

第52回「紫陽花(あじさい)」
思春期に入った少女は毎日、母とぶつかっていた
傷心の少女に伯母は使い古しの油絵の具セットを渡した
庭の紫陽花に少女は心を寄せ、
ありあわせの板に初めての油絵の具で紫陽花を描いてみた
描き上げるとその絵のことは忘れてしまった
それからも母との衝突は続いた
少女は家を出て、結婚し、子供を2人もうけたが、
実家に帰省する度に母とは折り合いの悪さを感じた
やがて離婚し、再婚すると、
母の怒りは極限に達し、
二度と家の敷居をまたぐなと娘に絶縁を言い渡した
不幸の報せを聞いて、娘は禁じられてきた家の玄関に入った
玄関の壁に1枚の絵が飾られていた
あの日、板に描いた紫陽花
母は奔放な娘を案じつづけ、
娘を思う気持ちから衝突の連続だった
玄関に誇らしく飾られた紫陽花に、
娘はやっと母の気持ちを受け取ることができた
永い間、本当に永い間、
母と娘は、互いに深い想いを抱きながら、
厳しく律しあって生き続けた
その2人の間にそっと沿い続けてきた紫陽花
青の紫陽花の花言葉は「辛抱強い愛情」
白の紫陽花の花言葉は「寛容」
〈撮影場所:体育館東側花壇〉



