「泥んこ運動会」 ななほ

5月29日

 いよいよ明日が、泥んこ運動会という日の夜。あゆちゃんに声をかけてもらい、何人かの子と、実行委員と選手宣誓をさせていただくことになりました。選手宣誓は、ふみちゃんとさくらちゃんとです。

「どんな選手宣誓がいいかな?」
「近々のなのはなに合った、ユーモアのある宣誓を考えたいね」
 選手宣誓を考えているだけで、泥んこ運動会がより、楽しみになりました。

 そして、泥んこ運動会当日。朝起きても、桃の袋掛けからの帰り道でも、自分も含めて誰もがソワソワとする様子で、それもまた、この日ならではで、嬉しく思いました。
 昼食の時には、お父さんが、
「今回は新競技で、『タオル相撲』があります。運動会の前に、『タオル相撲』で有効な技をいくつか、伝授しようと思います」
 と言って、お父さんが実際にデモンストレーションをしながら、伝えてくれました。

 その中で1つ、自分が印象に残ったのは、自分にタオルを巻きつけるようにして、相手を倒す技。
 野菜切りの時、なつみちゃんやさきちゃんと、「どの技にする?」と話しながら、私の中では、(この技しかない)と目をつけていました。

・2022年泥んこ運動会、開幕!

 泥んこ運動会の会場は、池下田んぼです。あゆちゃんやまえちゃんたちが綺麗に畔塗りをしてくれて、須原さんが代掻きをして下さった田んぼ。
 あゆちゃんが発表してくれた、4つのチームに分かれて田んぼへ歩いて向かうと、田んぼの水面がキラキラと輝いていて、やる気が湧いてきました。

 開会式では、お父さんの開会宣言から始まり、私たちの選手宣誓。なのはなのみんなの前だから、選手宣誓も緊張しなくて、ただただ、みんなで楽しもう! という気持ちで、選手宣誓を言えたことが嬉しかったです。
 その後の準備体操も、よしみちゃんとまなかちゃんが、「みんなで楽しもう、踊ろう!」という体操を最後に入れてくれて、後で、写真で見た時、お父さんやりゅうさんが、写真だけれど、今にも踊り出しそうで、とても愉快で大好きな写真になりました。

 毎年恒例の、泥んこ運動会。私はこの季節になると、(泥んこ運動会は、何日だろう?)とワクワクした気持ちが続きます。なのはなの中でも、「一番好きなイベントは?」と聞かれて、「泥んこ運動会!」と答える子も多く、なのはなに来なかったら、きっと、いや絶対に経験することのなかった、この泥んこ大会を、みんなと迎えられて嬉しかったです。

・回転技で、勝利

 第1種目めは、今回初めての挑戦でもある、『タオル相撲』。『タオル相撲』はその名の通り、身体で組むのではなく、タオルを両手で掴み、相手を倒した人の勝利です。
 私は今回、黄色のまえちゃんチームで戦わせてもらったのですが、私たちのチームには、今回が泥んこ運動会初参戦のあきなちゃんもいてくれて、あきなちゃんが楽しんでくれたらいいな、その為に勝たなければと思い、試合に臨みました。

 お父さんお母さんや、みんなが口々に言うこと。それは、
「泥と陸とでは全然違う。どんなに小柄でも、泥の中では強かったり、この人はこんなに足腰が強かったんだと思うことがたくさんある」
 私は身長が低いこともあり、泥んこ相撲ではあまり勝てた経験がないのですが、また『タオル相撲』となると全然違うだろうなと思い、最初から勝つ気満々で向かいました。

 対戦相手は、りんねちゃん。お父さんの、「よーい、のこった!」の声で、お父さんに教えて頂いた回転技を使いました。
 回転技をしていると、自分が後ろを向く為に、前で何が起きているのか分からなくなっていたのですが、後ろを振り向くと、りんねちゃんの姿がありませんでした。

(ん? どうなったんだ?)
 そう思い、下を向くとりんねちゃんが泥に浸かっていて、一瞬だったけれど、回転技を成功させることができて喜びを感じました。お父さんも、チームのみんなも、「すごいね、よく決まってたよ」とハイタッチをしてくれて、初めて、相撲で勝つことができて、それだけで満足した気持ちになりました。

 タオル相撲では、長期戦も多く、押しては引いての戦い、1人が飛び掛かろうとして失敗した戦い、りゅうさん対まちちゃんの試合はりゅうさんの気迫がすごくて、それでも粘って、粘り続けたまちちゃんの笑顔が素敵でした。まえちゃん対やよいちゃんも、(一体、どうなっちゃうんだろう?)という気持ちで胸がドキドキしていたのですが、やよいちゃんの勢いで、まえちゃんが背中から泥に浸かり、その潔さもまた、美しく感じました。

・チャンバラ合戦

 続く、2種目めは『チャンバラ合戦』。
 これもまた、静かな戦い、激しい戦いで分かれて盛り上がりました。私はゆいちゃんと戦わせてもらったのですが、もう、自分の目の前に、スポンジ製の赤い剣がビュンビュン飛び交うだけで、何が起きているか分からなかったし、自分も何をしているのか分からなかったけれど、お父さんに、「黄色、1本」と言ってもらえた時は、嬉しかったです。

 やったーと思いながら、チームの元へと帰ると、ひろこちゃんから、「さすが、ナナポンだね」と言われて、「え? どうして、ナナポン?」と聞いたのですが、「だって、ナナポンは剣を持っているから!」と言われ、みんなと笑いました。

 チャンバラ合戦は、今ではなのはなの泥んこ運動会に欠かせない種目となっているのですが、今回は、後ろ向きでお父さんに飛び乗ってしまう人もいなく、お父さんの洋服は、まだドロドロにならずに良かったなと思います。みんなが真剣勝負で戦っている空気に、私も凛とした気持ちになりました。

・ポートボール

 3種目めは、これまた新種目でもある『ポートボール』。
 初め、「ポートボールをしたいと思います!」と聞いた時は、
(ポートボールって何? 私の苦手な、球技だということは、何となくわかるけれど……)
 と思いました。

 ポートボールはどうやら、バスケットボールのゴールが人バージョンというようなゲームだったのですが、バスケットボールもほとんどしたことのない私にとって、少し嫌な予感がしました。
 1試合目。自分のポジションはざっくりあったものの、ボールがあっちへ行ったり、こっちへいったり。
 
 私は、ゴールマンがいる側にステイしていたのですが、(あ、繋がりそう)と思って両手を上にあげて待っていたら、今度は私の反対側へ、ボールが飛んでいきます。
 「そっちじゃな~い!」
 そう言いながらも、またもやボールが私の方へ進んできます。

(今度こそ、ゴールマンへとつなげよう)そう思って手を伸ばしたら、私の頭の上を超え、後ろにいた相手チームにボールが渡ります。
 これは何とも難しい、ポートボール。

 初めの1試合は数点差で負けてしまいました。そして2試合目は、青チーム対赤チームの応援。
 青チームはりゅうさんが作戦会議をしていたのですが、それがものすごい作戦らしく、試合開始から1分も経たない間に2点が入りました。

 「え、どうして、何が起きてるの~?」。
 そう叫ぶと、司会をしていたあゆちゃんも「一体、何が起きているのでしょうね~?」と笑っていて、りゅうさんの作戦が素晴らしく、1試合で8点近くも得点していてすごいなと思いました。

 それからは、もう一度リベンジがあったものの、ギリギリまでボールが繋がっても、点数になりません。悔しいばかりの、ポートボール。
 私たちのチームは、タオル相撲でも、チャンバラでも勝っていたのに、ポートボールが原因で、中間結果発表では、最下位に。

 あゆちゃんの表情から、罰ゲームが用意されている予感で、これは負けられないと思いました。

・泥の中をダッシュ

 続く4種目めは、『リレー大会』。
 私は足が速い方ではないのですが、やっぱり、田んぼの中でのリレー大会は、見ごたえも走りごたえもある、大好きな種目です。

 私は2番走者で走ったのですが、「よーい、スタート!」の合図とともに、りゅうさんやりゅうさんや、りゅうさん。りゅうさんしか見えないくらい、りゅうさんがものすごい勢いと、水しぶきをあげて走ってきて、私がカラーメガホンを受け取るはずの、よしみちゃんが見えない程でした。

 でも、よしみちゃんが顔に泥を塗りながら、白い歯で笑って、黄色いメガホンを渡してくれて走ります。もう、何が何だか分からない、このリレー大会。
 走っている間は無我夢中だったのですが、とても気持ち良くて、自分が速くなったような気持ちになりました。

 泥の中をダッシュ。リレー大会は一瞬にして終わりました。すると、お父さんが、
「2試合目は、妨害をしても良いことにします。ルール違反はありません、何をしてもいいです」
 と言っていて、「2試合目もあるのか!」とチームのみんなと言いながらも、「私たちは、ただ全力で走ろう」と真剣なまなざしを交わします。

「よーい、スタート!」
 どうやら、トップバッターで走ったまえちゃんは、りゅうさんに跳ね飛ばされたらしいのですが、カラーメガホンで仕返しをしたらしく、こちらから見たら順調に走っている様子。まえちゃんからメガホンを受け取り、思いっきり走りました。
 途中、ピンクチームの誰かがメガホンを落として、順位が変わります。黄色チーム、順調そう。あんなちゃんが1人、追い抜かし、トップに入りました。

 またラスト走者はまえちゃん。まえちゃんの後ろからは、りゅうさんがすごい形相で走ってくるのが見えたのですが、無事にまえちゃんが走り抜いてくれて、1位になることができました。どうして、1位になれたのかは自分達でも分からなかったのですが、走り終えた後は、どのチームもすがすがしい笑顔で、田んぼの中をダッシュするのは、どこを走る時よりも爽快だなと思いました。

・タイヤ取り合戦

 最終種目は、タイヤ取り合戦。私は泥んこ運動会の中でも、タイヤ取り合戦は1番好きな競技です。
 田んぼの真ん中に置かれた7つのタイヤ。タイヤは1つにつき、1点らしいのですが、真ん中に置かれた大きなタイヤは3点らしく、このタイヤが2つ、獲得できたならば、勝利間違いなしです。

 私はまえちゃんに、「私、真ん中いきます」と言いました。そして、そういったからには、何が何でもタイヤを自分の陣地へと持って帰らなければいけません。

 向かいには、りゅうさん率いる青チーム。スタートの合図とともに、大きなタイヤめがけて走りました。
 私はよしみちゃんと一緒にタイヤを取りに行き、相手はふみちゃん1人。これは、持って帰れそうです。でも、ふみちゃんは1人なのに、ものすごく頑丈にタイヤへとしがみつき、中々離れてくれません。
 作戦変更、ふみちゃんごと、自分の陣地へと運ぶ事にしました。

「せーの! せーの!」
 真ん中にあったタイヤも、徐々に黄色チームへと引きずられていきます。

 最後にはふみちゃんがしがみつきながらだったけれど、無事に自分の陣地へとタイヤを投げ込むことができて、達成感を感じました。でも、休憩なんて、していられません。
 次に向かうのは、もう1つ目の、大きなタイヤ。もう既に、タイヤの数的には私たちのチームは勝っていたのですが、少しでも点数を稼がないと、罰ゲームになってしまいます。

 私は作戦にも、自分の中のプランにもなかったけれど、気が付いたらりゅうさんにしがみついていました。りゅうさんをタイヤから剥がしとり、りゅうさんの腕を後ろから押さえて、身動きが取れないようにします。
 体格も、身長もりゅうさんの方が遥かに上回っているけれど、応援席の方から、「ななほちゃん、その調子!」「ななほちゃん、りゅうさんを止めて、頑張れ!」と応援が聞こえて、何度、飛ばされそうになっても、もう一度、もう二度と飛び掛かりました。

 時間にすると、2分は止められたでしょうか? りゅうさんは1人で5人分くらいの力なので、少しでも、りゅうさんを抑えることでチームに貢献できたかなと思い良かったです。
 そして最後は1つのタイヤに、チームの全員がとりつきます。やよいちゃんにアタック、あやかちゃんにアタック。もう、誰が誰だかも分からなかったけれど、みんなにアタックをして、タイヤを押していきます。

 最初は明らかに青チーム側にあったタイヤも、少しずつ黄色チーム側へ。もう、時間も限られているから、奥の手を使おう!
 そう思い、りゅうさんの足を隣にいた仲間と引っ張り、りゅうさんごと黄色チームへと引きずりこみました。

(りゅうさん、ごめんなさい)心の中で何度もそう思ったけれど、ポートボールで大勝ちしたりゅうさんチームには、負けられません。
(りゅうさん、力持ちだから許して下さいね)そう思いながら無事にりゅうさんごと黄色チームの陣地へ運んだところで、試合終了のアナウンスが。

 無事に、黄色チームは9点近く、獲得することができて喜びました。

 その後は赤チーム対緑チーム。試合が始まった瞬間、誰がどこにいるのか、あれ、1人人数が減ったんじゃないと思う程、みんなが真剣で力強く、勝負に染まります。
 気が付けば、ゆいちゃんが泥にどっぷりとつかり、背泳ぎをするように顔だけが水面から出ていました。

 みんなが、「ゆいちゃん、大丈夫?」と試合をしながらも声をかけると、ゆいちゃんが顔しか見えていないにもかかわらず、歯を見せて「大丈夫」と言っていて、またもやみんなが勝負の顔つきに。
 どうやらゆいちゃんは、まなかちゃんの足と、せいこちゃんの足を全身で押さえている様子。

 思わず、
「せいこちゃん、いつから足が4本、はえたの?」
 と言ってしまったのですが、ゆいちゃんは顔しか見えない分、せいこちゃんの胴体からせいこちゃんの足2本、そしてゆいちゃんの足2本が絡まり合っていて、時々、空高く足が伸ばされる光景は、タコのようで会場いっぱいに笑い声が響きます。

 その後は、ゆいちゃんとせいこちゃんが離れた所で取っ組み合っていて、時々、せいこちゃんが思いもよらぬ大きな声で笑います。
「せいこちゃん、いったい何があったの?」
 その場にいたみんなとそう口々に叫び合ったのですが、後から聞いたところ、ゆいちゃんから泥の中でコチョコチョ攻撃を受けていたようで、あの大きな笑いの意味が分かりました。

 他にも、やよいちゃんとさやちゃんが、どちらからともなく体当たりしていき、泥の中に倒され、起き上がったと思ったら、後ろから仕返しされるというのを繰り返していたり、応援していても笑いが止まりませんでした。
 結果的に、緑チームは殆どのタイヤを自分の陣地へと持って帰り、高得点の予感。
 すべての種目が終了です。

・罰ゲームと自由時間

 そして、最終結果発表。どうやら、最後のタイヤ取りで順位が大きく入れ替わったようです。
 見事、1位に輝いたのは、緑チーム。私の中では青チームがダントツの1位だと思っていたのですが、タイヤ取りのお陰もあり、1点差で緑チームが1位になり、その大逆転がすごいなと思いました。

 気になる、最下位は?
(どうか、黄色じゃありませんように)

 あゆちゃんの口から、「赤チーム」と発表された時は、心底ほっとしました。
 罰ゲームは、『泥のプレゼント!』

 赤チームのみんなが田んぼの真ん中へ集まり、赤チームのみんなを360度からみんなで囲みます。
「バシャバシャバシャ」私たちも、赤チームへ泥爆弾や泥水を投げるけれど、相手からも帰ってきて、最後は頭の先から足までがドロドロになりました。

 そして、15分の自由時間。自由時間となった時、真っ先にやよいちゃんの視線が飛んできて、思いっきり、飛び掛かってきました。
 そう、やよいちゃんにはタイヤ取り合戦で私がりゅうさんにも飛び掛かったけれど、やよいちゃんにも何度も飛び掛かりました。やよいちゃんに倒された私、だからと言って、お返しはちゃんとします。

 もう2人ででんぐり返しをしたようにお互いに泥の中へと飛び込んで笑いました。

 その後は目が合った人と相撲を取り合ったり、りゅうさんの方へ体当たりしては跳ね返されます。
「みんなでりゅうさんを倒しに行こう!」私がそう言ったとたん、泥に浸かっていたみんながサッと立ち上がり、一斉にりゅうさんの方へと走りました。

 前を走っていたやよいちゃんは、りゅうさんに飛ばされて田んぼの中へ。その後も、りゅうさんは1人ずつみんなを泥の中へと飛ばしていきます。
 私も思いっきり当たりに行ったのですが、気が付けばりゅうさんに抱えあげられ、そのままりゅうさんも一緒に3回転回り、空中を1回転しながら泥の中にダイブしました。

 りゅうさんに回されている間は、本当に色々な光景がスローモーションに見えたのですが、ものすごく気持ち良くて、楽しかったです。みんなと笑いながらりゅうさんに向かっていくのを、りゅうさんが倒して行ったり、誰もが笑っていて、幸せでした。

 最後の最後は、あゆちゃんが声をかけてくれて、田んぼの端から端まで、ハイハイリレーをしました。それが思った以上に難しかったのですが、沈みそうになりながらも前へと進んでいき、隣のあゆちゃんと競うようにしてハイハイで田んぼを進んで、泥んこ運動会もお開きとなりました。

 泥んこ運動会。やっぱり、私は大好きな行事です。普段は畑でも洋服に泥がつかないようにと気を付けている私も、泥んこ大会となると、いかに綺麗な場所を残さないかと思います。
 頭も全て泥に浸かると、自分の雑念も悩みも、ちょっと神経質な一面も全て吹き飛んでいき、「私、生きてる!」と感じます。

 泥に浸かる喜び、泥にダイブする楽しさ。きっと、こんな経験をしている人は中々いないです。
 でも、こんな素敵な経験をして育った人は、人間として楽しい幅が広がるだろうなと思うし、私はきっと、自立して子供ができてからも、子供も一緒に泥んこ運動会をするだろうなと思いました。

 泥に入って、いっぱい遊んだ後はタンクの水で綺麗に洗い流し、温かいお風呂へ入って、自分の着ていた泥染めになった洋服を洗います。
 その心地よい疲れを感じながら、みんなと片付けをするのも嬉しくて、幸せという言葉じゃ表せないくらい、幸せな日でした。
 今年も、稲が豊作になりますように。