けたあと、体重を完全に相手に預けてしまわないといけなかったな」
 と言いました。

 巻き込みまではできたけれど、それからどうするのかわかっていなかったなと思いました。第一種目から下半身は泥で染まってしまったけれど、チームの他の子たちが勝利を収めてくれて、団体としては一人差で勝つことができました。個人的には上手く技を習得できないままに終わってしまって、悔しさは次の機会にリベンジです。
  
 第二種目は、前回やってから大好評の『チャンバラ』。
 こちらは打ち合いになると、目をつぶってしまって、相手が見えないままに闇雲に剣を振り回して切られるパターンが多いという反省を活かして、今日は冷静に戦おうと決めました。

 敵は、ゆかこちゃん。ウレタンでできた剣を構えて、相手にじわじわと迫りながら、相手の動きを読むのは、やっていても見ていても、こんなに恐ろしい瞬間はないと思うくらいに緊張します。ゆかこちゃんがどう攻めてくるか。ゆかこちゃんの動きを読んで、いざ動き出したら、負けじとゆかこちゃんも剣を振り上げてきました。

 一度打ち合いになったけれど、すぐに冷静になりました。闇雲に振り回すのをやめて、ゆかこちゃんをしっかり見定めたら、頭に隙が見えて、その瞬間を狙いました。

 「バシッ」と、ゆかこちゃんの頭上にわたしが振った剣が当たりました。
 「一本!」お父さんの声が聞こえて、気持ちよく決まったときは快感でした。 
    

第2種目 『チャンバラ』

  
 チャンバラで心に残っているのは、青チーム対赤チームの最後の試合、りゅうさん対ちさとちゃんの対決でした。
 
 なのはなの中で身長差が一番大きい二人の対決は、一見不利のようにも思えたけれど、余裕な表情で闘争心を剥き出しのりゅうさんと、少し押され気味だけれど笑顔を浮かべている、ちさとちゃん。何か奇跡が起こりそうな予感がします。

 剣を持って二人が向かい合っていると、ちさとちゃんがりゅうさんに飲み込まれそうな気がして、思わず、(ちさとちゃん、頑張って)と応援をしてしまいました。
  

 赤チームはちさとちゃんが戦う前に、まなかちゃんがりゅうさんに負けていました。だから赤チームからは、「まなかちゃんの仇をとって!」「りゅうさんをやっつけてー!」と声援が響きます。

 お父さんの、「始め!」でりゅうさんがいきなり、ちさとちゃんの頭めがけて剣を振り上げました。すると、ちさとちゃんが空いたりゅうさんの脇めがけて、剣で斬りつけました。

「一本!」お父さんがちさとちゃんのほうへ手を挙げました。
 その瞬間、赤チームの列からみんなが飛び出して、ちさとちゃんに向かって飛びつきました。畦で応援していたみんなからも大声援が起こって、まさかの結末にどよめきと、止まない拍手が送られました。
  
  
 続く、第三種目は田んぼがフィールドになって行われる、『ポートボール』。
 田んぼでソフトバレーボールをしたことはあったけれど、ポートボールは初めてで、さらにわたしは田んぼじゃなくても、ポートボールをやるのは初めての体験でした。

 ルールはバスケットボールと似ていて、コートの端と端にゴール代わりとなる人が立ち、その人にボールをパスしてキャッチできたら、シュートと同じ扱いで一点が加点されます。ボールを持って歩いていいのは三歩まで、というのもバスケットと同じです。

 意外とできるのでは? と甘く見たのは、大間違いでした。
  
  
 一試合目は観戦していたのですが、ボールがコートに放たれた瞬間、みんながわーっとボールめがけて集っていきました。誰かがボールを掴んで投げて、またそれを誰かが掴んで……書いていると何ともないように思うけれど、田んぼの中は足が取られて思うように走れないし、ボールが地面に落ちるたび、泥が飛び散ります。

 さらにボールの取り合いになったら、もう大変。三分もしないうちに、コートにいるほぼ全員が全身泥まみれになっていて、顔も歯も真っ黒。目を開けているのが精一杯なくらいで、「あれ? あなた誰?」と笑ってしまうほどの変わりようでした。

 でも例え敵チームだったとしても、パスが繋がって、ゴールマンの子にボールが行き渡ってキャッチできたときは、華麗なシュートが決まったときのような喜び、歓声でいっぱいになりました。
  
  
 泥んこ運動会としては初めてやる競技でしたが、一試合目から最高に盛り上がりました。わたしが入った緑チームは二試合目で、敵は青チームでした。

 しかし試合が始まって五秒くらいで、いきなりゴールを決められてしまいました。「えーっ!」と思った束の間、目の前でボールがきれいに飛び交って、またすぐに青チームのゴールマンのゆりちゃんの元へ、ボールが吸い込まれるように飛んでいきました。
 もう二点。そしてまたすぐに、三点、四点……と。

 手も足も出なくて、何もできないままに、青チームに得点がどんどんと加点されていきます。見ていると、青チームはチームワークが上手に機能していました。
  
  
 りゅうさんからふみちゃんへ、ふみちゃんからどれみちゃん、どれみちゃんからゆりちゃんへの連携プレーが確実に決まるのです。りゅうさんのパス回しや、それを受け取るふみちゃんの、ボールが飛んでくる方向の読み、そしてどれみちゃんの一瞬のカバーが、敵だけど見とれてしまうほどに格好良くて、敵だけれど、「恐れ入りました」という気持ちでした。

 青チームとの試合はボロボロに負けてしまい、次の試合に向けて作戦会議を立てているとき、青チームのリーダーのりゅうさんが作戦を教えてくれました。

「フォーメーションを決めて、それを確実に守るんだ」。
 そう言って、りゅうさんがサッカーと同じフォーメーションを教えてくれました。

「決めたフォーメーションをしっかり守る。がむしゃらにボールを追わない」
 そう教えてもらって、わたしたちのチームは、点を取られて焦れば焦るほどに全員がボールに飛びついていってしまって、仲間同士でボールを取り合っていたり、ディフェンスゾーンに誰もいなくて守備が追いついていなかった、ということが起きていたと気がつきました。
  

 ボールを追いたくなる気持ちを抑えて、まずはフォーメーションを守ろう」
 そう再び作戦を練って、次の試合、黄色チームとの試合に挑みました。

 変わらず青チームは最高のプレーを次から次へと披露して、応援しているみんなを盛り上げてくれました。田んぼの中にいるのに、りゅうさん、ふみちゃん、どれみちゃんの動きは障害物がないかのように軽やかで、惚れ惚れとしてしまうほどでした。

 二試合目はりゅうさんから教えてもらったように、フォーメーションを守ることを意識しました。攻めに三人、守りに三人、中継に二人。そのようにしたら、一試合目よりもボールが上手く繋がって、結果的に四点も取ることができました。
  
  
 田んぼの中のポートボールは、地面に転がっているボールに思い切り飛びついても痛くないので、全身を思い切り使って、全力で戦うことができます。

 その分、顔から全身にかけて泥まみれになったけれど、その姿が一人ひとりの全力プレーを物語っているようで、嬉しくもありました。
 見ていたお母さんも、「ポートボールは恒例の種目にしよう!」と言ってくれました。わたしも大大大賛成です。何度でもやりたい、そう思わせる楽しさがありました。

 ゲームは後半戦へ進みます。
 でも身体はまだまだ元気いっぱい! エネルギーが満ちあふれてくるようで、身体もここまで泥だらけになったら、もう何の囚われもなくなって、清々しいくらいです。
  

 第四種目は定番のリレー対決です。
 走順がカギですが、わたしたちのチームはあまり深く考えないで、ジャンケンで走順を決めました。田んぼをトラックに見立てて、一人半周走って、バトンを繋ぎます。

 各チームの第一走者がスタートラインに並び、りゅうさん、まちちゃん、りんねちゃん、よしみちゃんと、いかにもみんな速そうな顔ぶればかりです。

「よーい、どんっ!」で、四人がものすごい勢いで飛び出しました。激しい戦いの幕開けです。
 わたしたちの緑チームは初め、四チーム中四位で、一人、二人と追い越したり、追い越されたりを繰り返していました。田んぼの中でみんなが引きしめあっていて、声援で何も聞こえないくらいの盛り上がりです。

 いよいよ自分の番が来るときは、ものすごく緊張して、前走者のゆいちゃんがこちらに向かってくると、絶対に落とさないようにバトンを受け取りました。
  
 田んぼの中でも速く走れるコツを、お父さんが教えてくれていました。
 
 水をかくように、足を上げて水面を走ると、足が泥の中に埋もれなくて速く走れるというお父さんのアドバイスを思い出しながら、それを徹底しました。そうすると、これまでは田んぼのリレーは苦手だと思っていたけれど、予想外に速く走ることができて、チームにも貢献できた気がしました。
 
 走っているときは無我夢中だけど、すぐ横で同じチームのさやちゃんが大きな声で、「るりこちゃん、速い! 速い! いいよ!」と応援してくれている声が聞こえてきて、そのことにもパワーをもらいました。

 一ゲーム目は、四位から始まって、途中で追い越しをして、アンカーのまちちゃんはトップでバトンを受けました。その時点では、結構ダントツ一番で、これは逆転勝利で一位だと、チームの誰もが確信しました。

 しかしその瞬間……、一歩目を踏み出したまちちゃんが顔面から泥の中へ突っ込んでいったのです。見る見るうちに追い越されていく、まちちゃん。
  
  
 一瞬、チームの誰もが何が起きたのかわからなくて声が出なかったけれど、すぐに思いがけない展開に笑いが起こりました。さすがエンターテイナーのまちちゃんです。

 結局やっぱり最下位だったけれど、残念というよりも、まちちゃんの思いがけない展開にチーム内は大爆笑で終わりました。ゴールしたまちちゃんにみんなが駆け寄っていって、またみんなで笑いました。そんなふうに勝ち負けよりも、仲間とゲームを楽しめたかということの方が大事なんだなと、チーム内の空気に心が温かくなりました。

 リレーは一ゲームだけの予定でしたが、観客席で応援してくれているお母さんや永禮さんたちから「アンコール!」の声が上がりました。
 みんなもわたしも、もう一度戦いたい気持ちでいっぱいだったので、アンコールに応えて、もう一ゲーム、走れることになりました。二ゲームが始まる前、お父さんから追加のルール発表がありました。

 それはというと、「ありとあらゆる反則はなし!」です。つまり、全ての反則がないということは、裏を返せば、相手への妨害もありということ。コースを妨害してもいいのです。

 これは吉と出るか凶と出るか。もちろん走ることだけに集中してもよいです。再び「よーい、どんっ」で、二ゲーム目がスタート。
     
 他のチームはどう出るかなと見ていると、あまり妨害に走る人はいませんでした。緑チームも挽回を目指して、走ることだけに集中します。アンカーのまちちゃんにバトンが渡ったときは、このまま逃げ切れば二位という状況でした。そのなかで、まちちゃんの後ろからものすごい険相で駆けてくるやよいちゃんがじわじわと迫ってきます。

 見ているだけでも怖くて、「まちちゃん、逃げてーーー!!!」と叫びました。チームのみんなが、(どうか転ばないで)という気持ちだったと思います。

 そしてどうにかまちちゃんは逃げ切り、飛び込むようにゴールラインを切って、二ゲーム目は二位になることができました。
      
 最終種目は、泥んこ運動会に絶対に欠かせない、『タイヤ取り』。

 フィールドの真ん中に大きなタイヤが二つ、小さなタイヤが五つセットされ、制限時間内に、自分の陣地に運び込めたタイヤの数を競います。さらにタイヤの大きさでも得点が異なり、大きいタイヤは三点、小さなタイヤは一点です。泥んこ運動会は総合得点で競うので、小さなタイヤを確実に取るのか、それとも大きなタイヤで得点を稼ぐのかも、作戦のポイントです。

 試合時間は五分間。でもタイヤ取りの五分はやっていても見ていても、こんなに長い五分はないのではないかと思うくらいに、ハードな時間なのです。
  
  

 そんな最終種目で競うタイヤ取りは、どの競技よりも印象深い戦いになりました。

 いくつか思い出されますが、りゅうさんを押さえ込んだ、ななほちゃんは素晴らしかったです。

 りゅうさんが一人いたら、三人でも負けてしまうくらいに、りゅうさんは力持ちで強敵でした。そんなりゅうさんにタイヤを取らせないために、敵のななほちゃんがタイヤではなく、りゅうさんにしがみついて、りゅうさんに一切タイヤを触れさせませんでした。

 他のみんなが必死でタイヤを取り合って、遠くから見ると団子状態になっているなか、その脇でななほちゃんがりゅうさんを何が何でも逃げさせまいと、手や足を使って引き留めています。

 そして最後までりゅうさんを絶対に離さなかった、ななほちゃんの体力や腕力、粘り強さは、みんなの心に強く残りました。

 わたしたちは得点三倍の大きなタイヤを取り合いました。相手の上に乗っかってもいいし、無理矢理引き離してもよいので、一年に一度きりの取っ組み合いです。

■仲間の秘めた力

 何をされても絶対に絶対に手を離すものかと、渾身の力で、意地でもタイヤを離したくありませんでした。同じチームのゆいちゃんは泥の中から顔しか見えていない状態でしたが、それでもタイヤから手を離さす、顔だけ出た状態で、「大丈夫!」と笑顔でした。

 取り合いの時間も長くなってくると、だんだんと体力が消耗してきます。もう握力がない、ダメかもしれない。そう弱気になりかけた、そのとき、突然横から、「せーのっ!」という力強い声が聞こえてきました。
  
  
 ふと顔を上げると、そこにはさやちゃんが立っていました。そしてさやちゃんは、「せーのっ」の掛け声と共に、ものすごい力でタイヤを自分たちの陣地へと引っ張っていってくれたのです。

 さやちゃんが秘めた力の持ち主だということは感じていたけれど、こんなにも力があったのかと驚きでした。さやちゃんがまだ諦めていないことを感じて、わたしも残りの力を振り絞って、さやちゃんの、「せーのっ!」に声を合わせて大きな声を出して、タイヤを引っ張りました。

 それがちょっとずつ伝染して、同じ場所から全く動かなかったタイヤが、チームのみんなの力で少しずつ、少しずつが動き始めていったのです。

 そして「終了ー!」の合図が聞こえたとき、永遠に終わらないのではないかと思った長い長ーい戦いが終わりました。

 最後の最後まで取り合った大きなタイヤは……二本とも、緑チームの陣地側に入っていました。

「やったーーーーーーーー!!!」

 身体の底から喜びの声が湧き上がってきました。隣にいた、さやちゃんやチームのみんなとハグで喜びを表現しました。わたしたち緑チームが獲得したタイヤは、小さいものも含めて、得点にすると九点にもなりました。

 起き上がってから、畦へ戻るときに、ようやく誰と戦っていたのかわかるくらいで、「あーっ! ○○ちゃんだったのか!」と、泥の中では誰の見分けもつかなかったです。
  

  
■逆転勝利

 そしていよいよ総合得点の結果発表の時間です。

 進行のあゆちゃんから、

「なんと、いまのタイヤ取りで一位と二位が入れ替わりました!」

 という発表がありました。もちろん最下位のチームには罰ゲームも用意されています。祈る気持ちで、三位から発表がありました。

 そして、「一位は……緑チーム!!!」

 あゆちゃんのその声が聞こえたときは、信じられない気持ちと、あのタイヤ取りの一点が、逆転勝利に繋がったんだ……! と思いました。あのとき、さやちゃんが来てくれていなかったら負けていたかもしれません。

 チームの誰もが自分の持てる力を最大限に発揮して、戦えた全五種目。誰か一人が輝いていたわけでも、秀でて目立っていたわけじゃなく、みんなで力を合わせたことで掴めた、みんなの勝利でした。
    
 そして残念ながら最下位だった赤チームに待つ罰ゲームは、赤チームのみんなを他の子全員で円になって囲んで、一分間、水浴びならぬ、泥浴びせです!

 

 でも反撃もありで、わたしの目の前にいた赤チームのれいこちゃんが両手に泥の固まりをたんまりと乗せて怪しい笑みで構えていて、優勝したわたしたちも、同じように泥を浴びる結末となりました。

 お開き後の自由時間は、りゅうさん対みんなでりゅうさんに飛びかかっていったり、最後の最後にはみんなで横一列で手を繋いで、田んぼの中へダイブもしました。
  

りゅうさんめがけてダッシュ!

 

 今年はこれまで以上に最高に楽しかった、泥んこ運動会。恒例になりそうな、新種目も見つけることができました。

 田んぼの中でわたしたちの楽しかった気持ちや笑顔、いくつも繰り広げられた戦いの証が、田んぼの神様に届いて、今季の稲作はきっと大豊作になるだろうと思いました。