2022年スプリングコンサート 感想文集

「大きな誇り」 せいこ

 

 4月10日。なのはな設立記念日でもあるこの日に、2022年のなのはなスプリングコンサートが出来て、本当に幸せです。アインシュタインがリーゼルに宛てた手紙を通して、私たちは、誰もが心を苦しませることなく生きられる世界、愛に溢れた世界を広げる役割を担いました。
 2年と4か月ぶりのなのはなのコンサート。私は、今年がコンサートの初舞台でした。

*開演前のとうこさんの言葉
「おじいちゃん、見ていますか。みんなと一緒に、いよいよ、物語の旅に出ます!」
 今年のコンサートは、盛男おじいちゃんの追悼コンサートでもありました。当日の朝に、追加された、やよいちゃん演じるとうこさんの台詞。おじいちゃんへの感謝、おじいちゃんが大好きな私たちの気持ちを代表して、言ってくれました。この言葉ですでに私はもう涙が溢れてきて、残り1回きりのこの舞台を精一杯尽くそうという決意が固まりました。

 

*Muddy Waters
 オープニングのこの一曲は、卒業生ののんちゃんが、年始に帰って来てくれて、一番初めに振り入れをしてくれた曲です。みんなが素粒子となって、「静」と「動」をぴったりと揃えて踊っている姿は、なのはなならではの凄みを感じるものでした。

「祈りの振りは、コンサートを観に来てくれているおじいちゃんを想ってするんだよ!」
 集合の時に仰ったお母さんの言葉が胸に染み渡り、おじいちゃんから学んだ優しさや、誇り高く生きる強さをこの曲に込めよう、と決意しました。

 

 

 バンド演奏をしていて、この『マディ・ウォーターズ』が、1番難しかったです。それぞれのパートが担当する音は、シンプルなもので、その中で、この曲ならではの迫力を出すには、1音1音に、確固たる意志を込める強さと、確実に指先に想いを乗せる繊細さが必要でした。いかに、毎日の生活で、思考を間違った利己的な未来に向けることなく、正しい願いを込めて過ごすか。それが、大勢の人を前にして、緊張したときであっても、狙った音を確信を持って奏でられることに大きく繋がることを知りました。

「弱い! ハリがない!」
「最初の1音で、お客さんを世界観に引き込まないといけないよ!」
 お父さんに何度も聴いてもらって、また、あゆちゃんにもたくさんアドバイスをもらった時間が、本当にかけがえのない時間でした。全然うまく出来なくて、鍵盤をぶっ叩きたい気持ちになったり、涙が溢れて来た時もありました。でもそれは、私がなのはなに来るまで、ただただ、日常から逃げたい気持ちで鍵盤に向かっていた時とは、まるで違う悲しさで、自分にとって本当に意味のある感情でした。

 

*Rewrite The Stars
 この曲は、3月の通し稽古の際に追加された曲目です。
隕石と共に異世界からやって来たリーゼルとナナポンは、この世の中に生きづらさを感じていたとうこ、たかお、てつお、通称『おさらば3人組』に不思議な剣を託します。

 

 

 初めて、合わせ練習をした時に、れいこちゃんの演じるリーゼルが、旗を掲げて一輪車で踊る姿に、全身から鳥肌が立ちました。愛のある世界を伝える使命感、勇敢さに溢れたリーゼルは、れいこちゃんそのものでした。
「私たちが手を取り合えば、星の並びさえも変えられるんだ」
 曲の歌詞も、このシーンにぴったりで、疾走感の中で、バンドメンバーのみんなと、そしてれいこちゃんと一緒に表現できた時間が本当に嬉しかったです。

*博士と助手
 

 

 私は、市ヶ谷博士の助手という役を頂きました。
 助手は、最初は、普通に人間の設定で、市ヶ谷博士の「新相対性理論」という、今の世界を変える大発見を、噛み砕いてお客さんに伝える役割を担っていました。

「せいこ、次から、助手は、アンドロイドでいく!」
 ある夜の集合で、お父さんが仰った言葉を聞いた時、瞬時に理解が追いつかなくて、唖然としていたのですが、実際やってみると、案外楽しかったし、何より、ちょっとイレギュラーなキャラクターの助手で、合いの手を入れることで、少し難しい話をする場面が、お客さんにより伝わりやすくなったように感じて、とても嬉しかったです。

 3月は、ひたすら、アンドロイドの動きを研究した期間でもありました。実際のアンドロイドを調べていると、顔の作りは本当に人間そのものなのですが、首の動きにはや可動域が決まっていて、しなやかさがなかったり、表情も、パターンが決まっているように思いました。

「助手は、今のままでは、あまりに『ロボット』すぎると思う。市ヶ谷博士の一番の理解者で、相棒っていう存在だから、博士の大発見がいかに、人類にとってかけがえのないものなのかとか、普段の博士の心意気、求める気持ちがいかに強いものなのか、ということをしっかりと理解している『AI』なんだ、って解釈して演じてみて!」

 アンドロイドを忠実に再現することばかりを考えて演じていた頃、あゆちゃんにこのシーンの劇を観てもらう機会があり、ハッとしました。何よりも大切なのは、博士の大発見を、お客さんに伝えることでした。博士の説明を聞く時に、助手として納得できるところと、出来ないところを、アンドロイドならではの、無表情や、場違いな表情をするリアリティを出すのではなく、どこまでも博士の気持ちに沿って表情をつけることを意識しました。

 

 

「私も、この市ヶ谷博士は、自分の新発見はもちろん、普段何気ないことでも、伝えたいことは、一番に助手に伝えにいくっていう設定で演じているよ!」

 市ヶ谷博士演じるなおちゃんも、バディ練習の時にこう言ってくれました。
 練習を重ねてくうちに、「博士は、よくリンゴを食べなから考え事をする設定にしよう!」とか、「キャスター付きの椅子でよく遊んでいる設定にしたいんだ!」と、言ってくれて、市ヶ谷博士というキャラクターが日に日に深く深く彩られていき、それを存分に理解しているアンドロイド、という自分のキャラクターも深めることができた時間がすごく楽しかったです。

 ホール入り直前には、木彫家の大竹さんが、超本格的なアンドロイドの頭を作ってくださいました。大竹さんの魔法のような手先、そして、どこまでも温かい人柄に、優しい気持ちをたくさん頂きました。一生の宝物にします!

*キャラバンの到着
 年末年始のバレンタインホテルでも演奏させていただいたこの曲。今回は、時空を越える旅の始まりを彩る場面で演奏することになりました。

「永遠は、一瞬。一瞬は、永遠。テニアン島に、行く!」
 リーゼルから受け取った不思議な剣は、「時空を越えられる剣」でした。博士と、おさらば3人組は、この剣を使って、まず、第2次世界大戦末期のテニアン島に向かいます。

 「弾けてはいるけれど、せいこの演奏には山谷がなく、平坦だ」
 お父さんに1フレーズずつ、演奏を見てもらいながら、自分が出るところ、引くところを理屈で教えてもらいました。

「この曲は、とうこさんの気持ちになって演奏したらいいと思う。まだ、自分の燃え尽きてしまった気持ち、生きる意味が分からないという気持ちは残っているけれど、必ず答えを見つけてみせる。そのポテンシャルは十分にあるんだ! そんな気持ちを音にしたらいいと思う」
 さとみちゃんから気持ちの乗せ方を教えてもらいました。

 

 

 私たちが人生をかけてでも知りたい答え。人はどう生きるべきなのか。どうしたら本当に幸せな環境が作られて、誰も苦しまない世界にできるのか。その答えを見つける旅が始まったのだ。そんなワクワク感を、時には強く前面に押し出す音で、時には弱く引くような音で表現していくことに専念しました。

 さとみちゃんのサックスの音色は、いつ聴いても惚れ惚れするもので、かにちゃんも、曲のあるべき美しい形を、ドラムでリードしてくれます。今回きりでなく、何度も何度も演奏したい私の大好きな曲です。

*Deep Water

 テニアン島で、兵士として、戦っていたおじいちゃん。そしてその仲間たちが次々に目の前で、アメリカ兵の砲撃によって亡くなって行く様子を目の当たりにしたとうこたち。物質的に豊かになることが幸せだと信じられていた時代の虚しさ、そして今もなお、ウクライナが攻め込まれていることにも強い憤りを感じます。

 やよいちゃん演じるとうこが、おじいちゃんの教えてくれたサミュエル・ウルマンの「青春」の詩をお客さんに伝えてくれました。本番では、このとうこさんの台詞の後、会場からたくさんの拍手をいただき、お客さんと心が通じ合えた瞬間が本当に幸せでした。

 この曲は、あゆちゃんとのコーラス練習がすごく胸に残っています。
「『Deep Water』は、この『青春』の詩を具現化するものにするんだよ!」
「この詩にある『老い』は、自分たちにとっては病気に飲まれる状態のこと。怯懦を退ける勇猛心、安易を振り捨てる冒険心……。この詩に書いてあるものは全部、徐々に持って行くものじゃなくて、今この瞬間から自分の心に据えるものなんだ」
「自分たちはこの『青春』の心を持つ限り、元気でいられるんだよ。いつだってこの心を持ち続けられる自分でいさせてください。その祈りをソプラノのみんなは高音に込めて。アルトのみんなは、ソプラノの祈りに強い説得力を持たせるように支えるつもりで!」
 あゆちゃんは、コーラス譜を深く深く解釈をしてくれて、みんなに伝えてくれました。

 

 

 本番でのとうこさんの台詞、それに続く、『Deep Water』の演奏で、おじいちゃんの遺してくれた気持ち、おじいちゃんの魂を永遠に出来て、本当に良かったです。

 

*コヘレトの書

 おさらば3人組の、時空を超える最後の旅。ソロモン王は、コヘレトの書を通して、幸せの極意を伝えてくださいます。
「人は、空しいところから生まれ、そして、空しいところへ帰っていく。その中で人間がやれることは、与えられた肉体を使って人のために尽くし、毎日、親しい人と、食べること、寝ることを楽しむ。それだけでいい」
 ダークマターが生み出したかった人間の美しい心とはどのようなものか。それをソロモン王は明確に教えてくださいました。

 

 

 未来に幸せを先送りにするような価値観の中で生きて来た私にとって、このソロモン王の言葉は、すごく胸に染み渡るものでした。人生は、目の前にすでにあるのです。当たり前のことですが、目の前の幸せをありのままに楽しみ、受け取ることは、ちょっとした不安で、すぐに忘れてしまいがちなことです。ソロモン王の言葉は、これからもずっと私の胸の中心に据えておきたいし、これからの生活の中でも、もっともっと深めたい言葉でした。

*ウクライナの現状と、私たちのあるべき生き方を重ねた練習期間

 コンサートの準備期間中、ロシアのウクライナ侵攻のニュースが続きました。毎日の集合の時に、お父さん、お母さんから、ウクライナの現状をたくさん聞くことができました。
 命を懸けてでも、独裁政権から、我が国を守る。自分がたとえ死ぬことになろうと、自分の志が、魂となって永遠に残ればいい。ウクライナの人たちからは、そんな強くて、崇高な意志を、感じました。

 ウクライナの人たちの戦い方は、私たちがするべき生き方そのもののように思いました。
 私たちは、確かに、家庭や学校などで育つなかで大きくて深い傷を負いました。それは、物理的な暴力でなくても、「愛情に溢れた生き方をしたい」という本来の人間らしい気持ちを大きく挫くものでした。
「なんで普通の人のようになれないんだ」
 なのはなに来る前には、このようなことを何度も何度も言われたし、その度に、自分はどうしようもなくて死ぬしかないんだと思いました。

 でも、なのはなに来て、同じように苦しんだみんなと過ごしていて少しずつ分かり始めて来たことがあります。それは、
「自分たちは、『普通の人』以上に、優しさに溢れた世界を強く強く求めていること」
 です。そして、心の奥底で、そのような世界を作るために尽力することを、それはそれは想像もつかないほど大きく望んでいて、これはある種の使命のようなもので、その使命から目を背けた瞬間に、再び私たちは症状に飲まれてしまう起爆装置が備わっているように感じます。
 どこまでも人としてあるべき良い生き方を求め続けないと生きていけない。これは、私にとって、大きな誇りだと改めて感じます。
「ウクライナの人たちのように、私たちも、どこまでも良い生き方を求め続け、その魂を永遠にするんだ」
 クライマックスの演奏曲『Bird Set Free』は、みんなで演奏しました。

 

 

 なのはなの子として、スプリングコンサートをみんなと一緒に作り上げられたことは、私の大きな誇りです。本当に宝物のような時間でした。

 

 

←なのはなファミリー ホームページへ戻る。