『ちはやふる 神代も聞かぬ 龍田川 から紅に 水くくるとは』。
この句が読まれた瞬間、百人一首大会の会場である、リビングが戦場に変わります。お正月遊び二日目は、百人一首大会です。
■取りたい句がたくさん
百人一首大会の一週間ほど前から、実行委員さんが食堂の黒板にいくつかの句を書いてくれて、食事が終わるごとに、お父さんがその句の解説をしてくれます。
そのなかでも『ちはやふる』の句は特に大人気で、お父さんが落語家を真似して解説してくれると、毎回、笑いの渦が巻き起こります。
私はこれまで、百人一首に触れる機会がなく、覚えている句も少ないのですが、こんな風にお父さんの解説を聞いていると、その句が印象に残ります。
そして迎えた、百人一首大会。まずは、『散らしどり』です。床に散らされた百枚の花札。読み手の人の声を澄まして聞いて、勝負が始まります。
「春過ぎて〜夏来にけらし〜」
これはあの有名な、持統天皇の句。そこまで来たら続きは、「ころも」を探したらいい!
(衣、ころも……)
そんなことを思い、視線を動かしている間に、「はいっ!」と威勢の良い声とともに、目の前に宇宙船が墜落しました。
一番端の席から、身体を乗り出して、札を取りに行く人。時には、席を立ちあがって移動している人。
ちさちゃんやりんねちゃん、さやちゃんは上の句を読んだだけでも札を取りに行っていて、とてもカッコ良かったです。
(あぁ、すぐ近くにあったのに)
そんなことを思っても、もう仕方がありません。気を取り直してもう一度。
「花の色は〜移りにけりな」
これは、お父さんが解説してくれた。でも、続きを忘れてしまった。 そうこうしている間に、札が取られていきます。
(う〜ん、悔しい)
もちろん、百枚中六枚くらいはとることができたのですが、十枚差で相手チームに負けてしまい、とても悔しかったです。
でも、お父さんが解説してくれていたものは比較的覚えていたり、上の句が読まれたら、自然と下の句が頭に浮かぶ詩もあり、とても楽しかったです。
続いては、『青冠』です。
このゲームはただ、カードを減らすにも作戦が大切で、向かいにいる仲間の人と意思疎通をしながら、相手に自分の持っている札を見破られないようにと、頭と心を使います。
私はまよちゃんとペアで青冠に臨みました。

最初は周りと同じように青冠を出していき、札の種類が均等に減っていくことだけを考えました。
でも、途中まで来たとき、(あれ? あと二枚だ)と思い、そのままあがることができました。
私とまよちゃんは気づいていなかったのですが、あゆちゃん達が喜びながら、「上がったよ。終わりだよ!」と教えてくれて、まよちゃんと驚きながらもハイタッチしました。
■アイコンタクトで
続いて、二試合目。
配られた札を見た瞬間、(うん。これは勝てる)と思いました。
百枚の花札のうち、五枚しかないと言われている縦烏帽子。私たちの手札には、そのうちの四枚がありました。
また、持統天皇の札が。天智天皇と持統天皇は何にでも代用できる、特別な札です。
でも、それを口に出したら、相手に私たちの頭の中を読まれてしまいます。向かいにいる、あゆちゃんやりなちゃんに、アイコンタクトで、
(私たち、勝てるような気がします。持統天皇を持っています)
と目で会話をし、あゆちゃんたちもわかっているのか、いないのかは別として、深くうなずいてくれました。
前半は青冠を消費するように出していき、時々、横烏帽子と坊主でアタックを入れます。後半になるにつれて、札も随分と減ってきた所で、縦烏帽子攻撃。
右隣にいたひろちゃんやまっちゃんペアは一枚しか縦烏帽子を持っていなかったようで、パスが続きました。
(よし、作戦通り!)
そう思いきや、左隣のなつみちゃんたちは、札があと一枚に。
あゆちゃんたちが、
(大丈夫、大丈夫だよ。私たちがいるからね)
と視線で合図をしてくれて、最後にあゆちゃんたちが出した横烏帽子で、なつみちゃんたちがパスになり、無事に手札を全て出し切ることができました。
隣にいたまよちゃんと、一瞬、キョトンと世界が止まったようにじっとしていたのですが、すぐにあゆちゃんたちが駆け寄ってきて、力強いハイタッチをしてくれました。
青冠では勝ったチームに百点がプレゼントされます。散らしどりで悔しい思いをした分、青冠で勝った喜びは何倍にも膨らみました。
そして、最後は『坊主めくり』。
これは、別名『運試し』でしょうか。殆ど、作戦を考えても意味がないんじゃないかというくらい、何が起きるかわかりません。
五十枚ずつ積まれた二つの山から、一枚ずつ札を開いていきます。
殿が出たらその札をもらえます。もし、坊主が出たら自分の持っている札を全て場に出さないといけません。
そして、姫が出たら場に出ている札を全て、もらうことができます。ただし、姫が出て大量に札を獲得したからと言って、喜ぶのもつかの間。
百分の一という確率で出る、『蝉丸』のカードを引いてしまったら、全員が手持ちの札を場に出さなければいけません。
吉と出るか、凶と出るか。今年一年の運試しをする気分で、坊主めくりが始まります。
「殿〜!」と明るい声と共に札が開かれていきます。「あぁぁ」その声は、坊主を引いてしまったということでしょうか。
■挽回のチャンス
坊主を引いた人は、坊主かつらが配られて、次に坊主が出るまでかつらを被ります。
そして、早くも蝉丸の登場です。みんなが残念そうにして、大量に札が場に出ていたとき、まっちゃんが姫の札を引き、がっぽりと札が動きました。
「ぼうず、ぼうず、ぼうず、ぼうず!」
それからは、大量に札を持っている人の番がくるたびに、輪を作っている全員から坊主コールがかかります。みんなが心臓をバクバクさせながらも、楽しんでいる空気が坊主めくりならではで楽しかったです。そして、まっちゃんペアはそのまま最後まで、殿の札を引き続けて、ダントツの一位であがりました。
最後にもう一度、『坊主めくり』で挽回のチャンス。私とまよちゃんのペアは殿ばかりで波も少なかったのですが、同じチームのあゆちゃんとりなちゃんが最後のほうで姫を引き、得点が加算されました。
そして、午前の部の結果発表。
私たちは散らしどりでは勝つことができなかったのですが、青冠と坊主めくりで点数稼ぎをしたため、二点差で二位ということでした。
百人一首は午前の部と午後の部の総合得点ということだったので、のんちゃんチームのみんなに、「頑張って!」と声をかけて、午後からは書初めをしました。
書初めをしていると集中した空気で包まれているのですが、廊下に出る度に、百人一首の叫び声や坊主コールが聞こえてきます。
そしてお楽しみの結果は……。
のんちゃんチームは、全体的に強かったらしく、無事に一位で終わることができました。
みんなと楽しみながらも、本気で百人一首に向かう時間が楽しくて、今度は散らしどりに貢献できるよう、百人一首を覚えたいです。