スタートの声を合図に、体育館に響きはじめる軽快なリズム。
「カン、コン、カン、コン、カン……」
あちらから聞こえる音は、一定の速度で規則正しく。こちらの音は、ちょっと乱れつつも、なんとか続いています。お正月遊びもクライマックスに近付いてきた、一月三日の午後。コマ回し対決のあとに待っているのは、羽根つき大会です。
■ベストパフォーマンス
いよいよ始まった、羽根つき大会。まずは、ノーマル羽根突き対決です。ノーマル羽根つき対決は、全六チームの総当たり戦。
二分間の制限時間のなかで、何回連続して羽根を突くことができたか、その回数を競います。一回の対戦に一チームから四ペアが出場し、全ペアのつけた回数を合計します。合計した回数が、そのままチームの得点となります。
私は、なるちゃんチームです。チームカラーは、黄緑色。黄緑色のフリースが、私たちのユニフォーム代わりです。
各チームに、袋に入った羽子板と羽根が配られ、さあ、競技スタート! まずは、羽根をつくペアを決めていきます。今回の羽根つき大会では、いったんペアと出場順を決めたら、全ての試合をそのオーダーで戦い続けるというルール。
最初の選択が重要です。実力が同じくらいで、息が合いそうな相手と組みたいところ。チームでのベストパフォーマンスを発揮できる組み合わせを、探っていきます。
軽く羽根をついてみながら、お互いの相性を確かめていきます。同時に、羽子板と羽根のコンディションも吟味します。
そうして決定したペアは、なるちゃん、あんなちゃんペア。せいこちゃん、さくらちゃんペア。そして私は、まちちゃん、のえちゃんと組んで、二回、試合に出場します。これで、試合に出場する四ペアが決まりました。
初戦は、お父さん、お母さんチームとの対戦です。私は、まず、まちちゃんとペアで出場。
(うーん、ちょっとだけ練習してみたけれど……)
まだ、羽根つきの感覚を掴みきれません。
(初戦はひとまず、肩慣らしのつもりで、リラックスしてプレーしてみよう)
羽子板を構えると、向かいには明るい笑顔のまちちゃん。やる気に満ちています。
それでは、よーいスタート!
「カコン、カコン、カッコン……」
赤と緑のカラフルな羽根が空中を舞い、羽根が羽子板に当たるたびに、子気味の良い音が響きます。(ああっ、落としちゃった!)ちょっと失敗。
でも、なかなかに続いています。がんばれ、私たち! 結果は、百二十二回。(おおっ、私たちけっこう上手いかも!)滑り出しは、順調です。
続いて、のえちゃんとペアで出場。安定した球を返してくれる、のえちゃん。ちょっと狙いがそれたときも、落ち着いて立て直してくれます。結果は、九十三回。うん、なかなか良い線いったぞ。
■宇宙人に近づいた
そして、運命の全体結果発表。四ペアの得点を合計し、その合計得点は……。私達、なるちゃんチームは、二百六十六点。対する、お父さん、お母さんチームは、三百七十七点!
(うわー、負けた!)
負けたチームには、勝ったチームからの墨入れが待っています。今回の墨入れのテーマは、『宇宙人』。私の顔に墨入れをしてくれるのは、お父さんです。
目の周りを、するすると筆が滑る感触。どうやら、眼鏡が書き込まれたようです。(宇宙人に、一歩近付いてしまった……)気を取り直して、次の対戦です。

次の対戦相手は、よしえちゃんチーム。水色のフリースが爽やかです。先ほどの対戦では、よしえちゃんチームのさやねちゃん、さくらちゃんペアが、百九十四回の記録を叩き出していました。強豪チームです。
再び、まちちゃんとペアで羽根をつきます。
「カコ、カコ、カコ……」
(なんだか、調子が良いぞ)
羽根が、落ちません。二分間つき続け……なんと、二分間一度も落とさずにつき通しました。「やったー!」思わず、まちちゃんと飛び上がって抱き合います。結果は……「二百一回!」二百回越えの記録に、自分たちもびっくり。
この勢いにのり、次はのえちゃんと出場。
(あれあれ、今度も調子が良いぞ)
またまた、一度も落とさず羽根をつき通し、結果は二百三回。記録更新です。
そして、結果発表。なるちゃんチーム、四百九十二点。よしえちゃんチーム、四百五十二回。「やった、勝った!」強豪チームに勝った喜びに、チームが沸きます。
勝ったら、相手チームの顔に墨入れです。ちょっとお洒落な宇宙人をイメージし、るりこちゃんの額にダイヤマークを書き込みます。ついでに、鼻筋にもちょっと模様を入れて、良い具合に仕上がりました。この調子で、次の対戦だ。
■欲を出さず、謙虚に
続いての対戦相手は、緑フリースのあゆちゃんチーム。
(さあ、まちちゃん、いってみよう)
そろそろチームワークができてきたかな。試合開始。
前に出した左足と、後ろに引いた右足。両足でリズムを取るように、体重移動を繰り返します。そうすれば、羽根がちょっとそれたときも、フットワーク軽く取りにいけます。
「カン、コン、カン、コン」
羽根をつく音が一定のリズムで聞こえているときは、順調にいっている証拠。呼吸が合ってきました。
「距離近くする?」
羽根をつく距離を近くすれば、それだけ二分間の制限時間以内に突く回数を多く稼ぐことができます。ちょっと距離を狭めて……、「ああっ!」軌道が乱れて、羽根を落としてしまいました。
(やっぱり、欲を出してははダメだね)
謙虚に、気持ちを引き締めていこう。
あゆちゃんチームとの対戦。最終結果は、なるちゃんチーム四百三点対、あゆちゃんチーム四百七十二点。

(負けたー!)
私の左頬に、羽根突きの羽根のマークを書き込む、ななほちゃん。
(悔しいー! 今度こそは!)
悔しさをバネに、次の対戦に臨みます。
■右頬にハートマーク
しかし次の対戦相手は、ちさとちゃんチーム。ここまでの試合で、最も高得点を出しているチームです。ちさとちゃん、よしみちゃんペアと、さやねちゃん、さくらちゃんペアが、安定して二百点越えの点数を出し続けています。ピンク色のフリースも華やかで、なんだか強そう。さて、勝てるかな。
気持ちを強く持って、まちちゃんと羽根をつきはじめました。調子は、悪くない。得点は、ぴったり二百回。次はのえちゃん。おっと、半ばで羽根を落としてしまい、結果は百三十三回。チームの総合得点は、四百四十四点。対するちさとちゃんチームは、五百四十一点。百点近い差を付けられてしまいました。
(悔しい! けど、完敗だ)
次はいよいよ、ノーマル戦最終戦。勝って気持ち良く、ノーマル戦を終えたいところ。
運命の最終戦。相手は、かにちゃんチームです。
気合いを入れてつき始めたものの……ここまで戦い続け、集中力が切れてきた。途中で羽根を落としてしまい、結果は、まちちゃんとの回が百二十四回。
のえちゃんとの回が百十四回。チームの総合得点は、二百七十九回。(ああ、点が伸びなかった……)果たして、相手チームの得点は。
かにちゃんチームの得点が、いよいよ発表されます。「二百六点!」(やった、勝った!)ちょっと苦しみつつも、最終戦を制しました。筆を手に取り、ほしちゃんの右頬にハートマークを書き込みます。ノーマル戦は、これにて終了。
ここまでの結果では、なるちゃんチームの全体順位は五位。最下位をギリギリ免れている、という順位です。
でも、まだ逆転のチャンスはあります。続いて、名人戦に突入です。名人戦は、トーナメント戦です。各チームから最も羽根つきが上手なペア、名人ペアをひと組ずつ出し、トーナメントを戦います。私は、まちちゃんと、この名人戦に出場することになりました。
しかし、この名人戦。普通の羽根つきとはひと味違います。
実行委員さんが、なにやら大掛かりな道具を運んできます。運ばれてきたのは、平均台。この名人戦、名人ペアは平均台の上に乗り、その上で羽根を突きます。しかも羽根を落としたら、そこまでで終了。連続して何回突けるか、一発勝負です。
(平均台、けっこう高いな……)
ちょっと怖い。でも、やるしかない! 裸足になって、気合い充分。さあ、いってみよう! 私達ならば、きっとできる!
一試合目は、お父さん、お母さんチームとの対戦。フットワークを封じられ、どこまで羽根をつき続けられるか。まずは、練習です。平均台の上に乗り、ドキドキしながら、おっかなびっくり羽根をつき始めます。
(あっ、意外と続く……)
ここまでで培ってきたチームワークが、いきています。いけるいける!
いよいよ、試合です。慎重に突き始め、息を殺して、羽根の動きに意識を集中します。なかなかに、続いているぞ。結果は、八十三回。(平均台の上でも、打てるものだな)
相手チームは、十七回。見事トーナメント戦、初戦を勝ち上がりました。
続いての対戦は、よしえちゃんチームの、さやねちゃん、さくらちゃんペアです。ノーマル戦では、制限時間いっぱい落とさずにつき続け、安定して二百点台を出し続けていたペアです。
球の軌道が安定していて、近距離で打ち合い回数を稼いでいる、という印象の相手。これは、強いぞ でも、私たちだって負けてないはず。
■全意識を羽根に向けて
試合開始! 打球は、決して安定している訳ではない、まちちゃんと私のペア。右へ左へ小さくそれる球に、反射神経で食らい付きます。
安定感は無いけれど、ガッツはある。それが、自分たちらしい戦い方。そんな思いがします。調子は、絶好調。球が続いています。

結果は、百七十九回。対する相手は、七十五回。やった、決勝戦進出です!
迎えた名人トーナメント、決勝戦。相手は、ちさとちゃんチームの、のんちゃん、さやちゃんペアです。ここまできたら、勝つしかない。いざ、決勝戦!
まちちゃんと私の羽子板の間を、行ったり来たり、往復する羽根。その動きに、意識を集中します。右にそれ、左にそれ、そのたびに、腕を伸ばして羽根を拾いにいきます。腰をしっかりと落として、足下をガッシリ安定させます。
空中を舞う羽根の向こう側には、真剣な眼差しのまちちゃん。緊張に、唇を噛みしめます。視線は絶えず羽根を追い、耳には羽根をつく音が規則正しく響いています。視界がキュッと狭まり、羽根の動き、羽根つきの音だけが、切り取られたように、意識に訴えかけてきます。羽根つきの世界に、没頭しています。
「あっ!」
相手チームが、球を落とした模様。まちちゃんと私の球は、まだ、続いています。いつまでも、突き続けられそう。そして……。
「まちちゃん、あやかちゃんペア、百二十四回! 対する相手チームは、七十三回!」
「……やったーー!!」
平均台から飛び降り、喜びに、お互いを抱きしめ合いました。名人戦、優勝です。
名人戦の得点が加算され、気になる総合結果は……なるちゃんチーム、第三位! 五位からの、躍進です。やった!

総合優勝は、ちさとちゃんチームです。最後は、やっぱり墨入れ。ちさとちゃんチームのみんなが、他のチーム全員に、仕上げの墨入れをします。
ちさとちゃんチームの前にできた行列。みんな、最後の一画を入れて貰います。悔しさはあるけれど、墨入れは、魔除け。しっかり墨が入ったほうが、今年一年、安心して過ごせるというものです。
鏡を見ると、全体に墨の入った自分の顔。なんだか愉快な気持ちになり、思わず、ふふっと笑ってしまいました。
(ああ、楽しかった)。
そんな充実感を胸に、羽根つき大会は幕を閉じたのでした。