【5月号⑩】「進化した支柱立て ―― 夏の代表野菜 ナスの植え付け ――」るりこ

 「大変だ! ナスの苗が大きくなってきたよ! 早く植えないと!」

 スプリングコンサートを終えて、安堵していてはいられない!次にわたしたちに待つのは、夏野菜!畑だ!

 コンサート期間、練習と同時並行で進めてきた春夏野菜の苗たちがハウスいっぱいに広がり、暖かくなってきた気候もあってか、日に日にぐんぐんと成長していきます。

 その中でも、「早く僕たちを植えて!」と言わんばかりに葉を大きく茂らせて、存在感をアピールしているのは、ナス、ナス、ナスの数々。
  
  
 夏野菜の栽培の中でなのはなが得意としているナスは、今季、株数を増やし、力を入れようと意気込んでいます。ナスだけで約千株近くの苗が、毎朝の手入れや水やりの効果で順調に成長して、もう待てないくらいに大きくなりました。窮屈なポットから、広い畑の地へ。ナス、待っていて!

 ハウスの前を通るたび、横目に入るナスの苗に、(もうすぐだから)と言いたくなりました。でも、いち早く植え付ける前に、やらなければいけないことはたくさんある。

 ナス植え付け大作戦、とまではいかないけれど、コンサートを終えて、先頭を切った、畑のビッグ作業として、ナスの支柱立て、植え付けを行いました。

 その日はコンサートからちょうど一週間が経った、土日の休日。一週間前のちょうど今は、ホールでゲネプロを迎えていたのか……と考えると、その記憶がずっとずっと前のことのように感じます。

 演奏、ダンスから農業へと、やることは全く違うけれど、お父さんは、「畑も表現の一つだ」と教えてくれます。休日でりゅうさんやお仕事組のみんなも揃って、美しい畑づくりを目指して、土曜日の一日目は午後からナス畑に畝立てをしました。

■高いベッド畝を

 今季、ナスが植わる畑は滝川横畑と滝川奥畑の二枚です。広い滝川横が一面ナス畑になるなんて……と、その光景を思い浮かべるだけで、すごい規模だと思いました。

 畝の数も多いけれど、それ以上に一畝の長さがとっても長いです。でも、それはリーダーのやよいちゃんが前夜に作戦を立ててくれていました。

 前夜の集合で、やよいちゃんがお父さんに質問をしました。

「明日、ナスの畝立てをしますが、一畝がとても長いです。みんなの気持ちが最後まで切れずに、楽しく畝立てをするにはどうしたら良いと思いますか?」

 お父さんは少し考えて、こう答えました。

「畑をいくつかのスパンに分けて、なるべく狭い範囲をみんなでやる」

 多い人数で同じ畝に入って、一人一・五メートルくらいの狭い範囲を担当すれば、短い時間で終わるから、気力も続くのではないかと提案してくれました。わたしもその答えを聞いて、最後まで頑張れそうだと思いました。みんなと一体となってやっているという喜びも感じられそうです。

 そのお父さんの作戦を取り入れて、やよいちゃんの掛け声と共に畝立てが始まりました。

 約十五人くらいのみんなで一畝に入ると、隣の子が二メートルほど先の、すぐそばにいて、自分が担当する範囲がはっきりとわかりました。

 今回、畝幅は八十センチで畝間が一メートルあり、例年よりも畝間が広いです。そのため、畝にあげる土の量も多く、少し大変な部分もありました。しかし、隣の子がすぐそばにいて、隣の子が遅れていたらカバーし合って、全員で着実に一畝を終わらせていくことができました。

 わたしは一番端を担当していましたが、見えなくても、反対側の端にいる子も懸命にやっているのだろうということが空気感で感じられて、わたしもみんなに引っ張られるように自分の担当範囲をしっかりと立てていきました。

 一畝が終わると、それぞれ、「次の畝に入ります!」と宣言してから、次の畝に入りました。そして、誰かが宣言をするたびに、みんなで、「はいっ!」と答えました。

 そのなかでも、りゅうさんが毎回一番大きな声で返してくれて、広い畑にりゅうさんの声が響き渡るたび、嬉しい気持ちが広がりました。
  
  
 畑の半分の畝が立ったころ、少し疲れが出てきました。でもみんなで伸びを挟んだり、「あと○畝だよ!」と言い合って、最後まで粘り強く、みんなで終わらせようという気持ちで向かっていくことができました。

 ラストスパートはお父さんも来てくれて、最後まで畝を立て続ける人、畝ならしに入る人、畝を分割する人に割り振ってくれて、猛スピードで進んでいきました。

 その日の午前は何もなかった真っ新な畑が、午後の時間だけで景色が一変し、一面に畝がズラーッと並びました。土もたっぷり上げた高畝が完成し、暑さ対策にもなりそうで、良い畝をみんなと立てることができました。

 その翌日、日曜日。一日がかりでナスの作業が続きます。その日は細かな作業以外はほぼ全員がナスの作業に入り、普段は桃作業などの子もいて、少し新鮮な気持ちがしました。
    
■二つの進化

 午前に行うのは、支柱立て!

 夏の畑作業と言えば、支柱立てが定番ですが、ナスの支柱立ても毎年行っています。しかし今回のナスの支柱立ては例年と違うのです。ナスの支柱と言えば、合掌づくりが多かったですが、今回は画期的な支柱を、お父さんとやよいちゃんが生み出してくれました。

 それは二つの進化があります。

 一つは支柱がV字型になること。これまでが三角形だとすると逆三角形という、真逆の形になるのです。今回の試みとして、支柱自体の形を真逆にすることで、株が小さいときは支柱の幅も狭く、株が大きくなるときには支柱の幅も広がり、株の生育と支柱の広がりが一致するというわけです。
  
  
 二つ目は、横竹を使わずにエクセル線で代用するということです。横竹は平均して四〜七メートル以上あるものもあり、横竹用の竹取りにいくことも、作業中に長い竹を扱うことも大変だと感じることがありました。

 しかし今回、桃の支柱立てで使っていたエクセル線を野菜の支柱にも使ってみようとお父さんが提案してくれて、今年はどの野菜の支柱も横竹は使わないでエクセル線を使う方針になりました。横竹がないことで、見た目がすっきりするだけでなく、作業性も良くなるという利点があります。

 この二点を取り入れた支柱を、お父さんが、「透明感がある、スケルトンの支柱」と表現してくれました。そしてナスの支柱が、その第一号です。

 作業の初めにリビングで集合をして、やよいちゃんがどういう支柱を立てるのかを話してくれて、それから各工程の役割分担をしてくれました。

 畑に着くと、朝早くからお父さんも駆けつけに来てくれて、改めて支柱の立て方を教えてくれました。一畝が四スパンに分かれていて、畝自体は十二畝あります。合計すると、全四十八スパンです。

 一スパンごとに、畝の端々とその間二か所の、計四か所にV字型で支柱を立て、さらに補強として、端々の支柱には縦竹を打ち込みます。
  
  
 竹の打ち込みは、れいこちゃんとさくらちゃんペア、あんなちゃんとよしみちゃんペア、さやねちゃんとりなちゃんペアの三ペアが担当してくれることになりました。一人がポイントとなる竹の角度を見て、竹を支え、もう一人がかけやを使って打ち込んでいきます。各ペアが声を出し合いながら、協力して、力強く竹を打ち込んでいってくれる姿が勇ましく、その懸命な姿にわたしも引っ張られました。

 わたしはななほちゃんと、横竹の代わりとなる、エクセル線のカットを担当することになりました。

 エクセル線は、一畝の支柱に対して五本、取り付けます。四本は、支柱のV字に沿わせた上段と下段に、左右対照に張ります。そして残りの一本は、V字の一番下、畝に近い中央に通します。一番低い一本は苗が小さいときのために、下段、上段の二本はそれぞれ成長段階に合わせて、必要となってきます。

 そしてエクセル線カットで登場したのが、桃の枝吊り作業でも大活躍した、『カラマンデショウジ・スパラット』!

 須原さんが作ってくださった特製の機械で、名前もみんなで名付けたものです。これを使ったら、一束千メートルもあるエクセル線を、絡まずに引き出すことができます。

「本当にすごいんだよ!」と噂には聞いていましたが、実際に使うのは、わたしは今回が初めて。桃作業で手慣れたななほちゃんが使い方や仕組みを教えてくれて、早速使うことになりました。
  
 わたしたちは初め、一本、見本となる長さのものを切って、それをもとに大量生産していこうかなと思っていたのですが、横で見ていたお父さんが、スパンごとに畝の長さが違うから、エクセル線の長さも全部同じだと短すぎたり、長すぎたりしてしまうものが出てきてしまうことを指摘してくれました。
  
  
 そこでスパンごとに『カラマンデショウジ・スパラット』を移動させて、それぞれの畝の長さに合った、適切な長さで五本カットしていくことになりました。

 

■四十八スパンを回って

 ななほちゃんが『カラマンデショウジ・スパラット』に付き、エクセル線の端を持つわたしは畝の反対に向かってエクセル線を引き延ばし、結び目に必要な四十センチほどを含めた充分な長さになったら、「OKです!」と叫びます。

 すると、ななほちゃんが、「はいっ!」と大きな声で返事を返してくれて、エクセル線をカットし、お互いに支柱に軽く結びつける、という流れでした。
    
 午前いっぱい、一スパンにつき五本ずつを延々とカットしていきました。ななほちゃんから端を受け取って結びつけ、また、ななほちゃんの元へ戻って、端を受け取って……。畝間を行ったり来たりしていると、それだけで汗が流れてきました。

 でも毎回ななほちゃんが笑顔で手渡してくれることが嬉しくて、だんだん二人の間でやり方やリズムも確立されていき、ななほちゃんと『カラマンデショウジ・スパラット』と共に、全四十八スパンを回っていきました。

 他のメンバーは、かけやチーム三ペアが打ち込んでくれた支柱を、スズランテープで固定していきました。

 ここで気をつけるポイントとして、立った支柱にエクセル線を伸ばしたとき、上段のエクセル線が畝肩のラインにくるようにすることが大切です。そのためペアになって、一人が支柱の角度をみて竹を押さえ、もう一人がきつく固定するように頑丈に縛るという流れでした。  
  

V字型の支柱にすることで、ナスの株が大きくなってもエクセル線に誘引しやすくなります

 

 やり初めは角度が浅すぎたり、バラバラだったりと苦戦していましたが、何本もやっていくうちにだんだんとナスが大きくなって上段のエクセル線に掴まっている様子のイメージが浮かぶようになり、コツが掴めるようになっていったと、やっていた子が話してくれました。

 角度が揃った支柱がびしっと並ぶと、その光景だけでもきれいだったし、お父さんも、「いいね」と言ってくれました。

 各工程ごとにコツを掴み、どんどんと作業のスピードも上がっていきます。みんなが一体となって、緊張感のある空気の中で、午前の作業が進んでいきました。

 午後は午前よりも多い人数で、滝川奥の支柱立ての続きから始まりました。

 わたしは引き続き、ななほちゃんと残りのエクセル線のカットを進めました。午前の間で滝川横の四十八スパンの内の三分の二ほどが終わっていたので、その続きから始まり、それからは奥の十スパンに移りました。滝川横と奥畑を合わせると、全五十八スパンです。一スパン五本だから、約三百本近いエクセル線をカットすることになります。

 残りのスパンが減っていくたびに、ななほちゃんと、もう少し、もう少しと思いながらも、五本カットするのは意外と時間がかかりました。

 そしてとうとう最後の一本を迎えたときは、両手を上げたいくらいの達成感がありました。

「やったーーー!!!」

 ななほちゃんと三百本達成を祝って、喜びました。メートル数でいうと、約二千五百メートルにもなりました。

 最後の一本まで、エクセル線は一度も絡まることなく、『カラマンデショウジ・スパラット』がわたしたちの味方をしてくれたことも大きかったです。支柱が立ち、一番下のエクセル線を支柱に結びつけられたところで、いよいよ植え付けに入りました。
  
  
 まずは植え穴を掘り、そこにさやねちゃんとりなちゃんが、たっぷりと水を染みこませてくれます。水路に流れる水を利用し、長い畝にホースを伸ばして行いました。

  そして水が染みこんだ穴から順に、ナスの苗を植え付けていきました。やはり株は大きくなっていて、広い畑に植え付けられて、広々と根を伸ばせることをナスが喜んでいるように見えました。

 植え付けと同時並行で化成肥料の追肥をし、さらに水をたっぷりと与えました。早速、エクセル線を使って、誘引もすることができました。
  
  
 その後、保湿と根切り虫対策として、株周りに草を敷いていきました。ゆりちゃんが畑の外周の草を刈っていってくれて、わたしはその後を追って、草集めをしました。

 畑ではりゅうさんやあやかちゃん、ななほちゃん、さやねちゃんたちが一人一畝で草敷きをしてくれて、わたしは草を集めしだい、みんなのもとへ運んでいきました。テミに入った草を渡すと、みんなが笑顔で、「ありがとう」「わぁ、嬉しい!」と返してくれて、みんなが喜ぶ姿を見て、改めて、誰かに、「ありがとう」と言ってもらえるとこんなにも嬉しいのだなと思いました。

■圧巻のナス畑

 作業も後半で体力も消耗してきていたけれど、みんなの喜ぶ顔を思うと、力を振り絞ることができ、畑を駆け回り、草刈りをしてくれているゆりちゃんとみんなのもとを走って往復しました。

 ラストスパートは全員で滝川奥畑に移って、ものすごい勢いで草敷きをしました。

 集める草も減ってきていて、みんなのもとへ直接届けるのが困難になってきていたけれど、それでもみんながわたしのもとへ駆けてきて、一緒に草を集めてくれたり、少ない量でも、「ありがとう」と言って、持って行ってくれました。

 そしてとうとう、「足りた!」とさやねちゃんが言ってくれたときは、ちょうどゆりちゃんが刈ってくれた草もなくなったところで、ぴったりだったことにほっとしたのと同時に、ものすごい達成感が湧きあがってきました。
  
  
 リーダーをしてくれたやよいちゃんは本当に泣きそうな表情で、「終わった〜!!! 泣きそう!」と言い、その場にいたみんなで、「終わったーーー!!!」と言いました。ちょうどそのタイミングで十七時のチャイムが鳴り、時間もぴったりでした。

 改めて畑を見回すと、V型に立てられた支柱が畝に沿って整然と並び、エクセル線は遠くからだと見えなくて、すっきりとした光景が広がっていました。これまでにない、新しい形の支柱が立てられた畑の光景でした。

 たったの二日間でみんなの力で畑の景色を一変させることができたんだと、自信に満ちた気持ちになりました。

 この夏これから、ナスの誘引や水やり、草取り、そして収穫、手入れをする日が増えていきます。そのたびに新しい支柱のおかげで作業がしやすくなって、きれいなナスを実らせられることが期待できそうです。

 ナス畑の前を通るたび、「圧巻だね」とついつい何度も言葉にしてしまう、支柱の景色。みんなと力を合わせて向かった二日間がとても楽しく、ナスも新しい畑、新しい支柱で順調に育ってくれることを願います。