脚本で旅するスプリングコンサート
【前半 その1】

 

2022年4月 スプリングコンサート 脚本

とうこ
おじいちゃん、見てますか。
おじいちゃんに教えてもらったことを手がかりに
人は何のために作られ、何のために生きていくのかを知るため
なのはなファミリーのみんなと一緒に
そして、この会場にいるみなさんと一緒に
いよいよ、物語の旅に出ます!

 

 幕が開く

演奏 『Muddy Waters』
――LP

【編成】ボーカル、サブボーカル2名、エレキギター、キーボード、ウィンドシンセサイザー、ベース、ドラムス
ダンス(コーラス)

 

 下手から重い足取りで、沈んだ表情のたかおが現れる。
 ゆっくり舞台中央に進み、客席に向かって、下を覗き込む。飛び込みたい。
 ややあって、上を仰ぎみると、大きな月が出ているのに気付く。
 ふと、下手に人の気配を感じ、物陰に隠れる。

 とうこが、下手から暗い表情で同じように歩いて来て、やはり大きな穴を覗き込む。
 さきほどの男と同様に、舞台中央の大きな月を仰ぎ見る。

たかお
何してる?

 とうこは驚いて振り返る。

とうこ
ビックリした!!

たかお
何してるんだ? こんなところで。

とうこ
何って……。月を見ていたの。大きな、きれいな月だな、って……。

たかお
こんな時間に? こんな場所で? 
あなたは散歩に来たんじゃないね……。
もう、こんな世界とはおさらば――。

とうこ
違うわ!……、私の大事な人を、亡くしたの。
もうだいぶ高齢だから仕方がない。わかっているけど、虚しくて、虚しくて……。
人間て、いつか死ぬのに、なんで生まれてくるんだろう。
なんのために、この宇宙があるんだろうって……。

 

 

とうこ
こんな所で、こんな時間に……、あなたこそ、ナニモノ?!

たかお
わたし? ……私は神様だよ。

 

 

とうこ
嘘! とても神様には見えない。神様は……、もっと上品だわ。

たかお
ああ確かにそうだ。私の場合は、神様は神様でも、疫病神のほうだ。
子供の頃から母親にずっと言われてきた。
あんたは疫病神だ。あんたさえ生まれてこなければ……、って……。

とうこ
ごめんなさい。そ、そんなつもりじゃなかったの。……、でもどうしてここに?

たかお
しっ。……誰か、来た。こっちに

 

 

 また下手から、てつおが1人、同じようにやってくる。
 同様に、真ん中まできて穴を覗き込んでから、月を仰ぎ見る。

てつお
ああ、わからない……。わからない、わからない、わからない!

 頭を抱えて、かがみ込む。
 たかおが物陰からそっと出てくる。

たかお
何が、わからないんだ?

 てつおはびっくりして、立ち上がり、たかおを振り返る。

てつお
あんた、誰?

たかお
仲間さ。きみの、なかまだよ。

 たかおととうこは、てつおのほうへ、歩みよる。

 

 

たかお
ここは、パワースポットと、言われている場所。(しぐさを入れる)
ここでは、不思議なことが起こる、といわれているが、
どうせ最後を迎えるなら、この不思議なパワースポットといわれる場所で、
この世から消えて、どこか別の世界へと旅立ちたい。

(たかおはふたりを見比べるようにして見て続ける。)

たかお
そんな仲間だよ。我ら、おさらば3人組、というわけさ。

(ここまで3人とも、暗い、死んでしまいたいという演技を続ける。
ここで、ハッとしたように、空を見上げて、3人の空気が変わる)

たかお
見てよ、この満天に星が輝く夜空を――。
今夜は月がきれいだねえ。こんな月の綺麗な夜は、
なんだか、そんな気分になれないのが不思議だねえ。

とうこ
ああ……、天の川がきれいだわ。
英語でミルキーウェイ……。
夜空にミルクを流したみたい。この天の川銀河にぴったりの名前だわ。
そして、地球という丸い惑星に乗って宇宙を旅する私達。
こうして見ていると、この宇宙に抱かれているような気持ちになる……。

てつお
あ、見て、みて。あんなに大きな流れ星!(下手側からセンター方向へ)

 

 

たかお
ほんとだ。大きな光、長い光の尾。まるでミサイルだ。
(左手で。右は顔がかぶる)
北朝鮮の大陸間弾道ミサイル、火星17号……。(知ったかぶり)
(てつおの後を、中央まで、左手の指先で火球を追う。その後はとうこ)

とうこ
まさか! あれは、流れ星のなかでも火球と呼ばれる大きなサイズ。
よほど大きな隕石なのかな。あんな大きな火球なんて見た事無いわ。

 とうこが客席に向かって、中央から上手控えのほうへと右手で流れ星を追う。
 それを見て、上手に落ちたタイミングで効果音。(驚くがあくまで顔は上手)
 ドーンという衝突音に続いて、バシッ、バシッ、パシパシパシッと、電気の破裂する効果音。
 上手の奥で、笛の音。長く1音、ピー。

 上手からリーゼルが走り出てきて4番で止まり、とうこたちをじっと見る。

ナナポン
(足場の上手側へ駆け上がり、足場2階からリーゼルを呼ぶ声で)リーゼル! 
リーゼル、待って!(階段を駆け下りる)

 ナナポンが上手袖から出てくる。
 ナナポンもとうこたちに気付く。リーゼルはナナポンを見る。
 リーゼルは、手に剣をもっている。

 

 

 3人は驚き、その逃げてくる人(リーゼル)を呆然と見ている。
 リーゼルは値踏みするように3人を見ながら、3人の周りを一周する。
 意を決したように、とうこに剣をぐい、と突き出す。
 とうこは剣を受け取る。この間、ナナポンはリーゼルの従者のように。

 

 

 このとき、舞台袖でピー、と笛が1回。
 リーゼルとナナポンは、下手へ走ってはける。3人は物陰に隠れる。

(3人が物陰に隠れてから、舞台袖から男たちが出てくる)
 ステージから出たところで、長く1度、客席に向けて、左右に長く笛を吹く。
 あとから出た男たちは、舞台を横切って下手の手前まで走り、立ち止まる。
 時空管理人も1人は剣を持っている(時空を超えるための剣なので)

 

 

時空管理人1
リーゼルは、どこへいった? どうやら別次元に入り込んだようだ。
ここはどこだ?

時空管理人2
(腕時計らしいものを見て)4次元世界の地上ですね。

時空管理人1
4次元か……。リーゼルはよほど思い残したことでもあるのかな。
この地球上の人類がたとえ滅びたとしても、
人類には自分たちで気付かせなければならないのだが……。
出直すことにしよう。
(上手のはける手前で立ち止まり)いいか、必ず阻止するのだ。

 時空管理人たち、上手に向けて引き返す。パシュッ、バシュッと電気金属音の効果音。

 

ワンポイント解説

【時空管理人】
 この宇宙は10次元でできていると言われています。時空管理人は、異なる次元の存在を不用意に知らせることがないように管理している人。特に、低次元のものに高次元の存在を知らせないように取り締まっています。

 

演奏 『Rewrite The Stars』
――作曲 Benj Pasek, Justin Paul

【編成】ボーカル2名、エレキギター、キーボード、ウインドシンセサイザー、ベース、ドラムス
一輪車による演技(オレンジ色の旗を持つ)

僕たちは出会うべくして出会った
運命だ! そう決めるのは他でもない 僕たち自身さ
僕たちが手を繋げば 夜空の星たちの配置だって変えられる
2人一緒なら、世界をも変えていけるんだ
 
一緒に行こう
この世界を、この人生を
今夜、自分たちのものに。

 

 3人は、下手から出てくる。

たかお
あの人は、確か「リーゼル」って呼ばれてたよね。どこの国の人だろう。
誰に追われてたのかな。それとも……。(とまだ信じられない感じ)

とうこ
追いかけてきた人は「四次元世界の地上」とか「異次元に来た」と言ってた。
ということは、元の次元って何? ここが異次元なの?

たかお
それ、何?(とうこの持っている剣を見る)

とうこ
剣(つるぎ)のようだけど、なんか軽い。何も切れそうないわ。
これ、どうしよう?

たかお
ちょっと、見せて。

てつお
不思議な剣だね。

とうこ
そうだ、私の大学の市ヶ谷博士に見せたら、何かわかるかもしれない。

てつお
あんた、大学生なんだ。
あんたたち2人、さっき一緒に暗闇から出てきたけど恋人同士?

とうこ
まさか! 全然! 友達でさえない他人です。
この人、9分52秒前に初めて出会った、全く知らない赤の他人です。

たかお
僕も友達はいらないタイプだけど、このことを3人で一緒に調べないか。
じゃあ、僕から、自己紹介いくよ。
大学を中退してから5年、家族の視線に耐えながら自宅警備員を務めて、
ついに去年、一級在宅士になったんだ……! ゆくゆくは代表戸締り役に……。

 

 

たかお
つまるところは、無職のプータロー。たかおです。

とうこ
私はとうこ。大学1年、宇宙物理学を勉強し始めたところ。

てつお
宇宙物理学ってなに? 

とうこ
なぜ宇宙ができて、なぜ地球が存在しているのか調べたいの。
なぜ人間が存在しているのかを知りたいと思って。

てつお
へーえ、そんなこと調べたらわかるの? 僕は、てつお。
僕は生まれてきた意味がわからないし、生まれてこなけりゃよかったと思ってる。
もし、本当に生きている意味がわかるんだったら、僕も勉強してみたいな。
僕は、えーと、母子共依存の引きこもり。いわゆる無業者ってやつ。
幼稚園から小学校までいじめにあって、学校いくのやめたんだ。
母親以外と話すのは、2年ぶりくらいかな。

とうこ
15歳から39歳までで仕事をしていない人は、87万人もいるそうよ。
若者100人のうち3人近くが仕事も勉強もしていない。その1人なのね。

たかお
僕もそうだよ。仕事は一度もしたことないもの。
もう、自立はあきらめてる。僕は一生、この世界の落ちこぼれでいい、って。

とうこ
実は私も……。大学で勉強を始めたばかりだけど、
燃え尽きてしまったというか、大学に合格するまで頑張ろうってやってきて、
大学に入学した瞬間、マラソンランナーがゴールのテープを切ったような、
そんな脱力感で、大学に行く気力がもうほとんど残ってなくて……。

てつお
でも、さ。いま逃げてきた人を見て、
僕は、ワクワク感を久しぶりで感じた。
異次元の世界とか言ってたけど、そんな言葉に、何か元気が出てきてない?
不謹慎、だとは思うんだけどさ。

 

 

たかお
出てる、出てる。僕は何がどうなっているかわからない、社会不適合者だけど、
さっきの人たちには、やっぱり、興味あるよね。不謹慎かもしれないけど。

とうこ
じゃあ、一緒に調べる? (2人の顔をみる。あまり乗り気ではない?)
(剣を少し見る)市ヶ谷博士に、電話してみるね。

 

演奏 『リベルタンゴ』(管楽器アンサンブル)
――作曲 A.Piazzolla

【編成】ソプラノサックス、アルトサックス、テナートロンボーン、テナーバストロンボーン、ドラムス

 

 研究室
 博士が黒板に向かって、しきりに計算している。

博士
できた、……できたぞ。
そうか、そうか、そうだったんだ。これはすごい発見だ。大発見だ。

 

 

助手
博士、どうしました。大発見、ですか。
新しい素粒子を発見しましたか?
それとも、宇宙が拡大していく理論に新展開が開けたとか?

博士
いやいや、違う、違う、違う。
我々、宇宙物理学を研究する人間は、初めはニュートンの万有引力の法則を元に、
長いこと標準物理学で宇宙を研究してきたが、
結局、すべてに矛盾が生じてきて、宇宙のありようを何も説明できないことに気付いた。

 

 

助手
そうですね。
リンゴが樹から落ちるのを見て、ニュートンは引力を発見した。
でも、それでは、宇宙の成り立ちをほとんど何も説明できない。
そこで私達は宇宙の成り立ちを知るために、
広い宇宙を捨てて、極小世界を突き詰めることで宇宙の始まりを知ることにした。

そして、1秒の1000兆分の1の
さらに1000兆分の1の、その1万分の1秒。
そんな短時間に何もないところから素粒子が生まれて、宇宙が始まった、
ということがわかったんですよね。

博士
そうとも、そうとも、
だが、こんどの私の発見は、まったく新しい理論だ。
ほら、この計算式を見ろ。
ついに新しい扉が、開かれたんだ! 全く新しい扉が!

 

 

助手
(画面を見て)博士、この計算式は、いったい何を表しているんですか。
私にはまだ理解が……。
博士、いったい何を発見したのか、わかりやすく言ってもらえませんか。

博士
きみ、アインシュタインの相対性理論は知っているだろう。
それに似ているが、新しい発見だから、新相対性理論と名付けよう。

助手
博士、その、新相対性理論をわかりやすく、説明してもらえませんか。

博士
相対性理論は、簡単にいうと、空間の大きさも、時間の長さも、
絶対的なものではないといっている。
つまり、条件が変われば、大きさも時間も違ってしまう、という理論だ。
例えば、スピードが早くなれば早くなるほど、
その移動する物体の時間はどんどん遅くなっていき、
光のスピードに達すると、ついに時間は止まってしまう、という理論。

助手
浦島太郎が宇宙船に乗って光の速さで移動をして地球の外の竜宮城へ行き、
少し遊んで再び光の速さで移動で地球に帰って来てみると、
自分は年をとっていないのに、地球時間では100年も過ぎていた、
という話が実話だった、それをアインシュタインが証明したんですよね。

博士
きみ、童話に例えるのはやめてくれ。えらく安っぽくなってしまうじゃないか。

助手
えらいすんまへん。

 

 

助手
博士、早く新しいほうの新相対性理論を聞かせてくださいよ。

博士
きみ、きみのために新しい発見を1行で言うことにしよう。
人間は誰も、新相対性理論の上で生きているから……、

助手
生きているから――?

博士
優しい心を持ったならば、愛のある人生を、たっぷりと、味わえるのだ。

 

 

助手
長い時間楽しめる人もいれば、短い時間しか楽しめない人もいるということ?

博士
君はカンがいい!
そうだ。人間は生まれたときは、個人的に時間が過ぎるのがかなり遅い。
成長するに従って、少しずつ、少しずつ、時間がスピードを上げていくんだよ。
小学生1年生のころ、1日が長かったと思わないか?
夏休みなんか、果てしなく、どこまでも休みが続いていた。
それが、中学生くらいになると、少し夏休みが短く感じるようになり、高校生になるともっと短く感じるようになる。

人は年をとると、どんどん時間が速く過ぎるようになっていくんだよ。
もしも40歳をすぎると、1年間という時間でさえも速く感じるし、
50になったら、あれっと思う程、たちまち1年がすぎていき、
60になったら、おや、という間に1年がたち、
70になったら、は? という間もなく1年としをとり……。

助手
わかりました、わかりました。もういいです。
会場の皆さんも、かなり強く同意してくれています。

 

 

博士
それだけじゃないんだよ、君。
ほら、この計算式をよく見て。
年齢が進むごとに、周囲の空間さえも、歪んでしまうんだよ。
小学1年生のころ、親に車で送ってもらって、
一度だけ遊びに行ったことがある同級生の家……、あるでしょ?

とても遠い遠いところだと思っていたのに、大人になってみたら、
あれ、こんなに近かったんだ、って思わなかった?

助手
それは、子供のときは時間もゆっくりすぎていくのと同じように、
子供のときは、とっても空間が広いということ?

博士
君はカンがいい!
そうなんだ、大人になっていくにつれて、時間がすぎるスピードは早くなり、
空間もどんどん狭くなっていく。
子供のときは美作のナンバがアメリカのように遥か遠くの場所に思え、
津山のイオンショッピングモールがフランスかと思っていたが、
大人になってみたら、ナンバはナンバで、イオンはイオンでしかない。
これが、新相対性理論の核をなす考え方だ。

助手
確かに、言われてみたら、その通り。……新相対性理論。
それがウチュウブツリガクテキに計算したら導き出された、と……?。

博士
その通り。だが、君のその言い方には懐疑的な臭いがプンプンするね。
――疑っている。

助手
いや、そんなことはありません。あまりに斬新で、言葉が見つかりません。

 

 

博士
この新相対性理論で、いまのこの世の中を、劇的に変革することができるんだ。
キリストが生まれてからのこの2000年で、
宗教が人間のモラルを導く役割は終わった。
これからは、新相対性理論が宗教に代わって、人のモラルを構築していく。
もし、時間と空間を広げることができるとわかれば、
誰もが愛情にあふれた人生にしたいと願うだろう。
アインシュタインが本当に見つけたかったのは、この公式かもしれない。

助手
博士、ちょ、ちょっと待ってください。
博士の心意気はわかりますが、博士、私には何を言っているのか……。

 電話(の効果音)助手が電話に出る。

「はい、市ヶ谷博士の研究室です。あ、とうこちゃん。
 ……はい、わかりました。(簡単に短くてよい)
 ちょっと待ってね。いま、先生に聞いてみます」

助手
博士、大変です。うちの学生のとうこちゃんからの連絡で、
大きな隕石と一緒に、どこかから、誰かが、来たそうです。
その人が持ってきた剣を調べてほしい、と言っています。

博士
なに? 宇宙の歪みを使って、どこかから、誰かが来ているだって! 
このタイミングで、来たか。すぐにくるように言ってくれ。
私はこの時を、待っていたんだ。

 

演奏 『Uptown Funk』
――作曲 Mark Ronson, Bruno Mars, Jeff Bhasker, Phillip Lawrence

【編成】ボーカル、サイドボーカル2名、エレキギター、キーボード2名、ウインドシンセサイザー、トランペット、トロンボーン、アルトサックス、ベース、ドラムス
役者を中心とした10名によるダンス、多人数コーラス

 

▶【前半 その2へ続く】

 

 

←なのはなファミリー ホームページへ戻る。