【新春号⑫】「みんなで助け合って、十二品のおせち作り!」なつみ

 雪の降る日。家庭科室に集合したわたしたちに、河上さんががそれぞれのおせち料理を作るにあたってのポイント、注意点を話してくださいました。
  
 
 その時に、

「それぞれ担当を割り振ってあると思いますが、ほかのチームが担当しているおせち料理の説明もしっかり聞いて、手が空いたときはヘルプに入れるようにしてもらえたら、嬉しいなと思います」

 と話されていて、今回わたしが担当する、伊達巻と白菜サラダ風だけでなく、今まで作ったことのないお節づくりにも参加させてもらえるのだと思うと、楽しみな気持ちがより一層増しました。

 事前に、「三十日は伊達巻を焼く」といったふうに、予定が表となって立ててあり、わたしたちはそれに沿ってお節づくりを進めていきます。

 お節づくり初日は、どのチームも調味料や必要な道具をレシピに沿って揃えていきます。

 わたしはまず、まっちゃんと一緒に、白菜サラダ風に使う人参を二キロ用意したのですが、青々とした葉っぱが付いた、鮮やかなオレンジの人参を見たときに、みんなで作ったなのはなの野菜で、おせち料理や三が日の料理も作れてしまうことは、とても豊かで、誇らしいなあと、嬉しい気持ちになりました。
  
 
 人参を用意した次は、伊達巻の調味料の準備です。

 伊達巻は一本で十切れ作ることができます。今年は七十人分を作るので、七本の伊達巻きを作ることになります。

 チームリーダーの、のんちゃんに相談して、一本分の調味料を空のヨーグルトカップに入れていくことにしました。

 しかし、ここで疑問が生じました。

「液体と粉って一緒にしていいのかな」

 河上さんの言葉を思い出します。

「わからないことがあったら、自分たちで相談して決めるのではなく、わたしまで必ず聞きに来てください」

 わたしたちは、ほかのチームの人からも質問攻めにされている河上さんが手の空くころを見計らって、尋ねると、

「伊達巻に使う液体調味料は大さじ一や小さじ一だから、量って用意しなくても、ミキサーにかけるときに一緒に混ぜたらいいと思う」

 と教えていただくことができ、これで安心して次に進めると思いました。
  
 
 砂糖と同じヨーグルトカップに入れる塩は少々なので、(まぁこのくらいだろう)と思い、でも一応河上さんに、「塩少々はこのくらいですか」と二本指でつまんで見せると、

「少々というのも適当ではなくてちゃんと量が決まっているんだ」

 と言って、三本指で塩をチョンと軽くつまんで「このくらい」と掌に載せて見せてくれました。

 河上さんが三本指で塩をつまむ瞬間を見たとき、(三本指なのか!)と衝撃を受けました。わたしは料理について無知に等しいと思っていましたが、本当に自分は何も知らないのだということに改めて気付き、こうやって、チームのみんなと一緒にお節づくりを通して、河上さんに料理の言葉を教えていただけることがありがたく思いました。
  
 みんなで塩少々をつまんで掌に載せて河上さんに確認してもらって、丁度七人だったのでひとり一つずつ、ヨーグルトパックに少々を入れていき、準備は完了です。

 それから二日後、わたしたちは白菜サラダ風を作るべく家庭科室に集合し、河上さんから前回の反省を踏まえてのポイントを改めて教えていただいてから作り始めました。
  

  
■針のように細く切る

 白菜を切る部隊、人参を切る部隊、生姜を切る部隊に分かれて進めると効率が良いと知り、わたしは人参部隊でまず、みつきちゃんと人参を洗っていきました。

 そこでまた、疑問が生まれました。

「人参の皮を剥く工程がレシピに無いんだけど、剥かなくていいのかな」

 同じ調理台でおぜんざいを作っている河上さんに、ちさとちゃんと即確認です。

「そもそも人参の皮っていうのは、たわしで擦ったら取れるものなので、みんなが皮だと思っているところは、実は全然食べられるんです。ただ、この人参は生で食べるので、洗っても落ちないような隙間に入った泥は包丁で落としてあげた方が良いと思います」

 なんと、皮だと思っていたところが皮ではなかった!

 みつきちゃんが丁寧にたわしで洗ってくれた人参を、わたしは泥がないか確認しながら、あれば落して、奇麗にしていきました。

 人参を洗い終えたみつきちゃんが、今度は木でできた大根突きを使って小指ほどの長さに突いていってくれます。

 大根突きの下から細長い人参がリズミカルに出てくる光景が、楽しく、河上さんに教えてもらって上手に突いているみつきちゃんを見るとほんのりと暖かく嬉しい気持ちになりました。

 わたしも三が日に奇麗な白菜サラダ風をみんなといただけるようにと思い、できるだけ丁寧に、大根突きで突き切れなかった人参を細く切っていきました。いつもより、時間はかかってしまいましたが、みつきちゃんが、「おぉ、上手」と言ってくれた時は、照れ臭かったですが、嬉しかったです。

 隣では、ちさとちゃんと、のんちゃんと、よしみちゃんが生姜の切り方を河上さんに教えていただいていました。

「まず、生姜の皮はスプーンでむいて、もしも剥きにくければ包丁の背を使ってこのように剥きます。皮を剥いたら、線維と同じ方向に薄切りをして、一枚一枚を少しずつずらしながら倒します。

 こうすると、最後にカットしたものが切りやすいです。そして、そのまま、細く切っていきます。

 河上さんの流れるような手さばきは、トントントンとリズムよく、美しく、簡単そうで、自分にもできるかもしれないと思い、ひとつ切らせてもらったのですが、細く切っているつもりでも包丁の向こうにある生姜がいったいどのくらいの太さなのか、包丁で見えないため、思っているより太くなってしまったりして、難しいなと感じました。
    
 しかし、ゆっくり、慌てずにやると、針のように細く切ることができて、綺麗に切れたときは気持ちが良かったです。

 人参や生姜を細く切るのは慣れないわたしにとって大変でしたが、時間がかかっても上手に切れたのは嬉しかったし、少しでも綺麗な形の白菜サラダをチームのみんなと一緒に、河上さんにおしえていただきながら作るのは、とても楽しかったです。

 白菜サラダを作った翌日。つまり、大晦日前日は伊達巻を作りました。

 わたしは以前、自分の焼いている伊達巻を焦がしてしまい、真っ黒にしてしまったことがあるため、今回は失敗しまいと、気合を入れて慎重に向かいました。

 まずは、みつきちゃんが卵を五個、わたしがはんぺんを一枚ちぎってミキサーに入れていきます。
  
  
 卵を何個入れたかわからなくならないように、「一個目」「二個目」と二人で声に出して確認しながら、間違いが無いように砂糖と塩が入っているヨーグルトカップの蓋に書かれた量の醤油、みりん、酒を入れて、カップの中身も入れて、ミキサーにかけます。

 つきちゃんが持っている四角いフライパンは、焦げ付かないように隅々までしっかりと油が塗られていて、フライパンからは白い湯気がたっていて、もう液体を流していいほどアツアツなのがわかりました。

 ミキサーにかけたものを入れると「ジュワーッ」という音がして、ついに伊達巻が焼かれるのだと思うと、緊張と興奮で心臓がバクバクしてきました。

 さぁ次は二枚目! すでに、さやちゃんは、つきちゃんの隣でフライパンを熱してくれていると思い、急いで卵などをミキサーに掛けねばと、みつきちゃんとわたしは急いで卵を割って、はんぺんをちぎり、ミキサーをかけて、さやちゃんのフライパンに入れようと思ったら、まだフライパンを熱しておらず、持っているだけでした。
  
  
 なんだぁ、と思いフライパンから先ほどと同じように湯気が出ているのを確認してから液体を入れました。のんちゃんが、

「慌てなくていいから、調味料入れ忘れたとか、間違いが無いようにね」

 と声を掛けてくれました。

 そんな、調味料を入れ忘れるなんてこと……、あれ、二枚目のやつに調味料入れたっけ。

「さやちゃんが今焼いている伊達巻に、調味料入れてくれた人いますか」

「……」

(やってしまった)

 全員がそう思いました。まず、火を消して、フライパンの中でまだ液体状の卵をボールに移します。

 しかし、河上さんは、一度少しでも火を通してしまったら味は良くつかないと教えてくださり、わたしたちは余分にあった、たった一枚の奇跡のはんぺんに助けられて、新たな一枚を焼き始めました。

「入れ忘れが無いように、誰が何を入れるか、担当を決めて、責任を持ってやろう」

 とのんちゃんが声を掛けてくれて、みつきちゃんは卵を割り、よしみちゃんは調味料入れ、わたしははんぺんをちぎることに徹しました。

 フライパンは三枚しかないため、焼いているときは手が空きます。河上さんが一番最初に説明してくださった通り、中火の弱火で、遠火にかけます。
  
  
 じっくり、じっくり、じっくり……。

 わたしは途中でのんちゃんと交代してフライパンを持たせてもらったのですが、じっくりは、なかなか根気がいるなぁと思い、しばしばアルミホイルと食管を重ねて作った即席の蓋を取って、焼け具合を見たくなってしまう衝動に駆られました。

 しかし、そんな頻繁に蓋を開けると、火が通るものも通らないので、ここはリーダーであるのんちゃんに確認です。
    
 よーく卵の焼き具合を観察しながら、焦げた臭いはしないか注意しながら、焼いていきます。

 二十五分ほどして、チラッとフライパンの中をのぞいてみると、ふんわりとした甘い卵の香りと一緒に、しっかりと火に通って生の所がない生地が出来上がっているのが見られました。
  

■美しい伊達巻きを焼きたい

 さぁ、温かいうちにまきすで巻いていきます。向かいでは河上さんが見守ってくださっています。

「こうやって……」

 茶色く焼けた面がまきすに面するように置いて、端から巻いていこうと思ったのですが、そこから先がわからない。

 河上さんに巻き方を見ていただき、無事にしっかりと巻けた伊達巻が完成しました。
  
  
 みんなも、河上さんに教えてもらいながら上手に巻いていて、焼き面も、程よく茶色で美しく、誰一人として焦がさずに七本完成したのが、本当に嬉しいなぁと思いました。

 最後の一本、わたしは河上さんの手つきを思い出しながら、さやちゃんがしてくれる説明を聞いて、巻いていきました。生地に薄いところと少し厚くなってしまったところがあったので、教えてもらった通り薄い方を手前にしてきつく巻いていき、無事に納得いく巻きができて、伊達巻づくりは完成しました。

 サッと素早く片づけを済ませて、時刻は四時半。五時まで時間があるので、かまぼこの飾り切りチーム、数の子の皮むきチームに分かれて、わたしは後者の方で手伝わせてもらいました。
  
  

 今まで数の子の調理をしたことは人生で一度もなかったので、皮むきだけでも体験させてもらえることがとても嬉しかったです。

 襞状になっている方に向かって親指で皮をめくるように取っていきます。そうすると、皮というより、薄い膜のようなものが取れていって、こうやって数の子は完成していくのかと、感動しました。

■ダイナミックなおせちに

 大晦日の朝には、ちさとちゃんとひろちゃんとつきちゃんが、白菜サラダ風を混ぜてくれたり、午前中のおせち詰めに向けて伊達巻を切ってきくれて、つきちゃんが廊下掃除をしているわたしに、「見て!」ととびっきりの笑顔で、とっても美しい伊達巻を見せてくれました。
  
  
 「うわぁ」と、わたしも嬉しくて思わず叫んでしまいました。そのくらい、本当に奇麗な伊達巻で、これを食べたら、きっと良い一年になるだろうと思えました。

 午前中の最初は、予定通りにチームのみんなと一緒に食堂でお重にお節を詰めていきました。

 なのはなでは一人一つお重を詰めて、元日にはみんなで詰めたお重がランダムにみんなの元に配られていきます。
  

南天の実を飾ったら、完成!

  
 わたしは、十二種類のおせち料理を十五センチほどの正方形のお重に詰めるのに難儀してしまう経験があったので、なるだけ同じような形のものを、紅白かまぼこ、伊達巻、田作りと詰めていくと、りゅうさんに、「なんか、真面目やなぁ」とコメントをいただき、りゅうさんのを見ると、南天の枝が十センチほど飛び出ていて、さすがりゅうさん、ダイナミックだと惚れ惚れしました。
  
  
 数の子を詰めていると、ゆりかちゃんが来てくれて、「数の子になったよ」と声を掛けてくれました。

(そうだ! わたしも一緒に皮むきをした数の子だ!)

 と気付いた途端に、わたしは数の子のおいしさがあまりわからない人でしたが、一気に数の子がかわいく見えてきました。

 大事に数の子を詰めて、最後に南天を飾って完成です。
  
  
 元日の朝食の席で、「まるで宝箱みたい」とお重を表現している子がいて、本当に、優しい色をした伊達巻や、てっぺんに砂糖が輝くサツマイモの甘納豆がのったきんとん、りゅうさんが作ってくださったたれで絡めたキラキラの田作り、書ききれない程、どれも全部綺麗で、見た目からも、美味しさからも、みんながみんなを想う気持ちを感じて、こんな豊かな気持ちになれるお正月を過ごさせてもらえることが、とても幸せだなと思いました。

 どうか、今年も良い一年になりますように。