【新春号㉓】「迎春に心を込めて ―― 多色刷りで初めての年賀状作り ――」まよ

  
 いつもアコースティックギターを教えてくださっている、藤井先生が開いてくださった、木版画教室。

 私も教室に入らせてもらって、今回は年賀状の制作をさせてもらいました。藤井さんがこれまで作って来られた版画や、版画集を持ってきてみせてくださいました。

 藤井さんの作ってこられた版画は、とても色が美しくて、特に青緑色や淡いオレンジが柔らかく、藤井さんの優しく暖かい雰囲気が伝わってきました。

 藤井さんが始終、みんなが行き詰っているときなど声をかけてアドバイスをくださったり、ご自分の体験を話してくださったり、道具を見せながら説明をしてくださって、安心して進めることができたことが、ありがたかったです。
      
 今回は年賀状を作るということで、かにちゃんの雪景色の中の鶴、さとみちゃんは虎の置物、さやねちゃんは独楽、ななほちゃんは山茶花をモチーフとして選んでいました。私はナンテンの枝を玄関下から切ってきました。

 年賀状に添える熟語から、「迎春」という言葉に、新しく暖かい感じがしたので、書で何枚か書きました。

 文字と絵柄の構図のバランスを、藤井さんに観ていただきながら決めていきました。画面の中で、書の文字がナンテンの実に負けないような構図にしていきました。

  下絵を板に写したら、彫刻刀を使い板を彫っていきます。細かいところは、板のパーツが飛んでしまわないようにアウトラインに沿って山になるように彫っていくようにします。

■彫刻刀を上手に使って

 藤井さんは、板の上で下書きを敢えてせずに、刃を小刻みに勢いよく動かしながら、線に動きを出していくこともあるとお話してくれました。

 例えば私の版画ではナンテンの枝の部分を、わざとカクカクとした線で表すなど、版画はモチーフをどんな風にデフォルメするかを、下絵の段階で考えておくと良いなと思いました。
  
  
 私は自分で書いた「迎春」という字とナンテンを彫ったのですが、文字をもっと絵のように形を変えても面白くなるのかなと思いました。彫る面積の多い部分は、平刀で大胆に彫っていきます。

 刃を傷つけないように始終意識する必要がありました。細かい部分は、同じほうを向いた線に刀を入れて行き、板の角度を変えてまた同じほうを向いた線に刃を入れていきます。

 藤井さんが時々、みんなの版画を見て彫ってくだり、削りかすが出ているところを掃除するなどしてくださり、難しいなと感じても少しずつ前に進めることができました。

 刷っていく段階に入りました。さとみちゃんは、虎の置物の胴体の色にグラデーションをつけていて、それが虎の絵に柔らかさを加えて可愛らしいなと思いました。 
  
  
 そのグラデーションの出方が、毎回少し違った感じに出るのが版画の面白さだなと思いました。

 さとみちゃんは自分の隣の席で彫っていたのですが、彫っている手元が本当に奇麗で、板にも刃にもさとみちゃんの優しさが溢れていました。削り方の深さや美しさに、自分の心が表れているように感じました。

 かにちゃんの版画の鶴は、背景に暖かい黄色みを帯びた橙色が入ると、真っ白で静かな雪景色の中に鶴が立っている姿が本当に奇麗に見えました。

 「迎春」の文字は、群青と緑を混色し、青緑で試し刷りしていきました。初めに彫った板のうえに刷毛で水を塗り、湿らせていきます。その後に「はこび」という筆で絵の具をポンポンと何か所かに置いていき、刷毛で絵の具を拡げていきます。
  
  
 絵の具に水が多すぎると、版画の凹凸の部分に溜まりができ、滲んでしまいます。水が少なすぎると、上手く色がのりません。絵の具の水分量により、毎回刷り上がりが変わってくるのですが、これは何度もやって身体で体得していくものと教えてもらいました。

 刷る際には、バレンに均一に力が入るように刷っていきました。均一に力がこめられていないと、ぼやけて線がはっきり出ない部分が出てきました。

■透明感のある新鮮な色

 色を混ぜる際に、白を混ぜるとかなり画面に落ちつきが出てきました。初めに擦った青がほすっきりと発色がよい色になっていたのですが、同じ新鮮な感じを再度表現しようと思った時に、藤井さんがアドバイスをくださいました。 
  
    
 白を混ぜると、同じ青にはなりませんでしたが、透明感のある新鮮な感じが出てきました。十〜二十枚以上は各自、ハガキサイズの紙に刷らせてもらいました。

 篆刻は、篆書の文字を使っているから「篆刻」と呼ぶことを教えてもらいました。

 自分たちでデザインした文字に手を加え、藤井さんが一人ひとりに彫ってくださったハンコ。これは、篆書ではないので篆刻とは呼ばないのだなと思いました。

 自分でサインを考えるのはとても楽しい作業でした。藤井さんはこれまでに大勢の人のハンコを作られていて、作品集を見せてくださいました。魅力的なハンコが並んでいて、見ていてとてもワクワクしました。
    
 サインのデザインは、今回初めてさせてもらって、以前自分で考えた時は上手くいかなかったけれど、今回は遊びながら、かなをひっくり返して重ねたり、漢字を連続的に置いたりしてサインを考えるのがとても楽しかったです。みんなのサインを考えたいなと思ったくらいでした。
  
  
 各自で考えたサインを藤井さんに観ていただいてから、すぐに藤井さんが実際に彫ってきてくださいました。水色の箱に入った石材の、五ミリ四方ほどに細く削られた、先端の四角の中に名前の頭文字が彫られています。

 藤井さんがよく版画に押している、みつるさんの「み」というハンコがとても可愛くて、同じような字体の自分の名前の頭文字が入ったものを頂けて本当に嬉しかったです。早く、作品に押してみたいと思いました。

 藤井さんが、ハンコを作品に押すときの心得を教えてくださいました。空間の空いた箇所に押したくなるものですが、モチーフの影になる場所に押すと控えめで謙虚だと教えていただきました。藤井さんが幾つか作品に押されたハンコの例を見せてくださいました。

■ナンテンの実のよう

 ハンコの押し方は、傾けたりわざと全面を奇麗に押さず浮かせる部分を作るなどの押し方があるそうです。版画の中でハンコを押す位置は、画面の上の方でもいいけれど、陰になる部分に押すこと。私の版画の場合は、ナンテンの葉の下になる部分などに押すのがよいと教えていただきました。
  
  
 ナンテンの実と葉の間に、赤いハンコを入れる場所を捜していると、丁度ナンテンの実と同じくらいのサイズのハンコの文字が、赤い実の中に紛れ込んでいるように見え、少し傾けて押すと本当にナンテンの実のように見えました。よく見ると文字が隠れているのがとても可愛く見え、気に入りました。

 できあがったみんなの作品を見させてもらうと、活き活きと鮮やかに目に飛び込んできて、嬉しい気持になりました。

 藤井さんが毎週木曜日の夜に版画を教えに来てくださり、こうして作品を仕上げることができ、本当にありがたいなと思いました。次のテーマは何かなと楽しみです。