【新春号⑥】「紙版画に挑戦! ―― テーマは『楽しんでいる自分』 ――」るりこ

 お正月遊び三日目。紅白歌合戦や新年ライブと、三夜と続く非日常の夜更かしに程よい疲れを感じつつ、その感覚が嬉しくもあるのが、みんなと過ごす幸せな三が日。

 書き初め、百人一首、二人羽織に独楽回し、羽根つき……。やり慣れた遊びが発表されたなかに、気になる四文字が浮かび上がります。『お・楽・し・み』。

 ……気になるーーー!!! 毎年一つは新しい遊びに挑戦しますが、相撲でもなく、双六でも、頭像づくりでもない、今年の新たな遊びは一体何なのか。実行委員さんが用意しているものを見ても、前日までその謎は全く解けずにいました。

 それがいよいよ発表されたのが、お正月遊び二日目の昼。昼食のために食堂に集まると、液晶テレビに何やら動画が映し出されてあります。食事を終えたお父さんが、「じゃあ、観ようか」と言いました。そこでとうとう実行委員のあゆちゃんが言いました。
  

楽しんでいる自分を紙版画で表現します

  
 「明日の午前に、みんなで紙版画をやろうと思います。今から作り方の動画を観て、明日スムーズに行なえるようにしたいです」

 お楽しみの正体を聞いて、そうきたか! と思いました。十一月から新たになのはなで始まった、木版画教室。毎週木曜日の夜に藤井さんが来てくださり、メンバーの子たちが木版画で刷る年賀状づくりに奮闘していました。

 その版画ブームから、お正月遊びに『紙版画』という形でみんなで挑戦してみようということでした。

 早速、用意してくれた動画を観て、まずは紙版画について、みんなで学んでいきました。『紙版画』はその名の通り、紙を切って組み立て、それを刷り、作品にします。木版画のように彫刻刀を使ったりするのではなく、画用紙とハサミがあれば簡単にできてしまいます。
   
 これならわたしにもできそう! と思うと、小学生の頃に戻ったような気持ちになり、翌日がどんなものになるか、想像をすると楽しみになりました。

■芸術的な作品を目指して

 そうこうして始まった、紙版画づくり。まずはみんなでリビングに集まって、実行委員のあゆちゃんからテーマが発表されました。それは『楽しんでいる自分』。わたしのなかでは静止画が浮かんでいたので、人、しかも動きがあるものか、と思うと、少し難しそうだと思いました。

(楽しんでいる自分、楽しんでいる自分……。あっ!)

 すぐにピンとくるものがありました。それは、カードゲームをしているとき。

 つい前日のお正月遊び二日目に百人一首とセブンブリッジを行ないました。百人一首では青冠でかなり燃えて、あと一枚で勝てる! というところで惜しくも負けてしまい、ものすごく悔しい思いをしました。
  
  
 セブンブリッジでは何度やってもドキドキが止まらない、あの臨場感が毎回たまらなく楽しいです。負けても勝っても、とにかく楽しいカードゲーム。

 でもその楽しさが感じられるのは、一緒に頭をひねって作戦を考えたり、ときには負けて悔しがり、ときには大勝ちして手をたたき合って喜び合える、ペアの子の存在があるからだということを、今回のお正月遊びの中でこれまで以上に強く感じました。

 溢れる楽しさとその届けたい思いを、ぜひこの場を通して一つの絵にしたいと思いました。

■思いっきり芸術的に

 制作に移る前に、お父さんが、作品を作る上でのアドバイスをしてくれました。

「絵が苦手な人ほど、紙版画は向いているかもしれません。今回は芸術的につくってみましょう!」

 今回においては、基本や美しさよりも芸術的な作品を、という話を聞いて、高まっていた緊張や、ちゃんと作れるだろうかという不安が吹き飛んで、テーマにもあるようにまずは自分が楽しもうと思いました。わたしはこういった制作物を作るというとき、必ずといっていいほど、真っ先に苦手意識が浮かんできてしまいます。

 上手に作れるだろうか、おかしな作品を作ってしまって笑われてしまわないだろうかと感じてしまうからです。
    
  
 でもお父さんの話を聞いたら、ここではそれは感じなくても良い不安なんだと思いました。一番に自分自身が作ることを楽しめたら、上手い下手の結果は気にならなくなるような気がしました。心が軽くなると、身体も軽くなって、駆けるように、会場となる二年生教室へ向かいました。

 教室に入ると、机が整然と並べられ、その上に紙版画で使用する道具がセットされてありました。台紙となる画用紙が二枚、下書き用紙が一枚。そして紙同士を貼り付けるためのボンド。そのセットの横に、一人一本ハサミが添えられてあり、ピンクや青と色とりどりのハサミが並べられてある光景だけでも胸が高まりました。

 制作時間は約二時間。時間があるようで、じっくりゆっくりしてしまえば終わらないだろうと思いました。ここは、ある程度の潔さも必要だと思いました。

 早速、下書きを書いていきました。カードゲームをして楽しんでいる自分を思い浮かべると、すぐにその光景が頭に浮かんできました。それをそのまま絵にしていきました。

 スラスラとペンが動き、そして書き上がった絵は手札を持っている自分と、その隣で、「一発上がりできそうだよ!」と喜んでいる、まりこちゃんの姿でした。
  
  
 さぁ、実際にこれを土台の画用紙で切っていこうと思ったとき、後ろに座るさやねちゃんが言いました。

「これって刷ったときには、左右が逆になるんだよね?」

 その言葉を聞いて、

(あぁ! そうだった!)

 と思い出しました。

 危うく、下書きのまま貼り付けて、左右が逆のへんてこな作品になってしまうところでした。

 さやねちゃんの呟きにギリギリのところで助けられて、改めて気を取り直して、左右が逆になるように切っていきました。

 でも左右が逆になるようにと思うと、頭の中は余計に大混乱。鏡に映す手もあるけれど、それもどうかなぁと悩んでいると、ふと目に入った下書き用紙をひっくり返して、窓から差し込む光に透かしてみました。すると、案外はっきり見えるではないか! 

 この手でいこうと思って、表裏をひっくり返して光に当てた下書きを見ながら、画用紙にも薄く線を入れて、ハサミで切っていきました。

■お父さんの作品

 作り方の動画を見たときに、頭の形を切ったら、その残りの部分の画用紙を活用して髪の毛をつくると、無駄なく画用紙を使えるという説明がありました。
  

 使える画用紙が限られているなかで、そういった一工夫や細かな破片こそ、無駄にしないで有効活用しようと思えば、いくらでも使い道はあるし、画用紙も大切に使えることがわかりました。そのことを頭の中に入れて、目やまゆげなど、細かい顔のパーツを作るときには、出た端の欠片などを使うようにしました。そうすると、あえて切らなくても、

(あっ、この形、まゆげになりそう)

 とか、

(あれ、きれいな鼻の形ができあがっている)

 と、一つひとつが生きて見えてきました。無駄なく大切に使おうという気持ち一つで、ゴミになってしまうものと、作品になれるもの、その違いが大きく分かれてしまうのだなと思いました。

 制作も波に乗ってきた半ばの頃、あゆちゃんが入ってきて、

「リビングで制作しているお父さんの作品がすごいよ! もう彫刻みたいなんだよ!」

 と教えにきてくれました。それを聞いて、

(紙版画なのに彫刻みたいって、どういうこと?)

 と頭の中がハテナだらけになりました。しかしお父さんが実際にその作品を見せにきてくれて、その言葉の意味がわかりました。
  

「完成したよ!」とお父さんが版画を見せてくれます

   
 お父さんが作った『楽しんでいる自分』。それは腹筋をして、上半身がムキムキになった未来のお父さんの姿でした。それだけでも面白いけれど、さらに笑いをさそうのが筋肉一つひとつまでもが細かく再現されていて、まさに彫刻のように見えることです。

 見た瞬間、わたしの頭の中には古代ローマの彫刻が次から次へと浮かび、お父さんの作品もそのなかの一つだったのではないかと、一緒に並んでいても違和感がないんじゃないかと思うほどに、そうわたしの目には映りました。

 お父さんの作品を見たみんなは大笑い。身を乗り出すようにして、みんなでお父さんの作品に集まって、そのなかでお父さんも恥ずかしそうに笑っていました。集中して静まっていた空気が一瞬にして和んだ時間でした。
  

お父さんの作品の虜になったみんな。何度も見たくなる魅力的な作品です。刷り上がりが楽しみです。

   
 お父さんの作品はまさに芸術だと思いました。遠近法を上手く活用していて、平面な紙から今にも本当に人が動き出して、腹筋を始めそうだと思いました。人の表情も忠実に再現されていて、紙っぽさが全くありませんでした。
  

お父さんの作品は、『腹筋をしている、未来のお父さん』です!

   
 お父さんの作品をみたあとに、改めて自分の作品を振り返ると、平べったいと思いました。奥行きが感じられないと思いました。その時点ですでに七割くらい進んでいたので、今からやり直すことはできなかったけれど、もしまた機会があったら、お父さんのような芸術性をもっと追求してみたいと思いました。

■ラストスパート

「残り時間三十分です」

 ときおり、実行委員のりなちゃんがタイムコールをしてくれました。思っていたようにやはり時間の経過は速く感じました。

 ひたすら黙々と目の前に作品に向かって、途中からは画用紙への下書きもやめて、一発勝負で切っていきました。机の左右にはさとみちゃんとまちちゃんがいて、二人もとても集中していて、そのなかで三人でボンドを使い回したり、ちょっと言葉を交わす時間も嬉しく思いました。

 残り時間十五分を残して、とうとう作品が完成しました。カードゲームをしている、わたしとまりこちゃん。顔の表情を工夫して、わたしが少し悩んでいる表情に、まりこちゃんが「一発上がりできるよ!」と喜んでいる表情にしてみました。
  

『草刈りをしている私』

   
 身体の動きはわたしが正座、まりこちゃんが立ち膝になるようにしてみたのですが、足の向きと置く位置を切ったり配置するのが最も難しく苦戦したところでした。

 そして少し残った時間。何か足そうかなと考えて、

(あっ、『七』と書かれたカードを三枚並べて、セブンブリッジということをもっとわかりやすくしよう!)

 と思いました。ここまでは『カードゲーム』というタイトルで濁していて、それが実際は青冠をしている自分なのか、セブンブリッジをしている自分なのかを曖昧にしていました。

■展覧会

 でもどうせなら残った時間でより作品を具体化するために、ここはわかりやすく『七』のカードを作って、セブンブリッジをしている自分ににしようと決めました。

 長方形の紙を三枚切って、ハートとダイヤとスペードの形と七の数字を切りました。七が細かく、切るのが難しかったです。そして貼ろうとしたとき、再び、

(あっ、七も刷ったときにちゃんと七に見えるように、反対に貼らなければ!)

 と気がつきました。ここでも間違えないように、刷り終えたときのことを考えてボンドで貼り付けました。

 そうしてようやく、できた! 制限時間の中で頭の中でイメージをしていたものは作り終えることができ、充実感と満足感に満たされました。さて、みんなの作品はどうなっているだろうか……?
  
  
 最後にみんなで教室を回り、展覧会という形でお互いの作品を見合う時間がありました。

 みんなの『楽しんでいる自分』。ダンスを踊っている子もいれば、草刈りをしている子、スポーツをしている子。一人ひとりの作品を見ながら、

(あぁ、確かにダンスを踊っているこの子は本当に生き生きして見えるな)

 とか、作品を通して、その子の楽しそうな表情や気持ちが透けて見えてくるようで、見ているわたしも楽しい気持ちにさせてもらいました。
  
  
 なかでも印象的だったのが、ソフトボールをしているまえちゃんの作品で、紙を半分埋め尽くすくらいの大きさでグローブを強調していて、そういう見せ方もあるのだなと勉強になりました。

 その他にも、左右が逆になることを忘れて作ってしまったという子もいて、刷ったときにどう出るのかが本当の見せ所になりそうです。

 近々、刷る工程に入ります。みんなの作品も自分の作品も、そして面白かったお父さんの作品も、どんな出来上がりになるのか。またみんなと見せ合ったり、笑い合える時間を楽しみに思っています。