
全てはお風呂での他愛もない会話から始まった。
「『アライブ』で洗いの部活って書いて『洗い部』をやったら絶対おもしろいと思うんだ」
みつきちゃんのひと言でした。
「それ、さきちゃんも同じこと言ってた」
とせいこちゃん。
「その発想はなかったな」
偶然居合わせた私。
言葉はなくとも、それを聞いていた、よしみちゃん。
脱衣所でみつきちゃんからその話を聞いた、つきちゃん。
これが二〇二一年のNHF紅白歌合戦で起きた、笑いのビッグバンの起爆剤となる石が投じられた瞬間であった。

「洗い」とは、なのはなの食事後、食器洗いをする当番の通称である。私はこの「洗い」のリーダーを三食やらせてもらっており、私の狂おしいほどの洗いへのこだわりは、洗いメンバー内で若干ネタになりつつあった。
みつきちゃんのひと言を聞いたとき、最初は、冗談半分で聞いていたが、紅白の希望曲の提出期限が迫るほど、これしかないのではないか、という気持ちが強まっていった。
そしてとうとう、紅白の第一希望曲として『アライブ』を書き、この曲がいいんだという思いを強調するためにキラキラマークまでつけて回収ボックスに入れたのであった。
いくら私たちがそれをしたいと願っても、第二希望になってしまうかもしれない。他の曲ではこの計画は成り立たない。緊張で夜しか眠れぬ日々を過ごした。
そこから数日。ついに紅白のチームと曲の発表があった。あゆちゃんがチームを読み上げてくれる。自分の名前が呼ばれるのを今か今かと待った。そしてそのときは来た。
「のんちゃんチームで、曲は『アライブ』です。メンバーはのんちゃん、ちさとちゃん、せいこちゃん、つきちゃん、よしみちゃん、みつきちゃん、です」
メンバーの名前が呼ばれていく度、こらえきれず笑いが漏れた。そして洗い部をするとわかって入れて呼ばれたメンバーも、私の方を見て同じように笑っていた。顔合わせに集まった時点できょとんとした表情のちさとちゃんを残し、全員吹き出して、爆笑した。「洗い部」の実現が決まった瞬間であった。

何も知らないちさとちゃんに爆笑の理由と、自分たちが何をしたいのかを説明し、さっそくネタ出しにかかった。一人ひとりの洗いへのこだわり、はたから見たらちょっとおかしところ、洗いにかける思い、メンバーへの訴え。
本番の寸劇の脚本や替え歌に入れることができなかったエピソードも、紅白が洗い部だけで終わるくらい山ほどあった。

それを私が集約し、脚本に仕立てていった。六ページの脚本にまとまった。普段のステージでは、キーボードとボーカルのあゆちゃんだけになるところは、部長である私の思いの丈を、私が考えて替え歌を歌わせてもらった。他は、みんなから出たアイデアを元に、主にせいこちゃんが考えてくれた。
役や歌う部分を割り振り、練習していった。思ったより準備にとれる時間が短く、替え歌や替え歌中の動きで簡略化した部分はあったが、寸劇では、みんながもっとこうしたらいいんじゃないか、と考えを出してくれて、磨き上げられていった。
アンサンブルやら、衣装部やら嫁入り作業やらで揃わないときも多かったが、本番が近づけば近づくほど、みんな、練習したい、と言ってくれて、リーダーとしては、いや、部長としては、ありがたくて嬉しい限りだった。
ちなみに衣装は、衣装部リーダーのつきちゃん曰く今回の紅白最短だという二十分で決めた、様々な色の卒業生が残してくれた学校ジャージ。
部長は上下赤で、上のジャージをズボンにイン。副部長つきちゃんは濃い緑。せいこちゃんは紫、よしみちゃんは青で、下は半ズボン、ちさとちゃんはオレンジ、新入生役みつきちゃんは割と格好いい濃いめの紺。ジャージもまさかスポットライトを浴びることになるとは思わなかっただろう。

そんなこんなで本番になった。私は終ぞ寸劇に出てくる〝なのはなクレド〟をパロディした洗い部十箇条をスムーズに言えるようにならなかったため、左手の甲に出だしだけ書いて、最初に「一つ」などというときに、左手で一を作って見せながら、実はそのカンペを見ていた。
それはさておき、本番直前、音楽室の外で待機しているとき、メンバーで円陣を組んで、気合を入れた。それも、部長の私が誘われる形で、みんなが自発的に円陣を組んで待ってくれていた。みんなが楽しんで紅白の準備をして、楽しんで本番に向かおうとしてくれていることを感じて、ものすごく感動して、嬉しかった。

出を待っているときは、かなり緊張した。でも、それと同じかそれ以上にわくわくした気持ちが大きかった。そして音楽室の扉を開けて入っていった。
登場だけで笑いが起き始める。そこからはもう何を言ってもやっても笑いが沸き起こって、つられて笑わないようにするのが大変だった。洗い部十箇条を言い終わったときには、予想していなかった拍手に包まれて、驚いた。
みんなが想像以上に笑ってくれるので、演技もいつもより三割増しで力が入った。練習しているだけでも面白かったが、やっぱり、表現というのはお客さんがいてこそだ、と感じた。
笑ってくれる人がいるから、こっちもじゃあもっと笑わせてやる!と熱が入る。相乗効果で終始音楽室が笑いに包まれていた。夢のような時間だった。
終わったあと捌けて音楽室を出ても、洗い部のメンバーのみんなと顔を見合わせて、幸せな気持ちを共有していることを感じあった。今までの紅白のなかで最高の紅白だった。
以上、部長として洗い部について書かせていただきました。ここからは文体を変えて、のんとして書かせていただきます。

私は前回に引き続き、今回もスポットライトを担当させていただきました。なのでリハーサルも見させてもらって、二回紅白を楽しませてもらいました。
今回、サイドの二つのライトがいつもより暗いように感じたのと、「照明は、係の人にお任せします」というチームがあるくらい、どのチームも時間がなくて、とりあえず照明台本を書いた、という感じだったので、照明台本通りにやると、全体が暗くなってしまったり、盛り上がりが欠ける感じになってしまいました。
■歌合戦を作る側として
最初は照明台本通りにやろうと思っていたのですが、それではせっかくの演出が無駄になってしまう、と思い、要望があったところはその通りにやるとして、勝手ながら各チームのメンバーの一員になったつもりで、部屋の電気では雰囲気がないけど、サイドだけでは暗いという場面で、盛り上がってほしいところ、暗いと感じるところは、スポットの光を入れさせてもらいました。
リハーサルの時にも、ただの白の光を中央に当てる、になっているけど激しいダンスをしているところを、「ここでくるくるライト当ててもいいですか」と言ったら、「嬉しいです!」と言ってもらえたりしたので、「暗いな、いいのかな」ともやもやするよりやってしまえ、と思って、遊ばせてもらいました。そうすると、各チームが自分に近しいものに感じられて、楽しかったです。
全チームの演出を、そんな風にずっと照明をやりながら見させてもらいました。

最初のチームはさとみちゃんチームで『ネバー・イナフ』。ドレスの衣装に、頭には段ボールで作った飾っておきたいくらいかわいい動物の頭を被っていました。寸劇なしの替え歌でした。一人ひとりのソロの時に色を変えてスポットを当てます。

次はあゆちゃんチームで『センド・マイ・ラブ』。卒業生のりかちゃんやしほちゃんが入ってくれていて、全員で振りをするところでは、りかちゃんが一人みんなと違う振りを踊ってくれていたのがかっこよくて、早くりかちゃんが考えてくれたダンスを踊りたくなりました。

このチームは白を基調にした衣装もかわいくて、ななほちゃんやりなちゃんが着ていると特にこういう妖精がいるって言われても信じてしまいそうなくらい可愛かったです。スポットを当てたい場所が多すぎて困りました。
続いてまえちゃん率いる『ドント・ストップ・ミー・ナウ』。お父さんが前に集合で話していた虫になって登場。
衣装は白デコチュウを基本としているコミカルな衣装。りゅうさんもこのチームで、寸劇でりゅうさんにしかできないちょっとしたソロを歌って踊って、圧倒的な存在感を放ちます。寸劇の後、みんなで英語の歌詞を歌い上げます。

でも、準備の時から話は聞いていたのですが、ちゃんと英語で歌うには速くて難しいところを、メンバーのまおちゃんが、「カニみそバレンタイン」って歌ったらそれらしく聞こえるよ、と教えてくれたらしいのですが、そこがもう「カニみそバレンタイン」にしか聞こえませんでした。
■最高の一夜
次はゆいちゃんチームで『エイント・ユア・ママ』この曲は紅白がバンド演奏初お披露目となりました。

演技派揃いのメンバーのみんなが細胞戦士セルラームーンになって、身体のなかの問題や、みんなを悩ませる自己否定に立ち向かいます。自己否定を倒そうとして逆に自己否定に陥って崩れ落ちるほしちゃんの迫真の演技や、みんなのコミカルな演技は、スポットの当てがいがあって、面白かったです。

続いてまちちゃん率いるナノーラ団で、『ウェンエバー・ウェアエバー』、もとい、笑えばー・笑えばー。卒業生のゆきなちゃんもこのチームに入ってくれていました。
仮面をつけた怪しげな二人、マチーラ(まちちゃん)とアヤーラ(あやかちゃん)の寸劇に、笑いを誘われます。二人が紅白で殻を破る仲間を探していると、殻を破りたい、のえちゃんとゆきなちゃんに出会います。そこから繰り広げられる替え歌とダンス。くるくるライトが唸ります。
そして今回の紅白の伝説となった、第四回戦。先行はやよいちゃん率いる『ザ・マーチ・オブ・ザ・ブラック・クイーン』。メンバー四人がそれぞれ自分のおかしな心持ちである、自己否定、正義が通せない、かまってちゃん、人の上に立ってしまうことのおかしさを、実際のエピソードをもとに劇で表現していきます。
一人は本人役で、それ以外の三人はその人の心の中の悪魔のささやきを表現していきます。この悪魔のささやきが面白くて、でも理解できて、おかしさにはっきりと気づかされます。
やよいちゃんの悪魔のささやきをしているときの表情が瞼に焼き付いていて、白目が黒目の面積の一・五倍あるんじゃないかというくらい、目をカッと開いて、「永遠にかまってちゃんをやるのよ」と言ってるところとか、本当にすごい圧力で、大爆笑でした。
スポット当てるにも、「見て、この表情!」という感じで、やっててすごく楽しかったです。
そして我らが洗い部。学校の設定で、みつきちゃん演じる新入生が、落ちていた洗い部のチラシを見て、聞いたこともない謎の洗い部の扉を開きます。
そこで行なわれているのは、食器を洗い、拭き、次の食事の準備をする、次世代のスポーツ「洗い」。部長の洗いへのこだわり全開で、洗いあるあるを面白おかしく表現します。
この四回戦はお父さんとお母さんが判定に特に悩んで、二人とも紅白の判定の札をどちらも上げて引き分けになりました。観客もやった自分たちも納得の判定で、なんだか清々しい気持ちさえしました。
休憩におやつで黒豆パウンドケーキをいただいて、そこから後半戦です。後半最初は『スキャンダル』。なおちゃんがナレーションをして、ほかのメンバーはつらい変遷を辿った今年の秋ジャガイモの親芋たちになりきって、芋目線の気持ちを寸劇にしていました。
メンバーのさきちゃんの芋への思いを感じました。ああ、芋はこんな気持ちだったのか、ごめん、と思いつつ、クスっと笑えてくる寸劇でした。
対するは『タイガー・イン・マイ・ラブ』。激しく吠えるような曲と歌は、毎年必ずと言っていいほど紅白で演奏され、歌われています。リーダーのかにちゃんがバンドでドラムを叩きながらヘッドマイクで歌も歌っていたのがすごくかっこよかったです。
照明はお任せ、ということで、全力でチームを応援しつつ、遊ばせてもらいました。曲中、歌の声が、元気玉で力を集めるみたいに上に集まっていくような歌い方をするところがあるのですが、そこでスポットライトを上に動かしてみたり、くるくるライトを左右に振ってみたり、いろいろやらせてもらいました。
■一緒に叫ぶように歌って
そして、次は、お母さんが募集して集まった、お母さんと『育つ雑草』を歌いたいメンバーによる、育つ雑草三連続。メンバーがたくさん集まったため、三回にメンバーを分けて歌いあげてくれました。
見ているみんなもマイクはなくても、声が枯れるほどに全力で一緒に歌って、会場全体大盛り上がりでした。スポットライト、くるくるライト、フル活用で応援しつつ、私も一緒に叫ぶように歌いました。
そしてみんなのチームとしてはラストのさやねちゃん率いる『ウィー・キャン・ゴー』。宇宙のいろんな星からやってきたメンバーが、地球で出会って、なのはなの紅白にやってきて、歌います。
卒業生のひなのちゃんたちが入ってくれていました。白や銀で統一された衣装が上品で奇麗でした。さやねちゃんとしなこちゃんが着ていた、銀色のスパンコールがついた上着の衣装が、スポットを当てると反射して、ミラーボールみたいに音楽室に光を散らしてくれて、それもすごくきれいでした。
本当のラストはもちろん、お父さんとお母さんの対決です。先行はお母さん。『お月様ほしい』で勝負です。照明で加勢しようと思ったけれど、白いスポットライトの光以上に合うものないな、と思うくらい、お母さんの力強くて、でも品がある歌声が美しかったです。

そしてそして大トリはお父さん。『ヒーロー』をバンド演奏で歌いました。お父さんも変に飾らない白のスポットライトが一番しっくりきました。強くてあったかい歌声には、なのはなの紅白の最後にはやっぱりお父さんしかいない、と思いました。
お父さんとお母さんの対決の判定は、卒業生のりかちゃんとしほちゃん。本人たちに伝わっておらず、しほちゃんは、「え!?」と何回も困惑と驚きの声を漏らしていました。結果は、紅二票で、ずっと勝ちたいと言っていた、お母さんの勝利でした。

最後に記念撮影をして、お開きになりました。
今回の紅白は、卒業生もみんな帰ってきてすぐにチームに入ってくれていたし、洗い部もみんなに喜んでもらえて、本当に最高の一年の締めくくりでした。
この紅白で、エネルギーをたくさん充電させてもらって、また一年頑張れる、と思いました。