【新春号㉒】「新アイテムも誕生!! ―― 日々進化する、桃の枝吊り ――」なつみ

   
 桃の樹も落葉を終え、元肥入れを終えてからやりたいと話していた、枝吊りの作業が始まりました。 今まではロープで枝を吊っていたのですが、ロープは日光で傷みやすく、夏は、ロープが切れて枝が折れてしまった樹がありました。

 その対策として、ロープをエクセル線とステンレスワイヤーロープに取り替え、また、吊る必要があるけれどまだできていないという樹は新しく吊って、次の収穫にむけての準備を整えていきます。

 まずはやよいちゃんと、一体何本の樹に枝吊りが必要か、ざっくりと数を出してみると、多く見積もって七十七本。

 お父さんは、

「半日で一本。良くて一日で三本くらいしか進まないと思う」

 と話してくれていて、年明けからまた冬剪定やミーティングが始まると思うと、年内に終わらせたいと考えました。
    
 一日で三本を終える計算で、一体何日かかるのか出してみると、三十八日。既にこの計算をしている日には、もう十二月に入っていて、それからイベントなどで一日作業できる日が少ないことを含めて考えると、年内に終わらない! という結論。

 どうにかして、年内に終わらせたい桃の枝吊り。一体どうなるのか……。

 さて、やよいちゃんと枝吊り作業の企画を立てたその日の夜、お父さんのプランを教えてもらって、翌日にはさっそくお試しで古畑の紅清水の枝を吊ってみました。

 まずは枝を吊るためのエクセル線を九メートル×四本、ステンレスワイヤーロープを九メートル×二本、センターポールと外周ポールを結ぶためのエクセル線を七メートル×三本で、校庭にメジャーを置いてカットし、古畑に持っていきます。
  
  
 池上桃畑の「おかやま夢白桃」の枝が地面につきそうなほどに下がってしまい、緊急でお父さんたちが一、二か月前に枝吊をしてくれたとき、畑に行って線を切ったけれどやりにくかった、ということを教えてくれて、今回からの枝吊りは、グラウンドでまずエクセル線やワイヤーロープのカットを行なってから、畑に行くという流れで進めていくことになりましたが、やってみると、やはりカットされたものはそのまま使えるので、スムーズに進みました。

 次に、すでに吊ってあるロープやマイカ線を、十二段の脚立に乗って、センターポールの先端についている単管ベースの四隅の穴から外していきます。

 が、しかし、ここで予期せぬトラブルが起きました。

 穴一杯にロープが三本ほど通っていて、ロープを引っ張り抜こうと思っても、一ミリも動きません。 

 とてもではないけれど、高所恐怖症のわたしに、力いっぱい高いところでロープを引っ張るというのは無理がありました。

■枝吊り会議

 お父さんが、

「単管ベースをポールの先端につけたまま、脚立に乗ってロープを付け替えるのか。単管ベースを地上に降ろしてきてロープを付け替えるのか。まだどちらの方法が良いか、やってみないとわからない」

 と話していたところで実際に事件が起きてしまい、その後も思っていたより手間取り、結局この日は半日で一本も吊ることができませんでした。

 翌日からは、やよいちゃんも来てくれて、昨日の問題点と、解決策を話してから作業を始めました。

 現在吊られているロープを全部取ってしまうと、センターポールが倒れてしまうので、枝とエクセル線やワイヤーロープを結ぶ前に、まずは三か所の外周用ポールとセンターポールを結んでセンターポールを自立させた方がよいこと。
  
  
 外周用ポールとセンターポールの距離は共通で七メートルとしてエクセル線をすべてカットするよりも、手間かも知れないが一本一本測って、カットしたほうがエクセル線が無駄にならない、且つ結ぶ長さもちょうどよくやり易いこと。

 諸々を伝え、改善をしながら、その日の午後からは隣の「白鳳」を吊りはじめ、なんと二日目にして一日で無事に二本の枝吊りを終えることができました。

 しかし、枝吊りを待っている桃の木は残り七十五本。道のりは長いです。

■新しい道具を生み出す

 この日の夜から枝吊り会議が始まり、どうしたら順序良く各工程をスムーズに進められるか、何人で行なうか、それぞれの人の動き、役割分担はどうするのがベストか、それぞれその日の作業で思ったこと、こうしたらいいんじゃないか、もっとこうできるんじゃないか、こんなものがあったら便利なのではないか。

 思い思いに話し、みんなで答えを探していくなかで、「日々進化する枝吊り」が生まれました。

 まず、道具の面でいえば一つ目、「カラマンデショージ・スパラット」。

 一キロメートル分がグルグルと巻かれた、ロールの直径六十センチ程、太さ十二ミリのエクセル線は、もともと三か所を青いテープで留められていましたが、使おうと思ったときには時すでに遅し。テープは三か所すべて切られ、仕舞にはエクセル線は見事に爆発したように絡まって、絡まって、まるで知恵の輪の如し。
  

『カラマンデショウジ・スパラット』はグラウンドに常設されています。九メートルの長さのエクセル線を四十本カットするのに、十五分でできるように鳴りました。

   
 まことちゃんがスキマ時間に絡まりを解いてくれて、無事に一巻きを使い切ることはできましたが、新品のエクセル線を一体どうしたら絡まらずに、でもスピード感を持って使うことができるか。

「ケーブルドラムのようなものに巻くのは?」

「ホースを巻いていたドラムがあるから、それを使おう!」

 ななほちゃんが、どうにか解体してドラムを使えないか試行錯誤してみるものの、難航し、最後の砦、我らが建築隊長の須原さんに、ななほちゃんがこのドラムをどうにかしてエクセル線がくるくる出てくるようにできないか相談をしました。

 すると、翌日には、

「思っていたのと違うのができてた!」

 と驚いたような、それでもとっても嬉しそうな笑顔でななほちゃんが教えてくれて、食事の席でななほちゃんがそれを話すと、あゆちゃんが、何か名前を付けようと思ったけれど良い名前があったら、と繋げて、最後にお父さんが、

「スッと、パラッとエクセル線が出せるから、スハラさんに掛けてスパラット!」

 と、命名してくれました。

 そのあと、アセスメント演奏に向けて身支度をしている部屋で、ななほちゃんが、

「わたし、須原さんの下の名前のショウジさんに掛けて、カラマンデショージかと思った」

 と言い、その場にいたあゆちゃんが思いっきり笑って、「いいね、それ!」と大賛成。

 こうして生まれた「カラマンデショージ・スパラット」は、名前の通り、スッとパラッとほどけて絡まない、十五分あれば九メートルのエクセル線を四十本カットすることができるほど、高性能な、枝吊りには欠かせない大事な宝となりました。
  

桃の枝吊りメンバーで毎晩、作戦会議を行い、翌日の作業の動きを確立させています

   
 そして、この妹に属する二つ目の道具は「カラマン・モンローちゃん」です。

 モンローちゃんが生まれるまで、わたしたちは、やよいちゃんやあんなちゃんが事前に、吊りたいという枝の部分に、エクセル線は緑、ワイヤーロープは赤で目印をつけてくれていて、わたしたちはその目印の真下に、長さ一メートル五十センチほどのスズランテープとUピンを結び付けたものを地面に刺して、単管ベースに結びつけたエクセル線やワイヤーロープを、地面に刺してたUピンに結びつけてあるスズランテープに繋げることでエクセル線やワイヤーロープが絡まらないようにしていました。

 しかし、使っているとスズランテープはどんどん裂けて、仕舞にはスズランテープとUピンが絡まってしまう始末。

 絡まない、裂けない、丈夫。この三点を叶えるスズランテープに代わるものを。そう思い、納屋を探すと、使われていない、太さ一センチほどの細いロープを発掘。
  
  
 やよいちゃんからの満面の笑みで「いいね!」を頂き、メンバーと一緒に生み出したのが、「カラマン・モンローちゃん」(ななほちゃん命名)。

 エクセル線は緑、ワイヤーロープはピンク、外周用ポールに結びつけるエクセル線は水色、それぞれの色の養生テープで縞模様にわかりやすく飾ったモンローちゃんは、畑で絡まることなく、雨や雪で傷むこともなく、わたしたちの期待に応える働きをしてくれました。

 道具が良くなることで、わたしたちの動きも変わっていきました。

■また新たな発見!

 最初は、やよいちゃんとえみちゃんでエクセル線を、みかちゃんとななほちゃんでワイヤーロープを樹に結んで、その間わたしは、実が付いたときに垂れ下がった枝がエクセル線に当たって折れたり、実に食い込んだりしないように、モンローちゃんと結ばれた枝吊り用のエクセル線を単管ベースから吊りたい枝の部分まで通しておき、余った時間は十五本のモンローちゃんを移動させていました。
  
  
 しかし、ある日、気が付きました。

 背丈の低い木は、外周用ポールとセンターポールを繋ぐモンローちゃんさえあれば、枝と結びつけるためのエクセル線やワイヤーロープは、地上で単管ベースに結びつけているときに、モンローちゃんでなく、そのまま印のついている枝に結びつけても問題がないのでは。

 さっそく夕の子桃畑の一本をお試しでやってみると、何のことはなく、うまくいきました。

「どうして今まで気が付かなかったんだ!」

 とみんなで話して、

「これでモンローちゃんは必要なくなったけど、モンローちゃんがいたから、ここまで進化したね」

 とやよいちゃんが言っていて、みんなで生み出した道具を大切に思う気持ちがとても嬉しかったです。

 この発見により、わたしはモンローちゃんを移動させるという仕事がなくなったため、やるべきことをしたあとは、ななほちゃんが今までやっていた脚立の移動や、次の樹の下準備を進めることができ、一本二十五分という信じられないスピードで終えることができました。
  
  
 みかちゃんとななほちゃんも、今まで六角スパナで締めていたワイヤークリップを、須原さんからインパクトレンチをお借りして、それで締めるようになると圧倒的に手早くなり、今では、一番に次の樹へと進んで、スムーズにみんなが進められるように準備をしてくれています。

 やよいちゃんとえみちゃん、時にはえみちゃんに代わってりなちゃんが入ってくれてのペアは、枝を保護するためのゴムホースの受け渡しや、枝を支える補助、余分なエクセル線のカットなどを、阿吽の呼吸で、まるで手術室のお医者さんと助手みたいに、やよいちゃんが「ホース」といえば「はい」と言って、えみちゃん、りなちゃんの腰袋から、短くカットしたホースが出てきます。見ていて、思わず笑顔になってしまうほど生きぴったりで、嬉しくなりました。
    
 毎回、少しでも進化して、確立した枝吊りをみんなに見てもらいたいなぁと思います。

 何十本も今日まで枝吊りを行なってきましたが、一本として同じ樹は無く、毎回がイレギュラーです。そのなかでも、枝吊作業で一番印象残っている桃畑を紹介したいと思います。

 なのはなには八枚の桃畑があり、中でもとびぬけて一番の老木が、石生の桃畑の加納岩白桃です。お父さんお母さんは、この樹の桃を食べたとき、

「若い樹とはまた違った味がして、上品で美味しいね」

 と話してくれて、桃は果樹のなかでも命が短いほうですが、長生きできるように手入れをしていきたいなと思います。

 そんな桃の樹は三十歳近くの老木で、樹の根元も枝も、十年目の古畑と比ではないほどに何倍も太く、古い枝の肌はごつごつと、『桃の唄』にあるように無骨です。
  
  
 しかし、折れてしまった古い枝の背中から、つやつやと若々しい枝を上に向かって勢いよく、しなやかに伸ばしていて、三十歳とは思えぬほどの活力を感じます。

 そんな石生の桃の樹たちですが、最初は枝数が少ないから枝吊りも手早く終わるだろうと思っていたら、予想に反して時間がかかってしまいました。

■夕日を背中に

 折れた木の背中から生えて伸びた新たな枝が上に伸びるので、その枝が下がらないように支えようと思うと、自然に吊る位置も高くなります。

 今までは五段の脚立で十分足りていたのですが、石生は七段、八段の脚立を主に使い、ちょうど風が強い日というのもあり、特に周りに遮るものもなく風を直に受ける石生の桃畑での枝吊りは厳しく、結局この日は一本と半分を進めて中断し、暖かくなった日を見計らってまた枝吊を始めることにしました。
  

作業終わりに夕日が沈むのを見ます

  
 天気が良いと作業もはかどり、この日は上着を脱ぐほどに温かかったです。

 風がないことも幸いして、この日は安心して高い脚立に乗って作業をすることができ、自分たちも調子よく、四時五十分頃には残り一本。

「この一本を残しては帰れない!」

 燃えるような夕日を背中に、みんなで一丸となって取り掛かりました。

 その最中、車で落ち葉集めから帰ってきたなのはなのみんなや、その後ろにはお父さんお母さんのオデッセイが見えました。少し経ってから須原さんの車も通りました。

 みんなが車の中から手を振ってくれて、わたしたちもみんなに会えて嬉しくて手をブンブンと振り返しました。
  

 なのはなだけでなく、犬の散歩をしている方も、「ようやっとるな」「(脚立から)落ちんようにな」と笑顔で声を掛けてくださり、その言葉が温かく、わたしたちを見守ってくださることを嬉しく、有難く思いました。

 たくさんの笑顔を貰って、わたしたちもラストスパート、最後の一本を五時二十分頃に終えて、少し暗い中を達成感でいっぱいの気持ちで帰りました。

 初めは、いつもと違う樹の作りに不安を感じましたが、やよいちゃんが作ってくれる、絶対できるという前向きな空気と、枝吊りメンバー全員がそれに乗って心を沿わせて作業する姿に、わたしも弱気にならず、できると信じて立ち向かえたなと思い、みんなの存在にたくさん助けてもらいました。

 どうか、今年も石生の老木からも、甘く美味しい桃が採れたらいいなと願います。
  
  
 わたしたちは、枝を吊る、という作業にプラスして、新桃畑では誘引も行ない、樹形を作っていきました。

 新桃畑の紅清水となつおとめはまだ四年目。枝吊りをしているとき、お父さんお母さんが見に来てくれて、枝吊りをやり直して、まずは誘引をしなければならないと話してくれました。

「人間も樹も同じ。まだ未熟なのに、あなたの個性を大事にします、ではいけないよ。矯正しなきゃいけない」

 新桃畑はお父さんお母さんが来てくれた時点で六本目に入っていたので、今までの六本、全部やり直しかぁ……と少し悲しい気持ちも一瞬はしましたが、何のために手入れをしているのかを考えたとき、そこに妥協があってはいけないと、お父さんの話を聞いていて思いました。

 一本として同じ桃の木は無く、一本一本の良いところを残して、手入れがしやすいように、あんなちゃんとやよいちゃんとわたしで誘引を行ないます。

 今まで吊っていたところを外して、誘引を終えてから、えみちゃんが後を追って吊りなおしてくれました。

 あんなちゃんが、桃の木は高い位置にある枝がよく成長するので、どの主枝もバランスよく、枝の角度がきつすぎず緩すぎずが良いことを教えてくれました。
  
  
 あんなちゃんが、

「このくらい下がっていたら誘引はいらないと思う」

 と話してくれた枝は、地面に対して四十五度ほどの角度で伸びていて、わたしが思っていたよりも桃の枝は下がっていないほうがいいんだなと思いました。

 また、主枝を誘引するときに亜主枝より枝を下げてしまうと、亜主枝の方が強くなり主枝が負けてしまって樹形が乱れるので、下に引っ張るときは亜主枝と主枝の角度を気にかけることを教えてもらいました。

■実際に桃の樹を見ながら

 誘引は上に上にと伸びる枝を下に下げるだけでなく、三本仕立てのうち二本の距離が近かったら、離れるように、枝と枝の間に空間ができるように引っ張ることもできることを、教えてくれました。

 あんなちゃんがマイカ線を枝にくくって引っ張るとその通りに枝も引っ張られて、いったいどのくらいの力で誘引しているのだろうと思いました。

 あんなちゃんが杭にマイカ線を結び付けるとき、わたしはあんなちゃんと同じ強さでマイカ線を引っ張り続けていたのですが、腰を使って力いっぱい引っ張るといった感じで、もちろん、あんなちゃんの力以上に引っ張ってはいけないのですが、とても強い力で誘引するんだなと、びっくりしました。

 そしてこんなに力を加えても折れない桃の木の柔軟性にも驚きました

 しかし、引っ張りすぎると、反動でしなったところの背中から徒長枝が出てくるとも、教えてもらったので、そのこともちゃんと忘れずに、桃にとって一番良い誘引、手入れができるようになりたいと思うし、わたしも、あんなちゃんのように桃にとっての一番がわかるようになりたいと思いました。あんなちゃんに教えてもらう桃の作業は、とても面白いです。

 やよいちゃんがひとつ質問すると、あんなちゃんが百で返してくれて、実際に桃の樹を見ながら勉強させてもらうとさらにわかりやすく、知れば知るほどに興味が深まって、誘引の作業にあんなちゃんが来てくれたことが、わたしはとても嬉しかったし、枝吊りとはまた違った誘引という手入れを、確実に行なえたことも安心でした。

 開墾二十六アールと新桃畑の四本は年内には終わりませんでしたが、枝吊りメンバーといつも新鮮で真剣な気持ちで作業をさせてもらえたことが、とても嬉しくかったです。

 上手くいかない時も、どうしたらいいかみんなで考えて、苦手な工程はみんなに助けてもらって、そうやってみんなで一本一本に真摯に向かっていけることも、心から楽しいと思える一つの理由です。

 そして、枝吊りだけでなく、ほかの作業も同じなのだと思いました。前向きで明るいみんなと作業させてもらえて嬉しかったです。
  
  
 一月から、また枝吊りも再開します。一日十一本を進めたわたしたちなので、三日もあれば残す三十本を行なうには十分だと自信を持って言えるし、最後の最後まで進化させて、磨き上げた枝吊りを、お父さんお母さん、みんなに開墾二十六アールを舞台に見てもらえたらと、枝吊メンバーと話して、それまでにまた進化した枝吊りを極めていきたいです。