【4月号⑩】「深い嬉しさと、勇気 ―― 勝央金時太鼓保存会結成 三十五周年記念コンサート ――」かに

3月27日に勝央文化ホールで開催された、勝央金時太鼓保存会結成35周年記念コンサート『鼓響祭ー風の宴』。なのはなファミリーから10名のメンバーが保存会の一員として出演しました

 

 心に風が吹き抜けて、深い嬉しさと、勇気が胸に残ったコンサートでした。 昭和六十一年以来、勝央町の伝統ある郷土芸能として活動をされている、勝央金時太鼓保存会の結成三十五周年記念コンサート「鼓響祭 ―風の宴」が、三月二十七日、勝央文化ホールにて開催されました。

 なのはなファミリーからは十名が、保存会の一員として出演しました。

 私たちは、保存会会長の竹内さんのご指導を受けながら、この日のために練習をしてきた『那岐おろし』『風の舞』、そして保存会の方々と合奏する『金太郎囃子』の演奏を披露し、フィナーレを飾った『ひらいた協奏曲』では、保存会の方々の演奏とともに旗を振って、ホールにいらっしゃった、たくさんのお客様に向けて思いを伝えました。

 私は、竹内さん、保存会の皆さんへの感謝や、ずっと練習してきた金時太鼓を仲間と叩くことへの誇り、なのはなのみんなへの誇りを持ってステージに立ちました。
  
■『那岐おろし』
  
 『那岐おろし』の練習は、二〇二一年一月二十日から始まりました。大太鼓二名、長胴太鼓五名、締太鼓三名による、およそ九分二十秒間の演奏。私は長胴太鼓を担当することになりました。
  
  
 「那岐おろし」というのは、那岐山の北からの風が南へ降りてきて、この地域に吹き付ける風のことで、日本三大局地風の一つとされています。パンフレットを見ると、勝央金時太鼓保存会が結成されるときに作曲され、ずっと長く演奏されてきた曲であること、坂田金時の生涯を表す曲のうちの一つであると、記されています。  

 私は、保存会の方々が演奏されているのを聞いてから、ずっと憧れの曲でもあったため、本番が近づくごとに、この大切な曲、今回のコンサートのタイトルとも深く繋がりのある曲を演奏することに対して、嬉しい気持ち、そして緊張する気持ちがありました。

 私たちが最初に練習した『風の舞』よりもずっと長く、体力が必要なうえ、リズムも複雑さを増していました。

 あけみちゃんが叩く大太鼓の打ち出しのあと、一斉に他の太鼓が加わり、宮太鼓(桶胴太鼓)のソロ回しや、締太鼓のソロ、そして長い大太鼓のソロ、全員で叩くクライマックスへと繋がっていきます。
  
  
 私が担当した宮太鼓パートは、五人でスムーズにソロを繋ぐことや、随所にあるキメのリズムで、左手をきちんと振り上げて打ち込むことなど、たくさんの課題がありました。竹内さんが、繰り返し、打ち方を指導してくださいました。  

 練習は、毎週水曜日の夜七時から九時。腰を低く落として構え、バチをまっすぐに高く振り上げて、強い音を出そうと、太鼓に向かっていると、いつも頭から余分なものが取り払われ、気持ちが正されました。  

■『金太郎囃子』  

 『金太郎囃子』は、保存会の方々と演奏する曲で、跳ねるようなリズムがとても楽しい曲です。締太鼓、宮太鼓、組太鼓、大太鼓、担ぎ太鼓、うちわ太鼓、笛やチャンチキ。たくさんの楽器が一堂に会して、どんどんテンポを上げながら演奏していきます。

 この曲は、直線的で鋭い『那岐おろし』とは違って、弧を描くような軌道で、柔らかくバチを振り上げて太鼓を打つこと、そして笑顔!がとても大切でした。私たちは、ともすると緊張して演奏に精一杯になってしまい、竹内さんから、「楽しげに、笑顔で」と何度も教えていただきました。
  
  
 この曲では、保存会の方々が、満面の笑顔で演奏しながら、目を合わせてくださり、練習のたびに嬉しい気持ちになりました。 本番が近づいた三月二十三日の夜、保存会の方々がホールに来てくださり、私たちが演奏する第一部の通し稽古をしてくださいました。夜九時を回ってからも、フィナーレで旗を振るタイミングや、締太鼓の美しい持ち方を教えてくださいました。  

 そして二十六日の土曜日には、本番と同じ午後二時から、勝央文化ホールでのゲネプロを行いました。コンサートスタッフの方々が作りあげられた照明や音響も含め、本番と同じ形でプログラムを通します。

 この日は衣装も身につけました。私たちが着るのは、赤と黒の法被です。長年、保存会で演奏をされてきた常本さんが、一人ひとりの、帯の結び方を見てくださいました。
  
  
■保存会の方々  

 ゲネプロを終えたあとの控室には、“ゆいSさん”“ジョンソンさん”と私たちもニックネームで呼ばせていただいているお二人が、来てくださいました。お二人は、一人ひとりに、メッセージの書かれたマスクケースをプレゼントしてくださいました。

 「笑顔で頑張りましょう!」というメッセージと、お二人の笑顔が、とても嬉しくて、翌日へ向けて大きな安心に包まれました。  
  
  
 保存会の皆さんは、いつも明るく、力強くて、笑顔でいっぱいでした。私たちは、なのはなファミリーという家族だけれど、勝央金時太鼓保存会の方々といると、会長の竹内さんと、メンバーの方々が、ひとつの家族のように感じます。保存会の方々は、いつも、その家の一員として私たちを暖かく招き入れてくださいます。

 そして、太鼓と舞台に美しく向かうことの厳しさ、底知れない楽しさ、方法を、たくさん、たくさん教えてくださいます。そのことが、ありがたくて、言葉にできないほど、嬉しいです。  

 迎えた当日、二十七日。午前九時半にホールへ着き、午前は最終調整のためのランスルー(リハーサル)を行いました。曲間の転換の確認が主でしたが、私たちは『風の舞』『那岐おろし』の曲をすべて叩かせて頂きました。

■いよいよ、本番  
  

当日は家族揃って勝央文化ホールにコンサートの鑑賞に行きました

  
 だんだんと高まる緊張を胸に過ごして、十三時、開場まで残り三十分となったとき、衣装に着替えました。法被をまとい、鉢巻を締めたとき、不意に、控室のドアをノックする音。みんなで扉のほうを見ると、すぐに、常本さんが部屋を訪れてくださったのだとわかりました。

 常本さんは、前日と同じように、一人ひとりの帯がきれいに見えるように、そして全力で太鼓を打ってもゆるまないように、結んでくださいました。私の帯も、つい足がふらついてしまったほどに、常本さんがしっかりと締めてくださいました。 私は、身体に力が入っていなくてよろめいてしまったことに、少し恥ずかしくなり、それから、とても嬉しくなり、本番に向けて緊張していた気持ちが、こんなにしっかり結んでいただいたのだから絶対に大丈夫だという勇気に変わっていきました。

 赤と黒の布地に金糸の入った帯が、常本さんの手の中で、きれいなちょうちょ結びにされていくのを見ながら、涙が出そうになりました。 本番開始の十五分前。舞台袖にスタンバイすると、保存会の方々が、笑顔でグータッチをしてくださいました。  
  
  
 本番五分前の予ベルが鳴り、一曲目『金時カーニバル』の演奏のための準備がされました。本番前独特の空気がただよう、静かで薄暗い舞台袖のなか、Sゆいさんがスタンバイ場所へ向かいながら、こちらへ送ってくれたVサインが、くっきりと目に映りました。  

 たくさんのお客様がいらっしゃって、受付が混雑し、本番は二時五分からの開始となりました。

■幕開け
  
 軽やかな笛の音とステップで、保存会の方々が舞台へと出てゆきます。明るいライトが演奏者と太鼓を照らし、楽しいカーニバルの演奏が繰り広げられている様子が舞台袖のモニターに映り、その画面を横切るようにして差し込んできた現実の舞台の光が、演奏する保存会の方の動きによって躍動しました。 コンサートの幕が開きました。  

 私たちは暗転幕の後ろで、二曲目『風の舞』のためのスタンバイをしました。一曲目を締める掛け声に次いで、盛大な拍手が幕の向こうで響き、やがて目の前の幕が上へ上がっていきました。  

 そよ風が吹くように落ち着いて、みんなが叩くときのテンポを思い描いて。冒頭の、締太鼓の枠打ちをはじめました。 視界がライトの青色に染まり、左に、りなちゃんとあやかちゃんの締太鼓の音を聞くと、背後でみんなの宮太鼓と大太鼓が加わります。良い風が吹きますようにと願いながら演奏しました。  
  
  
 曲が始まってすぐに、右の朴バチが折れ、予備のバチを取り出して対応しました。しかし、私は演奏後には折れたバチを回収しないまま袖にはけてしまい、申し訳無さと自分の機転の利かなさに気を落としそうになりましたが、保存会の方々が笑顔で対応してくださり、こんなことではいけないと気を引き締めました。  

 三曲目『大草原』、四曲目『鼓楽饗成』は保存会の方々による演奏です。 私は『大草原』の、青と緑と白色の照明が大好きでした。コンサートでは、太鼓の音色に合わせて細かく細かく変化していくライトによって、それぞれの曲が、より美しくダイナミックに彩られていて、舞台に立っていても、練習を客席から見ていても、その光にいつも胸がおどりました。

 五曲目は、なのはなメンバーの演奏する『那岐おろし』です。山の頂上から、疾走してくる風の馬の群れ。その一頭となってみんなと、九分二十秒を駆け抜けました。 ソロ回しでは、袖から保存会の方々が送ってくださる掛け声が、私たちを奮い立たせ、後押ししてくださいました。  

 曲も終盤にさしかかる頃、あけみちゃんの長い大太鼓ソロ。私たちは、舞台最奥の壇の上で演奏する、あけみちゃんのほうを向いて、掛け声をあげました。朱色の光のなか、静かな笑顔で、目を輝かせて大太鼓を見上げ、バチを打ち込むあけみちゃんの、くっきりとした輪郭が、とても美しかったです。

 太鼓の音、光、一緒に演奏している仲間の気配、目の前でまっすぐに振り上げられる、りなちゃんたちの締太鼓のバチ。正面で真剣に演奏を見てくださるお客さんの気配、保存会の方々の引き締まった掛け声が、その時間、その空間のなかに凝縮されていました。
   
  
 演奏のとき、客席にいる、お父さんお母さん、なのはなのみんなのことを思いました。私は弱く不出来で、不安もあるけれど、お父さんお母さん、あゆちゃんだったら、もし不安があっても、そんなことを言い訳にはしないだろう。凛としつづけるだろうと思いました。なのはなの子である自分は。盛男おじいちゃんの気持ちを受け継いで伝えるべき一人としての自分は。そう思うと、心が落ち着き、強くなりました。  

 そして、一緒に太鼓を叩いている九人の仲間のことを思いました。みんなだったら、きっとこんな気持ちでこの音を叩いている、そしてこんなふうに笑顔を浮かべている、と思うと自分も音に気持ちを込めることができ、笑うことができました。

 『那岐おろし』の演奏がおわり、保存会の方々と演奏する『金太郎囃子』へと移ります。練習の時、いつも私たちが進化できるようにアドバイスをくださる、麻衣さんの締太鼓の音に、たくさんの太鼓や笛の音が重なっていきました。

 それに合わせて、膝をついて待機している私の目の前では、宮太鼓の皮を留めている、つやつやとした黒い鋲の表面に、濃いオレンジ色の光が映り込んで、次第に明るくなっていきました。煌々と燃える炎を囲みながら、たくさんの人が集まって、楽しく演奏している夜。そんな風景のなかにいる気持ちになりました。  

 担ぎ太鼓を打つ、Sゆいさんや大田さん、団扇太鼓を鳴らす、ふみちゃんとあけみちゃんが、舞台を縦横無尽に駆け回りながら、演奏を盛り上げてくれていました。私も自然とお腹のそこから楽しさがこみ上げて、練習のときよりも一番自然に、笑うことができました。  

 この曲で、第一部の幕が降りました。

■そして、第二部  

 第二部は、保存会の方々が、様々な太鼓の編成で、『六扇』『鼓響』『雷神の宴』など五曲を演奏されました。保存会の方々の、磨き上げられた技や力、美しい所作、一体となった空気が舞台から発されて、心臓を直接揺らす太鼓の音に包まれました。

 長い曲を続けざまに、一切の疲れも見せずに、笑顔で叩ききる保存会の方々が、本当に格好良かったです。書ききれないほどに、好きな曲、好きな場面がたくさんありました。私も、もっと、気持ちも身体も鍛えて、太鼓にふさわしく強くなりたいと思いました。  

 アンコールに応えての、『ひらいた協奏曲』の演奏で、私たちは、勝央金時太鼓の旗を振りました。お客さんからは手拍子が起こり、会場が一つになりました。 勝央金時太鼓結成三十五周年記念コンサートは、大成功でした。  

 竹内さんは、私たちに、「今までの練習のなかでも、一番良い演奏でした。笑顔もとても良かった」と、話してくださいました。そのことが、とても、とても嬉しかったです。  

 もっともっと上達し、良い演奏をできるようになっていきたいです。そして、この日に感じたことを忘れずに、スプリングコンサートへ向かっても、精一杯、準備に取り組み、気持ちの伝わるステージを作りたいです。